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欲しくない土産

 やっと一葉さん達放してくれた。


 ぎちぎちに拘束されていたおかげで、肩が凝ってしまった。


 四葉さんは、まだ、びちびちと手の甲を叩き続けている。わたしがやったのではないというのに、いきなり低温に曝されたことが相当不愉快だったらしい。


 山に行けば、天然物がよりどりみどり。どこぞの常春の国のような[魔天]で雪を降らせても、誰も喜ばない。

 何より、意識して雪を降らせるなんて芸当は、今まで出来た試しがない。氷のつぶてならあるけど。つぶてというよりは、大人の頭ぐらいの大きさだったけど。まーてん周辺が穴ぼこだらけになったけど。


 それはさておき。


 騎士さん達は、雪だるまから解放されたとたんにぶっ倒れた。

 当然だ。こっそり痺れ蛾鱗粉を投げつけておいたのだ。うまく鼻に命中しなくて数発ぶつけたおじさん達もいるけど、死にはしない。だから問題ない。

 これで、ユードリさん達だけでも面倒を見ることが出来る。あの人数で中途半端に騒がれたら、取り押さえるどころか逆上して暴れる可能性もある。必要なときまで眠らせておくのが一番。


 ・・・やり過ぎたかな? まあ、いいか。


 薬も必要だろう。


 でも、低体温に効く薬草など知らない。ショウガみたいに食べて温まるもの。でいいか。

 皮膚用は、擦り傷とかかゆみに効くものが代用になるだろう。わたし自身は、人型であっても怪我をしない。痛い思いは何度もするけど。当然、シモヤケにも縁はない。だから、シモヤケ専用の薬なんか以下同文。


 あれこれ採取して戻ってくるだけの時間をおけば、「現場には居ませんでした」と言っても納得してもらえる。筈。


 誰にも気付かれないうちに、一葉さん達の連係プレーで、樹上から樹上へ移動した。見られてもわたしとは判らなかったとは思う。

 だって、緑の蓑虫だったし。さっきの仕返し? またもぐるぐる巻きにされて、ぐえ。逆さに振るのは止めてぇ〜っ


 動物達は、随分と遠くまで離れてしまっていた。いや。きちんと逃げた、というべきだ。偉いぞ。凍死したのは、直下の草や逃げ損ねた小さな昆虫だけだ。今度、ロックアントの内臓液を撒きにくるからね。


 ドードーもどき数羽を捕まえた。芋や果物、ショウガ、薬草も採取した。

 指輪にしまえば楽だけど、取り出す時の言い訳が面倒くさい。

 ちなみに、ペルラさんから預かったマジックボンボンは、ウサギとキルクネリエでもう満杯。どこにも余裕がない。


 さて。背負った分だけで足りるかな。




「やっぱりねーちゃん最高!」


「むぐむぐむぐぅ」


「俺も食べたいのに!」


「仕方ないでしょ。結界担当者。ほら、あーん」


「あーん♪ ・・・でもさぁ」


「あっちの魔術師さんの目が覚めたら交代すればいいでしょ」


「俺は! 今っ! 落ち着いてっ! 食べたい!」


「ボクの魔道具のままだと範囲が狭いんだから。ほら、一番いい肉だよ。あ〜ん」


「お。悪いな♪」


「ユードリ! ずるいぞ!!」


「ラバナエさん、そう思うんなら、替わってくれよ」


「俺に出来るか!」


 『楽園』なら、夜間の襲撃を警戒する必要はない。でも、もうすぐ、おじさん達ご一行(騎士付き)の目が覚める。その時、わたしの魔道具は見せたくない。わたしの弓ですら散々揉めたのに、魔道具となればどうなることやら。聖者様云々とか難癖付けられそうな気がする。その点は、ご隠居さんもハンターさん達も同意してくれた。


