百七話
トンネルの中を音も無く其れでいて急ぎながら撤退。その最中に、トンネルを土魔法で弄繰り回して落とし穴を作ったり、行き止まりにしたりと色々な改造をやっておく。
「この道はこれで使い物にならないけど、他にも出口はあったから時間稼ぎ程度かな」
「やらないよりマシだろう? オーク達に気がつかれて無いとは言え、今は少しでも時間が欲しいからな」
「でも、相手にも魔法の使い手が居そうでしたから……トンネルを直して来るかもしれませんね」
あの杖をもったオークが、ただの杖術使いなら良いんだけど……まぁ、そんな希望的観測は捨てておこう。あれは、魔法を使えるオークだ。その前提で考えた方が良い。
そんな考察と工作をしながらも休む事無く来た道を戻って行き、階段を駆けあがった後、更にその階段を崩しておく。ガラガラと崩壊音が鳴り響き、それに気がついた居残り組が慌てて俺達の居る方へと走ってきた。
「リーダー! 凄い音でしたけど一体何があったんですか!?」
「それは後だ! 今は早急に撤退する!!」
「え……あ、はい! 直ぐに準備に取り掛かります!!」
常駐する為に張っていたテントなどを速やかに片付け、欠けている人が居ないか点呼をとり、人数が揃っている事を確認。そして、速やかに架けた橋を渡りきった後、橋を崩してから拠点へと全員で駆けて行く。
道中にはモンスターの気配を感じたときもあったが、その都度イオの猛烈な威嚇により、こそこそと奥のほうへ撤退していくので、戦闘を行なう事無く川岸の拠点へと到着。うん、戦闘は無かったけど疲労度が半端ない。
「開門! 開門!! 直ぐ報告する事がある! 急いでくれ!!」
影山さんが走りながら叫ぶ。それを聞いた門番が慌てて重厚な門を開けていく。じわじわと空いていく門が二人ほど通れるぐらいなった頃に門に到着、そのまま急いで拠点内へと飛び込む。
「ぜーぜー……はぁ、誰か水を持ってきてくれ!」
「は、はい!!」
周囲にいる人に水を要求。全員が全員息切れをしている。まぁ、俺とイオはケロっとしているが……って影山さんと望月さんも、割と息が整うのが速いみたいだ。ただ、他のメンバーは……地面に転がったり座ったりと、まだまだの様子。これは、影山さんによるスパルタが開始されそうだな。
おっと、そんな事は今は横に置いておかないと。
「影山さん、此処に居るメンバー全員で報告に向かうのは無理でしょうし、とりあえず三人で行きませんか?」
「ん……あぁ、そうだな。だが、水一杯ぐらいは飲ませてくれ」
「俺も欲しいので、当然飲んでからですよ」
一杯の水を飲み干した後そこに転がってる人は放置して、拠点で指揮を執っているリーダーが居るであろう会議室へと突入。
扉を勢い良くあけると、会議をしていただろう全員の目が此方に向く。
「おお……威勢よく帰ってきたみたいだが、何かあったのか?」
議長をしていた、この拠点のリーダーが声を掛けてきた。うん、驚いた顔をしているし、余程勢いが良すぎたんだろうな。まぁ、報告する内容でもっと驚いてくれと言いたいが、驚いてる余裕なんて無い内容だよな。
「あぁ、兎に角ヤバイ話だ。全員心して聞いてくれ」
影山さんが先に一言注意するようにと発言してから、オークの集落跡についての話を進めていく。
最初はジャブ程度だろう。オークの集落周りが何かによって崩壊し、亀裂が円形状に出来て集落が完全に孤島の様になっている件だ。
「なんだそれはと言いたいが……まぁ、それだけの内容で帰って来る訳がないよな? 当然だがお前らはその亀裂を渡って集落を見てきた。そこで何があった?」
亀裂に対して微動だにしないのは残念だが、流石リーダーと言うべきか……話が早くて助かる。
そう思ったのは影山さんも同じで、少し苦笑した後に続きの内容を口にしていく。
「拠点は完全に焼け崩壊してたな。オーク達の死体も無かったが……魔石は大量に手に入った」
「おー……それは良い報告だな。オークの魔石だが今回の防戦でもかなり手に入ったからな。色々と道具作り等が捗るはずだ」
これには、会議に出ている研究班も満面の笑みだ。とはいって、何処かしらこう悪巧みをしているような笑みにも見えるんだが。きっと役に立つ物を考えてるだけのはず……だと良いなぁ。結構遊び心満載で行動する時があるからな。婆様やお姉さんにでも釘を刺してもらっておこう。
