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浪漫飛行・・・?

 雨は上がった。日も暮れた。


 アンゼリカさんは、いい加減ずぶ濡れ状態に嫌気がさしたから、ではなく、拠点に連れて行くことを条件に、やっと小屋の浴室を使うことに同意した。


 ええ。根負けしましたとも。


 三人組がまーてんまで歩いて行くなら、わたしが同行した上、天災その他諸々の障害がなかったとしても片道二月は掛かると見ている。

 もうすぐロックアントの暴走シーズンが始まるってのに、そんな悠長な事をしている暇はない。


 やりたくない。やりたくはないが。


 夕飯前、ヴァンさんとウォーゼンさんに、酒瓶を一本ずつ差し出した。アンゼリカさんの様子を見てて貰うための賄賂だ。


「こんなもんなくたって目を離す気はねぇが」


「説得できずに申し訳ないくらいなのだが」


「移動するための準備をしたくてさ。アンゼリカさんには邪魔されたくないの。飲んで歌って騒ぐとか、つまみの追加を頼むとか」


「「・・・」」


「とにかく、頼むね」


「こちらこそ。手間を掛けさせてすまない」


 ウォーゼンさんも巻き込まれた被害者だってのに、頭を下げている。本当に全くもってけしからん。レンもアンゼリカさんも、後で覚えていろ! 怒りパワーをバネしにて、いつも以上の集中力を発揮していた。気がする。


 翌朝、移動用の新作をお披露目した。


「・・・ななちゃん。これは、何?」


「何って、駕籠」


 蔵仕様のコンテナは、ぶら下げて運ぶには流石に嵩張る。


「五樹殿に背負わせる気か?」


「それは無理だろう。橇、でもないな」


「だから、駕籠だってば」


 外見は車輪のない小型の馬車、進行方向に向けて二列三席を配置したので、中だけ見ればハンドルのない自動車に見えなくもない。

 ただし、プレハブ小屋同様、窓はない。


 そして、目を引くのが屋根に取り付けられた太い棒。


 これは、わたしが握るための持ち手だ。こんなもんを背負って、この先延々と続く鬱蒼と茂る藪を突っ切る気はこれっぽっちもない。

 飛んで行ってしまえば、障害物の問題は解決する。窓を付けなかったのは強度的に不安があったから。ついでにわたしの腹を野次馬にさらけ出す気もないから。


 テスト飛行は、三人が寝ている間に済ませてある。これでも文句があると言うなら、問答無用でローデンに捨ててこよう。


「さあ、乗って乗って。手荷物は座席の下に仕舞って。忘れ物はない? そうだ。移動中は席を立たないようにね」


「え、え?」


 テキパキと座らせ、グリーンブラザーズに再びサポートをお願いする。三葉さんだけは、九卯と同行してもらう。万が一わたしとはぐれた時の道案内役だ。


 最後に、オプション諸共プレハブ小屋を収納して、準備完了。


 それでは皆さま、空の旅へ、ごあんなーい。




 半刻ほどで深淵部に差し掛かる。九卯に合わせて比較的ゆっくり飛んだお陰か、今の処、乗客からの苦情はない。足元に見える密林に夢中なのだろう。


 ふふふ。実は床だけシルバーアントの薄板を張っておいたのだ。ロックアントの梁を入れてあるので強度は十分だ。


 かくいうわたしは、腕が疲れてきた。軽量化の術具を仕込んであるので重くはない。でも、普段はこんな姿勢で飛ばないからね。残り半分はもう少しスピードを上げるかな?


 トン、トトン、トン


 おや?


 非常時用の合図が鳴った。出発前に、何かあったらまず壁を叩けと言っておいたのが役に立ったようだ。だが、不測の事態に思い当たる節がない。


 耳に下げたスピーカー術具をオンにする。


「ロナ殿、申し訳ない、止めて、もらえないか?」


 はい?


 現在地がアマゾンも真っ青な密林上空であることは、床窓からくっきりはっきり見えているだろうに。目視できる範囲にわたしの巨体が降りられるような空き地は見当たらない。ホバリングするよりは、移動していた方が体感は安定するはずだし。


「気持ちが、悪くて、な」


 ウォーゼンさんが、ボソボソと現状を訴えてきた。


 あー、乗り物酔いか。エチケット袋ならぬ蓋付きエチケットバケツを渡しておいたから、臭いで同乗者が吊られ酔いせずに済むはずなんだけど。


 駄々っ子アンゼリカさんの相手をする気がなかったので、わたしから話しかけられるマイクは用意しなかった。そもそも、スタジオマイクを取り付けた馬鹿でかいドラゴンヘッドを想像したら、思った以上に間抜けな格好だったので即却下したのだが。


「ロナっ! 早くここから離れろっ! 重度の魔力酔いだっ!!!」


 え?


