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八十八話

 〝無の森〟の奥を調査するために、現在居る位置は前に謎の奇襲を受けた場所。

 他の場所だと攻撃どころか、音も何も無かった。その点この場所なら、また何かアクションがあるかもしれない。なら、此処からならば何かを発見するのが早いのではないか? という予想だ。


「ただ、今回は今の所なんの気配もないんだよなぁ」

「ミャン」


 どうやらイオも何も感じないらしい。何か理由があるのだろうか……とりあえず、中に足を踏み入れて調査をするしかないな。




 森の中を進めど、なんのレスポンスも無い。この間感じた嫌な気配も無いという、なんとも良く解らない状況に陥っている。

 地面の石を拾って、擬態してるかもしれないからと木に向かって投げてみるも、カーンという音を響かせただけで、特に何も起こる事が無い。


「どれぐらい歩いたっけ? 目印をつけながら歩いてるから、それを見ないって事はグルグルと迷ってる訳じゃ無いだろうし」

「ミャー!」


 イオの感覚でも真っ直ぐ歩いてるみたいだ。それでもおかしい……時間的に考えれば反対側の道へと抜けていても良いはずだ。


「なのに周囲は森の中。出口のでの字も見当たらないときた……さて、これは迷わされてる? それとも幻覚か?」


 剣鉈を使って木に切り込みを入れたり、枝を切り落しても無駄みたいだな。まぁ、植生調査も必要だからサンプル回収も兼ねての行動だ。見た事無い植物が多いし、何か新しい素材にでもなれば上々だろう。


「とはいえ、本命は未だ発見できず……か。本当に前回と何が違うのやら」


 これは本当に、誰かが言ってた森を燃やす案を採用したくなるな。……まぁ、燃やそうと思っても燃料の事などを考えると、現実的じゃない話だな。


 兎に角、何か手を考えないといけないだろう。このまま愚直に進んでも変化は無い気がして仕方ない。問題は戻るか曲がるか……それともやはり、直進するか。


「ミャン! ミャミャ!」


 イオがなにやら鳴いているが……別に何かの気配を感じた訳じゃなさそうだ。


「どうした? 何か見つけたか?」

「ミャン!」


 上を見て鳴いている? 上に何かあるのか? 鳴かれる儘に見上げてみるが、何も無い……って、あぁそうか! 上から調べればよかったか……なんで、思い当たらなかったんだろう。


「よし! ナイスだイオ!」

「ミャーン」


 言いたい事が伝わったからか、全身で喜びを表現してるな……うん、かわいいやつだ。


 さて、上からみるとなれば木をを登ってという事になるか。まぁ、ここら辺の木なら問題なく駆け上げれるな。

 木々の状況を調べてる。ふむ、木と木の間隔が狭いか、上のほうの枝は太いから乗っても大丈夫そうだな。

 そんな風に登る木を定めてから……助走をつけて、飛び上がる! 木に足をかけてから、三角飛びで隣の木へ飛び移り、もう一度同じ行動をして、高い位置にある丈夫な枝に手を掛け、勢いを殺してから枝の上へとよじ登る。


「ふう……成功した。まぁ、猿達がやってたの見てできるか試したけど……できちゃったよ」


 まぁ、今は身体能力の事は横に置いておくとして、腰から剣鉈を取り出して、周辺の邪魔な枝を切り落し、更に上へと登っていく。


「しかしあれだな。木を登ってる時に虫が居ないのがこの森の良い点かな」


 体のどこかに蜘蛛の巣がかかる事もなければ、蜂に襲われることも無い。気楽にテンポ良く登っていける。


「さて、ここら辺なら周辺が見渡せるか」


 木の高さも他よりは少し高いぐらいだ。とはいえ、どんぐりの背比べレベルだからな。視界には森の海から少し顔が出る程度だろうか? まぁ、それでも色々と確認は出来る。


「……何やら無駄にでかい木が一本あるけど、あんなの道から見えたっけ? 正直あの大きさなら目視できると思うけど」


 例えるならば、二階建ての家の中に五階建てのビルがある感じだろうか。凄まじい違和感と存在感を発している。

 ただ、そうであるなら如何して森の外から一切見えなかったのだろうか。


「それと……うん、出口が見えないね。おかしいよなぁ……そんなに広かったか?」


 森という空間が無限にでも広がったかのような……そんな感覚に陥ってしまう。

 さて、如何するのが一番だろう? 現状考えられる手段は、あのでかい木に向かうか……森の中を戻っていって、外に出れる事に賭けるか。

 間違いなく、この〝無の森〟は異常な所だ。それこそ、ダンジョンだとしても可笑しくない話だ。


「まぁ、ダンジョンと定められた場所って、二年前から更新されてないからな。新しいのが出来てても不思議じゃないか」


 この〝無の森〟はダンジョンと想定して行動するべきだろうな。じゃないと、この異常状態の説明が難しい。むしろ、ダンジョンならダンジョンだからで納得できてしまう。それぐらい、ダンジョンの中って何が起きても不思議じゃない空間だ。


