健康、第一
副産物は、大量の石鹸。
さて、どうしたものか。
「石鹸は、そもそも、十分に水が使えるところじゃないと意味ないし」
「ロナさんなら、解決策もあるでしょう?」
エッカさん! あんたも商工会の回し者だったの?!
「それは冗談として」
「本当にぃ〜〜〜?」
「後ほど、じっくりたっぷりお話しましょうね」
語尾にハートマークがくっ付いている。それこそ冗談じゃない。
「やだやだやだ! アイデアは出したじゃん! 後は、エッカさん達でなんとかして!」
鼻を明かすでもシャボン玉でも何でもいいから。
「ふふふ♪ 遠慮なさることはありませんよ?」
「いーやーだーっ!」
エッカさんは楽しいかもしれないけど、わたしは全力で却下する。しますとも。
「そいつをからかうのは、命がけだぞ? 悪いことは言わない。止めとけ」
ヴァンさんが、真っ青な顔をして、エッカさんの袖を引く。ちょっと。命懸けって、どういう意味よ。
「相手がヴァンだからでしょう?」
「いえ。その。そうとも限りませんわ・・・」
ペルラさんまで、視線が泳ぎまくっている。酷い。
「わかりました。今回はこのくらいにしておきます」
「この先も、だ! とばっちりは俺に来るんだぞっ!」
ヴァンさんは半泣きになっている。さっきのアイアンクローが、よっぽど気に入ったようだ。・・・違うか。
「仕方ありませんね。諦めましょう」
いやいやいや。口に出した時点で、エッカさんもブラックリスト入り確定。
「あああ。寒気がする」
ヴァンさんが布団に突っ伏した。
「年寄りの冷や水ですか?」
「違うっ!」
「二人とも、そろそろ止めろよ。面白いけど、話が進まないぜ。その石鹸とノーンがどう繋がるんだ?」
ライバさんが、漸く口を挟んだ。
「そうですね。ご説明いたしましょう。
疫病の拡大を防ぐには、清潔な環境を維持するところから始まります。患者や看護人、彼らの使う道具衣服部屋諸々、あげ連ねていけば切りがありません。ですが、高価な石鹸や消毒薬には限りがあります。いえ、ありました。それを、一気に解決できる見通しが立ったのですよ? わたしが歓喜するのもご理解いただけますよね」
うん、納得。
感染症で、何が問題かと言えば、衛生面。ただでさえ体力の落ちている患者が集まる治療院が、感染源になったら目も当てられない。防ごう、院内感染。
それはともかく。
芋虫石鹸は、わたしの鑑定によれば、人体も衣服も器具も、はては病室の天井から床までも、オールラウンドに洗浄できる。
多種多様な薬品を使うこと無く、対象を選ばず使用でき、更に、今後定期的にまとまった量の入手が見込めるとなれば、コストパフォーマンスも完璧。
一緒に聞いていたヴァンさんとペルラさんは、なんとか理解できたようだが。
「風邪にしろ怪我にしろ、大人しく寝てて、薬を飲めばいいだけじゃないのか?」
ライバさんが首を傾げている。
「一口に病と言っても、人から人へ伝播するもの、不衛生な環境に因るもの、動植物に因るもの、など原因は色々あります。そして、街壁で囲まれた場所で、感染力の強い疫病が蔓延したら・・・、最悪、国が滅びます」
先ほどまでの浮ついた態度から一転して、深刻な顔をしている。
「例えば、ノーンでは、聖者様のご助力で災厄を逃れることが出来ましたが、そうでなければ、今頃、地図から消えていたことでしょう」
ノーンの災害では、住民に限らず、たまたま訪れた商人や傭兵達までもが、ばたばたと意識不明に陥ったのだ。都市内に原因がありそうだ、とまでは特定できたが、一向に事態解決のめどが立たないまま患者は増えていく。最終手段として、人の出入りを禁止するしかなかった。
ちなみに、この処置は、街道都市の不文律、だそうだ。
「以降、薬の備えや街の衛生環境向上に全力を尽くし、現在では街道都市随一の「健康国」と自称しています」
いいことじゃん。
あれ? エッカさんの目は笑ってない。表情は穏やか、に見えるのに。