 とは言え、グリフォンもよだれを垂らす焼き肉の匂いが四方八方に広がるのも怖い。とても怖い。


 そこで、『爽界』の出番だ。人の臭いも料理の芳香もシャットダウンする優れもの。何より、今ではペルラさん工房謹製と認識されている。

 ただ、術具に納めたままではちょっと範囲が狭かった。運のいいことに、ユードリさんが、この魔法陣を起動させることが出来た。


 そう言う訳だ。


 それにしても、魔法陣の出力を調整するとは器用なことをする。使用者に最適化して作った術具ならば納得もするけど。


「ねぇ。どうやって結界の範囲を広げてるの?」


「う〜ん。元々の大きさを押し広げるように魔包石から魔力を引き出してる、みたいな?」


 ユードリさんも、うまく説明できないらしい。


「ペルラさんに教えたら、喜びそうだね」


「そうですなぁ。結界の範囲は魔法陣に任せて、魔術師は起動させるだけだと聞いたことがあります。そうそう、持続時間も魔術師が調整していましたな」


 術具と魔法陣の違いが判らない。


「俺は、今まで魔法陣を使ったことがないからよくわからないんだけど」


「あれ? 魔術師科の卒業じゃないんだ」


「適性があるのは知ってたけど、それよりハンターになりたかったんだ。術は見よう見まねで覚えた」


「ほう!」


「いるところには、いるんだねぇ」


「何がだ?」


 うむ、同士だ。仲間だ。わたしだけじゃなかった。来たれ、独学健闘者。


「む。う?」


 おや。ショウガ汁を飲ませる前に、目が覚めた。腐っても騎士団員。体力だけは備えているらしい。


 食事を終えたハンターさんと兵士さん達が、騎士さん達の面倒を見た。寒いと震える体を擦り、蜂蜜たっぷりのショウガ湯を飲ませ、手足の手当を施し、事情を説明し。


 違った。教育的指導と事情聴取、だった。


 危険極まりない夜の[魔天]でたき火をする羽目になったのだ。盛大に文句が出るのも無理はない。


 彼らは、一応、糧食と水を持参していた。が、ここにたどり着く前に残り少なくなっている。

 ただ、騎士さん達は、道中、導師様とやらが勧める飲み物は拒否していた。その勘を、なぜ国にいる間に発揮できなかったのか。

 ちなみに、彼らの護衛対象達は、普段から飲んでいたそうだ。


 騎士さん達への処置と聞き取りが一通り終わったら、次は、おじさん達の番だ。

 騎士さん達ほど苦しそうではなかったので今まで放置していた。もとい、後回しにした。負傷者の優先順位と言う物だ。おじさん達を虐めていた訳ではない。


 まず、手当をする為に服を脱がせた。


 分厚い生地をふんだんに使った衣装を、四苦八苦しながら、もといびくつきながら脱がせている騎士さん達。でもね、あなた達の同行者なんだから、面倒を見るのは当然でしょうが。ローデンの兵士が手を出したら、それはそれで問題になりそうな身分の人達みたいだし。


 一方のわたしとご隠居さんは、おじさん達の持ち物を検分した。追剝ぎということなかれ。遭難者の身元確認とか、装備の確認とか、そういうことだから。騎士さん達という立会人もいる。

 たるんだお腹が群れている様を見たくないからではない。ないったらない。

 

 値段が高そうな服、と言う事だけは判った。金糸銀糸でずっしり重い生地ばかりだし。下着さえ刺繍が施されていたし。おお、見たくない見たくない。


 尤も、「へいか」と呼ばれたおじさんの指輪だけは年代物で、紋章も彫られている。ご隠居さん云く、ダグ王家のものに間違いないとの事。身分証もゴテゴテと飾り付けられた、もとい紋章付きペンダント。


 ・・・うん。もう、何も言うまい。どこの誰とかは一切知らなかった事にする。無視だ、無視!


 それ以上に、重大な問題が発覚したのだから。


「ロナ殿? どうですかな?」


「うん。アレを使ってる」


 わたしが言う所のヤバ茶、その調合済みのブツを導師様が持っていた。


 導師様は、即座に、唇が紫色であるにも関わらず、素っ裸に引ん剝かれて代わりに荒縄でグルグル巻きに縛り上げられた。

 わたし、ではなく、ご隠居さんがやった。わたしも止めなかったし、他の誰も口出ししなかった。出せなかったとも言う。


 そして、剥ぎ取ったものを更に詳しく調べた。

 水とか糧食とかは、一切無し。アレしか持ってないって、どういうつもりだったんだ。


「コレを飲んでたから、ここまで来られた、んだと思う。で、それと引き換えに、体はボロボロ。帰りは、自力、では無理だろうねぇ」


「やはり、そう診ますか」


 元騎士団長さんは、団員の体調を見る目に長けている。一人でも不調だったら、作戦行動に支障をきたす。機動力となる馬に乗るにも体力を使うし、兵士は隊列についていけるだけでいい、というものではない。この世界は、そんなに甘くない。

