足りないモノ
裸族も行商組も、一歩も引かなかった。放置してもよかったけど、そうしたら、ないことないこと吹聴するぞと脅された。
洗ってご飯をあげただけなのに、何故あんなにえげつない表現に?!
「いやいやいや。ロナがやったことをありのままに話すって言っただけだろ?」
と、マイトさんは言い放つ。
「どこが?!」
あれだけを聞かされたら、わたしは悪役でなく変態さんだと思われてしまうではないか!
すったもんだのあげく、ローデンまで道案内、もとい同行、でもなくて引率することになった。
ちなみに、ダグの巡回班の皆様には厳重に口外厳禁を「お願い」してある。
即ち、「何も起きなかった」。
あまりにも彼らの背中がすすけて見えたので、残りの料理を持たせてやったら、益々小さくなった。
レンには、「分け前が減る!」と散々文句を言われた。にもかかわらず、ヘビ焼きを出したらころっと機嫌が直った。ちょろい。
道中、代わる代わるにお荷物さん達の話を聞かされた。レンが大仰に反応するからだ。無くなってしまった村とシンジョ村は、どちらも鉱山で働けなくなった人達が興した村なのだそうだ。
ちなみに、メイリスさん達が運んでいたのは脱穀した小麦だ。
ということは、シンジョ村の畑は、まだ土壌汚染が進んでいない。でも、このまま放置していたら、いずれは裸族の村と同じ目に遭う、かもしれない。
そう言ったら、皆、血相を変えた。特にメイリスさん達は、対策とか対応とか必死になって問い質した。気持ちは判る。
何故か、ご隠居さんだけは「ますます腕が鳴りますなぁ」と嬉しそうだった。年取って、頭のねじが弾け飛んだのだろうか? 心配だ。
何度も何度も何度も揺さぶられるのは嫌だったので、ダグへの復讐、追加バージョンを披露した。
あの沼だけでなく、その周辺も対象に加えただけだけど。
すると、今度は、村をあげて協力すると言い出した。
「何言ってんのさ。ボクの邪魔する気?!」
「違うって!」
ロトス君が、怒鳴り返してきた。
「村の安全を守るのに他国の方の手を借りたままでは、わたし達の村とは言えなくなるんです!」
メイリスさんの補足に、若衆三人も同意した。
「俺達も手伝わせてくれ!」
「ダグの連中をぎゃふんと言わせてやる」
裸族ご一行は、殺気立っている。蛇革腰ミノが似合いすぎる。チョイスを間違えたかも。
「なんでもっと早く取り掛かってくれなかったんだって、文句を言うところじゃないの?」
「あんた以外の誰もそんなことを教えてはくれなかった」
「村の連中も気が付かなかったんだ」
「ただ。俺達は、なんとかしたいんだ」
「親分。連れて行ってくれ。いや、俺達を使ってくれ!」
「ちょっと待って。親分って、誰?!」
「いいなぁ。ロナが親分かぁ」
「レンは黙ってて」
「そうか。親分。そうだったのか」
マイトさんは、ものすごく納得した顔をしている。後で覚えてろ。
「あんたたち。襲ったり、襲われたりしてたんじゃなかったっけ」
野郎どもは、荷台にぎゅうぎゅう詰めに載っている。馬車の荷物は、わたしのマジックバッグに預かった。オンボロ馬車でも、徒歩よりは早い。
さっさと同行を切り上げたい。それより、とっとと捨ててしまいたい。
「昔の話だよな?」
「そうそう。そんな事より、村の未来の方が大事さ」
「いいこと言うじゃねぇか」
「へへっ」
肩を組んで笑い合っている。
もう、何も言うまい。
二頭の頑張りで、当初の予定どおりローデンに到着できた。お礼に、ブラシをかけてあげたら、喜んでくれた。うんうん。こちらこそ、ありがとう。
これで、自称子分達とおさらばできると思った。一応、未遂とは言え盗賊の現行犯だ。挨拶もそこそこに、門兵に突き出してやったからだ。
メイリスさん達も、現金を確保した上で速急に薬草を持ち帰らなくてはならない筈だから。
だが、それは大間違いだった。
街門に入ったとたんに、ご隠居さんが伝令を飛ばしまくったことから始まった。
ペルラさんの工房に関係者を集め、一部始終を報告した。その辺の手際は、元騎士団長の面目躍如といったところか。
流石に王様までは出てこられなかったが、だからといって、宰相さんが直々に来ることもなかろうに。
メヴィザさんまで呼ばれていた。汚染地区の範囲を推測するため、だそうだ。土魔術師って、そんなことまでするんだね。
しかし、何故工房に集めた? 作業の邪魔しちゃったってのに、ペルラさんも苦情を言わなかった。何故だ?
