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わたしの、名前

 大きく弧を描いて宙を舞う樽。


 自ら其れに向かって首を伸ばすモリィさん。


 キャッチ成功!


 樽の運動エネルギーを相殺できず、顔が上を向いた。するってーと、満杯の中身は怒涛の勢いで流れ込む。口の中にいっぱいに溢れたそれに抗うことは叶わず、結果、大きく喉を鳴らして飲み込めば。




 ・・・・・ずずずずぅん。




 巨竜は、白目を剥いてぶっ倒れた。




「ふぅ。悪は滅びた」


「・・・違うと思うわ」


 倒れた方向も問題ない。顔が水に浸かって溺れる心配も無く、何より六実達を押しつぶしていない。


「あ、そうだ。協力ありがとう」


「どういたしまして! ・・・それで、これからどうするのかしら?」


「そっちの用件は後回しで」


「ええええええええぇっ?!」


 何故ならば、まだ後片付けが残っている。





 モリィさんに飲ませたブツは、超気付け薬、もとい二葉さん謹製、酔い覚ましを通り越した「最終手段!」ラベルの気絶酒だ。わたしが小瓶一本で悶絶する代物の原液を、一樽丸ごと一気飲み。これで更にハイになっていたら、わたしが本性に戻るしか手は無かった。いやぁ、効いてくれてよかったよかった。


 とにもかくにも。目先の障害(の片方)は沈黙した。


 だが、払った犠牲は大きい。


 五樹は、受身を取れないまま立木にぶつかり、そして翼がちぎれ飛んだ。そして、気絶した。外科手術など経験があるはずはなく、またどこまで飛んて行ったのか翼が見当たらない。傷薬を塗るぐらいしかできない。

 六実は、モリィさんのブレスの直撃は避けたものの、余波を受けて半身に火傷を負っている。きちんと手当てしようにも、火傷専用の薬がない。これだけの範囲に万能治療薬を塗った時、どれだけ痛みを感じるのか。いや、どこの治療を優先したらいいのか、判断がつかない。まずは、痛みのあまり暴れて更に傷を広げないように、麻痺薬と特製気絶酒を飲ませた。

 八重の脚は、乱暴な手段だが、骨まで見える傷口に万能治療薬を盛り付けて修復した。今は、薬の副作用である強烈な痛みに耐えかねて気を失っている。


 今までは彼らの意思で開いていたわたしの影に無理矢理干渉して、そっと中に横たえる。


 亜空間にアクセスするのとも感覚が違う。こう、自分の内臓に手を突っ込んでいるような。


 いやいやいや。今は、そういう事に気を取られている暇はない。


「そっちに怪我はない?」


 大立ち回りを繰り広げていた南天王さんに声を掛ける。彼女も、酔っ払いの馬鹿力で振り回されていた。毛並みが乱れまくってるし、八重達の血の匂いにかき消されているかもしれないし、自己申告してもらおう。

 未だに、「彼女」と呼ぶのも違和感ありまくりだけど。・・・だから、それどころではないと!


「ふふん。アタクシがトカゲごときに遅れをとるわけがないわ。あっちで受けた傷だけよ」


 鼻息荒く、威張ってみせる鳥頭。心配するだけ損だった。


「あっちって、ティラノさんのところ?」


「そうなの。あいつの様子を見ようとした時にね。あいつが近寄るなって怒鳴ってくれなかったら、あたしも穴だらけになるところだったのよ」


 ・・・[西天]の状況が想像できない。南天王さんに詳しい説明を求めても無駄だということは、以前の経験で嫌というほど判ってはいるのだが。もう少し、こう、なんとかならないのかなぁ。


