百十三話
短くなってしまいました。
上位オークと戦い、その面倒臭さに苛立ちを感じる。何せ相手の不意を突いた急襲でも、一撃で倒せないと来た。
「無駄に硬い奴等だな。道理で守口さん達が連携とコンボで戦う訳だ」
最初は刃での首はねを狙い傷は付けれたものの、上位オークの肉厚に負けてしまったんだよな。
だから今は穂先による突きで移動力を減らしてから、ハンマー部分での打撃連打で奴等へダメージを蓄積させてる。
「確実なんだけど、時間が掛かるんだよな」
とは言え、他の皆も似た攻撃方法だ。入谷さんの指示で攻撃しているメンバーもだが、俺が武器を貸した剣鉈の二人も、先ずは機動力を奪う為に足に剣鉈で攻撃した後、全員で殴りに行ってる。守口さんの場合はスコップ乱打が実に輝いている。
イオも爪で上手く足腰を切裂いてから、体当たりや猫パンチ(打)だから、イオでも一撃で倒すのは無理みたいだ。
こうしている間にも、ジェネラルの完全復活が近づいてくる。奴が落ちた沼の表面が激しく揺れ出してるんだよな。
時間が少ないから焦りそうになる。思わず斧部分での首はねを狙いたくなる程に……まぁ、余計に時間が掛かるからと自分に言い聞かせ、安易な方法を取らないように深呼吸して焦りを押さえ込む。
「……そういえば、持ってきた魔石は後三個あったな」
魔石を爆弾として使う。これこそ一番安易な方法かも知れない。だが、威力だけはどの攻撃よりも抜きに出ている。
ただ、三回しか使えないからな。使うタイミングが大問題だ。
「上位オークの残りが……後、剣が三で槍が四……無手がニ匹か。随分と討伐したけど、まだまだ残ってるな」
まぁ、魔石を上位オークに使う必要は無さそうだ。それなら、ジェネラル相手に使いたいけど、何処で狙うかなんだけど。
「下手に使えば、味方も爆破に巻き込まれるからな……さてさて如何したものか」
魔石の使い方を決めようと考えたタイミングで、ふいに激しく揺れていた沼がピタリと動きを止めた。
「……まさか溺れて死んだ? いやいや、そんなはずは無いよな」
「ミャン!」
いつの間にかに隣に来ていたイオが、ジェネラルは死んでないと鳴く。であれば、恐らくのた打ち回る必要が無くなったのだろう。という事は、奴は……行動し出すはずだ。
「ジェネラルが復活した可能性が高いです! 気をつけてください!」
大声で皆にその可能性を伝え、自分とイオが沼に向かい警戒。……そうだな、使うならこのタイミングだ。
魔石を左手に持ち、少しずつ魔力を流しておく。
「ミャン!」
イオが沼に向かい鳴く。それと同時に沼が爆発したかのように、泥を上空へと吹き上げ中からジェネラルが飛び出してくる。……今だ!
