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置いてけぼり

 人も物も支援体制も整った。


 あとは、やる気だけ。


「ダグの阿呆どものアホ面を拝みに行こう!」


「「「「「「おうっ!」」」」」」


 気炎を上げ、勇ましく出発して行く工作隊の面々。街を出たら、ダグの巡回班に見つからないように、少人数に別れる。護衛もどきのハンターが同行し、薮を突っ切って行くのだとか。


 本当に、見つからないですむのかな。


「なんでこんな大掛かりなことになっちゃったんだろう」


 いいなぁ。わたしも行きたい。


「それよか。ロナ。さっきの掛け声はないだろう」


「そう? 最初の動機が「あれ」なんだから問題ない」


 わたしは行っちゃダメだというから、出発前にせめてもの応援をさせてもらった。魂の叫びがだだ漏れだったかもしれないが、それはそれで問題ない。ないったらない。


「おめえだけだろうが」


「そんな事はないです!」


「俺達も見てみたいんだ。そうだよな」


「「「おうっ!」」」」


 そう言っているのは、メイリス姉弟と元裸族、もといセメク村の生き残り達。


 彼女達は、あれから今までローデンで働いていた。訳ではなく、何度かシンジョ村や近所の開拓村との間を往復している。まず最初は、とにかくシンジョ村に薬を早く届けることと、体調不良の原因を知らせなければならなかった。

 幸い、セメク村の様に死んだ村はなかった。また、シンジョ村ほど目立つ病人もいなかった。だが、地下汚染の影響が広がっていることは誰の目にも明らかになった。


 ダグ以外(主にノーン)の治療師が張り切ったおかげで、病人は皆回復している。元気になったとたんに、作戦に参加させて欲しいとローデンに駆けつけようとしたのには少々手を焼いたらしいが。

 人が多すぎても、適材適所というか、効率よく作業できるとは限らない。そもそも、防具の数が絶対的に不足している。

 懇切丁寧に事情を説明し、村を作業員の拠点に使わせてもらいたいと「お願い」することで、ようやく収まった。

 拠点の維持も、立派なお手伝いだからね。


 そして、栄養失調気味から復活した元裸族は、メイリスさん達の護衛を務めている。


 ロトス君は、一連の騒動の中で魔道具作りに興味を持った。片っ端から工房を尋ね歩き、最後には、ペルラさんの工房、もといミゼルさんに弟子入りしてしまった。

 ちなみに、彼は騒動のどさくさに紛れてローデンの商工会で身分証を発行してもらっている。ご隠居さんと意気投合した結果、らしい。いいのか?


「ちょっと休憩してくる」


「休憩って、出発に立ち会っただけじゃねぇか」


 気疲れだっての。


「どちらに向かわれますの?」


 ペルラさんが目敏く声を掛けてきた。彼女も作業の合間の気分転換に、出発式の見物に来ていた。目の下のクマさんが、めじからを倍増させている。


 それにしても。門の外でやるから身分証を持ってこないといけないというのに、随分と人が集まっていたっけ。物好きだねぇ。


「散歩」


 六実が目を輝かせた。うん。なんだかんだで、ローデンに戻ってからは工房に籠りっきりだったもんね。どさくさまぎれで、わたしの従魔として入国した後、工房の庭で日向ぼっこ三昧。うらやましくなんかない。ないったら・・・。


「はっはっは。どれ、わしがお供いたしましょうか!」


「しっしっ。駄隠居さんに用はない」


 五樹が、わたしの真似をして尻尾で追い払う真似をする。遠慮なく叩いてもいいんだよ?


「ロロロロロナ?!」


 げっそりとやつれたライバさんが、わたしの仕草を見て慌てた。


「照れますなぁ」


 散々罵っているというのに、肝心のご隠居さんは堪える様子が全く見えない。ちっ。


「ねえ。ボクもあっちに行かせてよ」


「好き好んであんなところに入りたがる奴の気が知れねぇ」


 ヴァンさん、うるさい。


「ティエラには、良い経験でしてよ」


 孫娘に対する祖母の無情なコメントに、少しだけ胸が痛む。


 そう。地下道は、暗い。こびりついた汚泥で狭くなっていれば、尚更暗い。

 かといって、松明の持ち込みは出来ない。どこに可燃性ガスが溜まっているかも判らない。迂闊に踏み込んだら、即座にこんがりと焼かれてしまう。


 ヘルメットにヘッドライトを追加する案が出た。しかし、現時点で野外活動にも使用可能な灯の魔道具は、そこそこの大きさがある。

 わたしは、素敵暗視能力で照明いらず。だから、わたしに任せておけばよかったものを。


 灯の魔法陣は事典に記載されている。それを陣布に刺繍して、ヘルメットに収めて、ほどよく前方を照らすようにしたら、どういう訳か、たんこぶ付きになった。ついでに言えば、重量増し増しでバランスが悪くなった。きっと肩こりの原因になる。更には、今までよりヘルメットの整形時間が掛かるようになった。だめじゃん。


