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健全な、お付き合い

「さあ。ロナ。今度は、わたしの番だ」


 ウキウキと武器を構えるレン。


「え〜、やるの〜?」


 散々見てたでしょうに。


「とーちゃん!」


「オレに言うなよ」


「なんで、こんなに元気いっぱいなのさ」


「型の応酬だけだしな」


「それだけ?」


「姫さんは、基本に忠実だぞ。その辺の野盗は、軽くあしらえる」


 応用が駄目、と。


「ボクに、どうしろって?」


「だから。わたしと模擬戦だ♪」


 周りを見回せば、ボクを拝む人ばかり。


 つまり、なんとかしてくれ?


 ブランデさんとマイトさんを引き寄せた。


「ボクに押し付ける気?」


「姫さんに真面目に稽古付けられるのは副団長ぐらいなんだよ」


「他の連中は、やっぱり姫様だからって手控えるし」


「ブランデさんなら出来るでしょ」


「班が違うし」


 逃げたな。


「とーちゃん!」


「加減が難しいんだよ」


「根性無し!」


「何とでも言え!」


「ロナの腕なら、出来る! うまくやれる! だから、頼むよ」


 見れば、レンは剣を素振りしながら、今か今かと待ち構えている。


「ツケにしてあげる。あとで、ウォーゼンさんに搾られといて」


「「げっ」」


 絶句する二人を置いて、レンのところにいく。ハナ達は、あれ?


「おや? 賢狼殿らは、どうしたんだろう」


 走り始めた。ここから離れる時には全力で、近付いてくるときはゆっくりと。ダイエットマラソンのつもりだろうか。

 モフろうと思ってたのに。まあ、ちょっと太り気味だったし、それもいいか。


「しょうがないなぁ」


 レンと向かい合い、トンファーを構える。


 確かに、基本に忠実だ。と、思う。剣筋がとても綺麗だ。でも、軽い。この型は、重量級の大剣向けじゃないだろうか。


「とーちゃん」


「あ、え? なに!」


 なにを慌てているんだか。


「レンの剣は、誰が教えたの?」


「副団長だ」


 あ〜、なるほど。


「それが、どうかしたのかい?」


「うん。もったいないなと思って」


「「「何が!」」」


 おや。レンまで。


「ほら、レンの持ち味って、身軽さっていうか、スピードでしょ。この型だと、生かし切れてないっていうか」


「「あ」」


「そうなのか?」


 なんたって、メイドさん達の追跡をぶっちぎって遁走する足の速さだけは認められる。認めざるを得ない。不本意だけど。


「鍛えていても、女の子だし。破壊力より持久力重視の方がいいんじゃない?」


 と、剣とトンファーを打ち合いながら提案する。

 大振りを繰り返せば、すぐに体力が尽きる。最低限、自分の身を守ることだけに専念させれけば、味方の援護が到着するまで粘ることが出来る。さっきのメイドさん達と同じだ。


「副団長からは、筋は良いと、褒められた事が、ある!」


 うん。ボクにも判るくらいに、「型」にはまっている。


 まあ、戦い方は、ボクが考える事じゃない。騎士団と本人が決めればいいか。それじゃ。


「あ。ずるいぞ!」


 左右のトンファーで、受けたり流したり。レンが反動を受けないように、力加減を調整して、と。


「だから! そんなに、動き、回らないで、くれ!」


「え〜。いいじゃん」


 力を流しやすいんだもん。


 出来るだけ引き延ばしを計ったけど、半刻もしないうちに、レンがばてた。


「いやいやいや。すごいねぇ」


 ブランデさんが、またまた感心している。


「何が?」


「姫さん相手に、よくそこまで容赦なく、おほん、丁寧に、いや、しつこく」


 マイトさんが訳の判らないことを言う。


「だから、何が言いたいのさ」


「わからないか?」


 うん? 周りを見回してみる。


 ・・・わかった。よ〜く、わかった。


 目の前では、息の上がったレンの胸が、激しく上下している。簡易鎧越しにも、くっきりはっきりと。

 訓練にならない訳だ。レンにフットワークを効かせた撹乱戦をやらせないのも以下同文。


 男って!


