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狩は終わった。その後で・・・

「明日は、日の出前に朝ご飯を終わらせて、ギエディシェと、出来ればロックアントまで狩るつもり。ギエディシェは朝靄が消えるまでが勝負。昼ご飯を食べられるかどうかは、状況次第。質問はある?」


「ある。山ほどある! だが、何から聞いたらいいものか・・・」


「なんで、靄が消えるまでなんだ?」


「それより後だと、高く飛んじゃうから、おびき寄せにくいんだよ」


「また罠か?」


「ちょっと違う。撒き餌、かな?」


「ギエディシェに撒き餌・・・」


「空耳では、ないんだよな?」


 呆れ半分、諦め半分の口調だ。


「トレントの実が好物なんだけど、高いところにあるやつって少ないんだ。だから、地面から投げ上げた実でも、気が付けば寄ってくるよ」


「・・・」


「そうか・・・」


「草地の上に飛んできたら、射落として首を獲っておしまい」


「射落とすって」


「どうやって! あいつも魔術は効かねえんだぞ?!」


「ちゃんと効くよ〜。術系統は限られるけど」


「!」


 この手の知識って、どうやって継承しているんだろう。トップハンターから聞き取りしてないのかね。


「落ちたギエディシェ目当てにロックアントが集まってくるはずだから、今度はそれを各個撃破」


「って、出来るか!」


「ヴァンさん、声が大きいって。この季節なら、集まってきても群行動はしない。だから、一体が攻撃されても、すぐに他の個体が反撃する事はない」


 群になるシーズンだと、滅茶苦茶に食欲旺盛になる。攻撃性も数倍アップする。傍迷惑な性質だ。


「・・・」


「呼び集める手段を封じてしまえば、こっちのものだよ」


「失敗したら?」


「全力で逃げる!」


「「・・・」」


 げっそりと肩を落とす二人。脅かしすぎたか。


「冗談だよ。何度か挑戦してるから、大丈夫だって。むしろ、ウォーゼンさんが、むやみと攻撃しないか、その方が心配」


「・・・なぜだ?」


「だから、他の個体を呼び集めちゃうんじゃなかって」


「・・・善処する」


「ヴァンさん?」


「お、おう。気ぃ付けときゃいいんだな?」


「よろしく〜」


「・・・ヴァン殿?」


「なんだ」


「ロナ殿は、前から、こうだったか?」


「いや。容赦なさに磨きがかかってるぜ」


「・・・そうか」


 本人目の前にして、とことん失礼な人達だよねっ。




 早朝。まだ薄暗いうちに、具沢山スープだけの朝食をとる。各自、糧食と水袋も持つ。昼食時に集まる事が出来ない時の為の用心だ。


 ヴァンさんが行軍用リュック。ボクとウォーゼンさんで竹籠を背負う。


「なぜ、俺まで・・・」


「薬草が乾燥し切ってないから。マジックバッグにしまえないんだ。放置しておいたら、他の動物に食べられちゃうかもしれないし」


「・・・了解した」


「ボクは、トレントの実を採ってくる。それまでは、まだ休んでていいよ」


「ああ、行ってこい、行ってこい」


 投げやりにつぶやくヴァンさん。やる気あるのかね。


 昨日見つけたトレントのところに走っていき、手に取っては二つ割りにして、背中の籠に放り込む。こんなもんかな。


 草地に戻ってみれば、けだるげな男が二人。一応、警戒はしているようだが。


「何かあった?」


「違ぇよ」


「今日の狩の事を、な」


 ん? 手順は、昨日のうちに説明したはずだけど。なんで、こんなにどんよりしているんだ。


「ほらほら。これ、全員で空に投げるんだから」


「「・・・」」


 草地の中央に立って、籠から取り出した実を地面に積み上げる。割ってあるから、すぐに消えたりしない。ということで、三人で競い合うように投げ始めた。

 一応、梢近くまで上がっている。これなら、うまくいきそう。


「こんちくしょーっ」


「うおーっ」


 かけ声は勇ましい。しかし、その台詞はどこから出てくるんだ。


 まだ、空の青さも見えない森の上に、黒い影が映る。


「・・・おいおい。本当に、来やがったぜ」


「落ちてきたら、首刈りよろしく」


「物騒だな」


「[魔天]自体が、物騒なところだしな」


「それもそうか」


 文句言いたいけど! 命中させる為に、目標に集中する。


 術式を組み込んだ矢をつがえて、放つ。


 黒い影は、みるみる大きくなり、草地に墜落した。


 巨大なトビケラ、ギエディシェは、胸部を氷に固められ、六本の足も二対の羽も満足に動かせない。

 体に似合った大きな口を打ち鳴らす。


「ほら。ぼけっとしてる暇はないよ!」


「お、おう。って、どうやるんだ?」


「ヴァンさん! 「不殺のナイフ」は使えないからね」


「判ってる!」


 ギエディシェは、腹部を上下に動かして抵抗しようとしている。いや、胸部の氷を割ろうとしている。器用だな。でも遅い。


 ヴァンさんの採取ナイフがギエディシェの首を切り裂く。首が落ち、胴部の痙攣も止んだ。