 わたしのキラキラステッキを改良したヘルメットも試作してみた。しかし。ガタイのいいおじさま達がファンシーにデコレーションされたヘルメットを被った姿など誰が見たいものか。耐久性で実績のある街灯を頭のてっぺんに乗せれば、それはそれで笑いは採れるだろう。

 そもそも、作業の邪魔だ。


 ならばとヘルメット全体を光らせる案を出した。最初の試着者には視界良好と喜ばれた。

 しかし、端から見たらあまりにも不気味すぎる、という理由により女性ギャラリーから却下された。暗闇に浮かぶ人魂もどきぐらい、いいじゃん。Gに比べたら千倍もましでしょうに。

 直後、男性一同からも全力で拒否された。年配の方々の悲しい光景を彷彿させるから。だそうだ。・・・自分の頭皮ではなくても、駄目なのか。


 加えて、陣布作成班からは、『爽界』だけで手一杯、だと悲鳴が上がった。それもそうだ。そうだった。下地となる生地も刺繍糸も、在庫ギリギリだし。言われるまで、すっかり忘れていた。


 とにもかくにも、作業員の安全確保が第一。魔道具での補助にも限界があるということで、急遽、生きたカンテラ、もとい光系統の魔術師が総動員されることになった。

 魔術師団所属のティエラさんが命令に逆らえる筈もなく、他国の術師さん達とまとめてドナドナされていった。


 でも、あの性格だから、チームを組まされた作業員さん達は、今頃きっと耳栓を欲しがっているだろうな。


 それは脇においといて。


「宰相さんから頼まれた追加分も作ったんだし。ちょっとぐらいいいじゃん」


 みんなもよく頑張った、と思う。


 職人さん達は、それはもう必死になって取り組んでいた。案の定、魔道具の製作では街のあちこちで小爆発が起きた。それを乗り越え、この短期間で求められた数を揃えた努力は称賛に値する。


 ちなみに今は、現在進行形で、ローデン王宮に集まった各国の作戦責任者達が、調整もとい駆け引きに喧々囂々やりあっている。使用した資材の代金とか、各国で負担する装備購入費とか、拠点維持費とか、その他諸々。全部後回しにして作業を進めたから。


 スーさんには、ツナギ生地の出所や陣布開発者の名前を絶対に出すなと念を押した。もし、うっかりを装ってお披露目したら、それが例え十年後だったとしても、その時は本宮を粉微塵に破壊してやると脅して。代金についても以下同文。


 それらの代金をさっ引いても、今回の装備は、一般人の平均年収ではとてもとても賄いきれない金額だと、誰もが口を揃えたそうだ。あれでこれな交渉の結果、各国騎士団が分担購入し、作業員に貸与することになった。作戦終了後は、各国での定時作業に使用するとか。

 作戦開始直前まで工房の工作室に引き蘢っていたミゼルさんは、その決定を聞かされた直後、土気色になった、らしい。でも、わたしは見ていない。だから知らない。


 回収する汚泥レンガは、作業完了後、参加人数や貢献度によって各国で山分けすることになっている。その一割がわたしの取り分だ。

 自分も参加するから、自分でかき集めた分だけちょうだい、と言ったけど、認めてくれなかった。寧ろ、現物支給が嫌なら、ダグの異変を的確に報告した報奨金を倉一杯押し付ける、と真顔で返されてしまった。

