逃げられなかった
「じゃ、帰るね。場所も内容も絞れたんだし。ボク、居なくてもいいでしょ」
「「「「え?」」」」
これ以上おちょくってると、かえって采配の邪魔になりそうだし。
「ヴァンさん。あの箱はどこ? 引き取って、帰る」
「待てーーーーっ。人を呼び出しておいてその態度は何だっ」
「え? ボク、呼び出してないよ? 危ないよって、スーさん達に教えただけだもん」
「だからって、だからってなぁ? サイクロプスだぞ。協力してくれてもいいじゃねえか」
「いつ来るか判らないし。その間、街で待ちぼうけするのも嫌だし。そうそう。いまのローデン騎士なら、さくっと殺れちゃうから、問題なーい」
「・・・何故、そういう評価が出るのだ?」
「食堂での一致団結ぶりを見たよ。あれなら、大丈夫」
「ですから。訓練を見ていた訳ではないのですよね?」
「休憩場所でもある食堂で、ケンカもせずに仲良く声を揃えて叫んでた」
「・・・だから。」
「騎士団の話じゃねえだろうがっ」
「団員さんが防御を固めて、実力者ハンターが急所狙いすればいいだけでしょ?」
「だがよ」
「ボクは、目立ちたくないの」
「あ」
そりゃ、わたしが「椿」を使えば、さっさと仕留められるだろう。でも、それでは意味がない。黒竜時代の、ローデンデビュー、再び・・・。
断固、拒否するっ!
「これは、ダグとローデンで決着を付けるべき話でしょ。ボクが、拘る必要も無いじゃん」
「で、ですが。元凶の弓はどうされるんですか!」
どもらないでよ、スーさん。それに、元凶とはあんまりだ。ちゃんと「朝顔」って銘があるのに。教えないけど。
「どさくさにまぎれて、回収してくる」
「「やめてくれ!」」
「無茶です!」
素直に、ダグの人達が砦を解体するなら、作業員に混ざって探す。撤収前にサイクロプスが来ちゃったりしたら、それこそ、混乱に乗じて拾ってくればいい。
うみゃみゃみゃみゃっ
うん? オボロがさかんにアピールしている。
「あ〜、オボロは止めておこうね?」
みゃっ?! みゃーっ。うみゃーっ!
ショック。なんで。どうして駄目なの?
いつの間に、こんなに表現力を身に付けたんだろう。オボロ、器用だね。
それはいいんだけど。
「オボロが一人で行ったりしたら、あっちのハンターさん達とケンカになっちゃうでしょ」
金虎 対 ダグギルドハンター連。弓を取り合って、はっけよい!
それはともかく。ガチンコ勝負すれば、オボロも無傷では居られない。当然、ハンターさん達は負傷者多数、だろう。
なーっ。うなーっ。
できるもん。やらせてよーぅ。
「駄目なものは駄目。そこのおじいさんで遊んでなさいって」
暇つぶしに余計な騒動を起こされては敵わない。とばっちりは、わたしに回ってくるんだから。
ヴァンさん当たりで我慢して。
「おれは玩具か?! そうなのか黒助っ」
・・・
オボロは、ヴァンさんの真正面で、行儀よくお座りした。でも、ヴァンさんと視線を合わせようとしない。目は口ほどにものを言う。
「ということで、ボクが行く」
「だから止めてください!」
「自分のものを拾いに行くのに、なんで止めるのさ」
「あちらは、「聖者様の遺品」として取り扱っているのですよ?!」
「それが間違いなんだってば」
「彼らの目の前で、その弓を自在に扱うところを見せたりしたら」
「賢者様の再来! とかいって、拘束されますよ。いえ、きっとそうなります!」
「目立ちたくないって言った口で、何ふざけたことをほざいてやがるっ」
「相変わらず、ヴァンさんは口が悪いねぇ」
「誤摩化さないでもらいたいっ」
おや。ウォーゼンさんまで怒鳴りつけてきた。でも、
「それなら。こんなときこそ術杖の出番だよ〜♪ 隠れてこっそり頂きまーす」
「「「「あ」」」」
泥棒の、現場は見られなければいいのだホトトギス。字余り。
「ですが。そうです! 砦から持ち出せずに紛失したとなればダグの王宮が大混乱になります!」
「隣国の政情不安は、見逃せません」
またも国王夫妻による連続攻撃、もとい抗議が繰り出された。しかし、猫パンチほどの威力もない。
わたしは、今度こそ政治には無関係な立場を貫いてみせる。そんな話を聞かされても、「ふーん。あ、そうなの」としか言わない。
大体、あんな物騒な武器を放置しておく方が、よっぽど見逃せない事態だと思う。
「お見舞いとか称して、特大魔包石でも譲ってあげたら?」
賢者の遺品があれば、ダグの人達は満足するだろう。まあ、この程度の提案は王宮内でも出てくるだろうから、目を付けられる事はないよね。
「商工会と同じことをするつもりかよっ」
ヴァンさんが吠えた。
「商工会?」
「何の話ですか?」
夫婦で食いつくポイントも一緒。レンとマイトさんも、こんな雰囲気なのに。さっさとくっ付いてしまえ。
それはさておき。
ヴァンさんが、身振り手振りも交えながら、ペルラさんの工房での一連の出来事を説明した。わたしが口を挟む暇も隙もなかった。話し終わったときは、肩で息をしていたぐらいだ。
「今代の商工会の上層部は、そのような人達でしたか」
あれれ。スーさんの目が笑ってないよ?