「こないだよりひでえ状態だぞ、俺もいつまで持つかわからんっ。いい加減椅子から降ろせってんだぁうげ」


 あ。


 あははは。


 すっかり忘れてましたねー。


 ロックアント板は魔力を弾くが、密閉されていなければ効果は半減する。少しでも乗り物酔いになりにくいように換気用の空気穴を付けておいたのが仇になったようだ。

 でもって、[魔天]に馴染みのない人がいきなり魔力の濃い土地に放り込まれたら、十中八九、それなりに、まあ間違いなく。


 ・・・・・・どうしよう!


 地下基地跡地のある辺りは発達中の巨大積乱雲に覆われている。わたし一人ならともかく、ロックアントに天然の雷耐性があるかどうか確認したことがないので安全を保証できない。うっかり内部が電子レンジ状態になったりするかもしれない。

 そもそも今の体調で乱気流に揉まれたら、確実に悪化する。


 ここから一番近くて頻繁に立ち寄って魔力の弱い場所としてとっさに思いついたのは、魔道具を作る時に使う山の洞窟だった。


「三葉九卯を山に案内してわたしは先に行くっ!」


 駕籠の持手を握り直して全力でかっ飛ばす。四半刻も掛からないうちに洞窟のある山の斜面が見えてきた。

 大小の洞窟の手前に五樹が歩ける程度の幅がある細い岩棚があり、ゆるく左手の傾斜を登った先には、一転して高原植物が生い茂る草地が広がっている。


 この時期にしては珍しく、まとまった雪が降った直後だったらしい。それでも山羊達は移動することなく、ここそこで雪を掘り餌を食べていた。

 急接近するわたしの姿に慌てふためく山羊の群れに内心で謝りつつ、草地の中でもほぼ傾斜のないところを選び、そっと駕籠を下ろす。


 九卯はやや遅れて到着した。頑張ってついてきた。まではよかったが、最後の最後についうっかり吹き溜まりに着地しようとして、埋もれた。

 [南天]は、ほぼ熱帯亜熱帯な気候で高山もない。九卯は、そこで生まれ育った所為で寒いところが苦手なのか、小さく震えている。


 『楽園・改』を使った。結界の中の雪はあっというまに溶け、勢いを取り戻した草が柔らかく葉先を揺らす。

 これで、取り敢えず九卯は快適に過ごせる。


 駕籠にしつらえた椅子にリクライニング機能はない。病人には横になれる場所が必要だ。

 駕籠の横に、プレハブ小屋を出す。柔らかい地面に小屋が傾いだので、ロックアントの厚板を基礎石代わりに置いてみる。よし、なんとかなった。

 洞窟前の岩棚ならばそんなものは必要ないが、あそここはプレハブ小屋を置けるほどの奥行きがない。小屋ごと崖下に転落したら、目も当てられない。


 かんぬきを外し車内に入れば、三人とも気絶していた。嘔吐物で窒息していなかったのは、不幸中の幸いだ。


 グリーンブラザーズは、いきなり具合が悪くなったサポート相手に何をしていいかわからず、とにかく椅子から落ちないように頑張った。らしい。


 それぞれプレハブ小屋の寝床に運ぶように頼み、働きを労った。報酬は、全部終わった後でね。


 山羊達には餌場を塞いで迷惑を掛けてしまった。後で、牧草替わりになりそうなものを探してこよう。


 さて、次はどこに手を付ければいいんだ?


 ・・・もう一度言う。何度でも言うぞ。


 アンゼリカさん、覚えてろーっ!


  覚えてろーっ!


   てろーっ!


    ーっ!