「最近、何かというと「街道都市の中では、病や怪我に因る死者が一番少ない」と威張り腐って、ごほん、少々鼻についているところだったんですよ。先人達の努力の上にあぐらをかいているだけのくせに、ねぇ?」
「・・・あー、そう、なんだ」
「そうなんです。常日頃の精進と技術発展に努めてこそ、賞賛されるべきでしょうに」
「「「・・・」」」
エッカさんの気迫に飲まれて、三人とも声が出ない。ひたすら、頷くだけだ。
「これらの品々があれば、ノーンの思い上がりを、完璧に、破壊できます」
いやいやいや! 破壊しちゃ駄目だって。って、どんな道具でも、使い様なんだけどさぁ。
「たかが石鹸だよ?」
「されど、石鹸です」
「あ、そういえば。排水処理施設に掛かる負荷とか、まだ判らないし」
わたしが、ちょこちょこと使っていたのとは、比べ物にならない排水が出るだろう。都市全体で使い始めた時、下水処理の魔道具の分解能力の限界を超えてしまったら、都市の下流域は泡だらけになる。それとも、富栄養化だろうか。どちらにしろ、環境破壊の元凶になる。
あちらを立てれば、こちらが立たず。難しいなぁ。
「早速、コンスカンタに協力を要請しましょう」
「おい。エッカ! 勝手に話を進めるなよ」
またもヴァンさんが火消しに回る。本当に槍が降ってきそう。
「この石鹸が各都市に流通するようになれば、いずれ必要になりますよ? 手を打つなら早いに越したことはありません」
澄まし顔でさらっと宣うエッカさんに、ペルラさんがこめかみをひくつかせる。
「もし、設備の改良が必要となれば、どれだけの時間と手間がかかるか判ったものではありませんわ!」
「各都市で必要素材の奪い合いになるぞ!」
ペルラさんとヴァンさんの吊るし上げにも動じない。
「必要経費です。ああ、王宮にも話を通さないといけませんね」
「そうじゃねぇ!」
ライバさんまで絶叫した。
騎士団工作班は、街道に敷設された魔道具の補修もやってたんだっけ。公共設備の入れ替え作業がどれだけ大変か現場を知っているから、仮定の話でも頭を抱えてしまうのだろう。
「街中の魔道具総入れ替えですわよ?!」
・・・どんどん、話が大げさになってきた。どうしよう。
「職人総動員になりますね。景気活性。いいことではありませんか♪」
すでに、エッカさんの頭の中には、バラ色の未来が広がっているらしい。
「エッカさん、ちょっと待ってって! その話はまだ先だから! ヴァンさん、加工用魔道具の作成許可は貰えたの?」
そう。それが無ければ、何もかもが机上の空論で終わる。いや、蛹の加工の話も無かったことにしよう。そうしよう。
残った蛹は、わたしの『昇華』で一発処分してあげる。だから、さっきの話は取り消し、ね?
「ない。・・・その、話を持ち出す隙がなかった」
とたんに声が小さくなったヴァンさん。そう言えば、魔道具作成の許可を貰う前に、印可うんぬんにすり替わってたんだっけ。
「無能」
「役立たずですわねぇ」
エッカさんとペルラさんの容赦ない評価に、ぐうの音もでないヴァンさん。
「おおお俺は元々ハンターだっての! 金勘定しながら育ってきた奴らの口先にかなうもんか!」
「開き直りやがって」
「ライバは黙ってろ! それとも何か? おめえなら、許可をもぎ取ってこれたってのか? その場に居なかった奴が好き勝手言ってるんじゃねえ!」
あ〜あ。ヴァンさんが、すねちゃった。
「そういうことでしたら、わたしがご協力いたします。いえ、是非、参加させてください。ふふふ。最高価格で売りつけて差し上げましょう」
エッカさんの目の奥に、轟々と燃え盛る炎が見える。・・・これだから、熱血住民は手に負えない。
「あ、いや。それなら、蛹は、まとめてボクが処分」
「却下だ!」
「何をなさるおつもりでいやがりましたの?!」
「もっと物騒な物を持ち出すつもりだろうが!」
ヴァンさん以下、ものすごい勢いで駄目出ししてきた。
「ナーナシロナさんが、遠慮なさることはありませんよ。要は、許可をもぎ取ってくれば解決するのですから」
そうじゃなくて。止めようよ。ね?
