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強引・ゴーイン

 武器を構えて、訓練場を突っ切ってきた。逃げ場のないところに自分達から突入って、何考えてるんだ。話を聞けば判るかな。


「何しに来たの?」


「うるせぇ! 恥かかされたって言っただろうが」


「ボク達の焼き串を取り上げたのは、おじさんの方じゃないか」


「なんだとう?!」


 いきり立つ、闖入者達。


「普段から、か弱い子供のおやつを取り上げようなんてみみっちいことばっかりしてるから、モテないんだ」


「関係ねえーーーーっ!」


「いや、だって。ごはん作ってくれる彼女が居ないんでしょ? だからって、構って欲しいからって子供に手を挙げるのはどうかと思う」


「違うって言ってるだろうが!」


「一緒についてきたおじさん達は、オトモダチかな? 寂しんぼが集まったって、むなしいだけじゃないの?」


「「「「余計なお世話だっ!」」」」


 連帯感があってよろしい。


「挑発するのも程々にしとけよ〜」


 訓練場の脇から、ヴァンさんが声をかける。


「違うって。現実を認識してもらうことによって、自覚を促し・・・」


「もう勘弁ならねぇ! やっちまえ!」


 だからさあ。自分より体格の小さい相手に、大の男が五人掛かりって、恥ずかしくないのかね。まあ、確実を期するなら、当然の手だけどさ。


「っ、加勢する!」


 ウォーゼンさんが、突っ込んでいった。その脇をかすめて、先に出る。


「お、おい。ロナ殿?」


 腹ペコ男とすれ違う時、左すねをトンファーで殴りつける。骨は折れずに、バランスを崩すだけですむよう加減した。


「はぶっ?!」


 男が前のめりに倒れそうになったところで、追いついてきたウォーゼンさんと鉢合わせになる。


「その人、任せる」


 証人は、一人確保できればいいだろう。ウォーゼンさんなら、旨く取り押さえられるはず。


「了解!」


「このちびが!」


 取り巻きの男達から、余計な一言が聞こえた。そうですか。いい度胸だ。


 真っ先にボクを叩き切ろうとした両手剣は、両手のトンファーで躱す。すかさず懐に入り込んで、正拳付き!


「はぐっ」


 ありゃ、トンファーの端がまずいところにバッチリ入った。なにせ、こちらは背が低い。攻撃範囲が、いわゆる急所になってしまうのは勘弁願いたい。

 小さいことも、たまには有利に使える。でもやっぱり腹が立つ!


 気絶した男に抱きつかれる前に、右手に脱出。そこにいた男に飛びかかった。


「てめえ!」


 こちらはナイフ使い。いやもう、縦横無尽に、もとい出鱈目に振り回している。おかげで、他の男達が援護できないくらい。ならば、今のうち。

 素早く前転して、相手の足元まで転がってから、両手を地面について、倒立の要領で足で蹴り上げる。


「おごおっ」


 ごめん。腹を狙ったつもりだったのに、また、急所に当たってしまった。


 残るのは、短槍持ち二人だ。突く、切る、払う、が揃っている。なかなか近づけない。うーん。リーチがあるのがこんなに厄介だとは。


「なにのんびりやってるんだよ」


 だって、実戦訓練にちょうどいいんだもん。遊んでいる訳ではない。ないったらない。


「ちょ、ちょっと顧問殿! 槍ですよ槍! おれ加勢してきます! っとおっ」


 オボロが、マイトさんの前に立ってしまった。当然、オボロに抱きつく体勢。さっきブラシ掛けたばかりだから、ふかふかでしょ。オボロも気が利く。後でお礼しなくっちゃ。


「おめえは、ミハエルの護衛だろうが。まあ、見とけや」


 ヴァンさんの台詞は、槍持ちの二人にも聞こえていた。


「バカにしやがって!」


 攻撃速度が上がる。うんうん、いいね。


 ボクの左右に陣取って、交互に槍を振るっていたのを、これまた左右のトンファーでちょんちょんと穂先を流す。


 槍を突き出すタイミングが僅かにずれた瞬間、


「なにっ!」


 一歩下がって、柄にトンファーを叩き付ける。そして、折れた! 安物だったのかな。


 男は、すかさず槍を手放し、予備のナイフを取り出し突き刺そうとしてきた。いい判断だ。人じゃなくて、魔獣を狩ればいいのに。


 慌てず、ナイフを握る手にトンファーを振りかぶる。


 ぶん!


「ぎゃあああああっ」


 今度は、手首の骨が折れた。

 またもごめん。ナイフを取り落とす程度に痺れさせるつもりだったのに。まだ、力加減が難しい。まいったな。


 飛び退ったもう一人が、ボクの背中めがけて、手にした槍をぶん投げる。でも、ちょっと遅かった。その時には、もう振り向いている。そして、ダッシュ!

