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百九話

束の間の休息。

 これは物凄い光景を見ている事になるのだろう。久々に自宅へと帰ってみれば、妹達に請われてスーパーボールを使って遊んでいた部屋へ行く。

 その時に見せられたのが、色々な遮蔽物を置いた部屋でスーパーボールが三十個ほど飛び跳ね、その部屋の中央で円の中から一歩も出ずに、飛び跳ねたりしつつ回避しながら、当たりそうなボールを全部打ち返している二人の様子だ。


「……いつの間に此処まで訓練してたの? これ、村の周囲なら狩りにでても余裕だよね」

「少しやりすぎたかもしれんのう。まぁ、此処まで出来れば安心じゃろうて」


 爺様が乾いた笑いをしながらも、襲撃があってもこれなら安心だと言うが……これは別の意味で安心できないって。

 ゆりであればモンスターの恐怖を知っている。だが、ゆいには其れが無い。言い聞かせてはいるけど、実感が無いんだ。かろうじて幼い頃に熊に襲われ、助けられたという経験があるからこそ、無茶はしないのだが……それでも、自信が持てるぐらいに強くなってしまえば、私も狩りに出る! なんて言い出しても可笑しくない。

 年齢的にも十三になる頃だ。不思議な無敵感を感じるようになる時期に入りかかっている。というか、入ってる可能性もある。はぁ……頭が微妙に痛いな。


「何処かで一度、安全を確保した状態でモンスターとの戦いを見せるべきかな?」

「そうじゃのう。ゆいだけじゃなく、モンスターの実情を知らぬ他の子供や……大人にも見せるべきかも知れぬな」


 目の前で無邪気に笑いながら、普通ならばありえない身体能力を見せつつ楽しんでいるゆいを見て、爺様と村におけるモンスターに対する問題点を挙げていく。

 雀蜂の時も猿達の件も……そしてオークの襲撃時にもその脅威を見て無い人が多いんだ。そして、被害が殆ど無かった為に、俺達が簡単にモンスターを倒しているように感じている人も居る。

 其処に加えて、イオの存在だ。友好的なモンスターで現状、村の守護獣兼マスコット的存在になっている。この事が、モンスターに対しての恐怖心を更に薄くしている。


「兄さん! どうかな。結構立ち回りが上手くなったと思うけど」

「見てくれた! こう、びゅーん! って来るボールさんをぱーん! ってやったよ!」

「あぁ、見てたよ。立ち回りは確かに凄い上達してたな。ただ、ゆりは義手でガードする癖を少し直したほうが良いと思うぞ? ゆいは……うん、擬音での説明を何とかしようか。言っている意味は理解できたけどな」

「あー……やっぱ、義手でのガードは不味いんだ。うん、気をつけるよ」

「えー! 他にどう言えばいいのー!」


 ゆりのは義手で永遠と過ごすなら問題ないけど、上級ポーションを手に入れて治す予定だからな。治った時は義手じゃない、その状態でガードすれば……また、上級ポーションが必要になるか、義手での生活になる。だから、早めに修正するべき癖だ。

 ゆいはなぁ……今の状態ならかわいいで済むけど、年齢が上がったらと思うと……説明時にとある有名な監督さんみたいになっちゃうぞ。あれはあれで、味があるんだろうけど。流石に、生き死にが隣にある世界でそれは不味い。


 さて、妹達が話し掛けてきた事で爺様との会話が中断されてしまったが、後にしておいた方が良さそうだな。爺様も苦笑しながら妹達を見てるし、今日はこのまま二人の相手をする方向になりそうだ。


 まぁ、普段やっている仕事や学校での話を聞いたりしてたんだけど。……何故か今は庭で模擬戦をやっている。

 

「兄さんとの手合わせも久々だね!」

「お姉ちゃんと一杯練習したんだよ!」


 二人が俺を挟んだ陣形で攻めてくる。まぁ、其れは良いんだけど一人は弓でもう一人は槍だよね? なんで、挟んだ陣形で来るかな。


「ゆい! あれやるよ!」

「うん、解った!!」


 ゆりが俺に向かって数本の矢を連続で放つ。矢自体は刺さらないようにしてあるから、気にせず撃てるのは良いが……これ、俺が避けたりすればゆいに向かっていくぞ? まぁ、避けるけどさ。


「えーい!」


 俺が矢を避けると同時に、ゆいが掛け声を上げながら槍を振るう。声がする場所から考えれば絶対届かないけど……何を狙ってるのやら。

 正面からは未だにゆりが、矢を連続射撃してくるし……って!


