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百五話

 イオを先頭にオーク集落跡にあった地下への階段を進んで行き、最下層までたどり着くと、何処に続くのか、謎の一本道が眼前に広がっていた。


「こうも直線が長いと、懐中電灯を使いたくなるんだがな……」


 影山さんが懐中電灯を使いたくなると愚痴るが、懐中電灯の燃料源として電気ではなく魔石使用であり、現状だと懐中電灯などの消耗品には使いたくないのが村全体の総意だ。

 武器や爆破物という切り札の強化、それに村や川岸の拠点におけるライフラインや強化もある。結果、こうした消耗品は改良はしたが、燃料を使う物としては後回しになっており、灯りとして使うものはモンスターや植物から油を絞り、その油をつかったランプを使っている。


「足元は明るいからランプも便利ですけどね」

「そうなんだがな……やはり、先が目視出来んのは辛いぞ」


 それに、油ランプだと片手が埋まるというのも辛い点になるな。電灯系なら、ランプ型でも腰辺りにセットしておけば良いし、前方を照らすタイプでもヘルメットにくっつけるタイプがある。どっちも両手が開くわけだ。……油ランプを腰にセットしようものなら、激しい動きや戦闘で下手をしたら自分に火が燃え移るからな、怖くてセットなんて出来ないぞ。


「隊列は如何しましょうか? 取りあえずイオは先頭で決定でしょうけど」

「そうだな……地下に来てるのは、俺と望月に白河とイオだからな」


 オークが通れる地下とはいえ、広い空間という訳ではないので地下探索のメンバーは厳選した。

 他の人達は拠点に報告をしに行った人以外は、オークの集落跡地で警戒任務だ。

 橋を壊されるわけにも行かないし、はぐれのオークが戻る可能性や、オークが居なくなった事によるモンスターの分布図が変わる可能性をみて、当分の間だが警戒をする為に集落跡を整えてもらっている。


 因みに望月さんは、影山さんに次ぐ技量の持ち主だ。本来ならどちらかが地上に残るべきだと思うが、もう一人同レベルの技量を持ちながらも、どちらかと言うと指揮を執るのに適している人を残している。

 

「まぁ、後ろは地上に居る奴等が地下への入り口を固めているから、バックアタックの危険性は無いと思うが……念の為に白河が最後尾に居るべきだろうな」

「影山さんでも良いと思いますけど?」

「いやいや、俺ではまだお前の探査レベルに追いついてないからな。ここはしっかりと能力で判断していくべきだ。くだらんプライドでミスを引き起こしたくはないさ」


 パーティー行動において、一列での隊列を組む時。それは大抵の場合が狭い場所を進むときだ。その場合、本来であれば一番強い人を最後尾に置くのがベストだろう。影山さんも言っていたがバックアタックを喰らう可能性がある。それ以外にも、最後尾ならばサイドアタックや敵に押し込まれそうになった人のフォローなど、様々な状態を確認し咄嗟に動く事が出来る位置だ。


 ゲームみたいに、魔法使いや弓師を最後尾なんて……それは全滅しろと言ってるようなものだろう。


 とはいえ、今回一番強いのはイオだ。しかし、イオならば暗い場所でも物が見えるし、探査範囲も広いという事で、最前線に配置するのが今回の正解。だから、俺か影山さんが最後尾という事になる。

 まぁ、影山さんは俺のほうが適任と判断したみたいだし、此処は従っておくべきだな。この調査のリーダーは影山さんだし、別に間違っている訳じゃないからな。


「それじゃ、望月は俺の後ろだ。俺はイオの後ろの位置を行く」

「了解。リーダーはイオちゃんに見とれて躓いたりするなよ?」

「阿呆か。たしかにモフッたら気持ち良さそうな毛並みだけどな、時と場合ぐらい弁えるに決まってるだろ」


 軽口をたたきあいながらも、警戒を怠らず前進を始める。俺も後方に注意を回しながらも、イオの動向に注意を払う。何故イオの動向かというと、何かあればイオに変化があるからな……アイツの気配が変われば、前方に何かがあると言う事だ。

