百十一話
オークジェネラル相手に酸欠状態にして動きを阻害しようとするも、相手が相手だからか余りジェネラルの動きが落ちる気配がない。まぁ、それでも多少は通用しているようなので、このまま魔石を握りつつ酸欠魔法を続行。
コンマの世界で判断力と反射神経を争う。そんな戦いで相手の動きが、刹那の間でも鈍ればチャンスと言えるからな。それが正しいと言わんばかりに、その鈍った動きにイラついたジェネラルに対して、入谷さん達が矢を放っている。
彼等の放った矢は、ジェネラルに突き刺さりはして無いが、それでも牽制になってはいる。そりゃ、目や口に関節を狙われているからな、その位置に攻撃が通ればジェネラルとてただでは済まない。
「奴は今動きが鈍っている! 体勢を整える暇を与えるな!」
「そうは言っても、そのうち矢玉は無くなるぞ! 如何するんだ!」
「尽きる前に何とか攻撃を通してください! 一撃でも通れば後は少しでも楽になります!」
ジェネラルの皮は厚いからな。亀のようになってガードしてるジェネラルに対して、どうやって攻撃を通すかだ。
魔石爆弾を投げるか? しっかりガードしてるから、防がれる可能性が高いか。それに砂埃でも舞ってしまえば、ジェネラルが何をしているか目視できなくなる。……現状では却下だな。
鉄串を使うか? 魔石ブーストで魔法を使ってる現状だと、鉄串に回す余裕が無い。亀モードだから裏に回るのは簡単かもしれないけど、鉄串に魔法を併用して攻撃するのは厳しいな。魔力をマルチで使う余裕が無い……全力で酸欠魔法をやらないと、あのジェネラル簡単に復活するだろうな。魔法を弾こうとしているジェネラルからそんな手ごたえを感じる。
「現状だと、俺は魔法維持しかできる事が無いか……イオはどうだ?」
「……ミャン」
イオが少し思考した後に、首を横に振りながら力弱く鳴く。まぁ、クロス状に飛び交う矢の中を駆け抜けて、ジェネラルに一撃を与えるのは厳しいか。イオなら出来る可能性はあるけど、矢が当たらないとも限らないからな。無茶振りは止めておこう。
「まぁ、何時でも飛び出せるようにしておけば良いさ」
「ミャン!」
力不足だと落ち込むイオに、直ぐやるべき事があると言い聞かせて、イオのモチベーションを上げておく。
実際、イオの戦闘能力はジェネラル相手にはキーとなる可能性が高い。というより、現状だとジェネラル相手に、まともに戦えるのはイオだけだ。そんなイオでも、総合的なスペックは奴に追いついていない。
本当、水攻めで大量のオークを潰したのは正解だった。もし、群れ対群れの図になれば、間違いなく蹂躙されていた。
その状態だったら、イオと同等以上のジェネラルに上位オークが居て、更に通常のオークが盛り沢山だ。勝てる訳が無い。
でも、現状はジェネラルが一匹。こっちは部隊編成をしている……これしか奴に勝てる手立てがない。とはいえ、思った以上に上手く事が進みすぎている気もしなくもないが。
「まぁ、別働隊的なのが居たとしてもだ。今、此処でジェネラルを一気に攻め倒せば……」
誰かがそんな事を口にした。やめろ其れはフラグだ! と思いつつも、現状はジェネラルを相手にする以外無い。
しかし、ジェネラルはタフだな。酸欠で倒れても可笑しくない時間が経っているのに、未だしっかりとガードをしながら立っている。飛び交う矢も綺麗に弾いているし……これは、このまま矢が尽きるまで耐えられてしまうんじゃないか?
