九十話
大木の前にある見えない壁の前で、囲まれた状態。
それにしても、周囲に気配があるだけで姿も見せずか……一体何がしたいんだ?
「ニャァ!!」
イオも苛ついたのか、吠えて相手を挑発したか。さて、どういう反応をするかな。
周囲に居るであろう奴等が微妙な動揺でもしているのか、ガサガサと揺れる木々が激しくなっていっている。それでも、なぜか攻撃がこないのは……此処では戦闘をしたくないという事だろうか。
「鎮まれ!」
大きな声で見えない壁の奥から、一喝する声が響く。……ふむ、これはダンジョン五階のコボルトのように対話ができる相手という事か。とりあえず、警戒をそちら側に移すか。
「イオ……俺が壁側を見るから、周囲頼んだ」
「ミャン」
周囲は声に反応したのか、一気に静かになりその気配も微妙に薄れていく。という事は、声の主がリーダーみたいなものか。
兎に角、このリーダーと上手く交渉をするべきだろうな、囲まれた状態での戦闘は余りしたくない。
「さて、人間と魔物が一緒に居ると言うのは珍しいがそれはおいて置こう、して如何いうつもりで此処に来た?」
ふむ……モンスターを仲間にするのは珍しいが、まったく無いという訳じゃ無いって事か。しかし、これはまた、気になる話だな。ズーフと最初に会話した時も、明らかに口にした年代が可笑しかった。とはいえ、今は此処に来た理由をを話さないとな。
「森から抜けれなくなって、目印になりそうな大木を目指したんですよ」
「この森は人間の侵入を禁止してあったはず……何故入った?」
「そのような話は一切知りません。というか、この森は何ですか?」
俺の返事に反応して、周囲の気配が増してガサガサと木々や揺れ出す。気に食わない! そんな感じの態度だ。
「おい人間! 前に森の周辺に来たときにも警告したじゃないか!」
「そうだそうだ! 俺達の警告攻撃に反応して帰って言っただろ!」
「其れなのにここまできやがって!!」
周囲で子供のような声が騒ぎ出す。あの攻撃は警告だったから殺しに来たわけじゃなかったのか。というか、こいつらモンスターじゃないのか?
「とりあえず確認しますが、あなた達はモンスターじゃないのですか?」
「な! モンスターと一緒にするな!」
「そうだそうだ! 僕等はあんな低俗なモノと違うんだぞ」
周囲のちびっ子声が激怒しながら、違うと叫ぶ。
モンスターと一緒にされるのは、彼等にとってタブーなのか……しかし、人間が入ったらいけない森だとはどういう事だろうか。
「おぬし等……静かにしろ。何度も言わせるでない」
「むぅ……ごめんなさい」
「でも、人間が……」
ふむ、やはりリーダーの権限は強いのか。ちびっ子声……いや、もう面倒だからチビでいいか。チビたちはリーダーに言いたい事があるけど、黙るしかないようだ。
「それにしても……お主の服装を見ても何か違う。しかも知らぬ事が多いようだ。情報交換が必要と私は見ている」
「奇遇ですね。こちらも同じ考えです」
リーダーは話が通じる人みたいだ。チビ達は納得が言って無いようだが、リーダーは明らかに現状が可笑しいと思っている。
まぁ、俺達としてはこの森の事を知るのと、抜け出すことが出来れば問題ないからな。
「まずは、自己紹介は無しにしてもらおう。私達の名前は教える事が出来ないからな。ならば、お主の名前だけを聞くのは無しとしたほうがいいだろう」
「ふむ、聞かない方が良い理由がある訳ですね。なら何から話しますか?」
恐らく、契約やら何かがあるのだろう。よくある話だと、それで縛られて眷族にされたりとか、召喚魔法的なものやら色々と架空の話でも沢山あるからな。
そういう事なら、お互いに名前を知らないほうが良い。メリットとデメリットも現状解らないからな……もし、メリットだけなら聞きたい気もするけどな。
「まずは……私の質問からいかせてもらおう。森の外はどうなってる? どうも、空気が変わってしまって、木の様子が変わっていってるのでな」
「外ですか……」
