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狂乱

 まったく。


 目立ちたくない。というのは、口先だけに違いない。


 ダグの兵士達の前で、平然と術具を取り出すなんて。尻拭いをする身にもなって欲しい。


 だが、彼女の主張にも一理ある。


 ということで、マッパ砦長殿を説得し、メヴィザを同行させる条件で、砦内の探索を許可した。


 そして、障壁上に残っていた兵士達は退去させた。彼女の特異性を、不特定多数に目撃させるわけにはいかない。

 使い物になりそうにないダグの兵士達は、砦から離れた場所に待機させる。ささやかな食事ではあったが、少しは体力が回復したようだ。が、サイクロプスとの対決には使えないだろう。


「「なんで、俺じゃないんですか?」」


 マイトらが、同行者から外されたことに文句を言ってきた。


「万が一、彼女の術杖が壊れた時、お前達は対処できるか?」


「・・・」


 フォコは、悔しそうに歯噛みしているが、反論できないようだ。


「ロックアントの盾なら、防御できるはずです」


「雷撃は、背後からも回り込んでいるようだが?」


「・・・」


 壊れた砦からは、時折、紫電が飛び出している。だというのに、ロナ殿は、事もあろうに、わざわざそこから侵入して行った。正門に回り込むのが面倒くさいから、という理屈も判らないでも無い。それに、敷地一杯が雷で埋め尽くされている状態だ。どこから入っても同じと言えば同じか。

 ロナ殿は、「術杖」の効果によって、同行しているメヴィザと共にすでに視認出来ない。だが、半円を描く、青白い光の網が動いていくのが見えている。


「マイト。ミハエルへの報告書には、メヴィザの証言書も付けてやる」


「・・・了解」


 二人とも、まだまだだな。


 ロナ殿の不調、いや失踪で、一番堪えていたのはミハエル様だった。

 あの方は、コンスカンタで、アル殿が濁流に飲み込まれ消えて行った、その現場に居たのだ。あの時のことを思い出し、しばしば泣いておられたと聞く。ローデンからも遠い迷宮には、正確な情報も届きにくい。


 マイトを頻繁にローデンに寄越していたのは、出来るだけ余人の関わらない生の情報を集めさせる為、ということは知っていた。知っていたが、多すぎる出張回数に、俺も団長も目をつぶった。


 情報が、手懸りが無かったのは、探索に当たった者達の所為ではない。どれだけ手を尽くしても、全く痕跡が見つからなかったのだ。


 だから、探索班を入れ替えていた隙に、「ダグのハンターが聖者様の遺品「らしき」物を発見した」という報を受けた時には、歯噛みした。


 触れる者に雷撃をもたらす漆黒の弓。


 発見された「遺品」の形状を聞いて、思い出した。

 ヴァン殿と共に[魔天]で見た、ギエディシェめがけて矢が放たれた直後、淡く、しかしなぜか得意げに光をはじく弓。

 よく見せてもらおうと借り受けたが、激しい衝撃に取り落とし、そこで、不可思議な性質を教えてもらった。


 何故、自分らに見つけられなかったのか、と自責する毎日。


 ダグ勢に、それはロナ殿の物だっ、と教えてやりたかった。


 しかし。団長だけでなく、陛下や宰相にも止められてしまった。弓の持ち主を教えるということは、ロナ殿についての情報を渡すことにもなる。彼女の「目立ちたくない」という意思を尊重するなら、ここは黙って見守るしか無い。