 槍は、ボクの背後に力なく落ちた。ボクは、走り寄る勢いで、男の足元にスライディングを掛ける。


「わ、わわわっ。はぐっ」


 両足を掬われて、顔面からダイブした。ボクは、すぐに立ち上がって、大の字に伸びた男の背に飛び乗る。


「ぐへっ!」


 飛び乗った勢いで、一瞬、男の体がのけぞった。でもって、またも顔面ダイブ。大地との熱いキスに感激したらしい。手足を痙攣させて喜んでいる。


「勝利!」


 ボクに背を向けている焼き串男にも判るよう、大声で宣言してみた。・・・両手を上げたのは調子に乗りすぎたかも。


「だ、そうだが?」


「う、ううっ」


 ウォーゼンさんの剣が、大男の首筋に当てられている。勝負あったね。


「さて、この子を狙った理由を吐いてもらおうか」


「それも、ギルドの訓練場にまで乗り込んでくるたぁ、いい度胸だぜ」


 確かに。大胆すぎるにも程がある。遺恨沙汰に見せかけるにしても、場所を選ぼうよ。


「返事はどうした」


 ウォーゼンさんが、殺気を込める。


「こ、このガキには賞金が掛けられてるんだ!」


「「は?」」


「それも、ちゃんと死んだのが判るようにするのが条件だった」


「・・・どこの何奴がそんな依頼を出したんだ」


 ヴァンさんが、吐き捨てるように言う。確かに、それって、実行者は使い捨てにしますよって言ってるも同然だもんね。それに乗せられたおじさん達も、相当バカだけど。よっぽどの高額が掛けられてるのかな?


「ねえ。その賞金っていくら?」


「き、金貨、五枚だ」


「安いっ!」


「坊主っ。そうじゃねえだろうが!」


 だって、一人につき金貨一枚じゃないか。全然割に合わないよ。


「こっちに怪我人はいないかっ!」


 ようやく、ギルドハウスから人が出てきた。


「訓練場の入り口に居た奴らは、槍で不意打ちされた。命に別状はないが、しばらくは猟に出られない。この野郎ども、よくもやってくれたな」


 ガレンさんじゃないの。元気そうで何より。


「まさか、こんな手段に出るとはな」


 ウォーゼンさんも、ほとほとあきれている。


 兵士さん達もやってきた。散らばった武器を拾い、捕まえた五人を縛り上げて連れて行く。でも、自分の足で歩いているのは一人だけ。


「ま、まあ、彼らの自業自得だ」


「そ、そうですよね」


 ミハエルさんの顔は引きつり、マイトさんは、心持ち内股になっている。


「おめえも、もうちょっと手加減してやれよ」


「だから、練習したかったんだけど」


「ロナっ。怪我はないかっ?」


 レンが走り寄ってきた。乱闘中は、ツキが服を咥えて引き止めていてくれた。うんうん。偉い。ツキにもご褒美が必要かな。


「もう少し、練習したかった」


「・・・は?」


「あの、槍とのやり取りは面白かった。ウォーゼンさんは、槍は使わないの?」


「俺は大剣だな」


「おれも、剣、普通の剣だから」


 マイトさんが、必死にアピールする。


「んじゃ、剣でもいいや」


 マイトさんをじーっと見る。


「遠慮する!」


「とーちゃん、いいじゃん」


「騒動は、他所でやってくれ」


 ガレンさんが間に割って入ってきた。


「こっちのは、初めて見る顔だな。オヤジの隠し子か?」


「このっ! ガレン! てめえ!」


 ヴァンさんが、顔を真っ赤にしてガレンさんに食って掛かる。


「違うよー。ミハエルさん達に攫われて来たんだ」


「人聞きの悪いことを言わないでもらいたい!」


 ミハエルさんも、大声で訂正を求める。


「街道の盗賊討伐の協力者だ。あのサイクロプスを一刀両断にしたもの、この子だ。ナーナシロナという」


 ウォーゼンさんが、紹介してくれた。そこまで早口で言わなくても。


「ななしろだってば」


「おう。あんたが! ちっこいのにいい腕してるぜ」


「ちっこいは余計だ!」


「その手の言葉は言わない方がいい」


 ウォーゼンさんが、あわててたしなめる。


「そうだな。魔獣が獲れれば一人前だ。すまなかった。俺は、ローデンギルドのギルドマスターやってる、ガレンっていうんだ。あんたは、どこのギルドのもんなんだ?」


 相変わらず、度量のあるいい漢だ。ヴァンさんも見習うべきだ。それにしても、また、説明しなきゃならないのか。面倒くさい。


「ロナは、魔道具職人なんだ。それなのに、こんなに強いなんて。やっぱり、ロナは凄い」


 ボクが口を開く前に、レンが胸を張って自慢した。その部分は、立派だけど、立派なんだけど!


