九十五話
協会の会議室にて、オークが存在するであろう場所についての報告をしていく。
「そう……そんなに近い場所に大量のオークがいるのね」
「視界も木々で悪いので、大人数での戦闘は厳しいかと」
あの状態での戦闘を考えれば、少人数での奇襲の方が可能性はあるが、相手が防御を固めてしまえば奇襲すらも大変となる。
何時もの様に、森を焼くか? なんて提案をする人もいるが、それ自体は最終手段だ。まぁ、何でもかんでも燃やすってどこの世紀末だと言いたいが……現状モンスターによる世紀末みたいなもんだ、そんな馬鹿な事を言いたくなるのも仕方ない。
「兎に角、オークに関しては前話した通りの作戦でいくわよ」
「ふむ……川岸に拠点を作ってから釣り出しだったな」
オークの数が前回よりも多いなら、より一層の要塞化進めるべきか等の会議が進む。
話の内容で盛り上がったのが、川を挟んでの戦闘になるので、遠距離攻撃の充実に周囲のトラップ化などなど、次々と案を出していく時だった。数人は直接戦いたい顔をしていたが力量は理解しているのだろう、反対意見を出す人はいなかったな。
「それじゃ、後は白河君が言ってた事についてね。まぁ、誰がやるか決めるだけなんだけど」
オークの斥候の対策に、こちらが出す斥候の件だ。
「オークの動きを知ることは大切だからね。特に相手の斥候に関しては、一匹も帰還させないようにして欲しいのよ」
相手に拠点を作っているという情報は渡したくないからな。恐らくこれはイオを選ぶのが一番良い選択じゃないだろうか? まぁ、そうなるとイオと行動が出来る俺か美咲さんが、対斥候要員になる。
お姉さんもそのつもりだったみたいで、イオを指定してからそのパートナーとして俺を選択。
「まぁ、休みの日を潰しちゃって申し訳無いんだけどね。お願いしていいかしら?」
「現状だと休んでられませんからね。こんどまとめて休み貰いますよ」
こんな時に「俺は休みですから」なんて言ってたら、村にオークが攻めて来る可能性もある。ゆっくり休んで居られるはずが無い。ブラックだなんて言ってられないよ。そんなこと言ってるうちに自分か知り合いが死んでるかもしれないからな。
まぁ、そのうち本当にまとめて休ませて貰おう。
「さて、逆にこっちがだす斥候だけど……はっきりいって、難易度が高すぎるわよね」
「オークが相手だからなぁ。俺達のうちで隠れて行動するのが上手いヤツなんて居ないぞ?」
「下手したら、猟師の方がそういったスキル高いからなぁ……俺達はパーティープレイでの戦闘で慣れすぎてるな」
ダンジョンに潜っていた頃であれば、恐らくあの自然が広がるフィールドで揉まれていれば、斥候が得意な人も居ただろうが、現状だと調査系の人間は育っていない。
「……気配を消したり察知できる人なんて現状少ないわよね。そうねぇ……またカメラを使うべきかしら?」
「そのカメラって回収してみるタイプですから、リアルタイムで監視は出来ませんよ?」
「あー……そうだったわね。如何しましょうか」
研究班の尻を叩いて作らせたくても、現状だと瘴気の調査で数名外にでている関係上、無茶振りが出来ない。
とはいえ、相手の初動は知っておきたいからな。斥候は必要だろう。
「付け焼刃になるかもしれないけど、見所がありそうな人に、猟師の方や白河君に教導してもらいましょうか」
「別にいいですけど、俺って対斥候の仕事ありますよ?」
「それに連れて行ってあげて。徹底して叩き込んであげてちょうだい」
「……只でさえばれやすくなりますから、多いとアウトでしょうし一人だけなら」
まぁ、イオがいれば索敵の範囲は此方の方が上だ。相手にばれる前に色々と対策を取れるだろう。
「それと、オークは鼻がいいですからね。そこ等辺も加味して頂けるとありがたいです」
オークの行動も、ゴブリンと同じで女性を優先的に襲いに来る可能性がある。なら、斥候や対斥候をするのであれば、男性の方が良いだろう。囮にする訳にも行かないからな。
「あと、気配を消すのはまだまだですけど、察知するほうは美咲さんも得意なので彼女に任せるのもありかと」