さてさて、問題の地下についての話だ。
まぁ、話す事を要約しながら説明していくけど、周囲の人の顔がドンドン険しくなっていく。其れもそうだろう、オークの拠点下にとんでもなく長いトンネルがあり、其れは理由が解らない方法で空気を正常な物としている。
まぁ、此処までは良い。進んだ先にオークの地下王国といえる物が出来上がってる事だ。そして、其れが意味する所は、今回の防戦はその王国の派遣部隊であっただろうという事。
「がぁぁぁ。何だ其れは! しかも何か? 上位のオークが大量に居る? しかも、戦力の強化を無限に出来るモノがオークの拠点にあるだと!?」
「……一度オーク達は此処を攻めてきてるんだぞ? もしオーク達に報連相のシステムがあれば、当然全滅した事はそのうち解るだろうな。何せ誰も戻らないからな」
「そういった意味では、トンネルや階段の崩壊は時間稼ぎになりますな……よくやってくれたと言ったところでしょうな」
「しかし、相手は此方が近くまでいった事に気がつくのでは?」
「オークの先行部隊を殲滅した時点で何時かは気がつかれるからな。放置するよりも良いだろ」
地下のオーク達について、次々と会議が進んでいく。しかし全員の顔は一向にすぐれない。
良い案が中々出てこないと言うのもあるが、此処に居るメンバーでモノを進めるのは少しばかりきついのだろう。
「とりあえず、村にも報告してからだな。そろそろ瘴気の調査隊も戻ってるかもしれん……当分は大丈夫だと思うが、事態が変化しても良いように行動しておこう」
「では、オーク集落跡の近くに物見を置くか。後は……戦闘部隊の訓練だな」
「物資等の状況ももう一度チェックしておきますか。いざとなって無いでは困りますからね」
各自が其々やる事を自ら発言し、リーダーが其れを許可すると直ぐに動いていく。
「さて、影山と白河は俺と一緒に村へ移動だ。望月は影山がいない間、代理の調査部のリーダーを務めてくれ」
「了解! それじゃ、調査部の奴等に説明と行動の指示をしてくるわ」
「望月頼んだぞ」
「おう。影山リーダーもしっかりと報告してきてな!」
さて、これで拠点に関しては最低限の準備が出来るはずだ。
問題は村側。一体如何いう判断をするかだな。出来ればオーク達が勢いづく前に……あの地下を壊しておきたい所だけど。中々難しそうだ。
――瘴気調査隊――
結弥達が川岸の拠点へと到着した頃、入谷達は街の近くを進んでいた。
「お、あの街、随分と壁が出来てきてますね」
「結構なペースで進んでるみたいだな。結構広めに壁を造ってるみたいだしな」
村と街における人数の差だろうか? その壁を造っている範囲が村で造り上げたモノからみて、五倍ほどあるように入谷達には見える。
そして、実際に其れぐらいの広さで壁を造っている。農業をするにしても壁の外は無理な話だ。当然壁の中で行なう訳だが、村よりも人口が多いここの人達はそれだけ広大な土地を必要とする。
「人員が増えるという点で見るなら羨ましいですけど、初動がすごく大変そうですね」
「まぁ、其れも最初だけだろ。数がいればそれだけ出来る事は増えるからな」
当然、お馬鹿さんも増えるわけだが……こんな状態で馬鹿な事をする奴はそうそう居ない。
それに、入谷達は知らないが、既に馬鹿な事をやってシェルターから追放された人も、街側には居たりする。
見せしめという訳ではないが、余りにも周りからみて阿呆な事を言っていたため、冷ややかな対応をされていたが、追放事件により馬鹿な事をし過ぎてはいけないと思わせたのもまた事実だ。まぁ、お調子者的なのは未だにいるのだが……。
「ま、このままこの街が上手く行ってくれれば、俺達も助かるしな」
「そうですね。ダンジョンを行き来する際に、一泊するには丁度良い位置ですからね」
折角情報と技術を提供したのだ、このまま堅牢な街へと変化して言って欲しいというのは、入谷達の想いである。そこには当然、入谷達の思惑もあるが、折角生き残った者同士だから生き延びて欲しいという気持ちだってある。
とはいえ、今はこの守りを固め出した拠点をみて、上手く行きそうで良かった。そんな気持ちで街の前を通り過ぎる入谷達だった。
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