「女性の騎士さん達は、相手してもらえないの?」


「彼女達は、個性的すぎて指導には向いてないんだってさ」


 マイトさんが、説明してくれた。


 これも、何となく納得した。力自慢の男に混ざって活躍できる女性騎士となると、ありきたりの剣技ではやっていけない。必然的に型破りな戦法になるのだろう。とはいえ、練習相手ぐらいしてくれても良さそうなのに。


「ほらほら。盗賊は待ってくれないよ?」


「「まだやるのか!」」


 やらいでか。


 何度も休憩を入れながら、レンの訓練に付き合った、もとい付き合わせた。

 結果、レンは、虫の息状態でメイドさん達に介護されている。これだけ運動すれば、少しは大人しくしているだろう。


 ちなみに、レンが一休みしているときは、見物人を引っ張り出してボクの相手をしてもらった。鼻の下が伸びている人を優先して選んでいたら、妙な冷やかし声は聞こえなくなった。よしよし。


「ロナちゃん。よく体力が持つねぇ」


「受け技しかしてないもん」


「いやいやいや! それだけで、あいつらがへたばるはずがない!」


 団員さん達は、得意な武器を手にして、それぞれのスタイルで攻撃してきた。いやあ、いろいろな方法があるもんだ。どういうわけか、そろってガンガン攻めてきた。

 ボクに勝ったらメイドさん達とデート、という話が広がった所為らしいが。


 でも、誰もがボクより先にギブアップしてしまう。力自慢の人ほど、打ち合う時間が短かった。つまらない。腕試しにならないじゃん。


「ねえ」


「なんだい?」


「とーちゃんとブランデさんも、相手してよ」


「「え!」」


「ブランデ、頼んだ!」


「マイト、負けたら許さん!」


 周囲から、次々と声が掛かる。


「「「頑張れよーっ」」」


「期待されてるよ?」


「ナーナシロナ様、存分に」


「よろしくお願いします」


 あらら。ボクにも応援がついちゃった。


「あ〜、二対一でもいいか?」


 マイトさんが、頭をかきながら確認してくる。慎重だねぇ。


「うん」


「先輩」


「マイト。やろうか」


 マイトさんは長剣で、ブランデさんは槍だった。それぞれ、ショートソードも持っている。本気? いいねぇ。こちらは十分体が温まっているし、準備万端。くふふ。


「トングリオ、審判たのむよ」


 ブランデさんが、ついさっき練兵場に出てきたトングリオさんに声をかける。


「・・・あとで、きっちり報告してもらうからな! では、はじめ!」


 マイトさんが、正面から来た。


「うわわわっ」


「わざとらしい!」


 レンと「型」の練習をしていた時とは剣速が違うんだもん。


 受けて、流す。でも、重い。腕がいいってのは本当に本当だね。


「くっそーっ。全部逸らすな!」


「やだよ。痛いじゃないか」


「なんで、俺の槍まで受けられるんだよ」


 そう。マイトさんの後方から、ひょこひょこと槍が突き出されてくる。マイトさんの体が盾になっているから、どこから出てくるか判り辛い。


「ブランデさん、器用だね!」


「練習したからね」


「相方を穴だらけにしたんでしょ?」


「人形は、ぼろっぼろになったけど。まだ死人はいないよ」


「手が滑ったなんて言わないでくださいよ!」


「ちょっとぐらい、いいじゃないか」


「オレは、嫌です!」


 言葉の応酬をしながら、剣と槍とトンファーもぶつかりあう。


 いままでの団員さん達とは違う。力押しじゃない。とにかく粘る。これはこれで、面白い。


「なあ、ロナ。あれだけ動いてたんだ。もう疲れただろ?」


 猫なで声で懐柔してくるマイトさん。


「もうちょっと頑張る」


「無理すんなよ」


「だって、お姉さん達の熱い声援もあるし」


 声援だけじゃない。視線も突き刺さる。そりゃもう、ぐさぐさと。手じゃなくて、鞭を軽く振ってる人もいるし。


「・・・」


 マイトさんの顔が強張った。


「ロナ! 嵌めたな?!」


「え〜。なんのこと〜?」


 勝てばメイドさん達から、負ければ同僚から、それぞれお仕置きが待っている。ようやく気付いたか。でも、もう遅い♪


「先輩! 気付いてたなら教えてくださいっ」


「俺だって知らなかったよ!」


「レオーネ殿下のお相手を勤めた報酬代わりだよ〜。追加訓練、楽しみだよねぇ」


「「ぎゃーーーーーっ」」


 引くに引けなくなった二人の攻撃を、サクサク捌く。それでも、攻撃精度は落ちない。流石精鋭。

 立ち位置を変えてきた。今度は前後に挟み撃ち。

 になりそうだったので、左右で受ける。さすがに後ろに目はついてないからね。背後から槍の一突き、は、勘弁して欲しい。


「ロナーっ。覚えてろーっ」


「やだよ。ちゃんと仕事をしてないとーちゃんが悪い」


「してるしてるしてるってばっ」


「なんで俺までっ」


「さぼりすぎるのもよくない」


「ひどいよっ」


 お。二人ともショートソードに持ち替えた。手数を増やすことにしたようだ。でも受ける。受け流す。


「このっ」


「器用すぎるよっ」


「そっちこそ」


 ブランデさんが上半身を、マイトさんが腰から下を狙ってくる。なので、時々体の向きを変えて、右左を入れ替えて捌き続ける。うーん、そろそろ苦しくなってきた。手加減間違えそう。