そういえば。ステラさんは、この手の人は大嫌いときている。きれいな顔が台無しだ。ヴァンさんも喋り疲れただろうし、気分転換が必要かな。
「お疲れさま。お茶どうぞ」
添えたのは、ハッピークッキー。もちろん、部屋に居る他の人達にも用意した。
「・・・またこれか」
「いいじゃん。まだ残ってるんだもん」
嫌なら食べるな。
「これが、その、クッキー、ですか」
ミミズクッキー改めハッピークッキー。ネーミング一つで、イメージも変わる。
「あら、おいしいですよ?」
躊躇う男達を尻目に、嬉々としてぱくつくステラさん。女は度胸。違うか。
「どれくらい日持ちするものなのだ?」
ウォーゼンさんは、別視点で食いついてきた。
「湿気らせなければ、常温で二月、いや三月は持つかな?」
「是非、騎士団で作らせてくれ」
「ウォーゼン、どうしたのです?」
スーさんが、齧りながら質問する。
「唯でさえ味に評判の悪い糧食だ。だが、このクッキーなら、食べ易いし、栄養もありそうだ。若干の興奮作用もある。キツい巡回勤務の時に、少しでも士気を高められる、と思ってな」
おやまあ。王様の前だというのに、随分と口調が砕けている。よっぽどクッキーがお気に召したらしい。
それにしても。団長さん無視して、勝手に話を進めていいのかな。
「レシピは、ペルラさんとエッカさん、えーと、治療院長さんだっけ、に渡した。あの人達が良いよって言うなら、町の料理人に公開して作ってもらってね」
ペルラさんはともかく、エッカさんは、もっと詳細な薬効が判明するまでは頒布禁止だ、と息巻いていた。
スーさん達は。・・・まあ、今更ってことで。
「騎士団の調理班では作らせてもらえないのか?」
すぐに許可が貰えるとでも思っていたのか、予想外、と言った顔でショックを受けているウォーゼンさん。
「どうせなら、味のバリエーションが増えた方がいいでしょ。それに、主原料はクトチだよ。騎士団で買い占めするつもり?」
またまたショックを受けて、絶句したウォーゼンさん。なぜか、納得顔の国王夫妻。
作り手が増えれば、それぞれ工夫を凝らして売り上げを伸ばそうとする。つまり、種類が増えて、食べる人の楽しみも増える。
それに、あまり収入のない人達の貴重な食料を、強権を持って取り上げたりするのはよろしくない、と思うし。
むしろ、そういう人達が調理販売することで、彼らの収入アップに繋がる。税収も上がる。
ほら、みんなでハッピー♪
「諦めろ。こいつに勝てる訳がねぇ」
「・・・そういえば、そうだったな」
見つめ合う二人。
って、ここでも?