「おっと!」


 後ろから、飛んでくるわけが無い矢が俺に向かって飛んできた……うん、ゆいのやつゆりの放った矢を打ち返しやがった。普通やらないぞ! 矢を槍で跳ね返すとか! 叩き落すや切り捨てるなら解るけどな。


「なるほどね。これを狙ってた訳か」

「あちゃー……兄さんには通用しなかったかぁ」

「黒木のおじさんには通用したのにねー……ざんねん!」


 ……初見殺しの技だろうけど、黒木さん喰らっちゃったのか。今頃、悔しさで猛特訓してそうだなぁ。てか、してるな。これだけ騒いでるのに、顔を見せないって事はそう言う事だろう。

 ふと何か視線を感じたので、爺様のほうを見る。あぁ、爺様も喰らいそうになったんだろうな。あの顔を見る限り、俺が当たらなかった事を残念に思ってる顔だ。恐らく爺様は、当たるぎりぎりでキャッチした口だろうな。きっと、「ワシは当たら無かったぞ? 弛んでおるのじゃないかの」とか、言いたかったんだろうな。実に悔しそうだ。


 其処からは、黒木さんが居ないとはいえ、皆混ざってのいつもの乱戦。


「って、爺様前よりも動きが良くなって無い!?」

「ワシとて、特訓ぐらいしておるわい。……でなければ、二人に追いつかれそうじゃしな」

「むー! まったく追いつけないんだよ!」

「くっ……お爺ちゃんも兄さんも速過ぎるよ!」


 まぁ、なんとも久々な平穏を感じれる……って、前はこんなの平穏な日常じゃなかったよな! はぁ、これが平穏と思っちゃう時点で、どれだけ殺伐とした世界になったか、実感出来てしまうのは少し悲しい話だ。


 とはいえ、遊びで訓練が出来るならそれに越した事は無いだろう。村が崩壊する事はないと思ってたけど、あのオーク達の地下王国をみちゃうとな……少しでもこれで生存率が上げれるなら、村全体でもやった方が良いかもしれない。戦えません! では生き残れないからな、せめて自己防衛から逃げまで出来る身体能力をつけてもらう必要があるか……要相談と言ったところだな。




 久々に皆で騒いで疲れ果てたのか、ゆいとゆりがご飯を食べた後直ぐに頭で船を漕ぎ出し、電池が切れたかのように倒れていった。お子様か! と言いたいが、言ったところで聞こえてないから、寝室へと運び、寝かせておく。


「さて、爺様。昼に感じた問題だけど」

「そうじゃの……簡易的に纏めて検討して貰うのが良さそうじゃな」

「とりあえず、モンスターへの危機感と其れの対策に、模擬戦中に思ったんだけど、村全体の身体能力強化が必要かも」

「防衛なら出来るじゃろう? たしかにオークの話は聞いたが、其処まで必要かの?」

「あの地下王国は実際に見ないと、その脅威の大きさは理解しにくいから。お姉さんやお兄さんもデータがあるから、その脅威を理解してるけど、その内容は恐らく半分ぐらいだと思うよ」


 見たものにしか解らない、あの威圧感というか圧倒的な存在力とでも言うべきか。アレはまともに戦闘をしたら駄目なやつだ。

 あんな閉鎖的な空間じゃなければ、少しずつ暗殺していくと言う手もあるが……あの場所で其れをやれば直ぐにばれてしまい、追われる身になる。

 とはいえ、全てのオーク達を殲滅する前提ならあの空間は便利な訳で、あの数が外に拠点を築き上げていれば、殲滅作戦を行なっても、結構な数のオーク達が逃げ切ってしまうだろうな。


 どっちが良いと言えない……とはいえ、あの空間のデメリットは暗殺行為が出来ない為に、統率者が最後まで生き残ってるだろうという事だ。オーク達はただでさえ強いからな、それに高性能な頭脳が乗っかったら、戦いにならない。

 そして、あの存在感は間違いなく並ではない統率者がいるはずだ。


「ふむ……確かにワシ等は見ておらんから解らんのう。それほどじゃったのかの?」

「上位オークを纏めれるって言うだけでも、能力が可笑しいのは間違いないと思う」

「実に面倒な話じゃな。そのオークに戦闘中こっそり忍び寄る事も出来んとなると、使える手が減るのう」


 そんなモノを見たからこそ、村の防衛が絶対だと思えなくなった。ならば、徹底的に生き延びる為の訓練というか、身体能力をつけておくべきだ。

 その判断に、爺様もある程度納得がいったようで、会議時に話をする為の提案書にその旨を書き出している。

 まぁ、そんな緊急事態に為らないようにするのが一番だけどな。

 とりあえず、大量の魔石による新技術でも出来てないかな? オーク攻略を楽にするアイテムとかあれば良いけど。

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