 ヴァンは、うっすらと目が覚めかけた。口の中が乾いている。誰かが体を支えて起こした。差し出された容器に口をつけ、少しずつ飲み下し、ようやく頭がはっきりしてきた。


「あ。あ〜。ありがとよ」


 コップを差し出し、飲みやすいように介助してくれていたのは、緑色の蛇だった。


「世話になっちまったな。アンゼリカとウォーゼンの具合はどうだ?」


 グニグニと身振りで教えてくれようとしている。のは判るのだが、何を言いたいのか、さっぱり判らない。目や耳の動きでものすごく判り安かった黒助と蛇もどきでは、勝手が違う。


「ロナは外か?」


 最上段のから下段の寝台の中は見えないが、室内の配置はよく見える。


 寝台の向かい側に調理台が設えてある。今は「引き戸」とやらで見えないよう隠されている。その左手、寝台の足元側には、トイレとシャワー室が、やはり目立たないように作り付けられている。使う水や排水処理にはロナ「特製」の魔道具が使われていて、井戸も下水道も一切必要としない。

 雑多になりがちな調理道具や材料は寝台の頭側にある「ロッカー」の中に、それぞれが持ち込んだ荷物一式は寝台最下段の引き出しの中にしまえるようになっている。

 窓がないにも関わらず眩しすぎず且つ細部が見える程度に明るいのは、あちらこちらに魔道具の灯があるから。


 機能的すぎて殺風景ではあるが、至れり尽くせりとはこのことかと思い知った。

 ウォーゼンが目をつけるのも無理はない。


 部屋の感想はさておき、その作り主の姿が見当たらない。病人を放置せねばならないような緊急事態でも起きているのか?


 奇妙な蛇の踊りからは、何も判らない。


「まあ、この状態じゃ足手まといにしかならんか」


 再び寝台に横になる。今は、体調を戻すのが先決だ。


 それにしても。


 酷い移動方法があったもんだ。まさか「ぶら下げて」運ぶとは予想していなかった。


 ふわりと体が浮く感覚に、続いて足元から光が入ることに気付き、小窓の向こうの樹冠に目をやっていれば、あいつの落とす影が見えた。あんなけったいな形をした生き物は、他に考えられない。


「正体隠す気、ねぇんじゃねえか?」


 隣に座るウォーゼンには聞こえない程度の小声で愚痴を漏らす。だが、腐っても騎士団のトップを張る男だ。


「・・・ヴァン殿。「これ」はグリフォンの陰影ではない、よな?」


 樹々の形に誤魔化されてくれるほど鈍くはない。


「さあな。後でロナに聞いてみろよ」


 だが、素直に答えてくれるかどうか。


「うううむ」


 ロナの新しい従魔だとでも勘違いしてくれればいいんだが。


「「・・・」」


 はためく翼の動きの一つ一つに浮かれまくるアンゼリカが、俺の気遣いを台無しにしていた。

 俺も、初めて見る風景に少々浮ついていたことは否定しない。なにせ、[魔天]を俯瞰した人などそうそう居やしない。ワイバーンを駆る騎士だって、せいぜいが街道上空までだ。


 早すぎて地形も何もわからない。移動する方向や距離を覚えておこうと思ったが、無理のようだ。


「こうやって見れば、[魔天]も綺麗なところなのだな」


「綺麗だけじゃないがな」


 時折言葉を交わしながらも、足元から目が離せない。アンゼリカはどうやら舟酔いのようなものを起こしたようで、付いていた蛇が容器を差し出している。


 静かになってよかった。のか?


 ところが、だ。


 ある地点を過ぎた頃、急に俺も具合が悪くなり出した。普段から馬や馬車に慣れている筈のウォーゼンも同じらしい。

 それに、この感覚には覚えがある。


 俺よりも先に、ウォーゼンが壁を叩いた。


 だが、話している間にもどんどん顔色が悪くなっていく。


 アンジィは?


 席から投げ出された手に力はない。


「ロナっ! 早くここから離れろっ! 重度の魔力酔いだっ!!!」


 そして、気が付いた時には、ここに寝かされていた。


 あのやろう。俺達をどこに連れて来たんだ?


 頭のふらつきが収まったのを確認して、寝台から降りることにした。足元側にはしごがある。用意周到なんだか何なんだか。途中、ウォーゼンとアンゼリカの顔色を見て、峠は超えたようだと安心した。そのうちに目が覚めるだろう。


 更に部屋から出ようとすると、蛇、シィワだったか? が、止めようとする。


「遠くまで行きゃしねぇよ。外の様子を見るだけだ」


 何かあった時は部屋に引き摺り込むためだろう、俺の腰に巻きついてきやがった。

 主人に似て過保護なやつだ。


 音を立てないようそっと扉を開く。と。


 ・・・・・・


 外は、白かった。


 いや、小屋の前には青々とした草が生えている。いるのだが、くるりと線で切られたその先には白い世界が広がっていた。


 視線を巡らせれば、俺達が乗っていた駕籠と腹丸出しで寝ているグリフォンがいて、頭上にはどこまでも青い空が広がっている。黒助はどこだ?