「参考までに訊くがよ? 大量の蛹をおめえ一人でどうやって処分するつもりだったんだ?」
副音声が、「どうせろくな手段じゃねえんだろうが」、と言っているのが聞こえる。顔が、そう言っている。
「う、えーと。街の外で、こう、ボン。と」
「「やるなっ」」
「目立ちたくないのではありませんでしたの?!」
「もちろん。結界張って、人に迷惑にならないように」
「「「無理だ」」ですわ!」
いやだから。結界張るって言ったのに。
「捨てるくらいなら、わたしに下さい」
エッカさーん! わたしの魔道具無しで、どうやって加工するつもり? もしかして、一から開発するとか? おーいっ
すったもんだの揚げ句、もう一度、商工会と対決、もとい交渉することになった。
「ボク、印可は要らない。絶対に要らない。蛹加工用魔道具の使用許可が貰えればいいだけ、なんだからね?」
一応、念入りに釘を刺しておく。余計なことはしないで欲しい。却って騒ぎが大きくなるだけだから。
「欲がありませんねぇ」
「ナーナシロナ様ですから」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
エッカさんとペルラさんが、同時にわたしをみる。
「だーかーらー。ボクは変な状況に巻き込まれたくないだけなの!」
うっかり印可を貰ったら、「では売ってください!」と集ってくるのが目に見えている。
誰が、って、商工会の人だけじゃなくて。ヴァンさんとかウォーゼンさんとか。思い当たる人は沢山いる。・・・うん。印可は要らない。
「そう言うことにしておきましょう」
「そうですわね」
判ってるのかな。
もう一度出かけようとしたヴァンさんを、エッカさんが取り押さえた。交渉失敗の繰り返しはさせられないから、だそうだ。そして、選手交代で、エッカさんとライバさんが商工会館に向かうことになった。
ちなみに、わたしも、お留守番。
「なんで〜?」
「おめえが顔を見せたら、収拾付かなくなるからな」
「でも、当事者がいたほうが、話早く終わるでしょ」
「・・・むしろ、要求がつけあがる、ごほん、跳ね上がる可能性の方が高いかと」
エッカさんが、控えめながら物騒な予想を口にする。
「あ、ああ。あいつらの態度は、そんな感じだったな。ロナが留守番するってなら、俺もここに残ってやる」
ヴァンさんは、居残りの条件を出した。
「え〜〜〜〜?」
「交渉はエッカ様に任せましょう。それよりも、教えていただきたいことが」
ペルラさんは、さっきの暴発がいたくプライドに触ったらしい。リベンジに挑戦する時に、わたしに立ち会って欲しいと懇願した。
物理的、もとい肉体言語で会話してこようと思ったのに。改良型鞭の出番を取り上げないでよ。
「交渉だっての! 止めを刺してどうする?!」
「まだ何も言ってないよ?」
「おめえの顔見てりゃ判るって」
ペルラさんまで、大きく頷いている。
「しかたない。最終兵器をライバさんに預けよう」
「おい! 何を持たせる気だ?!」
「布の完成品とかではありませんわよね!」
「その手もあるか」
ペルラさんの研究の後押しが出来るじゃん。
「お止めくださいましっ」
「冗談だってば」
「おめえのは、冗談じゃすまねぇんだよ」
ライバさんを手招きして、背負子とその中身を選り分ける。むー。これ、どうしよう。見せても大丈夫かな。
「ヴァン? 方々の傾向とその対策を練るのに、協力してくださいね」
エッカさんは、やる気、いや殺る気満々だ。・・・だから、お医者さんが殺気を振りまくのはまずいって。
しばし、打ち合わせをした後、二人は意気揚々と工房を出発していった。
「やっぱりボクも付いていった方が」
「止めてくれぇ〜」
ヴァンさんはヘロヘロだ。ベッドの上に突っ伏している。エッカさんと、何を話していたんだろう。
「ナーナシロナ様。先ほど、わたくしが失敗してしまった物、もう一度作ってみてもよろしいでしょうか?」
気をそらせるつもりなのか、早口で話しかけるペルラさん。
「遠慮しないで、ジャンジャン作って♪ それに、『繭弥』だけじゃ物足りないでしょ。別のも試してみない?」
「え?」
陣布の素材セットを、ベッドの上に、どばっと並べる。ふふふ、三点セット入りのマジックバッグは、まだまだあるぞ〜♪
「ここでするなここで! おれを巻き添えにしないでくれっ」
あらら。ヴァンさんは、布団を被って引き蘢ってしまった。おっとっと、素材が落ちるじゃないの。慌てて拾う。
それを手伝うペルラさんは、顔中に汗をかいていた。自分から強請ってきたのに。それに、魔道具好きでしょ。楽しんでね?