ダグの地下道が疫病発生源となる可能性がある、と言った時点で、全員の目の色が変わった。
シンジョ村代表として引きずり込まれた、もとい招聘されたレジーさんと裸族代表のボコスさんは、根掘り葉掘り質問された。
この時点で、完璧な「さようなら」は破綻している。
それはともかく。
結果、即座に周辺国へ協力要請することが決まった。
どうしてこうなったかというと。
肝心のダグ王宮に事態の確認を取ろうにも、なしのつぶて。直通会話できる魔道具がある筈なのに、うんともすんとも反応しない。
機械の電源が入らない理由なんて、アダプタが抜けてるとか電源ユニットが故障したとかぐらいしか考えられない。
魔道具なら、回路の故障か電池切れ、もとい魔石の消耗だ。よっぽどヘタクソな工作をしたとか不良素材を使ったのでなければ、回路の経年劣化はあり得ない、というのが通説だからだ。
なお、魔道具の起動回路を壊すには、本体諸共叩き潰す必要がある。制作時の加工ミスもなくはないが、その場合は稼働する前に爆発するし。
そもそも。ダグ王宮の通信機は、数年前までちゃんと通話できた事が他国の通信記録(通信記録師が魔導紙に書き取っている)に残っているし。
ダグの権力者達が、旧大陸時代から引き継がれた年代物の魔道具を完膚なきまでに破壊する馬鹿ではない、と思いたい。
ということで、ローデンの融通した聖者様配給の魔包石が行方不明になったのでは、と推測している。わたし以外の人達もほぼ同意見だった。
ほぼ、と言うのは、魔包石を売っぱらった金をトンデモ茶の購入に充てたという人も居たから。誰、とは言わないでおくけど。
ならばと、ダグのギルドハウスに問い合わせてみれば、こちらも怪しい。薬草の採取は熱心に行われている。商人さん達の情報によれば、治療院以外にも高額で売りさばいているそうだ。
だが、採取してきた薬草の善し悪しは千差万別。経験を積んだ治療師でなければ判別は難しい。即ち、闇雲に調合しても、きちんとした効果を発揮しない。寧ろ副作用が怖い。なので、他国の治療院からの依頼でもなければ、商人が買い取る事はない、あるはずがない、闇取り引きだとエッカさんが激高していた。
やはり、騎士団の下っ端が暴走しているのだろうか。
商工会が主導しているのかとも勘ぐったけど、こちらは国内の生活必需品の安定供給させる為の調整で、てんてこ舞いなのだとか。
治療院は、来る日も来る日も咳や下痢の治療に明け暮れ、治療師さん達は燃え尽き症候群に似た状態らしい。エッカさんは、激死寸前。もっと使い勝手のよい特製すりこぎを差し入れしたくなった。
それらの情報を集めている間、何度もダグ王宮や役職持ちの貴族に情報提供等の協力を手紙を送って要請したが、これも、まともな返事が来ない。
ローデンの馬鹿王時代よりもまだ酷い。とは、スーさんの言。ローデンに言われちゃおしまいな気がする。
それでも、ダグ貴族の使用人の中に、少ないながら情報提供者が見つかった。もともと平民で、街に住んでいる家族経由で協力を依頼することが出来たのだ。報酬は、ノーンの薬。金色のお菓子よりもウケが良かったので、そうなった。
それはともかく。
数年前から、王宮に「聖者様の生まれ変わり」の代理人という人が居座っていて、王様が率先して崇拝しているという。
その人が言うには、「近いうちに聖者様が奇跡をもたらしてくださいます。その日が来るまで、心安らかに過ごしていればいいのです」だそうだ。
それを漏れ聞いた貴族達も、すっかりその気になっている。だから、薬が少なかろうが、食べ物の鮮度が落ちようが、気にも止めていなかった。街の様子は、一顧だにしていない。
ちなみに、ただならない匂いが街の外に漏れ始めた頃から、他国の商人は、ほとんどが経由国を変更している。ダグでしか手に入らない商品でもなければ、立ち入る理由がない。
そして、入国時の検問では、よっぽどの理由がなければ隊商の経由国など申告しないし質問もしない。なので、今の今まで、ローデンもノーンもダグの異常に気が付かなかった。