「……まずいですね。白河君は魔法で手が一杯。矢ももうかなり消費しているのに、未だに一本も通ってない。……よし! 矢を左に集中してください!」
お兄さんの号令で、矢が俺達から見てジェネラルの左側に集中する。なるほど、これなら行けるな。
「イオ、裏に回るんだ。矢の弾道からして反対側はイオなら攻撃できるはず」
「……ミャン!」
言われたイオはジェネラルに向かっていく矢を見て、チャンスがあると気がついたか。気配を消して、グルリとジェネラルの裏側へと回って行く。
其れを見たお兄さんも、言わずに通じたからかこちらに向かって一瞬だけニヤリと笑った。……お兄さんのキャラがドンドンと白い感じの爽やかから、黒さが混ざった爽やかになってる気がするな。
裏に回ったイオは、音を立てず、其れで居て疾風の速さでジェネラルへと近づき……ジェネラルの膝裏に勢い良くその爪を使い切裂いた!
「ミャァァァン!」
吠えながらも、そのまま連続して逆の爪を使い、ジェネラルの腰を狙い突き刺す。軌道は猫パンチなのに、そのあと突き刺しにかかるとか……恐ろしい猫パンチだ。とはいえ、これで二箇所、ジェネラル相手に攻撃が通った事になる。
イオは、攻撃した後すぐさま、その場から離脱し、いつの間にかに俺の隣へと戻って来た。
「イオよくやった。特に関節への攻撃は完璧だ」
「ミャン」
褒められたイオはすまし顔だ。まるで、当然! と言った感じだな。
まぁ、これでジェネラルの機動力はかなり減ったはずだ。大型の敵を相手にするには、先ず関節から。これは、よく言われてる事だ。……イオに一杯説明しておいたからな、忘れずに攻撃してくれたのは本当良かった。
「流石イオ君と言ったところですね。上手く動いて攻撃を通してくる。さて、ジェネラルは……それでも耐えますか」
「入谷さんよ……どうする? 幾ら機動力が減ったとは言え、パワーを考えたら一発当たっただけでも俺達はお陀仏だ。接近戦になるのは辛いぞ?」
「近くに寄せないようにする為には、手を休めるわけには行きません。それにもう一度イオ君に行って貰うとしても、奇襲は通用しにくいでしょうね。かなり警戒をしているはずです」
次は如何するか……足元を泥沼にしたいけど、酸欠魔法を途切れさせる訳には行かない。まぁ、泥沼にできれば、更に機動力を削れるんだけど。
入谷のお兄さんが言うとおりで、イオに奇襲させるのは……成功したばっかりだから、現状は無理だろう。
あぁ、折角イオが傷をつけたんだ。其処を狙えば良いか。
「入谷さん。毒系の矢は持って来てますよね?」
「もちろんあるけど……ってそういう事か。うん、いいね。それでいこうか」
毒系の矢って言っただけで通じちゃうか。まぁ、当然と言ったら当然か。これぐらい直ぐに思いつかないと、このメンバーの指揮官なんてやってられない。
「私より右側の部隊でイオ君の攻撃跡を狙うんだ! 左側は今まで通り狙っていけ! 後、手が空いてる者は、矢の移動を! 毒系の矢は右、通常の矢を左へと交換だ!」
お兄さんの命令の後、すぐさま攻撃が変わる。
そして、俺達の目論見は成功した。イオがつけた傷に毒矢が突き刺さり始めた。
まぁ、毒と言っても麻痺系の毒矢なんだけど、それも時間が経ったり熱したりすれば、直ぐに消えるタイプの物。……そうじゃないと、食料として使えないからな。
とはいえ、この攻撃にはジェネラルも溜まらず大声で叫び出した。
そして、この叫びが俺達にとって予想外の状況を招く。まるで奇襲のために隠れていたのか、後ろ側やジェネラルが作り出した、湖中央にある亀裂から上位オークが飛び出して来た。
「……やっぱ居たか。とは言え数は多すぎないか?」
ある程度、上位オークは居るだろうと予想はしてたけど……流石にこの数は無いだろう。
えっと……剣が六匹、槍が八匹、弓が三匹、杖が四匹、無手が十二匹とジェネラルを合わせて合計三十四匹かよ。しかも、全て上位オークじゃないか……。無手のやつも、通常のやつとはサイズが違うからな、間違いなく上位だろう。
「流石にこの数は……不味いですね。さて、どうしますかね」
「入谷さん……とりあえず、イオに遊撃させます。まずは上位狩りをしていきましょう。ジェネラルは……酸欠と麻痺で時間が稼げているはずですから」
「……そうだね。なら、戦闘班は二パーティで常に行動しつつ一匹ずつ的確に狩るように! イオ君、結構重労働になるけど、任せたよ」
「ミャン!」
鳴くと同時にイオが飛び出していく。イオの仕事は単純だ。別に止めを刺す必要はなく、常に上位オークを急襲して行き、傷をつけて行く。その際、なるべく足を、それも関節部分を狙うようにはして貰っているが。
俺はと言うと、右手に魔石を持って酸欠魔法を延々とジェネラルに掛けつつ、左手にカイトシールドを構えて、何時でも防御できる体制をとっている。
ここで俺が攻撃を受けて、ジェネラルへの魔法が切れたら一気に形勢を逆転されてしまうからな。
飛んでくる矢に対して、盾を使いガードする。あぁ、結構神経使うぞ! この作業!!