 三葉さんは、モリィさんが暴れ出す前に南天王さんからわたしへ移っていたので無傷だ。


 あとは。


「一葉! 無事なら手を上げて!」


 四方に目を飛ばしたら、すぐに見つかった。駆け寄って怪我がないか隈なく調べる。

 全身に細かい擦り傷はあるようだが、八重達のような重症ではない。動きにもおかしなところは見られない。こちらも一安心だ。


 だがしかし。


 重症なのは、相棒達だけではなかった。


 自称導師様。


 彼は、もう、ダメだ。


 一葉さんは、できる限り保護しようとしてくれた。だから、一部を除いて傷らしい傷が見当たらない。


 しかし、頭部を見れば一目瞭然だった。

 ヘルメットが陥没し、片目が飛び出している。まだ息をしているのが不思議なくらいだ。


「ボクの声が聞こえるかな?」


「は。わたし、は、まだ、せいじゃ、さまの」


 残った片目を精一杯見開いて、焦点を合わせようとしている。こんな状態になっても、まだそれを言うのか。


「うん。今までよく頑張ったよね。それで。福音とやらは見つかった?」


 シルバーアント製といえど視界確保を優先して薄造りにした結果、かなり強度が下がっていた。

 モリィさんに殴り飛ばされた先の落下地点に曲輪から剥がれ飛んできた岩壁の残骸があった事、それに頭からぶつかった事、そして当たった角度も運がなかった。


「りゅ、うの、ひめぎ、みこそ、せいじ、ゃさま、におつ、か、えする、に、ふ、さ、わしい」


「ああ。大丈夫。今は寝てるだけ。王様達も怪我一つないよ」


 ほんの少し、ホッとした様子を見せる。


 崩壊した曲輪の中に、まだ結界が存在している。中でバカな行為をしていなければ、全員無事だ。そこは、ご隠居さんを信じておこう。


「でも、あなたはもう助からない。ボクにはどうにもできない」


 魔力も魔術も万能ではない。


「そ、うです、か・・・」


「ねえ。あなた自身が、今こそ聖者様の福音を願ってみたら?」


「・・・」


 彼の不運な体質が引き起こした出来事が、巡り巡っておのれに還ってきただけ。

 そんなことを思ってしまうのは、わたしが冷酷だから?


「そうだ。身分証は誰に預けてるの? 体を洗う時に確かめさせてもらったんだけど、あなたの持ち物の中には見当たらなかったんだ。落とした訳じゃないよね。間違いがないように名前を確認させてくれる?」


 身分証がなければ、街は出られても戻ることができないのに。ああ、王様達が五人もいれば大丈夫だったか。


「・・・あ」


 透明な雫が、頬を流れ落ちる。


 慎重に体を包んでいた布を剥いでいく。だが、彼の手足は動かない。ヘルメットと一葉さんが防御していた部分の隙間、頚椎がダメージを受けて麻痺しているのかもしれない。本当に、即死していないのが不思議だ。苦しむ時間が長引くだけだろうに。


 いや、わたしの対処が間違っていただけだ。


「内心では自称導師様(笑)って呼ばせてもらってたけどね。え? 自称したことはない? でも、みんな導師様としか呼んでないじゃん。だから、名前。・・・仕方ないなぁ。これからはダンディさんって呼ぶ。あなたに拒否権はない」


 わたしのセリフに、いちいち反応を返してはいたけれど、ますます呼吸は浅く、小さくなっていく。もう、声も出ない。


「意味はね、泥の塊、だよ。いやだ? 何言ってるの。泥は大事なんだよ? 植物の栄養がたくさんあって、みんな元気に育つようになるんだから。役に立ってるんだよ。重要なの。なくちゃ困るの。いい名前だと思わない?」