 そして、影山さん達もそれを理解しているらしく、彼等は足元や天井それに両サイドの警戒を強めつつ、イオの動向を窺っている。




 どれだけ進んだだろうか、太陽が見えないので時間の感覚が結構狂っている。しまったな、時計があれば良かったんだけど、スマホはカメラの代わりに使って報告用に持って行って貰ったからな……現在所持してないんだよな。


「影山さん、時計って持ってきてます? 俺、スマホを時計として使ってて、其れを報告の為に貸したから手元にないんですよ」

「あー……確かに、時間がわかりにくいな。ちょっと待ってろ。っと、うわ、もう日が落ちた時間帯だな」

「うへぇ……まじかよリーダー。俺達そんなに歩いてたのか」


 どうやら、思った以上に時間が過ぎていたらしい。まぁ、一応物資はあるから此処で休憩を挟む事になるみたいだ。


「しかし、休憩せずに長時間歩き続けてたとはな」

「疲労もそんなに感じてませんしね。精神的にはちょっときたかな? ってのはありますが」

「俺はどっちかというとあれだな……リーダーが躓かなかった事が残念だ」

「望月……まだ言うか」


 しかし、思った以上に歩いた割りにはそれほど進んでいないのだろうか? 確かに、モンスターや地下の崩壊を警戒して歩いていた為に、前進する速度はかなり遅かったのは事実だろう。

 それでも、何もない道をただひたすらに歩いているだけだ。いい加減何かがあってもいいんじゃないか? 地上にでる場所とか大広間とか。


「それにしても不思議だな」

「リーダーどうした? 何も無いと言うのは不思議かもしれんが、五層の時に体験してるだろう?」

「いや、永遠と続く一本道は良いんだ。俺が不思議に思っているのは、何処から空気が流れてるんだ? って事だな。此処にくるまで上や左右をしっかりと見てきたが……空気穴なんて無かったぞ」

「そういえば変だな……空気が流れてる感じすらないのに、酸欠にすらならねぇのは確かに可笑しい」


 トンネルを作ると、必ずはあるだろう空気を流す為の物が無い。

 空気孔や天井にファンの姿を一切見ないとなれば……何かとんでもない技術でもあるのだろうか? それとも、此処はダンジョンの中だったりするのか?

 とはいえ、此処には何も無いので調べようがない。進めば解るだろうか? もしとんでも技術ならばお持ち帰りしたいな。きっと、研究班も狂喜乱舞するだろうね。


「とりあえず、今は休んでおきませんか? 調べるにしても、此処じゃ解らない事だらけですし」

「そうだな、モンスターが来た時の為に交替で仮眠を取ろう。まぁ、そうそう無いと思うがな……イオも居るしな」

「それじゃ、俺が中番するからリーダーと白河で早番と遅番頼むわ」

「望月いいのか? 中番が一番辛いぞ?」

「はっ、問題はないね。それに、パーティー内で一番戦力をベストにしておきたいのは、白河だろう? それとリーダーにはしっかりリーダーをして貰わないといけないからな。なら、俺が中番をするのは当然の流れだろう」

「そうか……それじゃ、望月には中番を頼んだ」


 こういう判断ができるから、望月さんは影山さんに重宝されているんだよな。普段は割りと軽い感じで冗談を言い合ってるのに。とはいえ、一番嫌がる中番がさっくりと決まったので、後は俺とリーダーだが、起きて直ぐ行動する事を考えて、リーダーが遅番を選んだ。

 そうする事によって、行動開始時にしっかりと目がさえた状態でリーダーとして判断が出来るのと、俺は俺でぎりぎりまで寝ることによって体力を温存させる。お互いに一番良い結果になるとリーダーが判断した。