イオが活躍し、なんとか戦闘班もがんばっているが、じわじわと押されつつある。……このままじゃ、じり貧だな。
戦闘内容の殆どが、上位のオークはイオによって怪我はするものの、少ししたら回復するし、嫌なタイミングで矢が飛んでくる。戦闘班は上手く連携しながら、一匹ずつ丁寧に相手をしているが、倒しきる所までは行っていない。
「……このままだと、私達の負けになりそうですね。こちらも怪我人が増えてきてます。まだ軽い怪我とはいえ、これが続けば崩れますね」
「あぁ、だが逃げる道なんて無いぞ? 綺麗に囲ってきてやがる。それに、逃げれたとしても、こいつ等とは戦うしかないぞ?」
「……迎撃できる状態で戦うのが吉でしょうね。ここは、撤退しましょう」
撤退が決定か。とはいえ、何処かに穴を作らないと撤退出来ないよな。
まだ……ジェネラルは動いてない。というか、出来れば此処でジェネラルだけでも倒しておきたかったけど。次にコイツとやりあう時に、酸欠魔法や毒矢は通じなくなってる可能性が高いが……まぁ、仕方ないか。取りあえず今は、この難所を越えないといけない訳だし。ジェネラルに執着して大怪我をするよりマシか。
「それじゃ……総員てっ……って、何ですか!!」
お兄さんが撤退の号令を出そうとした時に、道側から大量の矢が上位オーク達を射抜いていった。
思わずお兄さんも、驚いて声を出してしまうが、直ぐに気を持ち直して全員に指示を飛ばす。
「全員警戒! 道側からの攻撃に注意しつつ集合!」
お兄さんは先ずは全員で固まる事を選択。何があっても全員で直ぐ動けるようにするのか。バラバラでも良いと思うけど、そこら辺は何か考えがあるのかもしれない。
「久しぶりだな入谷殿。何やら大掛かりな事をやってるみたいだったからな、少し手伝いでも出来るかと思えば、中々に凄い状況じゃないか」
「……守口さん。お久しぶりですね。とはいえ、ありがたいタイミングでしたよ」
「なぁに、受けた恩を少しでも返せるからな。此処からは自分達も手伝うとしよう」
「……ありがとうございます」
「気にするな。それにこの位置だと……街にも被害が出そうだしな。先手で潰せるなら問題ない」
矢を放った人達は……入谷さんと話をしていて、街という単語が出たという事は、あのシェルターの人達か。
……自衛隊や警察がベースで編成された部隊か。実にありがたい援軍が来たもんだ。
お兄さんやお姉さんは、このオーク達はニ十層レベルだと言っていたからな。彼等の強さが自衛隊や警察で最強クラスで無いとしても、このクラスなら問題ないはずだ。
「まぁ、オークジェネラルなんて俺達も見たこと無いんだけどな。まぁ、これだけ人数がいるなら何とかなるだろ」
守口さんと呼ばれた人がそんな事を言った。……問題……ないのかな? 少し心配になるけど、まぁ、ジェネラルは傷と麻痺を負ってるし、上位オークも先ほどの矢により大ダメージを受けている。うん、勝ち目は出てきてる……はずだ。
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そろそろ、登場人物纏めないとですかね。年齢も変わって登場人物も増えてますし。




