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都市鉱山

 沼地に潜んで、早、二か月。


 ステップその一。地下道のヘドロを取り除き、人知れず衛生環境を改善させる。これは、現在進行形。ではなくて、作戦遂行中。


 ステップその二。ダグの地下のビフォーアフターを、ありのままに吹聴する。

 イコール、今の今まで惨状を放置してきたダグ上層部の無能っぷりを、これでもかと知らしめる。


 ステップその三。万が一、ダグのお偉方がクリーンアップ作戦に気付いて成果を横取りするようだったら、その人の家に汚物をぶちまける。


 だ・け・ど


 誰がするかもったいない! ステップその三の出番は無くなった。


 当初の構想では、地下道に蔓延る汚泥を徹底的に搔き出すだけ、のつもりだった。

 そこで、ご隠居さんに変に思われないような道具が必要となった。岩石魔術は、どこからどう見てもオーバースペック。それ以前に、今のわたしは魔術が使えない設定で通している。

 また、やたらと指輪の収納能力をひけらかす訳にもいかない。そもそも、こんなバッチイものを入れっぱなしにしたくもないし。


 どうせ一から作るならば、使い勝手のいい物を。

 拠点作りと並行して、泥を放り込んだら焼きレンガになって出てくる装置を作った。


 地下道の天井側面にこびりついた汚泥を、バキューム魔道具で回収する。回収容器はなく、泥焼き機に直結させている。泥焼き機は、地下道に持ち込める小舟に乗せられるサイズに収めた。泥焼き機から吐き出される生暖かいレンガは、受け皿兼用の小舟の底にぼろぼろと落ちる。温度が下がったら、マジックボンボンにしまう。この作業を繰り返す。


 ふと、どんな成分なのかが気になってレンガを分析してみた。

 

 ダグのヘドロは、なんと、稀少金属の塊だった。


 鉄、銅、ニッケル、鉛、のみならず、金、銀、白金、などなど。下手な鉱石よりも含有量が高い、かもしれない。


 一番驚いたのが、ミスリル。


 何に使えば下水に垂れ流し状態になるのか、さっぱり判らない。


 参考までに、ご隠居さんに、ローデンの地下道の普段の状態を教えてもらった。


 ローデンでは、保安関係もあって、下水道の点検清掃は王宮兵士が行う。どうしても人手が必要な時だけ、身元がはっきりした人を臨時で雇う。大抵は、ギルドに依頼する。


 浄化用魔道具も定期的にメンテナンスするので、ほとんど汚泥は溜まっていない。もっとも、浄化用魔道具の交換修理は専門の職人の仕事だ。


 点検の時、たまに指輪とか金属片とか、魔道具で処理しきれないものが落ちていることがある。その場合、拾ったものの所有物として認められる。落し物の持ち主が判れば、返還する際に謝礼が貰える。


 運が良ければ高価な拾い物が手に入るというので、平兵士達には人気の仕事の一つなんだとか。それも、比較的清潔なローデンならでは、だと思うけど。


 それはともかく。


 汚泥レンガは、鉱石同様に魔導炉で分離精製できることが判明している。高温殺菌されているので、感染症などの心配もない。

 所有者? わたしに決まっている。むしろ掃除代金を請求してもいいくらいだと思う。


 収穫したレンガは、自家用にしてよし。他人に売るもよし。


 ふははは。


 お宝をごっそり掻っ攫われていることも知らずに、うつつを抜かしているかと思うと、胸がすくと言うか笑いが止まらない。後で、精々指を咥えて歯噛みするがいい。





 みっしりとはりついた汚泥が、今日もわたしを呼んでいる。


 わたしは、ロックビーの巣の清掃で使うツナギを首長竜の油で防水処理を施し、『爽界』付きのフルフェイスヘルメットを被り、苦労に苦労を重ねて作った滑り止め付きブーツを着用している。

 だからこそ、悪臭漂うダグの地下でも、平然と作業していられる。


 肉を切らせて骨を断つ。ちょっと違うか?