 ぱたん。


「おい、シィワ。ロナは何処に行った。いや、ここに帰ってくるのか?」


 グニグニグニ


 これはなんとなく判る。


 当ったり〜前〜


 ・・・はぁ。待つしかねぇか。


 残る二人に目が覚める様子はまだない。腹、減ったなぁ。念の為に非常食を持ってきていて、本当に良かったわ。


 そして、夜になり、朝が来て、日が暮れる前。


 ぱたん。


「あれ? もう起きてたんだ」


「起きてた、じゃねぇ! 説明しやがれっ!!」


 思わず怒鳴り付けてしまった俺は悪くない。





「酷いなぁ。手持ちの材料が病人食に向かなかったから探しに行っただけなのに」


「伝言ぐらい残しておけっての」


「そうだよねぇ」


「他人事みたいに言うんじゃねぇ」


 部屋の中で物音を立てるのはまだ療養中の二人の気に触るだろうと、小屋の外で水麦、すなわち米の粥を煮ている。煮ながら、ヴァンさんの愚痴に付き合っている。


 気持ちは判らなくもない。人事不詳の状態で現在地不明な場所に放置されてしまったのだ。病人二人を抱えた中、不安もひとしおだったに違いない。一種の迷惑料として黙って受け取るべきだろう。


 昔取った杵柄、腐っても鯛。若い時分に[魔天]でぶいぶい言わせていただけあって、ヴァンさんの回復は早かったようだ。

 グリーンブラザーズに預けておいた蜂蜜入りドリアード根粉末ドリンクも、多少の効果があったと思われる。


 だけど。わたしの言い分も少しは聞いてもらいたい。


「ばかやろう。てめぇが真っ当な場所で暮らしていればこんなことにはならんで済んだんだろうが」


「なんだ。ヴァンさんはご飯が要らないんだ」


「そういう問題じゃねぇって言ってんのに〜〜〜〜っ」


 ヴァンさん達を寝かしつけたら、暇になった。後は気が付くまで待つだけだ。場所さえ選べば、体調が急変することはない。回復するまでの時間は人それぞれで、常に看護人が付いている必要もない。


 待っている間、対策を考えた。再び魔力酔いにならないような道具を作ればいいか。使い方とか機能とか、具体的を決めておかないと試作段階で暴発が連発する。だけど、そう簡単には思いつかない。素材もだし術具にするか魔道具にするかも迷うし。

 作るなら、まず酔っぱらいの胃にも優しい料理にするか。すぐに食べられるようになるとは思えないが、ないよりはマシだろう。


 だけど、遠征に次ぐ遠征で、大量にある食べ物が肉か魔力ドーピング食しか残っていなかった。

 流石に、いきなり焼き肉は食べられないだろう。病人食なら、やっぱりお粥がいい。東側の街にいけば、米がある。ヌガルなら山を越えればすぐだ。


 ただ、たまたま南北山脈東側の村の上空を通りかかった時、イノシシが収穫前の水田を荒らしていた。思わず飛び降りざまにサクッと狩って、夜明けを待って、村人さんに勝手なことをしてごめんなさい、と謝った。そうしたら、他にも大きな群れに狙われていて対策を考えていたところだったそうだ。ついでとばかりに、五樹を勢子にしてその日のうちに退治したら、水麦漬け豆その他食材を大量に分けてくれた。田舎の人達は、どうしてこう大盤振る舞いが好きなんだろう。