 あ、いいものがあった。


 ブランデさんが落とした槍の穂先を軽く踏む。すると、柄が跳ね上がる。だけど。


「ほげっ」


 絶妙のタイミングで、突進してきた所有者のみぞおちに食い込んでしまった。白目を剥いて崩れ落ちるブランデさん。足元を絡めとるだけのつもりだったのに。ごめん。成仏してね。


「ちょっと、ロナ?!」


「使えるものは何でも使う〜ぅ」


「だめだめだめーっ!」


 マイトさんは、ブランデさんの取り落とした武器もろとも遠くに蹴り飛ばす。


「じゃ、これも要らない?」


 トンファーを落とす。


「え?」


 それに気を採られた隙に踏み込んで、ショートソードを握る手を掴んだ。マイトさんに背を向けて、軽くしゃがみ込む。するってーと、前方につんのめるように体勢を崩す。あとは、勢いに任せて、


「そりゃっ」


「うわああああああっ」


 投げた。


 落ちた。


「〜〜〜〜〜!」


 ありゃ。また、やっちゃったかな? 声も出せないらしい。両手でお尻を抱えて転げ回っている。


「それまでっ!」


 ものすごく複雑な顔をしたトングリオさんが、終了宣言をだした。


「「「「キャーッ!」」」


「「「「うおーーーーーっ!」」」」


 前者はメイドさん達の歓声。後者は野太い悲鳴。聞きたくない。


「で? なにをやってたんだ?」


 トングリオさんが、のたうつマイトさんを無視してボクに声を掛けた。


「レンの相手してただけだもん」


「その辺に転がってる団員達はなんだ?」


「不埒者の成敗だよ〜」


 そう。不穏分子が正義の裁きを受けただけのこと。


「・・・」


 そこに、メイドさんの一人がトングリオさんに耳打ちする。


「「「「ちくしょーーーーーっ」」」」


「あんな小僧にやられるなんてっ」


「マイトですら瞬殺とはっ」


 背後には、夢破れて悔し涙を流す若手団員さん達。確かに、普通なら、この体格差はハンデになる。でも、ボクには当てはまらない。残念でした。


 それに。ヨコシマな妄想を原動力にした訓練なんて、本番で役に立つのかね。乗せたボクが言う台詞でもない、かもしれないけど。


「油断し過ぎでしょ」


「「「「「言うなっ」」」」」


「小僧とは失礼な。ナーナシロナ様は女性ですよ?」


 メイドさんが、敗者達にとどめを刺す。


「「「「「ええっ!」」」」」


 寝落ちしてしまったレンとボクとの間を、視線が行ったり来たり。そりゃ、ちいさいし、メリハリはないし。男の子に見えなくもない、かもしれない。


 ・・・悔しくはない、悔しくなんかないけどっ!


「ねえ。もう一本やっとく?」


「「「「「失礼しましたっ」」」」」


 マイトさんとブランデさんを担ぎ上げると、訓練参加者のみならず、ギャラリーまでもが全速力で撤退していった。


 とことん、失礼な人達だ。ぷんぷん。


「あいつらぁ。見た目だけで判断するなってあれほど注意しているのに」


「今回は、エサがよかったから」


 メイドさん達を振り向く。本当に、美人ぞろいだもんね。


「若い連中が、失礼した」


 トングリオさんが、メイドさん達に頭を下げる。


「こちらこそ、思う存分憂さ晴らし、いえ、訓練させていただきました」


 にこやかに答えるメイドさん代表。


「・・・」


 日頃の行いって、大事だよね。


「ナーナシロナ様。本日は、急なお願いにも関わらずお聞き届けいただき、ありがとうございました」


「お疲れ様でした〜。なんだけど、レンはどうするの?」


「このまま、お部屋にお連れします」


 汗だく、埃まみれのレンは、両脇からメイドさん達に抱えられている。そして、寝ている・・・。


「やり過ぎちゃった?」


「いえいえ。こちらこそ、お手数を煩わせてしまいました」


 メイドさん達は、爽やかにスルー。そうか、問題ないのか。


「これだけ相手したから、当分は持つと思うんだけど」


「そうですね・・・」


 何となく、その場にいた全員がレンを見てしまう。あ、よだれ。


「それでは、私達はこれで下がらせていただきます」


「お仕事、頑張って」


「「「「はいっ!」」」」


 メイドさん達の後ろをハナ達が付いていく。君達も息が荒いけど、どれだけ走り回ったんだか。無理するなよ〜。


「あー、それで、ロナ? 副団長が呼んでいるんだが」


 そうか。それでトングリオさんが出てきてたんだ。

 何がしたいのでしょうか、この主人公は。

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