元々、ダグは魔石の主要生産地として知られている。なので、他国が、しばしば不足した分を買い求めていた。しかし、最近はダグの産出量も減っているそうだ。理由は、わからない。体調不良で、採掘に従事できる人が減ったのかもしれない。
とにかく。現在のダグ上層部は当てに出来ない。それ以外の人々も、体調不良に街の雰囲気も相まって危機感ゼロ、あるいは諦めムード百パーセント。
誰がどう見ても「お先真っ暗」としか言いようがない。
尤も、ダグが国として機能しなくなっても、隣国のノーンとローデンは痛くも痒くもない。ケセルデ経由で交易できるからだ。
だけど、病気は放っておけない。どんな形で伝播してくるか判らないからだ。すでに、ダグ近隣の開拓村では、土壌汚染が原因と思われる病気が発生している。
危機の芽は、発覚した時点で潰すに限る。また、迅速かつ効果的にことを進めるには、人海戦術あるのみ。
そんな訳で、当事者を完璧に無視した大プロジェクトを決行することになったのだ。
わたしの楽しみを返せ、と言っても誰も聞く耳を持たない。むきーっ!
それだけではない。
第一回(到着直後)の報告会の最中、ガレンさんとヴァンさんからは、なんでさっさと連絡を寄越さなかったのかと拳骨を貰った。
「もっと早くに人手を集められたってのによ」
「ダグの連中の所為かよ。薬草が減ってたのは!」
ステレオで怒鳴られたりしたら、繊細なわたしの耳が壊れるじゃないの。
「ボクに文句を言わないでよ」
「「うるせぇ」」
理不尽だ。
とにかく。作業分担も決まり、一部の人を除き、皆、張り切っていた。
わたしは、まず必要な魔道具の設計図を起こすよう頼まれた。ミゼルさんは、それはもう熱心に手元を見ている。
わたしは、勢いに乗り損ねている。気が削がれたとも言う。ローデンの熱血フィーバーには、ついていけない。とてもとても、ついていけそうにない。
「なんて素晴らしい道具なんでしょう。ああ。今から夢に見そうです」
「作る方が? それとも使う方?」
「両方です」
あ。そう。しかし、ミゼルさん。本職をど忘れしてないか?
「団長。それ、今から俺達が作るんだぜ?」
「そうですとも! 騎士団が使う道具をわたしが作るんです。やり甲斐があるってものでしょう!!」
やる気があるのはいいことだ。そう言うことにしておこう。・・・はぁ。
会合の後、工房内では、宰相さんがわたしのあとを付いて回り、その後ろを侍従さん達が追いかける、という光景が日常となってしまった。王宮は放っておいていいのだろうか?
「それでですね」
「宰相さんが、何言ってるの。部外者に仕事を振らないでよ」
なんてやりとりが、ペルラさんの工房の中で何度も繰り返される。もう一度言う。ペルラさんの工房なんだってば。
しかも、わたしは工房から出してもらえない。もう一度、重ねて言う。ペルラさんの工房なんだよ?
「ナーナシロナ様。申し訳ありませんが、被り物を追加で五十人分をお願いいたします」
「え? 昨日は、今作っている分で終わりだって」
「参加希望者が増えましたので。それと、予備の装備もあった方がよろしいでしょう?」
「そうだけど。ツナギが足りないんじゃないの?」
「フェン殿には連絡済みです」
おーのぅ〜
「陣布の準備も間に合いそうだと、ペルラ殿から報告を受けております」
「ライバさん、任せた」
「俺じゃまだ無理だって言ってるだろう?!」
わたしが作っているのは、ヘルメット。というよりは逆さの金魚鉢。胸と背中も覆っていて、ベルトで胸部に括り付ける。これなら、少々頭を動かした程度では転がり落ちないし、肩の動きも妨げない。
素材は、シルバーアント。叩いて伸ばして叩いて伸ばして。真正面は、ガラス並みの透明度になるよう、十分の一センテよりもまだ薄い。まーてんで作った露天風呂の雨覆いが、こんなところで生かされることになるとは。
この加工は、コンスカンタの職人にも難しい、と匙を投げられた。均一な厚さにならないと視界が歪んで作業に支障が出る、だそうだ。
しかも、参加者は老若男女様々で、体格の揃った人達だけ、という訳にはいかなかったとか。だから、ヘルメットはサイズ違いで三種類作る羽目に。ええい、面倒くさい!