 うーん。いつ見ても大きい。アスピディの頭と同じぐらいはある。さて、と。


 ウォーゼンさんにも手伝ってもらい、切り落としたギエディシェの頭部にヘビ皮を巻き付けて荷造りし、マジックバッグに放り込む。


「一丁上がり!」


 ギエディシェの腹部を切り裂いておく事も忘れちゃいけない。


「な、何してるんだ?」


「こうしておけば、匂いにつられてロックアントが来るよ。他のも来るかもしれないけど。動物系はまず来ない。来るとしたら〜」


「「したら?」」


「モディクチオ?」


「げっ!」


 ヴァンさんが顔色を変えた。あれは、でっかいムカデだ。ど紫のてかてか甲殻がかっこいい。


「ヴァン殿?」


「俺ぁ、あいつだけは苦手なんだ」


「咬まれたとか?」


「そんときゃ、死んでるだろうが! こう、地面を這い回ってる姿が、うっ、想像しただけで鳥肌がっ」


「しょうがないなぁ。じゃあ、そっちはボクが受け持つから、ヴァンさんとウォーゼンさんは、ロックアントね」


「「無理だ!」」


「細工はしてあげるから。大丈夫。ぽんこつヴァンさんでも軽い軽い♪」


「殺す気か?!」


「早く来ないかな〜」


「話を聞けっ」


「声が大きいよ。骨、まだある?」


 ごりがりごりごりっ


 親の敵じゃないんだから、そんな形相でかじりつかなくても。


「ロナ殿〜」


 ウォーゼンさんの方が、情けなさそうな声を出す。副団長でしょうに。


「ギルドハウスで、いろいろ溜まってるんでしょ。せっかく人気のない盛りにきたんだから、こう、思いっきり発散させてあげようよ」


「違う。そうじゃなくてだな?」


 骨を噛み砕く音が一層大きくなる。ほらみろ。ボクが言った通りじゃないか。


 朝靄も晴れて、草地に陽が注す。やがて、森の奥に蠢く影が見え始めた。


「来たよー」


「どっちだ!」


「よかったねぇ」


 ギクリ。


 ヴァンさんが身を強張らせる。


「ロックアントだよ」


「って、安心も出来ねえか。チクショウ」


「打ちかかっちゃ駄目だよ?」


「っ! 了解だ」


 ウォーゼンさん、忘れてたね。


 群行動している時とは違って、少し動いては止まり、向きを変えて進んで止まり、を繰り返すロックアント。こうやって見れば、普通の蟻と変わらないのに。二メルテもあるけど。


「で? どれにするんだ?」


「最後に来たのを二、三匹」


「「は?」」


「今、捕まえたら、後続のロックアントの進路を塞ぐし。でもって、横取りされちゃう」


「・・・そうなのか?」


「うん。掃除屋だもん。死んだ魔獣ならロックアントも食べる」


「・・・そうなのか」


「うん」


 大体集まったようだ。ギエディシェから遠いところにいる個体を狙う。


「って、どうやるんだ?」


「これ」


 陣布を取り出す。昨日の残りのヤニを糊代わりに塗って、ロックアントの横合いから近付き、頬と横腹に貼付ける。


 見る間に氷に覆われていく。頭を振っても、落ちるどころか大顎も動かせなくなる。見届ける事無く、次のロックアントに陣布を張る。そして、もう一匹。ここまでだね。


 最初のロックアントが、痙攣を始めた。六本の足を縮こませ、地面にうずくまり、動きが小さくなる。


「ほら。今なら、その剣の鞘尻の一撃でも首がもげるよ。ヴァンさんのげんこつでも効くと思う」


「「・・・」」


「向こうのロックアントが気付く前に解体しなくちゃいけないんだから。急いで!」


「あ、ああ」


「・・・ほんとかよ」


 三匹めも動きが止まった。トンファーで急所を打ち抜き、首を落とす。


 まず、陣布を剥がす。次に、大顎を引き抜く。くっ付いてきた消化腺を取り出しておいた収納容器に入れて蓋を閉める。腹部の最終節も同じように引き抜いて、こちらは蟻酸の袋を取り外す。


「ヴァンさん、交代。それの消化腺と蟻酸を取り外すから。こっちのロックアントを解体して」


「お、おう。わかった」


 何か所か殴った痕が見えるけど、それでも首は落ちていた。ほら、やれば出来るじゃん。

 次は、ウォーゼンさんのやつ。首のもげたロックアントの前で、呆然としている。


「ぼけっとしている暇はないよ。ヴァンさんのを手伝ってきて。とにかく、体の中身をはぎ取ればいいから」


「はっ。あ、ああ。了解した!」


 外殻と中身を剥がしてしまえば、かじりついたフォレストアントが変異する事は無くなる。ロックアントも、同族の外殻は口に合わないらしくて、見向きもしない。


 中身を周囲にぶちまける。問題はない。そのうちに植物型魔獣の餌になるから。でも、匂いにつられた魔獣が、やってくるかもしれない。

 グロボアは死んだロックアントを食べる事がある。そうそう。モディクチオも忘れちゃいけない。急げ、急げ。


 投げ残ったトレントの実は、ギエディシェを食べていたロックアントのおやつになるだろう。


 解体が終わったロックアントの、尖った部位とそうでない部分を選り分けておく。


 次!


