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百四話

 オーク達の集落跡を調査。焼けたオーク達の死骸は無かったが、所々に魔石が落ちていたのでついでに拾っておく。

 恐らくだが、火に焼かれたオーク達はそのまま息絶えて、灰にでもなったのだろう。……とはいえ、そこまで火力が出るような火計でもなかったはずだが。モンスターの死骸は、放置すると魔石を残して消えるのだろうか? まるで、ダンジョン内と同じだな。解体すれば素材として残る点も似ている。


 他に目に付いた事といえば、地下へと続く階段があった事か。まぁ、これを降りるのは後回しにしている。周辺の探索のほうを先ずは進めておきたいからな。


「粗方見て回ったが、階段と魔石以外はめぼしいモノが無いな」

「死骸が一切見つからなかったのは、ダンジョンを思い出すなぁ」

「たしかにねぇ。まぁ、死骸が残っていても使い物にならないだろうから、ある意味楽だったといえるかなぁ」


 調査に来ていたメンバーが一度集まって、次について会話をして行く。何せ調べるところがもう無いからな。

 集落といっても思った以上に小さく、しかもその殆どが崩壊している。当然、調べるものは少なくなる訳で、調査にかかった時間は全員で手分けしたのもあり、二時間程で終わってしまった。

 だが、調べるべきものは残っている。あの階段の先に何があるのかという調査だ。


「さて、階段は如何しましょうか? 調べるのは確定として、準備とか報告とかありますけど」

「そうだな……先ずは食料と灯りについてだが、これは十分に持ってきている。だから、直ぐにでも調査にはいけるな。ただ、報告は必要だろう……誰か一人に伝令役をして貰おうか」


 そう言って、影山さんが調査隊のメンバーから一人伝令役を選び、スラスラと報告書を作ると、それを持たせて直ぐに拠点へと走るように指示をした。序ではあるが、オーク達の魔石も彼に持たせて運んで貰うようだ。

 やはり、調査隊のリーダーに選ばれるような人という事だろうな。こういった時の指示や判断が異常に早い。


「さて、それじゃ此方も出発するか。オークが通れた道だからな、イオも十分通れるだろう」

「そうですね。それじゃイオ先導を頼むな」

「ミャン!」


 こうして次の調査のために、俺たちは地下へと続く階段を進む事となった。




――村――


「伝令! 伝令です!! 拠点にて防衛は成功! 味方の負傷者は最後に軽く怪我をした者が数名でた程度だそうで……殲滅に成功! 現在、オークの拠点の調査及び拠点周囲の調査をしつつ、オークの解体等を行なっているようです!」

「そ、そう! 問題は起きなかったのね……よかったわ」


 この伝令が伝わった後、すぐに村全体にその情報が行き渡った。その為か、村ではお祭りモードだ。

 軽い怪我人は出たが、重傷者以上の被害がなかったのが更に良かったのだろう。誰一人欠ける事無く帰ってくる。その情報は、思った以上に重く、そして村の人達の心を軽くさせた。

 それはある意味当然と言える。ダンジョンが誕生して以来、モンスターとの戦いは常に負け戦だったと言っても過言ではない。

 最初は、学生、次に何処かの街、更に自衛隊の基地の壊滅から、文化を破壊され住んでいた場所を追われ、シェルター暮らしになった。

 そう、皆負け続けていた。だが、今回防衛するという行動で完全勝利を収めた。村とオークの戦いと規模は小さいかもしれないが、彼等にとって初めての勝利と言える内容だ。

 防衛戦の結果を聞くまで、村で待つ人達は不安で一杯だっただろう、これまでの事が走馬灯のように走った人もいた筈だ。それが、蓋を開けてみれば大勝利。浮かれて当然だ。


「美咲ちゃん。きっと今、村の皆は浮かれてるはずだわ。まだ拠点から戻ってくる人は居ないでしょうけど、彼等が戻ってきた時にすぐお祭りが出来るように手配しましょうか。きっと、浮かれてお祝いモードだから手伝ってくれるわよ」


 品川が楽しげに村で騒いでる人達をこき使おうと、美咲に話を振る。そして、美咲もまたお祭りと聞いて、ならば直ぐに動こうと席を立ち走り出そうとする。が、そこで品川からストップがかかる。


「まってまって、美咲ちゃん。まだ内容が決まってないのよ? 先ずは村長達上層部の方を集めてきてもらって良いかしら? 内容は……そうね、〝戦勝祝いについて〟で良いかしら」

「あ……そうですね。それじゃ、皆に集まる様に言ってきますね!」


 疾風が如く。その言葉が合う勢いで、美咲が協会を飛び出していく。これで、人にぶつからず綺麗に避けているのだから、正に風のようだといったところだ。


「まったく……美咲ちゃんも浮かれてるわね。まぁ、戦場に出れなかったのが悔しかったみたいだし……仕方ないか」


 そういう品川も、前線で指揮を取れなかったのは口惜しい思いを感じている。彼女はオークが相手という事で、自ら女性の出陣を禁じた。

 本来であれば、品川か入谷のどちらかが指揮を執る。しかし入谷は現在、瘴気の調査に出ている。となると、品川としては自分が出るべきなのだが、ゴブリンの習性を聞き、オークもまた同じ可能性が在ると言う事で、全員に反対された。その反対を押しきれず自ら女性禁止の判断をしたのだ。