とにもかくにも、今のところ、わたししか作り手がいない状態なのだ。ライバさん、さっさと腕をあげてくださいお願いします!
それならと、掃除用の魔道具作成を押し付けた。ミゼルさんが驚喜したものだ。しかし、彼だけでは、手が間に合わない。人海戦術は物量作戦でもある。数が必要なのだよ、数が。
だと言うのに。設計図を回してノーンやコンスカンタで作ってもいい筈なのに、腕自慢の職人さん達が続々とローデンに集まっている。港都からも来る予定だとか。どんだけ話が広がったのやら。
職人は居ても、魔導炉がなければ物は作れない。どうするんだろうと思っていたら、ローデンの工房は彼らを率先して受け入れていた。他国の技術者の熟練の技を学べるいい機会、だそうだ。いいんだけど。いいのだろうか?
ケセルデからは、作業員と大量の素材が届けられた。
ケセルデは、ダグの川下に当たる。
地下の汚染がどこまで広がるかは判らないが、ケセルデも影響を受ける可能性はゼロではない。打てる手があるならトコトン打っておく、ということらしい。
「こんだけ、周辺国が大騒ぎしてるってのに。ダグはのんきだねぇ」
「今、邪魔をされては困りますから。徹底的に情報を遮断しております」
「・・・あ。そう」
「それでですね? 拠点の防御態勢なのですが」
「だから勘弁してよ」
宰相さんは、事あるごとにわたしに相談しにやって来る。どう見ても時間の無駄だし、そもそもが間違っている。もはや、わたしの手に負える規模ではない。国家間の調整など手に余るし、全貌を把握する暇もなくなっているというのに。
ミゼルさんは騎士団長なんだから、黙って聞き耳立ててないで寧ろ参加しろ!
この作戦では、地下道組は勿論、沼地周辺で作業してもらう魔術師さん達も含めて、全員、防護服を着用してもらうことになっている。
拠点も、何カ所か設ける。そこは、交代要員の待機所であり、休憩所であり、食事処であり、補修基地でもある。更に、常時、各国から派遣された治療師が待機している。
それもこれも、彼らが安全に作業を進める為だ。
地下道では、わたしがやっていた作業をそのまま真似するらしいが、沼地やその周辺では、土魔法や水魔法を駆使し、汚染された土を全て掘り上げ、浄化処理する。その為に、なんと、山向こうのチクスやヌガルの魔術師さん達も駆けつけてきた。
どちらかというと、地味術師と呼ばれ続けてきた鬱憤を晴らす為、ではないかとも思う。
何故ならば。
「ふ。ふふふ。やっとわたしの出番がやってきましたよ!」
高笑いするメヴィザさんがうるさい。
「あ。そう。よかったね」
「もう少し、喜んでくれてもいいではないですか!」
「言っとくけど、クロウさんの防護服は無理だからね。材料が足りないし、加工できる炉もないんだから」
「そこをなんとか。わたしとロナさんの仲じゃないですか♪」
やっぱり。くそ忙しい工房に押し掛けてきた理由はそれだったか。
「無理なものは無理。それよか。邪魔してると宰相さんに怒られるよ?」
「と言っている間に、被り物が何個できましたかな?」
「駄隠居さんは、王女様達と遊んでればいいでしょ?」
「それが、勉強の邪魔だと追い払われてしまいましてな」
はっはっは。って笑ってる場合じゃないでしょうに。ご隠居さんは、暇さえあれば、工房、もといわたしの後ろに湧いて出てくる。まるでGのようだ。壁に貼付けておきたくなる。やってもいいよね、ね?