「それじゃ、俺等は寝るから。白河二時間後にはしっかり起こしてくれよ!」

「望月さんも、しっかり寝て置いてくださいね」

「おうよ!」


 こうして、合計六時間の睡眠休息を取る事になった。

 寝ている最中にモンスターが来なければ、十分な睡眠が取れるはずだ。さてさて、一体このトンネルはどうなっているのやら……一人で火の番をしていると、色々考えてしまうな。二時間もあるから思考が加速しそうだ。




――第一シェルターの中にて――


 時間は少し遡り、入谷達との話し合いが終わり彼等が街からダンジョンへと向かった後、シェルター内部ににて、沢山の人が集まって会議をしていた。


「リーダー……良かったのか? あんな約束をして」

「構わないさ。それに、此方としても良い情報が大量に手に入っただろう? 先ずはもらった資料を精査しようか」

「おいおい……彼等は信用できるのか? 確かに食料や情報は分けてもらったが……余りにも此方に利がありすぎないか?」


 今回のやりとりでは、余りにも入谷達の出費が大きかった。その為に罠なのでは? と思っても仕方ない。その事を疑問に思った男がその件を口にする。


「わ……私は信用しても良いと思います。えっと……彼等が言ってた後々の利というのが、納得行くものだったので」

「それこそ、ここを乗っ取る為かもしれないだろうが」


 女性がその件について、入谷達の利について納得が出来るというが、先ほど疑問を口にした男はそれも解せないと、乗っ取りがあるのではと口に出す。

 この男、入谷達が来た時はシェルターに残り、交渉など信用できないと言っていた一人だ。対して女性の方は、入谷達と飲食を共にし人柄などをしっかりと見てきた側である。


「そうですね。彼等と会ってみて思ったのは、まだまだ自衛隊や警察にその戦闘能力は追いついてません。それは、彼等も感じたでしょう。であれば、彼等がその言を偽り我々を貶める……などという事は出来ないでしょうね」

「む……確かに、俺達は元々そういった職業だったからな。戦闘に関しては自信があるけど……」


 戦闘においての差をリーダーに上げられ、男はその勢いを無くす。

 それもそうだ、幾ら騙したとしても戦闘に持ち込み、制圧してしまえば入谷達に出来る事はない。

 罠を仕掛け、奇襲を駆使しても同じ人間が相手だ。罠を読む事もできるだろう

 同レベルの能力ならば、罠を利用してアドバンテージを取れるかもしれないが、思考能力が同じならば罠を読めるだろうし、読んでしまえば身体能力が違いすぎる。なので、入谷達に戦闘で此処の人に勝つのは無理な話。

 その点を上げられ、男は遂に黙ってしまう。


「まぁ、そう言う訳で私としては、この交渉はお互い血を見る事無く、上手くいく良い話だっと判断しました」

「そうかい……まぁ、自衛隊のにいさんが言うなら大丈夫だろう。わしらとしてはその判断に従おう」

「代表……そうですね。街の総意としてその判断を尊重したいと思います」


 非戦闘員というべきか、元々街で過ごしていた住民の代表とその補佐もまたリーダーの判断に従う。

 こうなると、反対派は何も言えなくなってしまったのか、全員が難しい顔をしながら俯く事しか出来なくなった。


「まぁ、不安に思い反対する理由もわかります。ですので長い目で様子を見ましょう。その為にも、まずは情報を精査して使えそうなもので色々ためしましょう」

「……あぁ、解ったよ」


 不承不承と言った感じではあるが、反対派の重要人物が了解の意を口にした。実際は反対をしている人達も、何処かで外に出なくてはいけない事は解っている為、問題としているのは入谷達の事のみだ。

 なので、情報を精査しつつ外に出て様子をみる。これに関しては絶対に反対と言う訳でもないために、折れる事ができた。


 こうして、シェルター側の人達による、街の壁建設や街の復興が開始される事となった。

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