 それに、あの弓ならば、見つけることは出来ても持ち去ることは不可能なはずだ。


 その内に諦めるかと思いきや、ダグの連中は「遺品」を保護する、という名目で砦を建ててしまった。


 無謀と言うか、無駄と言うか。


 [魔天]外でサイクロプスを見かけた、という話は聞いたことがあった。目撃現場は街道から離れている上、隊商への被害も無いので、報告を聞くだけで済ませていた。

 しかし、その地域が餌場だとは流石に知らなかった。


 ロナ殿に、職務怠慢を叱責されても反論できない。




 歴史上では、数年から数十年おきに、狂乱した魔獣の群れが[魔天]から溢れ出て、農地や街道を踏み荒らし、時には街壁を乗り越えて都市部に雪崩れ込んできていたという。

 しかし、近年、そのような大規模災害は起きていない。盗賊が利用した件以外で、街道商人や巡回班が魔獣に遭遇した事件も、滅多に起きていない。


 俺が騎士団員となって、三十年以上になる。その間、都市が、ローデンが魔獣の襲撃を受けた事は無い。


 いや。ロナ殿が、まだアルファと名乗っていた時。いやいや、迷子になったミハエル殿下やロージーと共に森から連れ出してもらった時。ローデンは、巨大なサイクロプス変異種に襲われかけた。だが、街壁遥か手前で、彼女が事を納めてしまった。

 火山噴火を引き金にした暴走は、アル殿が事前に危惧し警報を発し、その上、東西で起きたそのどちらも、またまた彼女が自ら片付けた。


 ・・・どこまで、彼女は無茶ぶりをすれば気が済むんだ。


 だんだん、腹が立ってきた。


 俺の不甲斐なさ、至らなさには、反省を通り越して怒りさえ覚える。だが、「それ」を否が応でも自覚させてくれるロナ殿の振る舞いにも、こう、穏やかならぬ感情が。


「あの。ふくだんちょ?」


 マイトは、事の次第を見届けると言って、俺の隣に居残っている。馬の護衛以外の団員達には、砦から十分距離を取って内外を警戒するよう指示した。ダグ騎士団員達は、更に離れたところで、食休みも兼ねて待機してもらっている。


「なんだ」


「今度は、何を心配しているんです?」


 心配?


「猛省しているだけだ」


「ロナの無軌道と、副団長の怒りポイント。どう結びつくんです?」


「お前、俺の話を聞いていたのか?」


 マイトは、軽く肩を竦める。


「ロナが姫さんを逃がす為の囮になったって話を聞いた時みたいに、顔は恐いし、雰囲気は穏やかじゃないし」


「馬達が怯えてるじゃないですか」


 フォコまで言うか。


「賢馬殿が引き止めてくださっているんですよ? でも、威圧の板挟みで、もう、気の毒で」


 馬好きを広言して憚らない団員も、混ざっている。


「威圧などしていないぞ」


 ・・・ムラクモ殿まで、顔を横に振らないでもらいたい。





 きゃーーーーーーーーーーーっ!





「何事だっ」


 声のした方向は、砦の中!


 マイト達との無駄話に気を取られている間に、紫雷は止んでいた。代わって。


「え? 何が!」


 いやぁーーーーーーーーーっ!


 ガン!


「あ、あっぶねぇ」


 マイトは、壊れた砦壁から飛んできた物を、辛くもロックアントの盾で防いでいた。そして、足下に落ちた物を拾い上げて、差し出してきた。


 ひび割れた、握りこぶし大の、石。


 ・・・・・・・・・


「! 全員、盾装備! 半数は馬を守れっ! 残りは、ダグ騎士団とハンター達の防御。急げっ」


 配置が完了し、盾を構え終わったとたん、城壁を越えて石つぶての嵐が襲ってきた。


 ひゅ〜〜〜ん! ひゅひゅひゅひゅっ


 ダダン。ダン。ダダダダッ


「副団長! 何が起きたんですかっ!」


「俺が知るか!」


 盾を打ち破りそうな勢いで飛んでくる石に叩かれて、身を寄せ合っていても声が打ち消される。


 おそらく、どころではなく。


 ロナ殿に何かあったに違いない。メヴィザも無事なのか?!