 ハンターもそうだ。体調の良し悪しが生死に直結するのだから。


 それを、気力だけで[魔天]に侵入しようとは。人、それを、無謀を通り越して自殺行為と言う。


 騎士さん達の体調が復活したら、彼らに手分けして担がせることにした。こちらも、[魔天]初心者の兵士を抱えている。運搬まで面倒は見切れない。

 五樹達が警戒しているとは言え、油断禁物、なのが[魔天]なのだ。


 陛下と呼ばれていた男性以下、顔も体も蒼白で、なのに脈拍は多い。低体温症だけなら、脈拍数も下がる筈なのに。慣れない強行軍で体を酷使し、ついでに副作用が出始めているのかもしれない。


 わたしは、アレの中和薬など知らない。つまり、現状では手の打ち様がない。


「我々は、どうすれば・・・」


「そなたら騎士団員の責任者はどなたかな?」


 平兵士やハンターでは押しが弱い、ということで、ご隠居さんが交渉役を勤めることになった。厄介事は、偉い人に押し付けるに限る。


「・・・あそこに」


 ぶっ倒れた潰れあんまん、げふん、小太りなおじさんの一人を、震えながら指差した。


「だからさ。貴方達を指揮する人がいるでしょ?」


「班長が、彼、です」


「次席は、定められていません、ですはい」


 妙に腰の低い団員さんだ。


「では、誰か代表を決めてくれんかな」


「「「・・・」」」


 顔を見合わせ、すぐに背ける団員さん達。おい。


「何か、問題でも?」


「え、いや。その、ですね」


 モゴモゴと口ごもる団員さん達を宥め賺し、漸く聞き出せば。


「[魔天]でそんな悠長な事言ってられる余裕がどこにあるんだよ!」


「責任は背負わないで済むかもしれないぜ。命が無くなれば、そんな事は関係ないもんな」


 呆れた感想が、だだ漏れしている。


 前者は兵士さん達から、後者はハンター一同からだ。


「もういいじゃん。放って行こうよ」


「え?」


「そんな! 我々はどうすれば」


「知らないよそんなこと。自分で決めれば? ユードリさん達が居合わせたから、救護していたから、手当を手伝っただけだもん」


 騎士さん達は、おじさん達が目覚めた時、叱責されるのを恐れていた。


 事なかれ主義、あるいは厳罰指導。言われたことに従うだけで、自己判断力を磨いてこなかった結果が、これだ。


 街壁に守られた場所だけで暮らすなら、それもありだったかもしれない。


 でも、ローデンの兵士さん達が言うように、ここは[魔天]。デンジャラスで超ワイルドな生き物に満ちあふれている。各自が瞬時に判断して、尚且つ協力して、最善を尽くし。それでなんとか生き残れる場所。


「夜が明けたら出発しよう。あ、おじさん達が付いてくるのは勝手だけど、ボク達の邪魔はしないでね」


 見た目最年少のわたしなら、情に訴えればなんとかしてもらえる、と考えたのだろうが、わたしが一番厳しいのだ。歳は、げふん。言うんじゃない。


 足元が明るくなるまで、もう少し時間はある。たまには自分の脳みそを使わないと、腐るぞ。




 夜が明けた。


 痺れ蛾鱗粉の効果はとうに切れているはずなのに、おじさん達はまだ目が覚めない。というか、昏倒したままだ。

 静かでいいけどね。


 彼らに随行していた魔術師さんは、目が覚めるなり、ユードリさんが維持している結界に驚き、詰め寄り、代役を頼まれて歓喜し、そして、絶望した。


「うう、うううっ」


「まぁ。その。なんだ。きちんと学んだものじゃないからさ」


「でも、でもでもでもぉ」


 ハンカチを持っていたら、端を噛み締めてむきーっとかやりそう。学園出身者のプライドとかなんとか呟いてたし。


 騎士さん達には厳しい事を言ったけど、ユードリさん達は放置する選択は取らないと言う。協力してくれと頭まで下げられては、無視できない。というか、お持ち帰りした肉の山を指差して、「生肉を渡されても食べられない」とまで言い切った。おい。だから、全部料理したら、全部食べられた。おい!