『繭弥』、その他の魔法陣刺繍を存分に堪能した頃、交渉組が帰ってきた。
「あ、晩ご飯まだ作ってない」
「・・・いや、いい。帰り道に買ってきた」
ライバさんは、持たせた背籠一杯に、露店の料理を詰め込んできていた。
「どうだった?」
ボサボサ頭のヴァンさんが、二人に声をかける。が。
「・・・・・・」
「・・・食ってからにしようぜ」
エッカさんの目が虚ろ気味。なぜか、わたしを見ようとしない。ふぅむ。ドーピングが必要かな?
「ロナ。余計なことはすんな。いいから、放っておけ」
ウェストポーチに手を伸ばそうとしたら、阻止された。
「ヴァンさん。手癖が悪くなったね」
「その言い方はねぇだろ! おめえの所為だ、おめえの」
こっちこそ、そう言いたい。
エッカさんは、時々手が止まり、ぼーっとあらぬところを見ている。でも、決してわたしを視界に入れようとしない。ライバさんは、ヴァンさんもかくやという勢いで食べ続けている。
「何があ」
「食ってからだ」
ヴァンさんの問いかけを途中でぶった切るライバさん。
「お土産効果は、絶大だったみたいだね♪」
「「・・・・・・」」
交渉組の動きがぴたりと止まる。
おや?
「聞きたくねぇ。聞かなくても判った」
「え、ええ。そうですわね」
引き攣った笑いを漏らすヴァンさんとペルラさんに、
「いいえ。洗いざらい聞いてもらいましょう」
出て行った時の溌剌さとは裏腹に、どんよりと肩を落としているエッカさん。
どんな交渉になったんだろう?
ローデン都市の健康の担い手、治療院トップのエッカさんのお出ましにも関わらず、商工会トップの態度は変わらなかった。
そこで、痺れを切らしたエッカさんが、キッパリはっきりわたしの主張を宣言した。
『見習い職人云く、「印可はどうでもいい。魔道具が売れなくても構わない」、だそうです』
『『『『『え?』』』』』
わたしが何者であるかは、名前も含めて素性は徹底的にしらばっくれることにしている。というか、ペルラさんとヴァンさんに懇願された。
尤も、わたしもバカ正直に名乗るつもりはなかった。悪役ななしろで通す。わーっはっはっ。
『ごほん! それで、ヴァン殿は遅れているのかな?』
『ヴァンは、”彼”の代理人でした。あなた方の要求を伝えたところ、職人がへそを曲げまして。”彼”の手でボコボコにされました。暫くは、ベッドから起き上がれないでしょう』
『『『『『え?』』』』』
五人の商工会役人が、またもや変な声を上げた。ちょっと、性別も誤摩化すとは言ってなかったよね?