 なんて卑怯な取引なんだ。


 ほとんどの道具類の製作は終了したが、浄化用魔道具と『爽界』陣布は、続行中だ。

 浄化用魔道具は、まだ数が揃わないから。

 陣布は、想定外の注文が相次いでいるから。

 ダグの地下道では、頭の上から汚泥が落ちてくる。陣布までびしょぬれになったら、息をするどころではない。だからフルフェイスヘルメットが必須だった。

 でも、陣布は、口元を覆うだけでも使える。その手軽さから、各地の鉱山や迷宮が、坑道の有毒ガス対策用にと求めたのだ。

 確かに、これも人命に関わるものだし、ファッションよりは優先度が高い。ということで、残り少ない生地をせっせと加工している。


 ペルラさんが、息抜きをしたくなる気持ちもわかる。


 ツナギの人気も高い。布でありながら革鎧並みの防御力があり、体の動きを阻害しない。斬った張った稼業の方々、日々負傷の危険がある鍛冶職や魔道具工房に注目された。


 陣布や元となっている虫布は、表向き、ペルラさんの工房の専売特許となっている。だけど、作戦開始当時、他国貴族からの注文をキャンセルした分を含めても、在庫は残り少なかった。どさくさで倉庫一杯に詰め込んだのに、それも、もう少ない。何着縫ったのだろう。考えるのも恐ろしい。


 手持ちがないと騒いでいた刺繍に使う染色糸は、コンスカンタに都合してもらったミスリルで賄った。発動ムラは、ミスリル粒子のサイズが不揃い且つやや大きめだった為と判り、治療師さんの調合技術も投入されることになった。エッカさんにプレゼントしたすりこぎは、とても役に立った、らしい。筋肉痛に良く効く痺れ蛾製塗り薬も。


 わたしが持ち帰った汚泥レンガは、分離精製法の確立にサンプル提供した。かなり性能のいい魔導炉でないと歯が立たないとかで、熱血とは無縁の筈のコンスカンタ職人さん達がムキになっていると聞く。

 

 そんなこんなで、ある意味ではダグの不運なのだが、事態は周辺国の商いを活発化させた。

 新しい魔道具が大々的に使用されたとか、日陰者と言われていた系統の魔術師が大活躍しているとか、明るい話題がこれでもかと広まったからだ。


 ガーブリアの災害と違って、交易路が断たれなかったというのもある。


 人が動けば、物も動く。回り回って、財布が潤う。というのは、この世界でも同じらしい。


 予見された災難を防ぐという名目だけでなく、近年にない商機と見て遠方の国々も挙って名乗りを上げた。というのが実情だ。




 わたしは、不満だらけだ。


 本当は、工作隊に紛れ込むつもりだった。だが、無駄スキルを極めたご隠居さんに捕獲され、そのまま工房に連れ戻された。


「ボクの復讐〜っ」


「なにもおめえが出場らなくったって、あいつらは相応に恥をかくんだからさ」


 ヴァンさんが、慰めにもならないことを言う。


「誰に気兼ねすることもなく自作の魔道具使い放題出来たのに。それだけじゃない。思う存分、体を動かす絶好の機会だったのにぃ〜〜〜っ!」


「工房で、魔道具をあれだけ作ってて・・・」


 ミゼルさんは絶句し、刺繍をしていたペルラさんの手は止まった。


 今回の騒動で、ペルラさんの工房の存在は、各国上層部以外にも知れ渡った。当然、注文件数はうなぎ上りで、文字通り休む暇がない有様だ。成り行きで工房に雇われた開拓村の人達は、稼ぎ口が増えたことを双手を上げて喜んでいる。

 でも、責任者のペルラさんは、終わりの見えない納期に、しばしば魂を飛ばしている。そもそも、素材の在庫は後わずか。

 まあ、その、なんだ。頑張ってね。


「魔道具の件は理解できますが、体を動かす、とは?」


 ご隠居さんの気になるところは、そこですか。


「練兵場で怪我人続出とか、近隣の猪や狼が全滅とかの方が良かった?」


「やるんじゃねぇ!」


「冗談だってば」


「おめえのは冗談に聞こえねぇんだよ!」


 ヴァンさんに怒鳴られてしまった。


 あと二月もすればロックアントが湧いてくる。それまでは雲中飛行で我慢しよう。


「そういうことでしたら、[魔天]で狩りでもしますかな?」


 行ったら、見境なくジェノサイドしそう。食べるつもりのない動物を、いたずらに苦しめる趣味はない。ロックアントだって、余すところなく有効利用している。ただ、数が多いから思いっきり発散できるというか何というか。

 だから、今、狩りに出る理由がない。散歩でいいんだ、散歩で。


「新兵の野営訓練にもなりますね」


「では早速」


 あれ?