あの後すぐ、ダグ王宮からの直通通信が入ったとかで、スーさんは、泣く泣く会議室を後にした。宥めておいてと、ステラさんも追い出した。きっと、あのままでは、まともに仕事にならないだろう。
それにしても、国のトップが風来坊にかまかけている場合じゃないでしょうに。
わたしがスーさん達の身近に居ると、しょうもないことで泣きついてきそうだ。という主張が認められ、王宮を脱出できた。
ヴァンさんも反対しなかった。
しかし。
「英雄症候群だからって、いつも好き勝手出来るとは思うなよ?」
どういうつもりなのか、ヴァンさん達がくっついてきた。まあ、ギルドハウスに行くつもりだったから、いいんだけど。
なんでこう、口うるさいんだろう。言いがかりも甚だしい。
「誰が? してないじゃん」
「どの口が言いやがるっ」
「ちゃんと説明してるし。駄目だって言われたらやってないし」
説明無しに、こっそりあれこれ手を加えたりはしている、かもしれない。
「弓の話をはぐらかしただろうがっ」
クッキーに釣られたスーさん達が悪い。わたしの所為ではない。
「ウォーゼンさん、仕事はいいの?」
「俺の話を聞けぇっ!」
無駄吠えは、嫌いだもん。
「現状では、団長とトングリオに任せておけば問題ない」
地団駄踏むヴァンさんにも動じないウォーゼンさん。慣れって怖い。
「でもさ、副団長でしょ」
「現場は、おれが受け持つからな」
あ〜。役割分担、か。
総指揮と事前準備と、現場での臨機応変な対応。おおう。完璧じゃん。
「それで、出動が掛かるまでは、までは、だな・・・」
あれ? 毅然としていた態度が一変した。
「おめえから目を離しとくと、何仕出かすか判ったもんじゃねぇ、ってこった」
ウォーゼンさんが小さく頷く。つまり、お目付役、ってこと?
「仕出かすとは失礼な」
ヴァンさんに睨みつけられた。歯ぎしりまでしている。
「〜〜〜王宮に呼び出される前にな。ペルラんとこに行ってたんだがよ」
「何か問題があった?」
「魔改造しまくりやがって!」
魔道具をふんだんに使用した改造だから、魔改造。なるほど。
「使いやすそうになってたでしょ」
最低限しか手を入れられなかったけど。ギルドハウスの素材倉庫にも引けを取らない蛹保管庫その他諸々。どんだけ採取してきても問題ない。
「そうじゃねーーーーーーっ」
「往来で騒がないでよ。迷惑だってば」
「誰の所為だ誰のっ」
「ヴァン殿。その辺で」
年を重ねて増々風采の上がったウォーゼンさんと、喚き散らす年寄りヴァンさんに挟まれて歩くと、
「・・・目立ちたくないって言ってるのに」
すれ違う人達が、みんな目を丸くしている。
「まあ。俺とロナ殿では身長差があるっ」
おほほ。ごめんあそばせ。ついうっかり小指を踏んづけてしまいましたわ。ふんだ。
「ウォーゼンよう。こいつに背丈の話はきっ」
好きで小さいんじゃないやい! 一言多いヴァンさんには、すねに一発入れておいた。
「ロナ殿。置いて行かないでくれっ」
「あーら、ボクの歩幅は小さいんだけどねぇ?」
「ちょこまか動くなってんだ。迷子になるぞ!」
「ギルドハウスに行くって、言ってるじゃないか」
でもって、あの箱をかっさらったら、一目散。よし。
「待てぇ!」
・・・通りの人が多すぎて、僅差で追いつかれてしまった。その上、
「ロナさんっ。お帰りなさいっ♪」
「ぽんこつ顧問。どれだけロナさんを引きずり回してきたんですか?」
「もー、待ちくたびれちゃいましたよ」
「この時間なら、少し早いですけど、夕飯にしましょうよ」
「「「さんせーーーーーっ」」」
何故だ。受付カウンターには、お姉さん達がひしめいていた。非番のお姉さん達まで勢揃いしているのか?
「おめえらっ。王宮からの緊急通達を知らない訳じゃないだろ。こいつで遊んでいる暇があったらっっっ!」
ヘビに睨まれたカエル。
「それでしたら、有能な人達が帰ってきていますし」
「私達、待機中です。関係ありません」
「もう、独り占めなんか許しませんからねっ!」
ちょいと。最後の台詞はなんか違う。とはいえ、
「ウォーゼンさん、助けてぇ」
既に埋もれている。揉まれている。美女軍団に。でぇっ。前が見えないっ。
「ロナ殿。・・・すまん」
声が、遠い。どれだけ押しのけられていったんだ。男なのに。副団長なのに。
「そうですよ。副団長様こそ、大人しく待機していてください」
「いつ声が掛かるか判らないんですから」
「さ、ここ座っててください」
「お、おい。受付じゃないか」
「伝令が副団長様をすぐに見つけやすいように、です!」
「ギルドマスターの執務室でもいいではないか」
オタついている様子が目に見えるようだ。・・・埋もれてて見えないけど。
「今、書類で埋まっていますよ」
「出てこられなくなるかもしれませんね」
だめだ。ウォーゼンさんに勝ち目はない。これっぽっちも勝機はなかった。そして、わたしも。
「なあ。俺、魔獣の襲来があるかもしれないから集まってくれって、呼び出されてきたんだが」
「俺もだ」
「で。あそこの集団。なんなんだ」
「受付嬢だぞ。目を合わせるな。話し掛けるな!」
「!」
助けてくれてもいいじゃん。遠巻きにしているのは、たぶん古参のハンターさん達だろうに。意気地なし。
「元気そうで何よりですっ」
「ああ、この髪の毛の手触り。最高です」
「ちゃんと食べてました? 痩せてませんか?」
お姉さん達の団体に、よってたかって触られまくって、次から次に料理を勧められて。工房で徹夜していた方がまだまし、だった。
オボロ、ここのお姉さん達とも、遊んであげて? わたしが、許す。殺って良し。
・・・目が合ったとたんに、階段を駆け上がっていった。魔獣なのに。最凶のはずなのに。なんで逃げるの。
ちなみに、ヴァンさんはとっくの昔に尻尾を巻いて逃げ出している。役立たず。
「あ〜。ロナは、英雄症候群だって、診断貰ってきたんだ。あんまり困らせるんじゃないぞ、っと、困らせないでやってくれって言っただけだっ」
言っていることは立派だけど。思いっきり腰が引けてますよ、ガレンさん。って、執務室に籠っているのは、誰だろう。紙の山は、仕事はいいの?