「あ、り、がと・・・」


 口元に耳を寄せてみれば、小さな声が辛うじて聞き取れた。


「どういたしまして」


 自分の抜け殻で作ったナイフ、白薔薇を取り出し、これ以上怪我が広がることがないよう慎重にヘルメットを分解する。


「その男、何者なの?」


「多分、モリィさんを酔っぱらわせた原因の人」


「そんな臭いのに酔っ払うトカゲもトカゲよね」


 鷲頭でもしかめっ面はできるらしい。

 しかし、全身丸洗いしたばかりだったのに、臭いとは。粗相の所為かもしれない。違うかもしれない。


「うん。そうだね」


 南天王さんとわたしの会話にも、もう答えない。答えることはない。


 わたしの指に逆らうことなく、ダンディさんの瞼は閉じた。


 レン達から引き離さずにいたら、あの結界の中に置いておけば、こんなところで骸を晒す羽目にはならなかった。

 怪獣二人がわたしに注目していたのだから、わたしだけがここからもっと遠くに離れていれば、この人は無事で済んだ。


 一葉も五樹も六実も八重も、怪我一つ負わなかった。


 そもそも、モリィさんがおかしくならずに済んだ。


 わたしは、いつだって失敗ばかりだ。


「お姉様? まだかしら。あいつのことが気になるのよ」


 そうだった。忘れてた。


「もう少し待っててくれる?」


「・・・もう少しだけよ?」


 レン達からは、南天王さんの巨体が目隠しになっている。

 ダンディさんを、彼の体を包むのに使っていた布や元々着ていた服、ヘルメットの残骸と共に『昇華』で葬った。何が起爆剤になっているかわからない体質の人を、ただ土に埋めただけでは後々不安が残る。

 粗相していた地面には、ロックアントの消化液を盛大に散布した。


 もう、彼がここに居た痕跡は、どこにも残っていない。


 わたしが呼んだ名前で、わたしが覚えている。それくらいしか出来ないわたしを許して欲しい。







 その辺のどこにでもいる貴族の三男として生まれた男は、過度な期待も無用の虐待も受けず、つまりはありきたりの子供として育った。

 だが、取り立てて賢くもなく体力魔力も平均以下の子供は、平凡であることを良しとしなかった。


 ある時、事あるごとに父親が口にする「聖者様」を褒め称えてみた。


「お前は、道理をよくわかっているな」


 初めて、満面の笑顔で自分一人だけに声を掛けてもらえた。


 母親や兄達からも、肯定の眼差しが送られる。


 だから、精一杯の言葉で繰り返し繰り返し。


 たくさんの人に聞いてもらえれば、もっともっと父親に認めてもらえる。


 誰もが自分を肯定してくれる。


 だから、より一層、繰り返し繰り返し。


 いつの間にか、「名前」を呼んでくれる人はいなくなった。


 わたしの、名前。


 名前は・・・。





「ロナ殿ぉ! ご無事ですかなっ!」


 パワフル無双な掛け声とともにじい様が降ってきた。


 ではなくて。


「早かったねぇ」


「それはもう! 作っていただいた岩棚が役に立ちましてな!」


 ・・・聞きたいことはそれじゃないんだけど。


「年はとっても技量はまだまだ若い者には負けませんぞ」


「ご隠居! 一人で行くなよ待てって言ったのに!」


 ハンターの一人が、借りた馬に乗ってきていた。


 どちらも軽快な蹄の音と共にある。


 ・・・・・・


「どうやって?!」


 怪獣達が暴れた時に確認した泥の深さは馬の背ほどもあった。その上をまだ水が流れているのだ。そう簡単に渡ってこられるとは・・・あれ? 馬の体のどこにも泥の後がない。


「良い具合に、渡り石ができましてな」


「こいつが優秀で助かったぜ」


 馬の首を叩いて褒めるハンターさん。心なしかドヤ顔に見える馬。


 南天王さんの体をぐるりと回って曲輪のあった辺りを見てみれば、曲輪跡地と両岸のやや上流側とを結ぶように、泥の海に浮かぶ立派な飛び石が配置されていた。

 枯山水の日本庭園でもなかなかお目に掛かれない規模だ。


 ではなくて。


 砕けた岩壁の欠片は、人が飛ぶには少々遠いけれど馬ならば辛うじて跳躍できる間隔で散ったらしい。


 なんという偶然。


「馬車は、ファタ殿とシィワ殿のご助力で運び出していただいている最中ですぞ」


 馬車は、結界が存在しているうちに一旦休憩所に引き上げていたようだ。なるほど。車輪が泥に埋まってなければ引き上げ作業は楽になる。

 飛び石伝いに運搬しようとしているのも見える。相も変わらずのパワフルブラザーズ。すごいぞ。


 ではなくて!


「んで。竜姫さんは?」


「おお。そうでしたな!」


 馬。グリフォンだよ? どうして近寄ってくるかな。人が乗っていても、警戒するもんじゃないの?