 唐突に、ミゼルさんとご隠居さんの新旧団長会議が始まった。


「そういうお話は、官舎に行ってからにしてくださいませんか?」


 ため息混じりのペルラさん。わたしも大いに同意する。


「工房は、わたしの職場でもあるから問題ありません。それに、ここは抜き打ち訓練を検討するのにうってつけなんです」


 二足わらじのミゼルさんは、すっかり開き直っている。


「確かに。聞き耳を立てる者はおりませんからな。ハッハッハ」


 付け加えるなら、騎士団とは無関係の傭兵によって厳重に守られている。更に、蔦四葉さんの防御もある。

 下手をすると、王宮よりも堅固、かもしれない。


「勝手にすれば?」


「って、どこに行くんだよ」


「だから。散歩」


「お待ちくだされ! 準備に時間を頂きたく」


「ボクを巻き込まないでよ。引率なんかしないからね!」


「ななちゃん。お土産なら、ウサギがいいわ」


 がたたたたっ


 わたしは、テーブルに手を掛けて、転倒は免れた。すがりついたとも言うけど。

 大多数は、見事にスッ転げた。


 アンゼリカさんの無差別攻撃、恐るべし。


「女将ぃ〜〜〜っ!」


 床の上から、幽鬼のように唸るヴァンさん。


「だって。最近、塩漬け肉ばかりで飽きたんだもの」


 人が集まるのも善し悪しで、特に食料関係は深刻だった。


 ローデンでは、あっという間に生鮮食品が品薄になった。農産物は収穫期が決まっている。郊外に生息する動物を根絶やしにすることも出来ない。

 ほら、賢者様の教訓には逆らえないから。


 ローデン商工会は、ダグとは別の理由で品集めに奔走する羽目になった。しかし、大量の荷物を乗せる馬車は、それなりに足が遅い。当然、日持ちする物しか運べない。


 腐った肉を持ち込まれても、誰も嬉しくないもんね。


「そういうことでしたら。ナーナシロナ様、こちらのテストもお願いしますわ」


 ペルラさんが投げて寄越してきたのは、冷却機能付きマジックボンボンと、軽量化リュックのセットだ。刺繍職人の手が増えた時に、練習も兼ねて試作したとは聞いた。それにしても、何個あるんだ?


「自分でやってよ」


「あら。ハンターにも依頼してますのよ? ですが、出来るだけ多くの人の感想が欲しいのですわ」


 『爽界』に比べれば遥かに簡単な刺繍、とは言うものの、魔法陣は魔法陣。作り手毎に、微妙な差が出るのだという。だからって、わたしに押し付けるのは止めて欲しい。


「新人さんに任せれば?」


 ミゼルさんに押し付けた。


「あれらには無理ですよ。訓練の完遂も怪しいですし」


 それもそうか。


 ではなくて!




 ミゼルさんの無駄に優れた企画能力に、ご隠居さんのフットワークの軽さが加わると、こうなる。


 即ち。


「あ、あの。俺達、どうすれば」


「何が始まるんですか」


 その日のうちに、「郊外野営訓練」としか聞かされていないぺーぺーのにーちゃん達が、雁首揃えて街門前に集合していた。


 まさか、昨日の今日出発するとは。油断していたわたしは、朝食の席でご隠居さんに拉致された。なんなのこの捕獲術は! と文句を言ってもどうにもならない。ご隠居さん肩の上で、所在なげに佇むにーちゃん達をぼーっと眺めるだけ。


「では、まいりますかな♪」


「先代! お願いですから何が始まるのか教えてくださいってば!」


「はっはっはっ。それは行ってからのお楽しみですぞ♪」


「そうそう。行きたくない人は工房での訓練に変更します」


 見送りにきていたエッカさんの追撃に、渋々歩き出すにーちゃん達。


「そっちの訓練の方が楽そうだけど?」


「坊ちゃん。三日でロックアントの扱いを覚えろって、無理でしょ」


「俺、一度やらされた。でも、二度はやりたくない。暑いし気持ち悪くなるし熱いし!」


 気持ち悪くなるのは、魔力酔いの所為だろう。


「そのうち慣れるのに」


 [魔天]に入れば元の木阿弥だと思う。


「だから無理だったの! 治療院送りになって工房での危険手当が吹っ飛んだの!」


 あれ? 治療費は騎士団持ちじゃなかったっけ。


「・・・治ってからやけ酒に注ぎ込んじゃって」


「付き合った俺達も、その」


 豪快に飲んだり食べたりした訳だ。まあ、打ち上げも兼ねてただろうから、使い道としては正しいと思うが。


「「自業自得」ですぞ」


 ご隠居さんとわたしの感想がハモった。こんなシンクロは、嫌だ。その前に、降ろして。


 五樹と六実は、担がれているわたしが珍しいのか、周辺を走り回っている。ダグ近くの沼地でも見てたでしょうに。

 八重は、ご隠居さんの足を突ついて邪魔している。わたしが騎乗してくれないのを拗ねているのだ。その勢いで転がしてしまえ! って、わたしも巻き込まれるのは必須だから、やっぱり止めて。