「ロナさんは、やさしいですもん」
「やさしいかどうかは別として。英雄症候群って、本人にその気がなくても相手に怪我させちゃうんだよ?」
マジで、ストレスが影響を与えるようだ。体の奥がむずむずする。まーてんを離れて一月も立っていないのに。やっぱり、レンの所為? なのかなぁ。
「・・・もう少しくらいは、いいじゃないですか」
「勘弁してぇ」
限界越えて、ギルドハウスの中で、本体ボボン! なんて、御免ですってば。
わたしが、心底遠慮して欲しいのを察してくれたのか、漸く、密着状態から解放してくれた。でも、その手は、わきわきさせている手は何。
「今まで、ペルラさんのところを手伝っていたんだろう? 無理するな」
「「「「あ」」」」
お姉さん達、すっかり忘れてたみたい。ガレンさん、気付いていたなら、もっと早くに言ってよぅ。
「当分は、手伝わなくてもいいようにしてきた。はず。でも、ガレンさん達も、気をつけてあげてね?」
「「「「はいっ」」」」
いや。主にガレンさんにお願いしたつもり、なんですけど? お姉さん達に気合いが入った。隅っこのハンターさん達は、それを見てますます小さくなる。気持ちは判る。
「伝令っ。サイクロプス発見!」
駆け込んできた伝令兵さんが一声を上げると、ギルドハウスのロビーに緊張が走った。
「どこに向かっている?!」
カウンター越しに詰問するウォーゼンさん。
「・・・それが」
あれ? 変な顔。
「どうした? 早く言ってくれ、街に近付く前に布陣を構えないと」
「昨日の時点で、小砦から動いていない、そうです」
「どういうことだ?」
「ダグ騎士団からの報告はこれだけでした。第二報ではもう少し詳しい情報も伝わるかと」
「ガレン殿。ダグギルドにも問い合わせて欲しい。それと、ここに情報を集める。構わないな?」
「了解した。ほら、仕事だ仕事!」
お姉さん達が持ち場に入る。
「ねえ。王宮からの通信ってここで受けられないの?」
忙しいだろう、とは思いつつ、ガレンさんに疑問をぶつけてみた。
「王宮にある装置は、各王宮との間しか繋がらないんだ。ギルドハウスのは、これまた他所のギルドハウスとしか連携できない」
専用回線、ってことか。でも。
「前に、ローデン王宮からアルファ砦に通信が入ったって」
「あれは、コンスカンタが開発した魔道具を使っている。距離は短いが、装置が小さいから、設置が簡単なんだそうだ。もっとも、組になっている装置同士でないと話は出来ないがな」
受付から追い出されてきたウォーゼンさんが、具体的に教えてくれた。簡易版の方も糸電話みたいなものか。距離は桁違いだけど。
「じゃあ、王宮とかギルドハウスにあるのは?」
「昔っからあった装置だ。噂じゃ、建国当時に旧大陸から持ち込まれた、と言われててな。全ての王宮同士、ギルドハウスの間で時間差なく会話ができる。
ただ、ここ百年近く、一度も起動しなかった。いや、できなかった、だな。アル坊の、聖者様の遺品にあった魔包石があって、漸く動かせるようになったんだ」
そんな大昔の装置、よく使えるようにできたもんだ。マニュアルも残ってたのかな。
それにしても、魔包石、お役立ちじゃん。持って帰らなくてよかった。
「あいつには、助けられてばかりだ。とはいえ、相手がサイクロプスじゃぁな。今ここにいてくれたら、って思っちまう」
「いつまでも頼ってばかりだと、見放されちゃうんじゃないの? どうだ、俺達だけでも出来るんだぞって、見せつけてあげれば? そうしたら、悔しがって帰ってくるかもしれないよ?」
陣頭指揮を執るトップが意気消沈していては、実行部隊が実力者ぞろいでも全力を発揮できないじゃないか。ほらほら。
「・・・ロナ。おまえ、すごいな。アル坊みたいじゃねえか。いいこと言うぜ。ぐすっ」
わああっ。そんな例え方をして欲しかったんじゃない! 誰も、聞いてないよね? ね?