「は? 姫さんの知り合いか?」


「一応。ボクはハンターじゃない。どこのギルドにも登録してないし、そもそも身分証を持ってない」


「一応って、ロナ。ひどい。友達じゃないか」


「よっしゃーっ!」


 しょぼくれるレンをさらっと無視するのは構わないけど。ガレンさん? なぜ、そこで喜ぶ。


「うちで身分証作ってやっから。ちょっと待ってろ」


「なっ。要らないって! ハンターするつもりないんだから!」


「いやあ、有望な新人が来てくれた!」


「あ、待ってよ!」


 さっきまでの不機嫌さはどこへやら。ガレンさんは、上機嫌で受付に向かってしまった。


「ちょっと、ヴァンさん! 止めて」


「ああん? いいじゃねえか。自前で素材を採取する職人だっているんだ。ま、滅多にいないが。後で商工会に職人登録もできるぞ。だから問題はない。

 おめえは素材が売れる、おれたちは素材が手に入る。いい事尽くめだろう」


「どこが。それに、ボクは売りに来るとは言ってない」


「つれねえこと言うなって」


 またもヘッドロックを掛けられたまま、ギルドハウスに引っ張っていかれた。


「うう」


「姫さん、どうした?」


「わたしも、ロナと手を組んで歩きたい」


 マイトさんもレンも、いいから早く助けて。




 受付の登録機で身分証が発行された。仕上げに、抜け殻ナイフで指先を切り、登録機に血液を一滴落とす。その瞬間、ふわりとカードが光った。


 表に、名前と年齢、性別、発行都市名、発行組織名。裏面に特記事項。外見の特徴は一切書かれていない。


「なんで?」


「お歳を召されたり剃髪されたりすれば、判らなくなりますし、長命種ですと瞳の色も変わることがあります。なので、個人の識別は、血液、または毛髪の情報が用いられる、のだそうです」


 DNAとかなんだろうか。


「こちらが、ナーナシロナ様の身分証となります。討伐報酬の振込手続きを行いますので、今暫くお待ちください」


 げ。そういうものもあった。


「身分証は、重複発行は出来ません。また、紛失、破損等による再発行の際には手数料をいただきますので、ご了承ください。

 特記事項は、任意で非表示にできます。切り替えは、ご本人様のみ操作できます。ただし、懲罰履歴だけは非表示にできません。人によりましては、勤め先の商会名ですとか、ご家族の方の名前を記入している方もいらっしゃいます。それらの記入は、随時、身分証発行カウンターで承ります。

 また、口座の残高も、特記事項に含まれます。振込、払出は、ギルドハウス、商工会館、市民登録所にて可能です。身分証簡易確認機設置の店舗でしたら、口座への入金、口座からの支払いも可能です。

 なにか、ご質問はありますか?」


 ん?


「この、裏面の記号は?」


「それが、特記事項です。初期設定では、罰則履歴以外は非表示になっています。また、受付担当者は、守秘義務がありますから、ご本人様の許可なく非表示項目を他の人にお知らせすることはありません。ただ、残高情報なども記載されてますから、ご覧になるときは、他の人には見られないようにした方がよろしいですよ?」


「はい、ありがとうございます」


「また、いつでもお聞きになってくださいね」


 身分証カードを手渡すと、先ほどまでの営業スマイルとは違う、優しい口調で話しかけてきた。手まで握りしめている。


「あの、手、放して」


「ああっ。可愛いーーーっ」


 なぜか、集まってきていたお姉さん達から黄色い悲鳴があがる。


 とほほ。もうじき十六になるってのに。


 いやいや。こんななりでも、精神年齢は、二十九! 永遠のアラサー! ・・・、自分で言ってて虚しくなる。


「そうなんだ。ロナは、かわいいんだ」


 手続きの間、カウンターの後ろをうろうろしていたレンが、受付のお姉さんの台詞に飛びついた。


「そうですよねっ」


 お姉さん達は、かわいいモノも好き。でも、なんで、ボクが?


「こんなにかわいらしいハンターは、先代の顧問様以来です。もー、うれしい」


「そうなんですよ。むさいおじさんと口うるさいおじいさんばかりで、最近はいい男もめっきり減ってしまって。目の保養も出来なかったんです」


「買取とか、依頼受領とかなくても、カウンターに遊びにきてください!」


「お菓子とかたくさん用意して待ってます!」


 お姉さん達の目つきが怖い。獲って喰われそう。


「き、気が向いたら」


「いつでもいいです!」


 遠巻きに見ていたハンター達からは、ブーイングが。


「受付のねーちゃん達、なんで、あんなに嬉しそうな顔をしてるんだ」


「俺、初めて見た」


「かわいい? ただのちっこい坊主だろうが」


「どこに目を付けているんでしょうね。ハンターの名が泣きますよ」


「ナーナシロナ様は、女の子なのに」


 お姉さん達の軽蔑のまなざしに、オヤジどもがたじたじとなった。


「えーっ」


「どう見ても、男の子・・・」


「本当かよ」


 そこのおっさん達が、うるさい。放っておいてよ。


「美少年顔の美少女なんて、萌えるーっ」


 一方で、お姉さん達のテンションは上がりまくった。


 やめて〜っ!

 ものすごく頭の悪い人が登場してしまいました。即、退場!

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