 月日が経つのは、光陰矢の如し。


 ではなくて。


「では。今日も元気に、まいりましょうか!」


「ボクを巻き込むな。それよか、下ろしてぇ〜〜〜〜っ!」


 今日も今日とて。木漏れ日射し込む清々しい朝の森。何が悲しくて、肩車されたまま森に突入しなくちゃならないんだ。

 そうでなくても、ご隠居さんは背が高いというのに。小枝が顔面にビシバシと当たってるって言っても、聞いてもらえない。頼むから、道を選んで欲しい。


 それ以前に。毎朝毎朝、ご隠居さんに確保されているわたし。何故だ。何故逃げられない?!


「そうしてると、偉い人には見えないよな」


「ロトス君、助けて」


「それなら俺が背負いますぜ。親分!」


「だぁれが親分だぶっ」


 鼻、打った。いたひ。


 酔狂なことに、魔道具職人見習いとなったロトス君と、裸族もとい元強盗やってたボコスさんもお散歩に加わっていた。


 ロトス君は、四六時中魔導炉に張り付いていたら、ドクターストップを掛けられたそうだ。それを見ていたご隠居に誘われてきたのだけど、[魔天]に入れば元の木阿弥だと思う。

 

 裸族の盗賊は、一人を除いて牢屋に収監される代わりに穴堀作業員に従事している。というか、真っ先に志願した。ボコスさんも連れてけば良かったのに。

 ボコスさんは、元盗賊のくせに、作業拠点への連絡員兼ご隠居さんの雑用係として走り回った。あっさり仕事を任せるご隠居さんもご隠居さんだ。何を考えてるのか判らない。

 ロトス君の護衛も自称していて、今回、それを口実に引っ付いてきた。ちなみに、護衛はメイリスさんへの遠回しなアプローチだと、誰もが口を揃えている。元盗賊のくせに、図々しい。


「こんなんじゃ、ろくな狩も出来やしない」


「は? えっ! お待ちを!」


「適当に獲れたら、戻ってくるね〜」


 ふ、ふふふ。ここは王宮じゃない。手を伸ばせば、木の枝なんか掴み放題だもんね。顔が木の葉まみれになるくらい。いたひ。

 この辺りまでくれば、木々もだいぶ密生している。そう簡単には追いかけられない、だろう。


 ご隠居さんの拘束から両足を引き抜き、茂った梢に身を隠す。ついでに、さっき折り取った枝を適当に放り投げた。


「親分! 待ってくださいよぅ!」


「ロナ殿〜〜〜〜っ!」


「あ。え? 行くの?」


「先代置いていかないでくださいってお願いしますっ」


 ユードリさんは軽く苦笑していたけど、それでも兵士さん達を追っていってくれた。ハンターさん達は誤魔化せなかったようだが、どうやら見て見ぬ振りをしてくれるらしい。お礼は、お肉増量でいいかな。


 五樹と六実には、森に入る前に、兵士さん達から見えない距離での護衛を頼んである。さっきまで横を歩いていた八重は、ご隠居さんのミスリードを誘う為に敢えて突っ走ってくれた。みんなにも、何かお礼しなくちゃね。


 あー。やっと静かになった。


 騒々しい気配が遠ざかり、暫く経ってから、鳥達の声が復活する。でも、ウサギなどはまだ隠れたままだ。もう少し離れた所でないと、巣穴から出てこないだろう。


 樹上を跳ねるように移動し、そのまま夜を過ごした。森に不慣れな兵士さん達の助っ人として、ユードリさんを含む数人のハンターも同行している。一晩ぐらいは、問題ない。


 夜が明けた。


 ふむ。アンゼリカさんのリクエストはウサギだったけど、キルクネリエの群れも近い。

 マジックボンボンの動作テストもあるし。狩っちゃえ。

 こらこらこら。狩り過ぎ禁止、でしょ?



 #######


 主人公がローデンに足止めされた理由


 ローデンの主要関係者云く


「野放しにしてもっと厄介な物を見つけ出したりしたら困る!」


 他国の関係者云く


「こんな美味しい話から手を引いてくれるなら、加工に手間がかかるレンガの一割どころか半分でもおつりが出る。というか、準備費用の現金一括払いは無理だから。どうやっても無理だからっ。これ以上余計な事はしないでくださいお願いしますっ」

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