「ボクみたいなちんちくりんが、そんな偉い人に似てる訳ないでしょ。それよか仕事!」
「おう。大仕事を終わらせてきたロナには、無理はさせられねぇ。でも、出来るようだったら、協力してくれ」
「気が向いたら〜」
「おう!」
おそらく、通信機が置かれている部屋に向かうのだろう。
「・・・何?」
「いや。何も?」
ウォーゼンさんが、一部始終を見ていた。ばっちりくっきりはっきり。だって、真横に立っていたんだもん! 話にも混ざっていた。誤摩化し様がない。
「頼っているつもりはなかった。だが、ここに居てくれることに、安堵もしている。・・・ふ。やはり、依存している、と言われても仕方がない」
ウォーゼンさんまで? この、軟弱者。
「勝手に落ち込まないでよ。これからが本番なんでしょ? 気合いだよ。気合い。判断ミスなんかしないでよね」
「手厳しいな」
「だったら、他人に言われる前に、さっさと動けっ」
尻を蹴飛ばしてやった。もっとも、上段蹴りみたいになったけど。無駄にでかいんだからっ。
「ダグギルドから連絡が来た! 脚の速いやつ、出てくれ。サイクロプスは小砦から動いていないってのは、間違いないらしい。街道に出てくる前に仕留めるぞ。ダグからもハンターは派遣されるから早い者勝ちだ。急げっ」
ガレンさんが、紙を振り回しながら出てきた。一斉に動き出すハンター一同。
手回しのいいハンターさんは、すでに森での活動道具一式を準備していた。
「やるぜ、サイクロプス!」
「ダグの連中に任せられっかよっ」
「[魔天]じゃないなら、馬が使えるよな♪」
「あーーーっ。お前っ」
「おっ先〜〜〜」
「あの野郎っ。どうせ薮の中で立ち往生するのが落ちだ。とにかく行くぞ」
「「「おうっ」」」
何度もチームを組んだことがあるのだろう。十人近い男達が、三々五々出発していった。
「俺達も行こう」
ウォーゼンさんが、促してくる。
「え? ボクも? ガレンさんは行かなくていいって、言ってくれたのに」
身を屈めて、耳元で囁いた。
「弓を取り返すのだろう?」
「あ〜。でもねぇ。殺気立った人がうろうろしてるみたいだし。みんなが捌けてからにする」
どうせ、誰にも拾えないだろうしね。慌てることもなさそうだ。
「まあ、そういうな。[魔天]にも近いし、送っていくついでだ」
「ついで? 違うでしょそれ!」
「「「ロナさん。いってらっしゃい!」」」
つやつやプリプリした顔のお姉さん達が、威勢のいい声で送り出す。
「箱は、預かっておくからなぁ」
階段の影から、こそっと声をかけるヴァンさん。
あ。
「ボク取ってくる!」
「時間がないんだ。急ごう」
ウォーゼンさんに襟首を掴まれて、引きずり出された。
「はーなーせーっ」
だから、地面に脚がついていないとね? どなどなは、いやだーっ。
というのに。そのまま、西門前に連れて行かれてしまった。
ヴァンさんがあの箱を握っている限り、またローデンに来る必要ができてしまった。ウォーゼンさんの、忙しんぼ。慌てる乞食は、貰いが少ないんだぞ。
それに。
「襟が伸びちゃうじゃないか」
「ロナ殿の着ている服が、そんな脆弱なものであるはずがない」
そんなはずは。
ちょいちょい、と整えれば。あらら、伸びてないじゃん。
キルクネリエの上着は、ムラクモの唾液の所為なのかな。
ぶひん!
・・・うわさをすれば。
ムラクモ様、仁王立ち。
ちょーっと、長くなりました。伏線の回収って、難しいです。