「なるほどね……うん、そっちは女性の人達で向いてそうな人達に教えてもらいましょうか。女性陣は弓使いが多いから、探査の技術はあったら便利でしょうし」
……スナイパーが量産されそうだな。爺様に美咲さんの教えでゆりが可笑しいレベルの弓技を披露したからなぁ。
まぁ、時間があればあるほど人が育って拠点も整備されて、こちらが有利になるか。
「兎に角、今はそんなところかしら。斥候教育を受けない人達は拠点関連の仕事をお願いね」
「今後を考えれば必要だろうからな。異論はないぞ」
「うちもだな。ま、斥候関連はうちに得意な奴が居そうだから任せておけ」
オーク対策に関して、良い具合に話が纏り其々の仕事へと皆が移っていく。
さて、まずは色々と準備だな。連れて行く人員に関してはお姉さん側で選んでもらえるだろうし、人員が決まれば協会へ呼び出しされるだろう。
それにしても、装備が現状予備しかないのは心許無いな。まぁ、森の中という事で剣鉈とスコップでいいかな。後は、鉄串やらの消耗品も補給しとかないと。
――第一シェルター内部――
シェルターの外から宴でも行っているのだろうか。実に陽気な話し声やら食事等の雰囲気が、音などから聞き取れる。
その音を聞いていたシェルターの中にいる男は、現状ものすごく苛々とした様子を見せている。
「リーダー! 外に居る奴等、大量の食料もってるみたいですよ!」
「あぁ、そうみたいだな」
「そうみたいだな、じゃないですよ! こんな様子を見せられるのは拷問です!」
現状この状態を知っているのは、外を監視する人員数名とリーダーのみだ。
全員が口を閉じれば問題ないが、不満が溜まった状態では愚痴をポロリと零してしまい、其処からシェルター内へ内容が広まってしまうかもしれない。
リーダーとしては、現状もの凄く頭を抱えて叫びたい心境である。
「そうは言ってもだな……現状如何する事も出来んだろうが」
「……外の奴等と接触して交渉するか、奪えばいいじゃないですか」
「阿呆か! 相手は手紙と言う手段で此方に連絡を取ってきているんだぞ! 交渉すると言うのは良いが、次の奪うという選択肢を出すとか何処の蛮族だ!」
「しかし! 我等の食料はもう底を尽きます! 何としてでも、食料の調達は必要です!」
声を荒げて意見をぶつけ合うリーダーと監視をする男。
その周りの人はどちらとも言えないのか、黙ってそのやりとりを聞きながら外を監視している。
彼等も食料に関しては早いところ何とかしたい。だが、外に出て大丈夫なのか? という不安が残っている状況だった。
しかし、今目の前で別のシェルターから来たであろう人が、優雅にキャンプをしている。
もしかしたら、外にでても大丈夫なのでは? と、そんな思いが込み上げてきている状態だ。
「ですから! 食料の為に彼等を利用すれば良いでしょう!」
「だから、お前は視野が狭いんだ! そう言う話をする前段階だろうが!」
どんどんヒートアップしていく二人。だが、その時に外を監視していた者が意見を挟んだ。
「あ……あの、彼等が外で行動できるのであれば、我々でも出来るのでは?」
一瞬、「こいつは何を言っているんだ?」という顔をした後、「あっ……」と言う顔をする口論をしていた男。
リーダーは、「あー……色々理解する奴が居てよかった」と安堵した顔だ。
「彼等に接触するにしてもですよ? 外に出るのは必要です。まずは、外にでる人員を決めたほうが良いかと」
「うむ、その通りだな。すぐさま人を集めて会議をするとしよう」
そういうとリーダーは急いで人を集め出す。リーダーと口論していた男は、どこか悔しげな顔をしているが、今の所だと問題は無いだろう。
こうして、入谷の策は上手く嵌りシェルター内の人達が動き出す結果となった。
この後、入谷達と対話をするのか彼等が何処かへ去るのを待った後に外にでて、野外行動をするようになるかは、会議の結果しだいだろう。
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