「あっちに倒れてるみたいだけど、グリフォンに負けたのか?」


 だったら、尚更勝っちゃった方に近づこうとするべきじゃないでしょうが。あんたたちも危険不感症か!


「ロナ殿?」


 安否確認が必要なのはわかる。わかるけどさ。


「死んではいないよ。寝かしつけただけ」


「「え?」」


「あれ以上暴れられたらそっちもただじゃ済まなかったかもしれなくて。とびきり強いお酒を樽ひとつ分一気飲みさせたんだ。そのうちに目が覚める、と思う」


「「・・・・・・」」


 人がそれをやったら、アルコール中毒で目を覚ますこともなくお亡くなりになる。

 バッドの酔い覚ましは、以前モリィさんにもちゃんと効果があった。気絶酒が人にも効くかどうか、マイトさんで試したこともある。だけど、ドラゴンが気絶酒を飲んだ後、どんな副作用があるか・・・。

 いやいやいや。弱気は損気。大丈夫。モリィさんにも明日は来る。きっと来る。


「それは。まあ。とにかく。あそこから引き離してくれて助かったよ」


「生きた心地がしませんでなぁハッハッハッ」


 だから。わざわざ震源地に乗り込んで来る心理が理解できない!!


「ダグの人達は?」


「ん? ああ。ローデンの兵士連中が手分けして左岸に運んでるよ。終わったら、俺達も右岸に移動する。もうじき、応援の班も到着するって連絡も来たってさ。街道の状態を確かめるんだと。

 そうだ、借りてた毛皮と魔道具は死守したけど、詰め物に使ったやつはダメだった。回収する前に結界に阻まれちまってな」


「来るならマイトさんとかユードリさんだと思ってた」


 大穴でトングリオさん。


「彼らは、作業の指揮から離れられませんでな」


「あんたの助手? 他の奴には見向きもしてくれなくってさ」


 二葉も四葉も、賢い賢い。わたしが頼みそうなことを率先してやってくれるなんて。・・・あるいは、この騒動を早く終わらせたいだけなのかも。


「怪我人は出なかった?」


「「ブッ」」


 二人して、吹き出した。なんだなんだ。


「ダグの方々にしてみれば、まごう事なき奇跡ですからな」


 あのツンツルリン頭から一斉に毛が生えてきたとか。それなら、確かに奇跡だが。


「揃いも揃って石の上から転げ落ちてやんの!」


「えーと・・・」

 

 驚きのあまりのけぞった勢いですってんころりん? うーん。強打するほどの高さはないはずだけど、頭の怪我は後遺症が出るってこともあるし。


「まだおとなしくしていらっしゃるようなので、今のうちに、ですな」


「[魔天]から脱出させたし、渡れるようにもなった。もう、放り出してもいいだろう」


 完璧な荷物扱いのおっさん達を横目で見ている。そうか、もう色々とフォローしなくていいのか。


「最後の最後で締まらないねぇ」


「誠に」


 おい。馬まで頭を振ってるよ。あの人達の行く末が、・・・どうでもいいか。


 ここで、「我々は聖者様の軌跡を見た!」とか胸を張ったりしてれば、多少は見直す・・・訳ないね。


「そうだ。ごめん」


「竜の姫君はご無事と先ほど伺いましたが、他に何か?」


「あの導師様、死んじゃった。一葉が頑張って庇ってたんだけど、打ち所が悪くてひどい怪我しちゃって。あんまり酷い見た目になっちゃって気の毒だから、穴掘って埋めた」


「左様ですか」


「あいつらに何て言うんだ?」


 ・・・・・・あれ?


「死なせたことを叱らないの?」


「ロナ殿だけの責任ではありますまい。儂が繰り返し警戒しておった末の事故、と申し上げましょうぞ」


「ちゃんとボクが言う」


「それなんだがな。あっちの騎士とも話をして、ロナはあいつらが目をさます前に離れたほうがいい、ということになったんだ」


 いやいやいや。元騎士団長様よ、もう少し状況を聞き出すとかしなくていいのか?


