百十四話
ジェネラルが吠えながら暴れまわる。体中の傷から飛び散る血を気にする事も無くだ。
「ちぃ……暴れまわりすぎて近づく事が出来ねぇな」
守口さんが愚痴る。何せジェネラルは、持っていた大剣を振り回しながらの移動だ。近づく事が厳しすぎる。法則性は無いが、その身体能力の為に恐ろしいほどの暴れっぷりだ。そして、法則性なく暴れまわるからか、予測がつかない為に対処が大変で、全員が攻め手に欠けてしまっている。
「中級魔法で倒しきれなかったのが辛いですね」
「あぁ、そうだな。魔石を使っての中級魔法二つの威力に耐えるとはな……三十層までなら倒しきれるはずだったんだが、かなり強化されてやがるな」
「ジェネラルと戦った事は無いと言ってましたが、中級で押しきれるんですか?」
「あぁ、通常ならな。昔に違う部隊の戦闘報告にあったからな」
なるほど、報告で情報交換をしていたのか。まぁ、今はその情報交換も出来ないけど。
それにしても、本来であれば倒しきれていたか……だが、傷だらけで生き残っている。やはり、あの瘴気の池がネックだったんだろうな。
てか、やばくないか? あのジェネラルの移動する方向……真っ直ぐ瘴気の方に向かっている気が、いや、気がするじゃない、アレは間違いなく向かっている!
「皆、何とかしてジェネラルの足を止めないとヤバイ! 奴は瘴気に向かってる!!」
「まて、どういう事だ? 瘴気に向かった所で溶けるだけだろう?」
「いえ、モンスター共は条件が揃っていると、瘴気で強化及び上位に変化するんです!」
「……!? まて、何でそんな事を知っている!」
「色々とあったんです! 詳細はこれが終わった後にでも! 今は何としても奴を止めてください!」
瘴気強化については情報提供してなかったか! とはいえ、今はジェネラルの足を止めないと。奴は恐らく、自分が強化される事を確信して瘴気へと向かっている。自暴自棄になっての突進ではないはずだ。自暴自棄なら、剣を振り回しながら確実に向かう必要は無いはず。
「くそ! アイツ足が止らないぞ!」
俺も鉄串でジェネラルの脚を狙い狙撃するが、その全てが膝や太腿を貫通する事無く弾かれていく。
魔法も併用して威力を上げているはずなのに……怒り狂った状態だからか、その防御力も劇的に上昇しているみたいだ。くっそ、此処で止めないとマジで不味い。なのに止める手段が一切無いぞ。
「こうなったら……盾で押さえつける!」
守口さん側の部隊にいる盾部隊が壁になり、一斉にジェネラルに向かって行く。
盾持ちの人達はジェネラルの攻撃を盾で受け流し、その体を盾で押さえつけようとするが、ジェネラルの攻撃は半端じゃなく、彼等の盾に対して切りつけ、殴り、蹴りを入れ、部隊メンバーを逆に押し返し、その足を止める事が無い。
「盾でも駄目か! 攻撃で足も止らないとか如何するんだ!」
そんな愚痴が飛び交うなか、一人の盾が大きな音を立て砕け散った。
「な!? 盾が壊れたか……とりあえず、壊された奴は下がれ!」
一人の盾が壊されてしまい、瘴気へと進むジェネラルの足が更に速くなる。
隙をみて後ろから攻撃するも、鉄串と変わらず通る気配が全く無いな。