「ベルケ。後を頼む」


「副団長! こんな時に何を馬鹿なことをっ!」


「ロナ殿を無理矢理連れてきた責任があるからな。俺が確かめてくる」


「「「「止めてください!!」」」」


「だがっ。このままではっ!」


 くるなーーーーーーーーーっ


 半狂乱になった絶叫が絶え間なく聞こえてくる。石壁越しに投げ飛ばされる石の数は減った。替わって、石が撃ちつけられる音が、どんどん大きくなっている。


 どういう状況なんだ。


 サイクロプスが暴れている。とは思えない。声の主は、間違いなく、ロナ殿だ。

 あのロナ殿が、慌てふためく状況など、想像できない。だが、現状は。


 普通にしていても並の男以上の筋力の持ち主が、全力で暴れ続ければ周囲はどうなるか。たとえ、俺の身を犠牲にしてでも、取り押さえて正気に戻ってもらわなければ。


「「「「あ」」」」


 砦の石壁にひびが入る。


 何を、どれだけの力で投げつけたのか。


 やがて、あちらこちらが崩れ始めた。


「あ〜あ。崩れた」


「そうだなぁ」


「初めて見た」


「城壁を打ち壊す勢いの岩が飛んできたりしたら」


「俺達、一巻の終わり、だよな」


「彼女と結婚したかったぁ」


「居ないくせに」


「たとえ怪力でも、旨い飯があればいい」


「「「おおおっ」」」


 この非常時に。


「ぼんやり突っ立っている場合かっ! 馬達を連れてもっと下がれっ!」


「「「「「は、はっ!」」」」」


 投石の到達範囲から出てしまえば、被害は受けない。・・・どれだけ離れれば無事、だろうか。


 とにかく、喝を入れて、避難させた。俺は。


「副団長も下がって!」


「ロナ殿をあのままにしては置けない」


「無理ですってーーーっ」




 はーなーせーーーーーーーーーっ




 俺ではないぞ。


「止まった。のか?」


 ロナ殿の絶叫を最後に、轟音が聞こえなくなった。しかし、一帯はもうもうたる土埃に覆われてしまっている。中で何が起ったのだ。


 まさか。まさか、彼女が負傷した?!


「お前達は下がっていろ!」


 俺も避難させようとするベルケやマイトを掻き分けて、砦に向かおうとする。


 ひ、ひひーーーーん!


 馬達を誘導していたムラクモ殿が、土煙を上げて砦の残骸に向けて突進して行く。


 やはり、何かあったに違いない。


「そこを退けっ」


 部下達を強引に投げ飛ばし、ムラクモ殿に続いて砦に向かった。





「ふ、ふくだんちょう、どの。ロナ殿は、ぶじ、です」


 メヴィザも、無事だ。


 俺が砦の中心にたどり着く前に、自分の足で歩いてきた。土埃で全身真っ黒になっているが、どこにも血痕も欠損も見当たらない。


「彼女は、ロナ殿はどうした? 何が起きたんだ!」


「今は、寝かせています。詳しくは、後で。わたしも、ちょっと・・・」


「あ、おい!」


 メヴィザの背後では、ムラクモ殿がサイクロプスを前にロナ殿を庇っている。

 いや、相手が違った。彼らの足下に居る何かと、我々には判らない会話をしている、ように見える。


「すみません。副団長殿の顔を見たら、安心してしまって」


 そのメヴィザは、地面にへたり込んでいる。


 弱いながらも風が吹いている。その風が舞い上がった埃を吹き払っていく。


 やがて、現場の全容が明らかになった。


 五メルテの石壁がそびえ立っていたはずの場所は、僅かな基礎を残してほぼ全周が崩れ落ちて、見通しが良くなっている。内外は、足の踏み場が無いほどに大小の石くれが散乱している。