 わたしは助かったけど。


「それによ。これ、どうやって手に入れたか説明できるのか?」


 しつこいヴァンさんは、くつくつと美味しそうな匂いを漂わせる鍋を指差す。


「色々バレてるんだから今更気にしない」


「少しは自重しやがれっ!」


 生きのいいゲンコツを頂きました。無駄に元気なんだから。


「痛いっての。でもさ。具合が悪いままにはさせたくないし? パン粥が作れなかったんだから、仕方なかったんだってば」


「他にも材料はあっただろうが。ほら、果物とか」


「え? あったの?」


 今度は、地面に崩れ落ちてしまった。草が乾いていてよかったね。


「あいつらの荷物、中身を確認しなかったのかよ」


「どこにそんな手間暇かけさせてもらえる時間があったのさ」


 浮かれまくるアンゼリカさんの怒涛の勢いに、只々(ただただ)前進するしかなかった道中。そして、全力の反抗期。


「・・・」


 ヴァンさんが視線を泳がすってことは、大いに心当たりがあるってこと。


「二人が目を覚ます前に戻ってこられたから問題ない。それに、もう料理しちゃったんだから食べてもらわないと困る」


 とうとう地面に突っ伏してしまった。


「よーし。こんなもんかな?」


 トゲアリ製保温容器に注ぎ分けていると、ヴァンさんも漸く気を取り直したらしい。


「で、よう。せめて、ここがどこかは教えてもらえるんだろうな?」


「えー。二度手間になるじゃん」


「だからっ! 言葉を省くなって何度言えばいいんだよっ!」


 言葉通りなんだけど。


 首を長くして待っている九卯と五樹のご飯を作りながら、現在地の説明をすることにした。まだ寝ている二人にはヴァンさんに伝えてもらう。責任重大だよ?


 高い山の山頂に近い草地で、この時期山羊が草を食べに来る。草に紛れて沼が潜んでいるところがあり、足を取られたら這い出るのは至難の技だということ。見晴らしはいいけど斜面の先は崖になっていること。天候は変わりやすく、時折強い風が吹くこと。崖から落ちたら最後だということ。草地に続く岩場はわたしが作業場に使っていて、危ないから近づかないこと。などなど。


 指を下りながらブツブツ呟いているヴァンさんは、しばらく放置でいいだろう。


「九卯は、明日の朝からお使いに行ってね。ローデンの肉のおじさんのところだよ。覚えてる?」


 くう?


 だめだ。流石は鳥頭の子分。そんなところまで真似しなくてもいいのに。


「三葉、フォローよろしく」


 ぐに〜〜〜


 なにをぐずってるんだか、って、そうか。


「山羊の毛はボクが集めておくから」


 ぐににぃ


「山羊の毛って、なんだ?」


「三葉の趣味の材料。採取場所はここしか知らない」


「山羊を狩るついでじゃダメなのか?」


「ここの山羊、数が少ないんだよ。それに、抜け毛なら毎年集められる」


 増えすぎるのも問題だが、現状、草地が禿げない程度に収まっている。


 ぐにぐにぐにぃ


 ヴァンさんが余計な口を挟んだ所為で、強気に出てきた。時間を引き延ばす作戦のようだ。人の足下を見よって。くそう。


「・・・判った。三曲で手を打って。その前に、こっちの手伝いもお願い」


 びしっ


 先日手に入れた猪と鹿を解体する。三葉さんの補助のおかげでサクサク進む。瓜坊は五樹達にあげるとして、他はガレンさん行きで良いか。


 いやちょっと待て。


 どうやって九卯に運ばせる?

 保冷タイプのマジックボンボンは、ペルラさんに返却してしまった。収納カードを作るのは簡単だけど、賢者関連品は使用不可だし。


「ごめん。お使いはもうちょっと待って」


「どうした? 病気持ちの猪だったのか?」


 見物人のくせに、横槍だけはちゃっかり入れてくる。


「違うって。お使い用の道具を作るのにね」


 アンゼリカさん達の健康と安全を守る為の魔道具も必要だ。


「んなもん。適当でいいだろうが」


「生肉ぶら下げて[魔天]を飛んだりできないでしょ」


「飛んだらどうなる?」


「地元のグリフォン。ギエディシェ。メガネウラ。大小様々な肉食のどーぶつが四方八方から飛んで来てそこにロックビーの集団が参戦して」


 ある意味、豪華絢爛な飛行ショーと言える。


「判った。もう言わねぇ」

 なんで話が進まないの?


「作者が無能者だから」


 ぐはっ!


#######


 メガネウラ


 古生代に繁栄した巨大トンボ。ヘリオゾエアでは、翅開長一.五メルテほど。完全肉食の高速ハンター。

 ちなみにギエディシェは雑食性。


#######


 ロックビーは、縄張りに中大型の肉食魔獣が入り込むと全力で追い出しにかかる。

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