「自分で決めたとはいえ……やっぱり、前線に出たかったわよね。ま、こんな事他に人がいたら言えないけど」


 判断した以上、それに対してやっぱりああしておけば良かった。判断を間違えたんじゃないか? と取られる言動は、上に立つものとして口に出来ない。だからこそ、こうして人が居ない時に一人愚痴る品川であった。


 ドタバタと廊下を走る音が大きくなって行き、部屋のドアがバン! と大きな音を上げ開かれる。

 品川は、もしや戦場で何かあったのでは!? と、腹に力をいれドアのほうをしっかりと見据えるが……勢いよく入ってきたのは少し前に出て行ったはずの美咲であった。


「全員に連絡がつきました! 三十分ほどで皆集まれるそうです!」

「え……えぇ、そう解ったわありがとう。でも、アナタさっき出て行ったばっかりじゃなかったかしら?」

「……え? これぐらい出来ますよね?」


 出来るできないでいえば、数人は出来るだろう。とはいっても、この村での走力に特化している人間たちだけで、伝令役をやってる数名である。まぁ他にも出来る人間はいる。結弥だったりイオだったり……白河の祖父や黒木氏だったりするが、後者の二人が何故出来るかは謎である。


「えっと、まぁ良いわ。それで、皆は承諾してくれたのね」

「はい! お祭りと聞いて、すぐさま会議をしたい! と、騒いでましたよ」


 品川は思う、これは遊技場を作った時みたいにかなり盛大な内容になりかねない。そんな風に思いながらも、彼女はまた自分がかなりそれを楽しみにしている事に、何とも言えない気持になるのであった。




――瘴気調査隊――


 時間は少し遡り、結弥達がまだオーク達と戦ってない頃の話。


 入谷達は一つ目のミッションであるシェルターの人々の会合を見事にすませ、様々な情報と食料の提供を行なった後、軽く宴を行ないつつ夜のキャンプを楽しんだ。

 シェルター側の人達は、リーダーを中心に入谷達と必死に溶け込もうとする者、頑なにシェルターから出ずに外の様子を窺う者、なぜかシェルター内で調子に乗ってる一人と三種類に分かれているが、それは入谷達にとってはどうでも良い事だろう。

 情報をやり取りした後は入谷達はキャンプへ、そして彼等はシェルターへと戻って行き、それぞれ就寝へとついた。


 朝を迎えると入谷達はキャンプの片付けをし、朝食と出発の準備を済ませていく。そんな最中に、シェルター側から彼等のリーダーが入谷達の居る方向へと向かってきた。


「もう行くのか?」

「えぇ、これでも他に任務を受けて移動してますからね。出来るなら朝早くから行動しておきたいのですよ」

「そうか……我々としては、もう少し色々と話を聞いたりしたかったのだがな」

「すみません。結構日数が厳しいので」

「たしか……ダンジョン方面の調査だったな。手伝いたいとは思うが……まずは、この街の防衛を何とかしないとな」


 このままこのリーダー達が手伝えば、それこそ戦闘においては格段と質があがる。なにせ、元自衛隊や警察の人間だ。今の結弥よりも格段と上の戦闘力を持っている。

 とはいえ、彼等が手をかせばこの街の防衛が手薄となり、この街を中継地点にしたい入谷達からしても、手薄となった街がモンスターにまた占領されるなんて事になれば、面倒な話になる。


「まずは街を何とかしてください。それが、後々においては私達にとっても利となりますから」

「あぁ解ってる。昨日もらった資料を基に先ずは壁の建設をして行くつもりだ」


 元はと言えば、このリーダーはモンスターが地上を占拠していた時にも、飛び出して殲滅を行いたかった。そして、彼等の能力ならばそれが出来たはずで、その自信もあった。

 だが、守られる側が彼等の出撃にストップをかけた。もし彼等が怪我をしたり死者が出たら、一体だれが此処を守るのか? と。

 元々、守る為の組織だ。そういわれてしまえば、迂闊に出れない。結果、彼等は守る為に引きこもる道を選び、それを貫いた。

 だが、燻っていたのもまた彼等の思いだ。だからこそ。


「次は、外で防衛を敷いてやるさ。今は丁度良いタイミングなのだろう?」

「此処らのモンスターは、現在数を減らしてますからね。今が防衛網を引くチャンスでしょうね」

「なら、シェルター内の説得も出来るな。外にでれば田畑を耕せるのも良い説得材料だろう」


 そうして、出発の準備が終わった入谷達をそのまま見送るシェルター側の人達。

 シェルター側の人達の目に力が戻ったのは、入谷にとっては思わぬ収穫だった。外に出てきて話をするにしても、もう少しグダグダになるだろうと予想してたはずだった。なにせ、最初に出した手紙から随分と時間が経っても、アクションが無かったからだ。

 だが、現実は燻った彼等に火がついてしまった状態だ。これならば、予想以上に早くこの街の拠点化が進むだろう。


「人とは案外強い生き物なんですね」

「ん? 入谷さんどうした?」

「いえいえ、何でもないですよ」


 ダンジョンに向かう道の途中で、ついそんな事を口にしてしまう。それぐらい入谷は、自分や彼等の状況が楽しくてしかたなかった。

 もしかしたら瘴気の調査よりも此方のほうが、成果が上になるのではないだろうか? と。

 そして、そんな彼等に負けないように、瘴気についての解決策を見つけなければと言う思いを固める入谷だった。

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