あ、そういえばポールウェポンを使う時は盾は使わないんだよな。よし、これをさっき下がった人に渡しておくか。
「守口さん! この盾、今は使わないのでさっきの人に渡してください!!」
「お……カイトシールドか。使い方は微妙に変わるが大丈夫だろう。助かった!」
盾を破壊された人に俺のカイトシールドが渡され、再度隊列に混ざりジェネラルの移動速度が少し遅くなる。だが、それでも真っ直ぐ進んでいくのは変わらない。
魔石無しの中級魔法もタイミングを見て打ち込まれているが、威力ブーストが無いために多少傷を付ける程度の状態だ。
守口さん達に渡したスコップや剣鉈も、ダメージが殆ど無く、あっても薄く切傷がつく程度で牽制にすら為らない。
結果だが、幾らがんばっても時間稼ぎにしかならずに、ジェネラルは瘴気の池へと辿り着いてしまった。
そうして、瘴気の池へとダイブしたジェネラルを今は待機して待っている状態だ。
逃げるという手段は……無い。此処で倒せないと街にまで行ってしまう。そうして、暴れ回って行くはずだ。
「此処で倒しきらないと後が無いですからね。とは言え……あの堅さで出て来られれば、どうしようも無いのですが」
「溶けてる……何てことは無いだろうな」
入谷さんと守口さんが願望を口にするが先ず其れは無い。その証拠に……瘴気から溶けた時出るはずの煙は一切出ずにいる。
待つしかない俺達は、イオにメモを渡して村へと伝令を出し、瘴気を睨みながらどう戦うかを話していくが、何か手を思いつく事無く時間が過ぎる。
そして、時が来た! と言わんばかりに、瘴気の池からジェネラルがゆっくりと出てきた。
その見た目は更に一回り大きくなっており、その手に持つ剣も、禍々しい装飾が増えている。
「……ジェネラルからキングクラスと言った感じかな?」
「その認識で当たってるぞ。あいつは……自衛隊内でもトップクラスの部隊でしか戦った事が無い奴だ。正直……俺達の部隊ではお目にかかる事が無いレベルのモンスターだな」
精鋭のみが戦った事のある相手かよ……いやいや、これは厳しいとかそう言うレベルじゃないだろ。
如何したものか……とりあえず、余裕を見せているジェネ……いや、キングか。
「さて、どれだけ強いのやら」
「一応言うなら、三十層より上のモンスターって事だな」
盾を構えたメンバーの後ろに待機しキングと睨み合う。こちらの作戦は……イオが戻ってくるまで耐える。それだけだが、それが困難過ぎる。
だた、時間稼ぎを此方がするつもりでも、相手には関係ない訳で、キングはその手に持った大剣を大きく振りかぶって、一気に振り下ろした。
当然だがキングの位置は間合いの外だが、その振り下ろした剣による衝撃が、此方のメンバーを吹き飛ばしてしまった。
「ぐぁ……これはとんでもない威力ですね。直撃したら即死ですよこれ」
「こっちは耐えれたが、直撃がヤバイのは変わらないな」
なるほど、元自衛隊と警察のメンバーは、衝撃で飛ばされること無く耐えれたのか。やっぱり身体能力に差があるな、俺も吹き飛ばされなかったが結構ふらついてしまったからな。
それと、きっと今の攻撃は開幕の合図みたいなものだろう。殺すつもりも無くただ思いっきり振っただけ、そんな感じだったからな。
GUOOOOOOOOOOOOOO!!