 何より、飲み水が少ない。


 最速で[魔天]を出る必要がある。となると、この場で携帯できる料理を作り溜めするのが最善。途中で料理をする時間がもったいない。『爽界』を使うつもりもない。ユードリさんの体力が持たないだろう。騎士さん達も然り。

 アンゼリカさんのウサギも使う羽目になった。あ〜あ。お土産なくなっちゃった。


「昨晩、何もなかったのが不思議なくらい、危険な場所なんだぞ」


「遅れたら置いて行くからな!」


 ハンターさん達が騎士さん達を嚇している。いいぞ、もっと言っていい。


「ロナ殿、寝てないのでは?」


 各人が荷物の確認をしている。わたしも、たき火の始末を終えた。そうして、漸く結界を解除したユードリさんの分は、ラバナエさんがやっている。


「あ〜。ご隠居さん。俺も、なんですけど?」


 結局、ユードリさんは魔力多めの部位を優先的に食べることで、一晩頑張って結界を維持してしまった。

 携帯料理の作り置き分だけなら術具の『爽界』でと言ったんだけど、ご隠居さんとユードリさんの二人ともが、あいつらの前で術具は出すな! の一点張りだったから。


 若いって、いいねぇ。


 それでも、無理は禁物。今日一日は八重に乗って移動するよう、他のメンバーに懇願されている。肝心の八重は、渋々ながら引き受けてくれた。


「八重〜、二人乗りでもいいかな?」


 寝るつもりはないけど、休んでいるポーズは見せられる。ついでに、ユードリさんを振り落とさないよう、見張る事も出来る。だろう。多分。


「え? こんなちっこい馬にって噛むな痛い痛い痛いってば!」


 見た目はもっさりミニマムな八重だけど、脱いだら、ではなくて巨体パワーを凝縮しているから、更に凄いことになっている。本性のわたしも引き摺っていけるんじゃないかな?


 森の地面はでこぼこしている。小さな荷馬車でも、面白いように飛び跳ねる。そもそも、荷車を取り出すつもりもない。


 となれば、二人乗りしかないではないか。


「ふむ。そういうことでしたら、わしが負ぶいましょうかな」


 と、ユードリさんに背中を向けるご隠居さん。


「え? 俺、やですよ!」


「ボクも見たくない」


「ロナ殿を背負うと言っただけですぞ?」


 慌てふためくユードリさんに、追い討ちをかけるご隠居さん。からかうのも程々に。


「それもやだ」


 自動顔面鞭打ちなんか、誰が好んで受けたいものか。


 複雑な顔をしている騎士団員さん達は無視する。人事不詳の偉いさん達は、その辺の竹と彼らが着ていた服で作ったなんちゃって担架に乗せて、騎士さん達が交代しながら運ぶ。

 自称導師様は、ロープで担架に固定、ではなくて縛り付けられている。猿ぐつわも噛ませている。でも、誰も何も言わない。だから問題ない。ないったらない。


 鎧兜も、担架の上に積み上げた。あんなもん着たままじゃ、移動速度が遅くなるからだ。手は塞がるけど、そこはハンターさん達だけでなく、ローデン兵士さん達も精一杯の警護についてくれると言っていた。彼らの好意に感謝してよね。


「何、巫山戯てるんだ? 行くぜ」


 そう言って、元来た道を戻ろうとする。


「ちょっと待って。このおじさん達連れて五日で踏破、は無理でしょ」


 グロップさんに、待ったを掛けた。


 ピッチピチの兵士さんを連れて、ローデン間近の街道からここまでが四日だ。ヨレヨレ、ボロボロの騎士さん達が荷物を背負った状態だと、何日かかることやら。わたし達がいなかったら、途中でお亡くなりになっている方に百パーセント賭けてもいい。


 何より、一番肝心な水が保たない。


「それは、そうだが」


 ぴこん!


