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百十七話

 何と無く「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん」っと、歌った所で良い気分にはならないよな。

 足元は水浸し、密封空間のために湿度も高い、更にゴロゴロとオークの死体と、水によって流れたオーク達の道具が転がっている。


「まぁ、水を抜いたとはいえ当然の結果だよな」


 足場に転がっている道具を隅に除けながら、前へと進み捜索をしていくものの、コレと言って目ぼしい物が見当たらない。

 オークの死骸に関しては一箇所に集めて置くとして、魔石は後から回収する予定だ。


「それにしても、此処は湿度も臭いも辛いですね。定期的に地上へと行かないと、頭が気が狂ってしまう可能性もあるでしょう……そうですね、二時間で交替する形が良さそうですね」

「我々でしたら、マスクさえあれば平気ですよ! むしろ、此処で徹底的に調査させて下さい!!」


 ……さすが研究班。臭いすら気にする事なく、調べ上げる事を邁進するとは。正直この臭いの中だと、マスクがあっても気が狂いそうになるんだけどな。

 ただ、彼等がそれだけ気にせず頑張ってくれるというなら、言葉に甘えるべきだな。まぁ、こっち側で彼等の体調を注意してみないと駄目だけどな。


 それにしても、探してるものは大きく無さそうだな。全体を見たが其れらしき物が無さそうだ。というか、建造物の殆どが崩壊してる。その形からして、元々大きい建造物も無かっただろうと想定できるタイプだ。


「というか、空気を正常化してるはずなのに、こうも臭いがキツイとなると……壊れてません?」

「あ……その可能性はありそうですね」


 一応風魔法で正常な空気を送って貰っているが……正直な話、厳しいだろうな。人数も制限する必要が出てきそうだ。

 とりあえず、地下の掃除を最優先にするべきだろうな。




 地下の掃除を開始してから数日。全員の疲労度がMAXになっている。オーク達との戦闘よりも疲労を蓄積してるんじゃないか? 地上の拠点では、死屍累々といった感じで、殆どの人が寝て過ごしている。

 食っては寝て、地下で清掃活動。地上では運び出されたオーク達から素材の剥ぎ取り。まぁ、地上での作業の方が気が楽だという……解体作業は皆結構嫌がる作業なんだけど、今は其れすら気晴らしになるという、其れほどまでに精神的にダメージがあるって事何だよな。


「入谷さん、そろそろ村か川岸の拠点に交代の人員を頼むべきでは?」

「そうなんですけどね。既に数人は戻ってもらってるんですよ。ただ、彼等の疲労度が大変みたいで、彼等の回復まで交代人員が送れないようですね」


 うわぁ、俺も結構しんどいと感じてる状況だったけど、能力の差で違うのだろうか? まだまだ行けるんだよな。そんな俺よりも、元気にしているメンバーが居る。街側から派遣されているメンバーに……研究班だ。

 街側のメンバーは理解できるんだけどな……何故研究班はあそこまでイキイキとしているのか。精神力が鉄壁すぎないか?


 まぁ、そんな研究班の奮戦のお陰と言うべきか、地下における空気を正常化していた装置的な物は、存在しない事が確認できた。

 それでは、何が空気を正常化していたのか? 今はその件を調べているらしい。

 まぁ、拠点がダンジョンとか神樹の領域的な状態になっていたのであれば……かなり面倒な話だよな。

 それを、人為的に作れといわれれば無理としか良いようが無い。……本当、人の手で再現できるような物で有れば良いんだけど。


「それにしても、かなり魔石と素材は回収できましたね」

「そうだな。これだけの数があれば当分はやって行けるだろうな」


 入谷さんと守口さんは魔石についての話か。

 守口さん側としては、少しでも魔石の分配が欲しいのだろう。この、地下の掃除及び調査にかなり協力をしてくれている。

 まぁ、地下のオークに関しては実質的に全て俺達が倒したようなものだしな……水没させてだけど。その為に、後片付けに手間取っているとも言える訳だが。


 兎に角、この作業はまだまだ時間が掛かる。其々のリーダーも、体調管理や気分転換と一気に作業を終らせたいという二択で頭を抱えてる状態だ。

 全てを無視して作業に徹すれば……終わりも見えた状態だろうけど、そうなると使えなくなる人が大量に出る可能性があるからな。此処ら辺の匙加減はかなり難しいんだろう。数人で毎晩唸りながらも、シフト調整をしているらしい。


