百三話
森の中を進みオーク達の集落跡地へ。道中にオークの姿を見る事は無く、先行した影山さん達が倒したのか、それとも元々居なかったのだろう。お陰で目的地まで足を止める事無く真っ直ぐ進む事が出来る。
とはいえ、道中に遭遇しないのはモンスターだけでなく、先に拠点へと向かった人とも合流するどころか、その影を見る事が無い……まぁ、イオのお陰でどこら辺に居るかは予測できるんだけどな。
「その先行組だけど、どうしてオークの拠点から離れた位置にいるんだろうな? 拠点なら此処から真っ直ぐだけど、彼等の位置は結構右にそれてないか?」
「ミャー?」
イオも不思議に思っているらしい。戦闘を行なってる気配も無いし、先ず行なうべきミッションは拠点の調査だからな。それている現状は非常に不自然だ。……何かあったのかな?
「まぁ、もう少し進めば拠点も目視出来るだろうから、色々と解るかもな」
何かあった事を前提として、周囲への警戒レベルを上げながらもオークの集落跡地が目視できる位置に到着。それと同時に、この状況は移動する位置をずらすしかない事が発覚。
目の前の光景。それは、オークの拠点と俺のいる場所との間に大きな亀裂が出来ていた。
前回に来た時には、地面にこんな亀裂などなかった。一体何が起きてこんなモノが出来たのやら……。
少し亀裂を覗いて見るが、かなり深いようで底が一切見る事が出来ない。
とりあえず、石やら何か明りになりそうな物を落としてみる……が、深すぎるのか全く理解出来ない結果で終わった。
「何だろうなこれ……イオのサーチに何か引っ掛かるモノはあるか?」
「……ミャー」
どうやら無いらしい。まぁ、こんな亀裂に落ちれば即死だろうし、底に何かいるとしてもお目にかかる事は無いだろうな。何かが居たとしてもイオのサーチの範囲外だ、相当距離がある事になる。
とはいえ、報告用にメモをしておかないと……後は、判断しやすいように写真でも撮っておくか。
写真を撮るために亀裂がどのような状況かをよく調べてみると、オークの集落跡を中心に周囲を削り取るように出来ていた。
亀裂自体の長さについては、こちら側からオークの集落跡までの長さが十メートル程。横の長さにいたっては、囲っている状態だから不明。……どうやってあちら側に行こうか悩むな。
十メートル。これだけならば、走って飛べば飛び越えれるだろう。ただし、向こう側に何か無いとも言えない。着地した瞬間に足場崩壊とかの可能性だって、この亀裂の状況からみればありえる話だ。
だからだろうな、影山さん達が迂回して周囲を調べ、集落跡に続く道を探しているのだろう。
「さて、どうしようか。普通に俺達も迂回して調べるのがベターだろうけどな」
「ミャン!」
それなら左! と、元気よく鳴くイオ。右に向かって影山さん達の後を追うよりも、左に行って合流した方が調査が早く終わるか。
最悪、飛び越えて行く可能性も考えなければいけないから、しっかりと亀裂を観察しながら進んでいきますかね。
進んでいくと、影山さん達の姿を視界に捉える事ができた。どうやら、彼等も俺達に気がついたらしく少し歩く速度が早くなっている。
「白河も来たか。どうだ? 通れそうな場所はあったか?」
「此方は無かったですね……と、そう聞くという事は、影山さん達の方も無かったんですね」
「あぁ、合流するまでにお互い通れる場所を、発見できなかったという事になるな」
さてさて、一体如何するべきか。これは本当に飛んで渡らないといけなくなるか? 出来れば他の方法があって欲しいけど……そういえば、襲撃してきたオーク達はどうやって渡ったんだろうか? それとも、渡った後に亀裂が出来たのだろうか。
「まったく……陸の孤島状態だな。渡る方法が一切思いつかないぞ」
「飛び越えも考えてますけど、着地と同時に足場崩壊とかの可能性もありますからね」
「それは俺達も考えた。橋を作るにしても誰かがあちら側に行かないとダメだからなぁ」
魔法で道を作るか? 恐らくだけど、自重でポッキリと折れるだろうな。風魔法でロープを操作するか? ただ、向こう側にロープを引っ掛ける位置が見当たらないのと、ロープを風で精密に操作できる気がしない。
やはり此処は飛び越えるしかないか……道具は色々あるから、準備を万全にしてやるしかないな。
「調査は必要ですし、飛び越えましょう」
「……だが、どうするんだ? 全員で飛ぶのか?」
「いえいえ、命綱をつけて俺が先ず飛びます。そこで向こう側にロープを固定するので其れを使って、橋でも作ればいいかと」
「飛ぶのは俺がやるぞ?」
「少しでも落ちる可能性を回避したいじゃないですか。俺なら結構奥まで飛べますし、其れに此処に居るメンバーの中で、一番小さくて軽いですよ」
そうなんだよなぁ……皆、百八十前後は身長がある。俺だけ百七十なんだよ……。少し分けてくれ。……とはいえだ、現状だとこの小ささが他の人よりもリスクが小さくはなる。……まぁ、可能性としてはコンマレベルの差だろうけど。そこに、更に奥まで飛べる事ができれば、足場崩壊の可能性は更に減るわけだ。
「そう言う訳なので、俺が行きますよ。変わりに、命綱の固定等お願いしますね」
「あぁ……納得はいかんが、それが一番良いんだろうな。命綱は任せておけ」
皆納得はしてないみたいだが、現状一番良い人選だと理解しているのか、不満を顔に出すだけで口では一切何も言わない。リーダーの判断に任せるといった状態だ。
そんな訳で、飛び越えるためにロープで命綱を作って、頑丈そうな場所に固定しつつ皆にそのロープを握ってもらっておく。
「しっかし……これはなんというか、ハーネスをつけた犬猫の気分になるなぁ」
「プッ……イオが居るのに、ハーネスをつけるのは白河とはな……クックック」
「ちょ、リーダーなにツボってるんですか。ロープをしっかり握ってくださいよ!」
「すまんすまん、白河が妙な事をいうからついな」
ま、納得いかないという顔をされてるよりも、こうして少し砕けた空気のほうがやりやすい。上手く乗ってくれた影山さんには感謝だ。……うん、影山さんも上手く行ったという感じに俺に向かって、下手なウィンクで合図を送ってくる。ただ、両目瞑ってますよ?