そして、キングが叫んでから突撃をしてくる……ちぃ、さっきよりもかなり速度が上がってやがる。その突撃を盾持ちが勢いを乗る前に、押さえつけに入る。が、押さえにかかった彼等は、その身体能力の差からか、撥ね飛ばされていっている。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな中、カイトシールドを渡した相手が此処で見せ付けた。キング相手に突撃をして、カイトシールドをキングの腹に思いっきり叩き付けた。
その一撃で、キングの足が止る。
「お……おぉ! キングの足が止ったぞ!!」
「よくやった! 攻撃が通じるか解らんが、総員攻撃!!」
先ずは、鉄串に風魔法を併用して奴の足を狙う。貫通特化の鉄串は先ほど通る事が無かった……が、今回はその太腿に少しではあるが突き刺さった。
「よし! ほんの少しだが、攻撃が通った! これなら、ダメージを与えれる!」
恐らく、上位になった時にその異常ブーストが剥がれたんだろう。代わりに攻撃力も異常に上がってるわけだが。それでも、攻撃が一切通らないよりマシだ。
「よし、魔力はまだ残ってるな! 中級主体でぶちかませ!」
「私達は先ほど回収した矢を全部使い切るつもりで撃って下さい!」
遠距離での攻撃が開始される。狙うのは関節部分と目や口だ。むしろ、それ以外は狙う意味が無い。胸や腹はその筋肉の鎧で、中まで貫ける事は無い。
兎に角、今は手を止めたら駄目だ。魔法だろうがなんだろうが、相手を動かないようにして行かないとな。
――村にて――
ジェネラルがキングに変化した頃、イオはその身体能力を発揮し、とんでもないスピードで村へとたどり着いていた。
「あれ? イオじゃないか! そんな慌ててどうした!」
「ミャン!!」
呼ばれたイオは、その相手に銜えた手紙を渡し急いで読め! と鳴いた。
そうして渡された手紙を、村の門で護衛任務を受けていた男は、言われるままにその手紙を確認した。
「……!? イオ待ってろよ! 直ぐ上と掛け合って魔石を用意してきてもらう!」
「ミャン」
彼がイオに伝えると、彼は急いで協会へと走って行き、イオもまた少し体を休めるために、門の入り口でクルリと横になり丸まった。
男は村の中を駆け、協会へと飛び込み、その手に持つ手紙を受付へと渡す。
「急いでこれを、協会長へ! 今すぐに!」
「え……えっと」
「確認は俺がした!! 大至急だ! 早くしろ!!」
男の余りにもの慌てように、本来であれば中身を確認をするのだが、受付の女性は押され、言われるがままに協会長……品川の執務室へと手紙を届けた。
「協会長……この手紙を門番が持ってきたのですが」
「中身は確認した?」
「いえ、凄く慌ててたので……」
「そう……」
そう言われ、品川はその手紙に目を通す。確認せずに手紙を持ってきた事を指摘しようともしたが、今は確認したほうが良いと、何故かそう思ったからだ。
そして、それは正解であり、品川は手紙を見ると驚愕し一瞬フリーズするものの、すぐさま立ち上がり協会内を駆け、協会の倉庫へと飛び込んでいく。
「ちょっと! 品川さん、いきなりなんですか!?」
「今すぐ! 魔石を用意しなさい!! 理由は後から教えるから! 直ぐよ!」
「え……あ、はい!」
倉庫管理を任されてる者も品川のその勢いに押され、倉庫から魔石を用意し、その用意した魔石をマジックバックへと入れ、品川に手渡した。
「とりあえず言われた量用意しましたけど……良かったんですか?」
「良いのよ! 一分一秒を争うから、後で執務室にでも来なさい!」
そう言うと品川はまた協会内を走り、受付等がある場所へと駆け込み、門番の男へとそのマジックバックを投げ渡した。
「急いで! その中に魔石が入ってるから!」
「ありがとうございます! 直ぐ届けます!」
品川が渡すという異常状態なのだが、その事すら忘れるぐらいに二人の剣幕は凄く、周囲も雰囲気に呑まれているが、門番の男が協会を飛び出すと、静けさが戻り全員の意識がクリアになっていく。
「……えっと、品川さん。一体何があったんです?」
「とりあえず、魔石が必要になる状況になったみたいなのよ」
その後、協会のメンバーを集めて品川は皆に事情説明をして行く。
当然、協会内は慌しくなるが、魔石さえ届ければ大丈夫だ。きっと彼等なら何とかしてくれると、皆が皆に言い聞かせ、なんとか平常業務を続けていく。だが、不安なのは変わらない訳で、数字を間違えるなど、単純なミスが目立つ事となった。
「イオ! 持って来たぞ。とりあえず、体に縛り付けておくからな……がんばれよ!」
「ミャン!!」
魔石をイオの体へ括りつけ、男はイオに激励を飛ばし見送る。
イオもまた、そんな男の激励にこたえるように、力強く鳴き……皆が待っている戦場へと駆け出した。
魔石が無事に届くかどうかで、戦闘の状況が変わるはずであり、其れは全てイオに掛かっている。
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