「復活のプレゼントだ!」
一気に魔石を臨界状態にして、奴の着地するタイミングを狙い投げつける。
当然だがジェネラルは回避できずに、顔面前で魔石が大爆発。よし、狙い通りだ。
「おー……ナイスタイミング! こりゃ、負けてられんな!」
守口さんがそんな事を口にしつつ、槍オークに対して猛ラッシュからの突き下ろしで、その肉の鎧を破壊していた。
他の人達も、上手く動きつつ上位オークに傷を与えているが、その途中でジェネラルが大咆哮をあげた。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
最初の咆哮よりも、かなり音量がでかい。威圧はされないが……耳へのダメージがきついぞ。イオも思わず耳をぺタッ閉じながら、前足で押さえてる。見るだけなら怖がってるような格好だが、ただ煩いだけなんだよな。何せ、イオの顔が凄く苛立ってる。
「ちっ! 今の咆哮で手が止っちまった。上位オーク共がジェネラルの下で固まったぞ」
「実に厄介ですね。あの剣オークなんて後少しだったと思ったんですけど」
守口さんと入谷さんが愚痴る。まぁ、調子が良くダメージを与えてた所で、キャンセルを喰らったからな。とは言っても、上位オークはかなり討伐した。ジェネラルの所に集まった数も、剣がニ匹と槍がニ匹だけだ。
そして、そのジェネラルも……魔石の爆破でダメージを負っている。麻痺毒が解けた分を取り戻したかな。……まぁ、麻痺してくれていた方が攻撃しやすかった気もするけど。
「さて、魔石は後二個。如何使おうかな」
「残り二個ですか。それなら」
「ちょっとまて、二個あるんだな? なら一個俺達にくれないか?」
守口さんが魔石を一つ欲しいと言い出した。あぁ、そういえば、戦闘における魔法や魔石の使い方は彼等の方が上手い。ニ十層から三十層を潜り、防御を極めつつ魔石を使って戦っていた筈だ。たしか、そんな話を何処かで聞いた記憶がある。
「入谷さん。俺としては二個渡しても良いと思うんですけど」
「白河君……確かに魔石は現状村の備品ですからね、使うタイミングは白河君に任せてましたが、譲渡となれば許可が要りますか。解りました。残りの魔石は守口さん達で上手く使ってもらいましょう。その方が良い結果になると思いますし」
「そうか! 助かる。これなら俺達のカードも切れるからな!」
「いえいえ、自分達の為でもありますからね」
話が決まり、手元にあった二つの魔石を森口さんに渡す。さて、これだと俺が使えるのはメイン武器と鉄串になるか。今はジェネラル達も此方を窺い回復している。そして、俺達もまたどう切り出すかと止っているので、にらみ合いの状態だ。
ただこれで、守口さん達が切っ掛けを作ってくれるだろうな。恐らく今固まって話をしているから、上手い具合に手を相談しているだろうな。
「牽制のやり合いですね。ただ、遠距離は矢の残量が無いのが問題かな」
「鉄串なら残ってますけど、一人だけでの遠距離だと牽制にはならないですよね」
とりあえず、今はイオが唸りながら牽制はしてる。イオが軽く動きを見せると、ピクリと動くオーク達が少しだけ面白いけどな。
そんな話をしていると、守口さん達が遂に動き出した。
「先制攻撃が決まったから、その後は一斉攻撃で頼む」
「了解しました。では、先制宜しくお願いします」
方針が決定すると、守口さん達が二人同時に魔法を使うべく、魔石に魔力を流し出した。
……って、俺が使うよりも相当量の力を込めてるな。もしかして、何度も手に入れていたらと願った中級以上か!?
目を丸くしながら眺めていると、守口さんがこちらを見てニヤリと笑みを見せてきた。あぁ、これ間違いない、中級以上をぶち込むつもりだな。
そう思っていると、魔石がピキピキと音を鳴らしながらも、凄まじい輝きを見せ出した。
「やはり、オークの魔石だとこうなるか……まぁ、こんなもんだな。よし、撃て!」
守口さんの号令で、魔石を持った二人が魔法を発動させた。
彼等が発動させた魔法。片方の魔法が風魔法で、相手を閉じ込めるようにジェネラルを中心に渦巻いている。
そしてもう片方の魔法は、此方からは確認出来ない……恐らく、あの竜巻の中で何かが起きていると見るべきだろう。
「さて、どうだ? 君も魔法を使えるみたいだが、中級は使えないみたいだったしな」
「これは凄いですね。なんども中級以上が欲しいと思った場面がありましたけど、これを見ると本当に手に入れたいですね」
「そうだろう。まぁ、君が魔法を使えると言うのは疑問だがな」
普通ならダンジョンニ十層以上じゃないと、手に入る確率なんて無いに等しい。
一般人だと十層も行ってないのが、基本的な情報だ。まぁ、俺も十層までしか行って無かった。守口さんとしては、疑問に思って当然だ。
そんな会話をしている間に、魔法の効果が切れだし風の壁が消え、中の様子が見える。
そして、目に映った状態は、ジェネラルが結構な量の切傷から血を流し怒りで睨みつけている。そんなジェネラルと、切裂かれ、何かに突き刺されて、息絶えた上位オーク達の姿だった。
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