『あ、いや。だから、あの調理器具を提出してくれれば、印可は出すと』
『いつから、印可発行にそんな条件が必要になったのでしょうね。わたしは寡聞にして初耳なんですが』
『し、新開発の魔道具だぞ。動作確認の為だ!』
『熟練の魔道具職人に検分させれば済むことではありませんか』
『・・・』
『印可が無ければ、しょ、職人を名乗れないんだぞ?!』
『どうやって商売するつもりなんだ? 無印可職人の魔道具販売は違法だ!』
どこぞの、まずは資格ありき、な制度だな。本来は技術水準維持の為だと思うけど。
でも、わたしへの印可の話とは関係ないよね。そもそも、印可を発行してくれと言った覚えはない。全く、ない。
『魔道具作成は趣味、だそうです』
『『『『『趣味ーーーーっ!』』』』』
全員が、絶叫している。
おかしいなぁ。港都のルプリさんは好奇心全開で取り掛かってたのに。工房長も黙認してたのに。そんなに驚くことなのかな。
『こ、こここ、これだけの性能の魔道具を作る能力がありながら!』
『趣味? 趣味って言った?!』
『もったいない!!』
『是非とも我が家直轄の工房で雇おうじゃないか!』
『いいや! 私の処の方が設備も最新だ!』
なんと。本音がだだ漏れ。
『そもそも。ヴァンの用件、ちゃんと聞きました? 見習い職人が作った魔道具を他の工房で使わせていいかどうか、確認を取りにきただけのはず』
・・・聞いちゃいない。当人の意志を無視した、不毛な取り合い合戦をしている。
『こちらをご覧ください』
ようやく、聞き苦しい口論が止まった。
『あ? あ〜、エッカ殿。これらは?』
『これからの治療院で必要になる品ですよ』
ヴァンさんのベッドの前でぶちかました演説を、ここでも披露した。ノーンばかりにいい顔はさせない、と言ったところで、偉いさん達がようやく関心を向け始めたようだ。
他所の都市にいい顔をしたいのは、商工会も同じ、なのかな。
『だがね。その話と新製品の間に、どんな関係があるというのかね?』
『調理道具も石鹸製造器も、制作者は件の見習い職人です。”彼”にその気になってもらわないと、あなた方の胸算用も、ローデン治療院の地位向上も、幻のまま。それでも、関係がないとおっしゃる?』
しーん。
あくまでも、穏やかににこやかに話をするエッカさん。商工会一同の強欲ぶりを抉りつつ、正論を振りかざしている。ように聞こえる。
しかし。よくよく内容を聞いてみれば、五十歩百歩。エッカさんの主張も、力一杯私欲にまみれている。なんだかなぁ。
『あー、うー、その、”彼”の要求は何なのだ』
『ですから。自称「見習い職人」が制作した魔道具を使用して、新たな製品を作り販売することの是非を問うているのです』
テーブルの上の水晶を、全員がじーっと見ている。美しく磨き上げられた水晶の下には、瑪瑙の小皿。それを取り巻く緑のヒモ。
「・・・なあ。ロナ。なんだこれ?」
ここに居ない人達との会話、もとい再生されていた音声が止まり、三葉さんが次の「楽石」に交換している間に、ヴァンさんが、一本調子の抜け殻のような声で質問してきた。
「この子の趣味道具」
ライバさんが背負っていった籠には、スパイよろしく三葉さんが潜んでいたのだ。頼んでないのに。
そして、密室での会話のすべてを、こっそり録音していた。・・・頼んでないのに!
なかなか口を開こうとしないエッカさん達に業を煮やしたのか、にょろにょろと出てきて、勝手に道具を並べて、勝手に再生を始めた。始めてしまった。取り上げようとしたら、びしばし叩かれた。つまり、誰も取り上げられなかった・・・。
「こんな物まで作りやがって」
ライバさんはうめき声をあげる。うん。確かに、わたしが作った道具だけどね。三葉さんに譲りはしたけどね。
「ああああああああああ」
ペルラさんは、半ば錯乱している。
こんな用途に使うつもりは無かった。予定もなにもこれっぽっちも無かった。
三葉さんの、ばかーーーーーっ!
話が、進みません。会話は、盛り沢山なのですが。