 文字通りの瓦礫の山。


 これを、彼女一人が引き起こしたというのか。


 メヴィザは、マジックバッグから水袋を取り出し、空にする勢いで飲んだ。


「げふっ」


「一気に飲んだりするからだ」


「でも、喉がカラカラだったんです」


「副団長! 今行きますっ」


 マイトめ。もう起きてきたのか。


「静かになっ」


「副団長殿の声も大きいですよ?」


「あ。すまん。ロナ殿は?」


「わかりません。あまり、刺激は与えない方がいいと思いますが。とにかく、いきなり大暴れし始めて」


「ロナはどうなったんですか?!」


「俺も、これから教えてもらうところだ。ロナ殿は、今は落ち着いているらしい。だが、起こさないようにな」


「あんなところに、寝かせたままで?」


「事情が判らなければ対処の仕様も無い。メヴィザも疲れている。ロナ殿は、しばらく賢馬殿に任せよう」


「あ〜。了解、です」


 流石のマイトも、ムラクモ殿を押しのける蛮勇の持ち合わせは無かったようだ。





「ローデンは、ダグに対して何か含むところがお有りなのですか!」


 状況を知りたがるのは、ダグ騎士団も同じだ。


 とは言え、ロナ殿の情報を秘匿するには、ある程度俺が事態を把握しておかなければ手の打ち様がない。


「こちらにも、それなりの事情がある。聞きたいというのなら、そちらもある程度は情報を公開していただきたい」


 ダグ勢からは、マッパ砦長のみ参加を許可した。

 砦に駐在していた他の兵士達は、瞬く間に廃墟と化した砦を目の当たりにし、事情を聞くどころか茫然自失の有様だった、というのもある。


 ハンター達は、揃って押し掛けてきた。流石は、[魔天]で活動するだけあって、あれだけの惨状を目の当たりにしていても、一人として腑抜けていない。多少、びくついていたのは、愛嬌、というか、無理もないところだ。

 しかし、人が多すぎては収拾がつかなくなる。ロナ殿と顔見知りらしいユードリを残して、下がらせた。更に、ギルドには俺も報告書を渡す事を確約した。

 また、仕事が増えてしまった。トングリオにも手伝わせよう。


 それはともかく。


 他には、マイト、フォコ、ベルケ、そして俺だ。


「では、メヴィザ。頼む」


「はい。といっても、わたしも、まだ混乱しているというか、きちんとご説明できるかどうか判りません。

 とりあえず、順番にお話しいたします」




 ロナさんの魔道具が作った結界に守られて、サイクロプスに接近していく。


「こ、ここ、この結界。大丈夫なんですよね?」


「駄目だったら〜、その時はその時」


「ロナさん!」


「冗談だってば。実験では、[魔天]の雷雨の時でも平気だったし」


 まるで、散歩中であるかのように、気軽に足を進めるロナさん。


「思った通りだ。ほら」


 サイクロプスの前脚の大きな爪が、ロナさんの弓に触れている。触れているだけ、だというのに、そこを起点にして、青白く跳ね回る光が四方八方に巻き散らかされている。


「メヴィザさん。こっちの結界を解除した瞬間に、分厚い土の壁を作れる?」


「あ。はい。防壁を作る術具を準備してきました」


「用意がいいねぇ」


「サイクロプスを街壁から引き離す為の囮に使う為です」


 わたしが同行してきたのは、現在の魔術師団員の中では、最も土魔術を極めている、と指名されたからだ。


「ああ! そう言う使い方もあるんだ」


「土魔術。地味ですけど、わたしは好きなんです」


「うんうん。好きこそ物の上手なれ、って言うもんね♪」


 嬉しそうに話すロナさんにつられて、つい意気込んでしまった。


「そうですよね♪ ・・・って、のんきに話をしている場合じゃないですよ」


「うん。サイクロプスもそろそろ限界みたいだし」


 巨大な魔獣は、口元から白い泡を吐いている。


「先に、仕留めないのですか?」


「う〜ん。どちらかと言うと、巻き添え?