 しかし、ご隠居さんに、下水掃除は頼めない。

 ヴァンさんよりも頭一つ大きいご隠居用のツナギを作るのは、ちょっと手間とか時間とか裁断に問題がある。魔道具なら割と楽に作れるのに。自分の不器用さが謎すぎる。

 ツナギ用の生地を持たせて、ローデンに向かわせようかとも思ったけど、ご隠居様はわたしの傍を離れたがらなかった。

 八重達じゃあるまいし。いい年した年寄りが、どうなのよ。


 ついでに言えば、ご隠居さんに鍛冶や魔道具作成の才能はない。家事一般も言うに及ばず。結果、隠れ家に居ても、やることできることが、何もない。

 騎士団の野営訓練で一通りサバイバルやった経験はどうしたと訊けば、「団長職にかまかけている間に忘却の彼方へすっ飛んでしまいましてな、荒事ならばお任せあれ」と胸を張って言うところがもう、どうしようもない。


 そんなご隠居さんに鍛冶や狩の手ほどきをする暇があるなら、わたしは泥集めに専念する。


 苦肉の策で、隠れ家が完成した後、ダグでの情報収集を任せることにした。といっても、街のうわさ話を聞き込むくらいしか出来ないけど。三葉さんにフォローを頼んだし、というかただの運び屋になってしまった。本人が気付いていないから、いいことにする。うん。


 狩は下手でも、地形の把握力は元騎士団長の面目躍如といったところか。迷路のような水路なのに、しっかりと覚えている。

 嬉々として、出たり入ったりをしている。この人の能力も、意味不明だ。


 暇を持て余した金持ちの貴族老人が、平日は街に滞在してあちこちの店を冷やかしてまわり、週末は郊外へ遠乗りに出る、という設定なのだそうだ。

 

 金離れがよく、貴族以外の人達にも愛想がいい年寄りということで、勝手に話が集まってくるようになったとか。


 さて、今日はどんな話が聞けるのかな。


「ロナっ! 酷いじゃないかっ!」


「・・・・・・」


「とーちゃん。どういう、ことかな?」


「とーちゃん言うな! じゃなくて。俺に訊くなよ〜」


 ご隠居さんには、お客、もとい余計な荷物がくっ付いてきていた。船着き場から聞こえる足音がやけに多いなと思ったけど、こんなことなら『爽界』じゃなくて『楽園・改』を小島全体に敷いておくんだった! ・・・もう手遅れだけど。


 荷物一号は、お騒がせ王女、レンだ。仕立ての良い乗馬服に身を包み、そのけしからん胸にわたしの頭を抱え込んでいる。

 これ、更に増量してないか?


 そうか、ヘルメットも被っておけばよかった。今更だけど!


「なかなか連絡がこないからお前達が行って来い、と、放り出されてきたんだよ。俺の方が、何がどうなってるのか聞きたいくらいだ」


 ブスくれている荷物二号は、マイトさん。


「だったら。とーちゃんだけで十分でしょ?」


「あ、いや。それが」


「わたしも志願したんだ。わたしなら、ロナがどこに居ても見つけられるからな!」


 ふんす! と鼻息も荒く自慢する王女様。鼻が高いと、鼻の穴も大きいのかな。

 で、お目付役として、とーちゃんが貧乏くじを引いた、と。


「嘘ばっかり。勝手に飛び出してきたんでしょ?」


「父上の勅命だぞ? 嘘じゃない」


 ふんす!