「何より、ですな・・・」


 見上げれば、グリフォンが見下ろしている。


「ねぇ。いつまで待てばいいのかしらん」


「とまあ、そういう訳でしてな」


「何とかしてきてくれ!」


 つまり。この二人は。


 出来るだけ穏便にお引き取り願いたいと促すための決死隊、だったのか。 


「モリィさんとの会話が、全部、聞こえてた?」


「ロナ殿が岩壁から飛んですぐまでの話は、全員が聴いておりましたぞ」


「岸に上がった後はわからねぇけどな」


 つまり、グリフォンの目当てがわたしであることを、ダグ組も知ったということだ。


「ダグだろうがローデンだろうが、ロナが行くところについてくるんだろ?」


「違うわよ。迎えに来たのよ。でもそういうことなら話が早いわね。さ、行きましょ!」


「え?」


 背後から握られた。


「よろしくお頼み申し上げまする!」


「ロナ〜、達者でなぁ〜」


「後のことは万事儂にお任せあれ!」


 勝手に話をつけるな!


「まぁかせてぇ〜♪」


 南天王さんも!


「ロナーッ。頑張れーっ!」


 曲輪跡地からは、見当違いの声援が。


「ちょ、ちょっと?! モリィさんがまだ!」


「あやつが居なければもう問題ありませんからなっハッハッハッ」


 今度は、ご隠居さんが壊れた。


 でも、だって、目が覚めた時に正気とは限らないでしょうが!




「なあ、ご隠居。これでどうにかできるのか?」


 ジントは、飛び去るグリフォンを見送りつつ、ボニス老に声を掛けた。


「避難所が崩壊したどさくさ、ごほん、混乱に乗じて誤魔化すしかなかろうて」


「・・・やっぱり?」


「他に手段がありますかな?」


 思わず同時にため息がこぼれる。


 命が助かった今だから、あれこれ考えることができる。

 ナーナシロナが供出した品々は、量もさることながら、どれを取ってもありきたりとは言い難い物ばかりだった。

 特に、岩壁が崩壊する寸前に展開されたあの結界。起動させたレオーネ本人が大混乱していたので、詳しい説明を受けていないことはわかった。


 ナーナシロナが、絶対に、隠れて何かやらかしていたとしか思えない。他に、やりそうな人物の心当たりが、ない。


 ダグの貴人達が、結界展開直後に気絶してくれて助かった。あの結界がどれだけデタラメな性能なのか記憶されずに済んだからだ。だが、目が覚めた時、あの術杖を引き合いに、ナーナシロナ本人を前にして聖者だの何だのと持ち出す可能性は高い。


 ボニス老は、遅かれ早かれ呪術師を始末するつもりではあった。ローデン王宮とその他の国々からも許可が出ている。曲輪の崩壊で混乱している今のうちにと赴いてきたのだが、ナーナシロナが死なせてしまったと、自供、もとい告白したのには驚いた。


 彼女らしからぬ不手際、とは言えない。ちょっとした城砦規模の防壁を体当たりで粉砕するような体力馬鹿な魔獣と竜を仲裁しつつ、どうやっても手も足も出せない荷物にまで気を配る余裕はなかっただろう。


 だが、ダグ一行への対応上は不利に働く。ただでさえ彼への粗雑な扱いに盛大に文句をつけていたのだ。妙なところで律儀なナーナシロナは、そこを突かれたら言われるがままにあれもこれもと差し出しかねない。


 そうなったら、それらは再び聖者の遺品などと称されて良からぬことに使われかねない。

 小砦をめぐる騒動の顛末は未だに頭の痛い問題となっている。これ以上、事態をややこしくして欲しくないのがローデン王宮の切実な願いなのだ。


 「四枚羽のグリフォンはナーナシロナと友誼がある」という情報を、たまたま宰相と同席していたウォーゼンからもらえたのは幸いだった。


 そう。


 一国の王であろうとも、従魔でもない野生動物のすることに手出しも口出しもできない。


 結界を使わざるをえない状況をもたらした存在であったとしても。問題児をダグ上層部からできるだけ遠くへ隔離してくれる都合の良い登場でもあった。

 自称導師様、ようやく退場。そして、主人公には新たなる試練が。


「もう、勘弁して」

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