 誘い込まれて身動き採れなくなって、そのまま死にました。じゃあ、成仏してくれない気がする。少なくとも、ボクは、嫌だもん」


 先ほどとは打って変わって、ひどい渋面をしている。


「嫌とかそう言う話ではなくて」


「やるなら、メヴィザさんがやって」


「無理です!」


 剣術の腕は、からっきしだ。狼に軽く倒される自信がある。ましてや、サイクロプスが相手なら、止めを刺す前に、間違いなく、こちらの息の根が止められてしまう。


「土魔術で、槍衾とか出来ないの?」


「そこまでの強度は持たせられませんよ」


 って、よくまあそんなえげつない攻撃方法を思いくものだ。


「穴掘って埋めちゃうとか」


「この結界の中からでは、できないって、さっきご自分で説明していたではありませんか。そもそも、こんな大物を埋められるだけの穴を掘るには、時間も魔力も足りません!」


「竃なら一瞬なのに」


「猛練習しましたから。って、それどころじゃないと、先ほどから言ってるのにっ」


 どうしてこう、緊張感が無くなる会話になってしまうのだろう。


「う〜ん。それなら、こうしよう。サイクロプスが、すぐに動けなければいいんだよね?」


 彼女は、卵大の白くて丸いものを手渡してきた。


「中身は、痺れ薬。相手の鼻先に投げつけて使うんだ。当たれば中身が飛び出して、それを吸い込むと手足が麻痺して動けなくなる。体が大きいから、三つ位使えば十分だと思う。

 あ、メヴィザさん、口元を覆っておいてね。効果は、浴びせかけた後、半刻から一刻位続くんだけど、魔獣の方が早く回復するみたいなんだ。自爆した挙げ句、相手が先に動けるようになったら困るでしょ」


 自爆って。敵味方無差別に動きを止められるのはすばらしい、と思うが。


「困るどころではありません! 死にます。さくっと死ねます!」


「うん。だからね。布一枚あればいいから。はいこれ」


「わたしの話、聞いてます?」


 手渡されたものは、非常に手触りの良い布だった。しかし。


「・・・黒い、ですね」


 汚れきった布の黒さとは違い、わずかに光沢もある。しかし。


「染めたの。綺麗でしょ。あげる」


「・・・・・・ありがとう、ございます」


 適度に柔らかく、程よい長さもある。促されるまま、鼻から下を覆い隠すように巻いて、後頭部で結び止めた。

 これを街で装備していたら、泥棒と間違われそうだ。


「弓のすぐ傍まで近付いてから、術杖の結界を解除。すぐにメヴィザさんは防御壁を展開する。同時に、ボクは弓を拾って電撃を止める。止まったら、すぐに、メヴィザさんが痺れ玉をサイクロプスに投げつける。

 この手順でいいかな?」


「いいも何も。

 一つだけ。先ほどは、お一人で拾いにくるつもりでしたよね。その時は、どんな手段を使うつもりだったんですか?」


「弓拾うだけだけど」


「サイクロプスは!」


「見た所、すぐには起き上がれないみたいだから、襲われる前に逃げっちゃう」


「あ。そう。ですか」


 わたしは、本当に、ただの足手まといだったようだ。


「準備はいい? いくよ」


 結界が解除される。同時に土塁を形成。わたしは電撃の洗礼を受けずに済んだ。


「よし。止まった! もう大丈夫、ぶ。ぶ、ぶぶ」


 口調がうわずっている。


「何があったんですか!」


 土塁を壊して、ロナさんの無事を確認した。怪我等は無い。が、サイクロプスのつま先を指差して、真っ青になっている。


「ご、ごきぶりっ」


 よくよく見てみれば、楕円形の焦げ茶色をした昆虫が一匹。すでに死んでいるようだけど。


「なんで、こんなところにっ! あっ、あああああーーーーーっ。あんな所にもっ!」


 ロナさんは、両手に、石を拾い上げた。


 不運にも、周囲はサイクロプスが壊したとおぼしき瓦礫が大量に転がっている。

 そして、天然にして原始的な武器候補を即座に地面の下に埋める暇も、わたしの魔力も足りない。


「ロナ、さん?」


「きゃーーーーーーーーーーーっ!」


 だけど、彼女の必殺の武器は、なかなか命中しない。昆虫の周りの土が抉られ、瓦礫に打ち当たり、破片が跳ね上がるばかりだ。


「ちょ、ロナさん!」


「いやぁーーーーーーーーーっ!」


 え?


 大の男でも抱え上げられそうにない石くれも、音を立てて飛んで行く。


 もう一度、そして、先ほどよりも分厚い土壁を構築する羽目になった。


 ・・・わたしの魔力は、いつまで持つだろうか。

 ちょっとだけ、第三者視点で。と思ったら、一章丸々、野郎の独白になってしまいました。

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