「狭い。暑苦しい。なんで、こんなことに」
ライバさんの文句に同意する。
急遽、工房の工作室に魔導炉を増設したので、流石にちょっと手狭になった。わたしとライバさんとミゼルさんが、せっせと道具作りに励んでいる横で、宰相さんが頻繁に口を出し、更に野次馬が出たり入ったり。
確かに、暑苦しい。
「工作室の管理責任者権限で追い出せばいいじゃん」
「元団長にそんな事が出来るか!」
だからさぁ。・・・もういい、実力行使だ。
「駄隠居さんに遠慮は無用。四葉、やっておしまい!」
「うお?!」
「ロナさん。ちょっと!」
「まだお訊きしたいことが!」
蔦四葉さんにぐるぐる巻きにされて、駄隠居さんは排除された。宰相さんとメヴィザさんも、まとめてポイ。これでよし。
「わたしは見ていませんっ」
「ボクも見てない」
「・・・そうだな。そういうことにしとこう」
ツナギ本体は、フェンさんの工房と数人の元女官さんが取り掛かっている。首長竜の脂で防水加工できるのが、虫布かトレント布だけだったのだ。
最初、入手し易い麻布で試してみたが、思うような品質にならなかった。即ち、水が染みまくる。作業着の定番、軟革の上下は、ごわごわになって身動き採れなくなった。最高級の絹地には脂が定着しなかった。などなど、使い物にならない。
試行錯誤に費やせる時間は多くない。一方、虫布は既に存在が知られているのだから、使って悪いことはない。
材料が揃ったら、次は縫製だ。
虫布、とその道具を扱い慣れている人達に白羽の矢が立った。選択肢がなかった、とも言う。
フェンさんの工房に、染色済みの布も含めて、どっさりと置いてきた。出所を追求されたら? その時は、その時。もうどうにでもなれ。
最初、フェンさんは依頼を拒否した。レディース専門店で野郎の服なんか作れるか、と言って。でも、即急に克つ大量に必要な理由を説明し、わたしの裁断技術では人数分を作るのにとってもとおおっても時間が掛かるからと拝み倒した。
一度乗せてしまえば、そこはそれ、ローデン気質が勝る。
「いいわ。やってやろうじゃないの。そんな加工をしなくても水一滴漏らさないわたし達の縫製技術を、存分に披露してあげるわ!」
ペルラさんは、『爽界』の刺繍に掛かりっきりになった。これがなければ、作業中、呼吸困難でぶっ倒れてしまう。
陣布の刺繍には、ミレイさん、ラトリさんだけでなく、メイリスさんとシンジョ村の女性も加わっている。彼女達は、練習用の魔法陣を完璧に覚え、本番はほぼ失敗なし。即ち、爆発させていない。何故だ。
「「「「「これにわたし達の村の未来が掛かってるのよ!」」」」」
ごもっとも。
防水安全靴は、小さな魔導炉を持つ工房が請け負った。最初、靴底の加工に苦労したらしいが、モクロさんを筆頭に腕自慢の職人さん達がよってたかって改良し、更にレベルアップさせた。
しかも、参加者一人一人の足型に会わせるオーダーメイド仕様。ええ。文句なんか言いませんよ? というか、わたしの分も作って欲しい。
コンスカンタ職人有志一同は、ローデン騎士団の一画に陣取っている。
汚泥の処理装置とは別に、沼地の土の処理装置も作る為だ。地下道に運び込む訳ではないので、大型化できる。つまり、処理能力も上げられる。
「そうなんですよねぇ。大きくする分には、まだ楽なんですけどね?」
「でも、これ、この回路! ややこしすぎますよ」
「俺、目が痛くなってきた」
「今手を止めたら全部やり直しだぞ」
「判ってますけど!」
見習工兵さん達を、容赦なくこき使っているそうだ。・・・他所の国の兵士なのに、いいんだろうか?
街の手隙の工房には、地下道に設置する本来の浄化用魔道具の作成に取り掛かってもらっている。
ちなみに、この魔道具は、他の街にも依頼が出ている。何と言っても、都市一個分の魔道具だ。魔道具の数を揃えておかないと、ピカピカの地下道もすぐさま役立たずに成り下がる。
それにしても。
人件費、素材代、加工賃に慰謝料、その他諸々。掛かった費用は、誰が負担するのだろう。
借金システムはないから、現金一括払いあるいは物々交換しかない。
それとも、これから発明されるのかな。
質問。「今足りないものは何?」
シンジョ村一行「薬!」
レオーネ「ロナの料理!」
ななしろ「平穏・・・」
ペルラ「生地と人手と技術とそれから(以下省略)」
ミゼル&ライバ「素材と魔石と技術とそれから(以下省略)」
ローデン国王&宰相「時間と人員と情報とそれから(以下省略)」
ななしろ「だから、ボクの平穏・・・」
作者「アイデアと文章力と時間と・・・」
ななしろ「作者には聞いてないっ!」