「まぁ不思議じゃないって事は、それだけ警戒度を上げないといけないけどな……イオは大丈夫かな?」


 イオを心配してぼそっと呟いたけど、下から元気良く「ニャン!」返事が返ってきた。此処からあの小さい声でも届いたのか。まぁ、大丈夫だ! と言ってるみたいだし、イオがこの森で狂わされる事はなさそうだな。


 まずは……木を降りてから方針を決めないとな。このままだと……森の中でキャンプをする事になってしまうよ。




――瘴気調査組――


 彼等の初日は一つ目の街まで行き、シェルターの人と話が出来るかを試みる事になっている。

 ゆっくりとした移動に見えてしまうが、研究班数名も居るので護衛も兼ねている為に、安全第一としたその移動速度は遅くても当然だろう。

 その為に、キャンプ地候補はシェルターの傍となる。ならば、彼等とコンタクトを取るのも在りだろうという事で、初日の行動がその方向で決まった。


「手紙の返事は無かったし、行っても無駄足になりそうだがな」

「まぁ、其処は協会のネームを前面に出しますよ」


 護衛のリーダーと思われる男が返事すらないと愚痴るが、入谷がそれに対して多少強引に行く予定だと返事をした。

 その事に、男は驚愕したような顔を見せる。


「入谷さんよ……アンタはもっと穏やかなタイプだと思ってたぞ」

「ははは、時と場合ですよ。多少荒事が出来なければ、ダンジョンの入り口なんて任せられませんよ」


 ダンジョンの入り口では、モンスターが外に出てくる以外にも人同士の争いに関与する事もあった。時には力ずくで仲裁をした事もある。そんな彼が何時も穏やかにしている理由は、人当たりが良いほうが面倒事が起こる可能性が低いからだ。


「はぁ……なんか騙された気分だぜ」

「騙してませんよ? 基本は平和なのが一番ですから」


 周囲の人もリーダーの男と同じような考えだったのか、入谷の人物像が崩れた! と、そんな顔をしている。

 そんな風に思われても仕方ないかと入谷は苦笑しながら、シェルターの中で指揮を執っているだろう人物について、色々なパターンを想定し会話の主導権をとる方法を考察していく。


「恐らくなんですけど、シェルターの中に居るリーダー的な人は、保守的か疑心暗鬼になっているか……まぁ、その手のタイプだと思うんですよね」

「其れって守りに入ってるって事?」

「おいおい……谷口が言う守りに入ってるって……やつらって自衛隊や警察だったんだろう?」


 入谷の一言に、戦闘班の一人が即座に反応。ただ、その内容が気になったのか、もう一人の男が疑問点を挙げる。


「山田さん。彼等が自衛隊や警察だったからですよ。彼等の本分は守る事です。それも、命令を受けて行動する……そうなると、命令系統が残ってない状況で自分達しか戦えないとなれば、守りに入るでしょうね」

「はぁ……頭が固い奴等って事か。食料の事も在るのにな」


 入谷による、守りに入ってるであろう彼等の本質の説明に、実にばかばかしいといった態度を隠せない山田。

 まぁ、その本質を利用した計画が入谷達にあるのもまた事実である。なので、入谷は山田を嗜める様に話を進めていく。


「沢山の人を守ると言うのは難しいのですよ。しかも、こんな状況です。下手に外に出れば……自分たちが死んでしまい、守る事すら出来なくなる。ならば、と色々考えてしまうのですよ。まぁ、その点私達は幸運だったって事でしょうね」

「はぁ……そんなもんかネェ?」

「山田、そういった事は上が考える事だからな。俺達は日々モンスター相手に暴れれば良いだけだ」


 納得が言って無い感じの山田に、リーダーが自分達のやるべき事を言う。

 そもそも、彼等がダンジョンに潜るようになったのも戦いたいから、其れしか手が無いから、等と言ったことが大半だ。しかも、このパーティーは競技的な武道に飽きていた奴等だ。ダンジョンが出来た時、一番にその力を試してみたいと思ったタイプの人間である。

 そして、モンスター相手に暴れられる状況が今目の前にある。ならば、小難しい事はやれる人に任せよう。そういう思考をしているリーダーだ。


「ま……たしかにリーダーの言うとおりだな。あーオークとタイマンで殴り合ってみてぇな」

「止めておけ。まだまだ俺達には厳しい話だ」


 オークとの格闘に夢をみる山田。

 このパーティーなら全員が連携すればオークなら狩れる力量はある。しかし、リーダーの言うとおりタイマンはまだ無理だろう……それこそ、トラップなどの手を使わない限りは。

 そして、彼等はそういった手を使わずガチバトルを好む性質を持っている。それなら先ずは、オークでなくノーマルゴブリンや上位種のゴブリンで強化訓練をするべきだ。


「さて……戦闘に関しては、ゴブリン系に明日会うでしょうし其処でしっかりと楽しんでくださいね」


 入谷が半ば悪ふざけのように言葉をかける。が、それに気分を良くしたのか、彼等のパーティは満面の笑みで楽しみだと答えるのだが……彼等と対峙する者がその笑みを見たら、ただただ恐ろしいモノである。きっと、笑う子は泣いて、泣く子は黙ってしまうだろう。そんなレベルだ。

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[良い点] 良く出来た世界観と主人公が無双でないストーリー [気になる点] (まあ)が多すぎて萎えました
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