「・・・もう終わってるのか」


「早いなぁ」


「これでも遅いって。氷が付いてるから」


「そうなのか?」


「ええと、足は籠に突っ込んでくれる?」


「・・・まだ、薬草が入ってるぞ」


「そうだった。でも、もういいでしょ。ヴァンさん、キルクネリエの皮に包んで、リュックに入れて」


「おう」


「それと、残りのキルクネリエの皮、出してくれる?」


「どうするんだ?」


「大顎とか尻の部分とか、尖った部位を包んでおくんだ。そうすれば、マジックバッグの中で、他の採取物を傷付けなくて済むでしょ」


「そういうことだったのか!」


 ウォーゼンさんが、声を上げる。


「驚くのは後! そろそろ、あっちのロックアントも解散みたいだから」


「やべえっ」


「ボクは、解体の続き。ヴァンさんはそれを包んでバッグにしまって。ウォーゼンさんは、さっき言ったように足を集めて」


「了解した!」


「終わったらご馳走だよ〜」


「よし!」


 ・・・ヴァンさんが素直。不気味だ。




 ギエディシェの死骸に群がっていたロックアントが散る前に、解体、収納作業は終了した。こちらには見向きもしなかった。同族よりは、ギエディシェの方が美味しいのだろう。モディクチオが途中参加してこなかったのは助かった。

 それにしても、亜空間収納を使わないと結構手間がかかる。やっぱり、本職のハンターは大変だ。


「ひ、冷や汗もんだったぜ」


「あんな間近で生きたロックアントを見続けるというのも、な」


 方やハンターの元締め、方や魔獣暴走時の対策責任者だというのに、なに情けない事言ってるんだか。


「普通は、見かけたらすぐに退治するもんなんだよ!」


「生きた心地がしなかった」


 顔中に汗を滴らせている。しょうがない。


「もう少し、移動しよう」


「・・・どこに行くんだ?」


「水に近いところ」


「「・・・」」


 [魔天]には、山脈から流れ出る川が何本もある。小さかったり、広かったり、深かったり、浅かったり。ほとんどは、流れの緩やかな川だ。

 ただ、水飲み場には、肉食獣が網を張っている、事が多々ある。それは、[魔天]に限らないけど。


 ボクが案内したのは、ちょっとした崖の上だった。そこからバケツをつり降ろして水を汲む。


「〜〜〜、そういう事かよ。最初に言えっての」


「崖下から這い上がってくるのは〜、滅多にいないから」


「・・・全くいない訳ではないのだな?」


「姿を隠して近付くやつが、たま〜に」


「よく見れば判るじゃねえか」


「だから、油断しないで。二人とも、これで汗拭いて。清潔第一。というか、汗臭い」


 緑色の手ぬぐいを取り出して、二人に渡す。


「着替えはなかったはずだから仕方ないけど。あ、覗いたりはしないから安心していいよ」


 痴女になる気はない。


「「・・・」」


「それとも、覗いて欲しい?」


「「やめてくれ!」」


「昼夜兼用のご馳走作っておく。終わったら声かけて」


「了解した」


「期待してるぜ!」


 調子のいい。でも、そこまで言うなら。ふふん。




「おめえ・・・」


「俺達に、どうしろと・・・」


 体を清めてきた二人が、目の前の光景に絶句した。手にしていたバケツが手から転げ落ちる。


「もちろん食べるんだよ」


 塩漬け肉の薫製。もも肉のミンチと砕いた糧食をこねて焼いたハンバーグ。ソースは、肉汁に魚醤と酒を加え、採りたてキノコのみじん切りで香りを付けた。薬草、野草を取り混ぜたサラダは、塩味で。摺り下ろした山芋と、これまた砕いた糧食を練って焼いた、パンケーキもどき。ハンバーグと同じソースでもよし、塩だけでもよし。鍋満タンの骨出汁スープは、素材の味を生かして、今回は具は少なめ、軽く香辛料を効かせるに留める。デザートは、メイドの土産の干し果物。


 雨避けタープの下、これでもかと料理が並べてある。近くに太めの竹が生えていたので、それの割竹を皿代わりに使った。


「これ、薫製か? [魔天]で、どうやって!」


「竹籠の再利用♪」


「「・・・」」


 薫製用の木に火をつけて、すぐに周りから見えないように隠した。目の詰んだ籠だったので、カバーの必要も無し。元から塩漬け肉は小さめだったので、加熱時間も短くて済んだ。嗅ぎ慣れない匂いだった所為か、魔獣は近寄ってこなかった。


「さあっ。冷めないうちに食べてね!」


 残すんじゃないよ?

 胃袋への暴力。

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