「さてと、それじゃ行ってきますね」
「気をつけて行ってこい!」
助走をつけて、亀裂のぎりぎりでジャンプ! 飛び込むために踏み込んだ足場が少し崩れたが気にしない。ただ足場が脆かったからか、思った以上に飛行距離が足らない……まぁ、それでも十メートルぐらいなら飛び越えれるが、他の人だったら危なかったかもな。
着地と同時にその衝撃が地面へと伝わり、足元からビシッと音が聞こえる。着地時に勢いを殺してなかったので、そのまま前方に飛び込みながらローリング。ただ、飛び込んだ時に地面を蹴ったのが止めになったのか、先ほどまでいた場所が綺麗に割れ、亀裂の底へと地面が崩れていった。
「おーーーーい! 白河大丈夫かーーーーー!」
「何とか超えましたよ! 少し待ってくださいね! 直ぐロープ固定して来ますから!」
落ちればロープにその衝撃が伝わり落下した事が直ぐわかる、それが無いという事は落ちてないと理解できるはずだが、視覚的な衝撃で心配になったようだ。足場が崩れたのを見て、すぐさま声が飛んできた。
「無事なら良い! 固定する場所は任せたからな!」
大声での安全確認もそこそこに、ロープを固定できる場所を探す。当然だが、亀裂の側はダメだ。固定したロープが固定されてないのと同じだからな。重さや歩く振動やらでその衝撃が地面へと伝わり、崩れる可能性がある。
なので、ロープの長さでいける場所で安全そうな場所をみつけないとな。まぁ、必然的に集落跡の近くになる訳だが。
集落附近には木などが無く建物も殆どが崩れ落ちている。まぁ当然だろうな……火計で燃やしたんだ、当然そんな物が残ってる場所なんて少ない。ただ、残ってても脆い状態なので、ロープの固定には使えないという事になる。
「これは、自分で杭を打ち込んで固定したほうが良さそうだな」
バックパックから長めの杭を取り出し地面に刺す。固定する位置を数箇所作って、負荷を分散させておく。
ロープを二本設置してから、何度か引っ張ってみたりして使えるかどうかを確認。後はリーダー達の方がどうなっているかだろうな。
「こっちは終わりましたよ!」
「おーそうか! 俺達も固定は終わった! 後は……足場だな!」
足場が必要だと言って影山さん達はプレートを取り出し、慎重にロープの上に置いてから固定の為に縛り上げている。というか、どうしてプレートなんて準備してたんだ。用意周到すぎないか? まぁ、簡易ではあるが橋はこれで出来上がるだろう。
もし必要なら、此処から本格的な作り方で他の人が作るはずだ。とはいえ、この拠点が必要かどうかは謎だけどな。それを判断するのは、上層部に投げつけてしまえ。
「ふぅ……何とかたどり着いたな。まったく……予想外だったぞ」
「お疲れ様です。というか、なんでプレートなんて持ってたんですか?」
「あぁ、雨風を凌ぐ為の簡単な小屋を作ったり、筏なんかも作れるからな。研究班が開発した、軽くて頑丈な試作品だぞ」
研究班の試作品か。これは良いようにテストプレイとして持たされたみたいだな。とはいえ軽くて頑丈か、今回見たいな使い方も出来るから色々と量産計画が立ちそうだ。
「さて、少し休憩したら調査開始だな。とはいえ、此処から見える風景からして、何か残ってるほうが少ない気もするがな」
「まぁ、それでも調べるのが俺等の仕事でしょ? リーダー」
「その通りだな。何が出てきてくれる事を祈るとするか」
休みながら、皆が調査について軽く会話をしている。
其れも仕方ないか。何せ目の前には、殆ど焼け残った状態の集落跡だ。あの襲撃は予想以上の成果を上げていたらしい。まぁ、こんな状態にされたんだ、オーク達が激怒して突進しかしないのも頷ける。
「見た感じだと、木材のみで作った拠点だったんだろうな……よく燃えたみたいだ」
「土やレンガやらコンクリートが使われていれば、また違ったのではと思いますがね」
「木造の辛いところだな、本当に延焼が速い」
さてさて、朝駆けによる火計の成果もしっかりとメモに記述しておいて……此処から本格的な調査の開始だ。
とはいえ、調査するモノも少なそうだが、本当何か出て来てくれないものだろうか。まぁ、そう願わずにはいられないな。
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