「ん? なんだそいつ。って、方向を示してるのか?」


「案内してくれるの?」


 一応、三葉さん通訳で、街道までの最短コースを指示する、と言っていることは判った。


 わたしや八重がガイドしてもいいんだけど、あまり出来すぎるところを見せるのもよくないか。


 ここは、お任せしよう。




 なまじ喋れない分、なにをやっても「そういう存在だ」で通せてしまう一葉さん達。いつも世話になって済まないねぇ。


 だからって。


「ぎゃーっ!」


「動くと危ないよ〜」


「動きません動きませんからなんとかしてぇ〜〜〜〜!」


 騎士さん達と兵士さん達の泣き声が響く中。


「このっ。ちょこまかとっ!」


「ユードリ! 凍らせっちまえ!」


「無理だって言ってるだろ?! 当てる前に逃げるんだからっ」


 ハンターさん達は必死で剣を振るう。魔術師さんは、風と火の魔術で糸を蹴散らしている。


「ひっ。ひぃい〜〜〜〜っ」


「巧いジョークだね♪」


「どこがっ!」


 うーむ。肩の力が、抜けるかと思ったのに、外してしまった。


「これはまた難しいですなっ」


 ぶん!


 風圧で吹き飛ばしただけじゃん。駄隠居の名に恥じないスカっぷり。


 なんでまた、面倒なルートを選ぶんだ。と、一葉さん達を問いただしたい。そりゃ、ロコックは植物型魔獣は見向きもしないから、一葉さん達は狙われないけどさ。


 わたし達が通りかかった樹々の上にあったのは、ロコックの巣だった。無数の子蜘蛛がわちゃわちゃと降ってくる。糸も垂らす。うっかり糸に触れれば、たちまち数匹に取り付かれる。放っておけば、全身を絡めとられて抵抗を封じられ、生きたまま子蜘蛛の餌になる。


 子蜘蛛の毒は弱い。とは言え、それなりに痛い。最初に張り付かれたユードリさんは、噛み付かれた直後叩き潰したけど、時遅し。トナカイのような顔になってしまった。あるいは、天狗かな?


 迎撃態勢を取ろうにも、敵に頭上を取られている。各個撃破するしか手はない。


 魔術師さんの術コントロールは素晴らしく精緻だった。人に貼り付きそうな糸だけを狙って、マッチほどの炎をピンポイントで当てている。なんか、嫉妬の炎がメラメラと・・・。


 それはさておき。


 糸を伝って本体が焼け死ぬこともある。そうすると、火が付いたまま落ちてきたりする。

 生きた線香花火のように、見える。儚いなぁ。


「ロナは余裕だなっ」


「Gに比べれば可愛いもんでしょ」


「「「どこがっ」」」


 Gのいやらしく油ぎったテカリと違って、子蜘蛛の真っ赤なグミみたいな瞳はキラキラしてて綺麗だと思う。


 彼らはどうやらふ化したばかりらしく、当然、空腹度マックス。グッドタイミングで巣の下を通りかかったわたし達一行は、質、量ともに彼らのお眼鏡にかなうものだったようだ。


 だからといって、素直に「いただきます」されるわけにはいかない。


 乱戦状態では、痺れ蛾鱗粉で無力化する事も出来ない。


 わたしは、対G兵器、じゃなかった、武器の投げ串を駆使し、さっくり叩き落とす。


 ごめんよー、ごめんよー。


「そこ! 後ろに下がると、危ないよ?」


「え?」


 足を縺れさせた騎士の一人が、背後の木にもたれ掛かろうとしていた。


 でも、その木には。


 あ。見上げちゃった。


「あぎゃーーーーーーーーーっ!」


 お母ちゃん蜘蛛が待ち構えているのを、きっぱりはっきり見てしまった騎士さんが絶叫をあげた。


 出産直後で疲弊していたのだろう。子蜘蛛達が次々と殺されていても、手出しすることなく、休憩していた木から移動しなかった。


 でも、木から飛び降りるくらいはできる。


 またまた、ごめんよー。


 手投げ槍で、彼女を木の幹に縫い付ける。


 キシャァァァアァアアアッ


 聞こえないはずの悲鳴が森中に響き渡る。


 なんだかんだで、ロコックの群れ一つ、全滅させてしまった。


 一葉さん達は、後でお説教だ。

 すんなり脱出、は、させません。


「作者も、お説教ね」


 ぎくっ。


 ♪♪♪♪♪♪♪♪


 読み辛い部分のご指摘を頂きました。ありがとうございます。出来るだけ校正しているつもりなのですが、行き届かなかったようです。

 折りをみて修正していきます。


 今後ともよろしくお願いします。

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