 因みにイオはと言うと、地下に入ってもやる事が無いので、周辺の警戒と村等の連絡要因として走り回っている。まぁ、イオは狩りが出来るし、全力で走れるからと楽しげにして、それが周りの人にはアニマルセラピー的な作用もしているみたい。イオと積極的に話やブラッシング等をして、少しでも癒されようとしている人が、街側から派遣された人達にも増えてきている。

 自衛隊や警察に所属していた人達だ、強面の人も当然だがその中に居る訳で……そんな人達が可愛いとは言え、モンスターであるイオにデレデレとした顔を見せるのは、何とも言えない気分にはなるな。

 イオ自体は、相手の顔とか気にせず構ってもらえると嬉しいようで、常に尻尾を振りながら楽しく「ニャンニャン」と鳴いてるから、まぁ、問題は無いだろう。


 それにしても、予想が外れたのは痛い。何やら機械的というか、魔道具的な物があると思ってたからな。

 其れを見つけて、研究班が解析し類似品を作ってから量産化をして、ダンジョンに突入だ! と、そんな流れを望んでたのにな。

 中々上手く行かないもんだ。とはいっても、研究班のテンションが異常だからな。きっと、目星ぐらいはつけているだろうな。

 今も、血走った目で地下へと入って行く姿が、一人また一人と増えている。どうやら、研究班は増員したみたいだ。これなら、調査も加速されていくだろうな。……色々、魔石が増えたからそちらでの開発研究をすると思ってたけど、どうやら彼等は地下の方が気になるみたいだ。あれこれ作りたいと言ってたはずなんだけど。


「未知への探求かな? まぁ、その好奇心のお陰でかなり助かってるんだけど」


 彼等が気まぐれに作ってくれた道具が無ければ、敗北していた状況ばっかりだったからな。そんな彼等の嗅覚が今は地下を優先するべし! とでも言ってるんだろう。実に頼もしい話ではある。


 まぁ、次の出動は……ダンジョンだと良いんだけど、違うだろうな。今、思案顔をしつつ此方に向かってくる入谷さん。きっとこれは何かあるに違い無い。


「……白河君。あまり私の思考を読まないでもらえます? まぁ、お願いがあるのは間違いない話ですけど」

「やっぱり何かありましたか。で、何か見つけましたか?」

「いや、見つけたというより、元から確認するべきだった事を思い出したんですよ。地下に幾つかトンネルがあったじゃないですか」


 あー……確かに複数トンネルがあったのは確かだ。その内二つは、俺達が発見したオークの拠点と瘴気が入り込んでいた穴だったけど。

 となると、入谷さんはそのトンネルの先を調べたいという事だろうな。


「まぁ、お察ししている通りですよ。トンネルの先……恐らく、我々が潰したオークの拠点があるかもしれません。ですので、其処の調査及び殲滅が出来そうであれば殲滅をお願いします。これは、他の人にも一応頼んでますけどね」


 複数出入り口があったからな。恐らく影山さん辺りにも調査以来をしているんだろう。

 ただ、俺が行くとなると……イオは如何するんだろうか?


「イオは現状だと別の仕事してますから……ソロで良いですか?」

「正直……ソロは駄目ですと言いたいですが、リアルタイムで村とやり取りと、休息が確りと取れる事が出来るのはイオ君が居るからですし、その仕事を他の人に任せるには難が有り過ぎますから……できれば、イオ君は現状の仕事をして貰いたいですね」

「となると、やはりソロで良いですよね?」

「そういう事になりますね。他のメンバーは基本パーティーでの行動に慣れた者同士ですから」

「で、その調査は何時から?」

「色々と物資も必要でしょうから……二日か三日後にお願いしようかと」


 よし、それならソロで行動する感覚を取り戻すために、森での狩りの許可を貰っておこう。清掃の仕事から外れる事にはなるけど、随分と久々のソロ活動だからな。其れぐらいは大目に見て欲しいもんだ。

 あと、補給物資にサブウェポンの要請もして置こう。全部渡したからな。今のメイン武器だと……狭い場所での戦闘は辛い。せめて盾と剣鉈だけでもあると楽だな。何せトンネルの奥へと向かっていく訳だから、あの場所での戦闘で長物は使いづらいからな。


 とりあえず、オークが拠点を築き上げてるかどうかを調べ上げる。これが次のミッションのようだ。

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