とりあえず、現状の環境を話していく。文明が破壊される前の状態から、その後の状況において全てをだ。
「……予想より悪い話だな。なるほど、此処は私の知る場所ではないという事か。人間の環境がその様な状態だったとは聞いたことが無いからな」
このリーダーが特に吃驚したのは、魔法が無かった世界だったと言う事だろうか。ダンジョンがその姿を出すまでは、魔法など一切この世界には無かったからな。
代わりに科学が発展していた。その件においても驚いたらしい。魔法もなしに、空を飛んだり高速で動く乗り物の話には半信半疑だ。
「兎に角だ……もしそうなら、私の知っている人間との契約も無いと言ったほうが良いだろう」
「因みにその契約とは?」
「この森に入るべからず。それだけだ。この聖木を守る為に必要な処置だからな」
聖木か……神木や世界樹みたいなものだと考えたほうが良さそうだな。それなら、一切近づかないほうが良いだろう。
「それは……モンスターが居ない事も関係してたりしますか?」
「うむ。人間と契約しておらぬ、もしくは体内にある魔石が澄んでない魔物はこの森に入れぬよ」
なるほど……イオは如何いうわけか村か村の誰かと契約したのか、それとも澄んでいるんだろう。だからこそ、森に入れたんだな。
まぁ、此方の聞きたい事は一つ聞けたようなものだな。その内容からしたら、この森に関しては手を出さないように通達してもらう方向で行くべきだな。
「では、この森を出る方法ってありますか?」
「そうだったな。お主は出れなくなって此処まで来ておったか……ふむ、道案内をさせるから其れについていけば出れるだろう」
よし! これなら森から出ることが出来る。後は、相手から何かあるかだな。
「さて人間よ。今後はこの森に入る事を禁じたいのだがな。他にも沢山人がおるのであろう? 何か良い案はあるか?」
現状、他のシェルターから人が出てきているか謎だが、この周辺については話をつける事は出来るかもしれない。まぁ、村側で状況を共有した後に交渉となる訳だが……交渉材料の一つを使う必要があるか。
材料は幾つかありはするが、村側に何かメリットが欲しい。
「……そうですね。現状だと自分が所属している村以外は、ほぼ独立している状態になります。簡単に言えば、交渉になりますが……それは村が使えるカードを一つ使う事になるので、結構厳しい話ですね」
「ふむ、そう言うところが人間の面倒な所だな。まぁいいだろう。何か素材でも用意するからそれを持って行くがよい」
この木がこの世界に必要かどうかといえば、無くても問題ないかもしれない。そう言う点を想像したのだろう。リーダーやチビ達の雰囲気から人間との交渉は一切しないと思ったけど、妥協点を引き出せたか。やはり、科学的な話と電気で動く道具を見せたのがよかったか。
この後はちょっとした情報交換をしてから、チビっ子に案内されながら森を脱出できた。
というか、声だけで判断しか出来なかったな。何だかこう、丸い光みたいなのが話してるだけだったし。まぁ、チビ達は声の通りなのか、丸い光もリーダーに比べて小さかったが。
「人間! 仕方ないから案内したが、もう森に入るなよ!」
「解ってる。報酬も貰ったしな、他の奴等にもしっかりと話はしておくさ」
ま、他のシェルターに関しては馬鹿がでるかもしれないが、村側では居ないと思う。
もらった報酬は植物系の物だから、研究班に調べてもらうのが良いだろうな。とりあえず……会話が出来る相手でよかったが、あの存在との戦闘はしないほうがいい。
恐らくだが……防戦一方になって、逃げれれば上々だろう。あの包囲網攻撃をやられてしまえば、人数を揃えても殲滅されかねない。
とはいえ、〝無の森〟に関しては一応解決と言えるか……ただ、この先なにかがありそうな気もするけど、今は良いだろう。対処としては、豆柴と同じ扱いでいいだろうな。
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