「余計な真似を」


 スーさんは、後でお仕置きだ。


「ここに戻る途中で見つかってしまいましてな。放置する訳にも参りませんし・・・」


 ご隠居さんは、大きな体を精一杯縮こめて釈明している。レン達が乗ってきた馬も、申し訳なさそうな顔をしている、気がする。君達は災難だったね。


「なぁ。俺は、本当に事情を知らないんだ。説明してくれないか?」


 思わず、ご隠居さんと顔を見合わせる。


「知らない方がいいと思うんだけど」


「そうですなぁ」


 発端はともあれ、今のわたしは、ただの掃除人。お楽しみは、これからだ。早く終わらせて大笑いしてやりたい。


「わたしは、ヘンメルから、ロナがダグに向かった理由を聞いている。それなのに、なんでダグの街じゃなくてこんなところに居るんだ?」


 ヘンメル君も、お仕置きリストに載せなくてはならないようだ。一番聞かせてはいけない人物に格好の口実を与えるとは。


「だから! 俺は聞いてないって」


 おやまぁ。


 日暮れまでにはまだ間がある。でも立ち話もなんだし。お茶にしよう。




「さて、感想は?」


「へんにゃもにょをにょませるにゃ!」


「にゃにをいうか、マイト。楽しいにゃにゃいか」


「殿下もそうおもわれますかにゃ?」


「うんにゃ♪」


 否定、している訳ではなさそう。


「こんな風に、知らないうちにおかしなものを飲まされようとしてたんだよ。ボクが怒るのも当然でしょ?」


「そりゃそうだぎゃにゃ?!」


 バシバシとテーブルを叩くマイトさん。十分に乾燥させたパピルスと、天板にはロックアントで作った。手が痛くないのかな。


「んで。黒幕に殴り込みしようと思ってダグに来てみれば、臭くて都市に入れなくて。こんなになるまで放置していた連中の無能を挙げ連ねる絶好の機会だと、頑張ってるところ」


「ろにゃは繊細だもにょにゃ」


 そう思うなら、国で大人しくしていて欲しかった。


「にゃぐりこみはにゃめろ。で。そにょ頑張ってるってところをもにょっと、にゃ?」


 マイトさんは、勅命を受けたとあって、どうあっても詳細が知りたいらしい。


 そこまで言うなら、教えて差し上げよう。


 びくうっ!


 三人とも、体を強張らせた。隙間風でも吹いてきたのかな?


「どこの誰とも知らない人に、自分とこの街の地下をいいように漁られて。挙げ句、貴重な素材を山ほど持ち去られたと知ったら、どんな顔をするかな?」


「ままましゃか! 地下道を破壊しゅるとか言わにゃいよにゃ?!」


 マイトさんが、びくつきながらも懸命に訴える。


「魔道具は高価だかりゃって泥棒はするにゃ!」


 おい。レンさんや? わたしのことをそんな風に見てたのか。


「誰がそんな面倒くさいことをしなきゃならないのさ。泥だよ、泥。かき集めた泥に、金銀ミスリルなんかの金属がたーっぷり! 含まれてるんだ。ほら、地下道を清掃した時に拾った物は、誰の物でもないんでしょ?」


 だから、泥を持ち去っても泥棒ではない。文句があるならベルサイユに、・・・げふん王宮にいらっしゃい。って、一緒じゃん。


「「「・・・」」」


 ぶるり。


 やはり、どこかに隙間があるようだ。後で塞いでおこう。


「たっぷり、とは、どにょくりゃいで?」


 気を取り直したらしいご隠居さんが質問する。そうか、まだ教えてなかったっけ。


「うーんと。まだ、地下道全部から集めた訳じゃないから確かなことは言えないけど。今ある分だけで、ペルラさんとこの虫糸の染色、十数年は余裕で使えると思う」


「よく、わかりゃにゃい比較だにゃ?」


 マイトさんが、困惑している。


「そうだねぇ。ロックアントの採取に使う陣布を、ローデンに住む人全員に配ってもまだ余る」


「もっとわかりゃにゃい!」


 レンも拗ねた。


「だって。ミスリルの使い方なんて、それくらいしか知らないんだもん。魔道具だって使う量はピンキリだし。採掘量とか国全体での使用量とか、知りようもないし」


「それもそうですにゃ。あ〜。そうですにゃ。にゃーにゃしりょにゃ殿は、ミスリルがシルバーアントからも採取できることはご存知ですにゃ?」


 わたしの名前が、聞いているだけでも舌を噛みそう。お茶の選択を間違えた。


「あ。うん。それは知ってる」


 というか、わたしにとっては、その採取方法がメジャーだったりする。鉱脈から掘り出したことはない。


「では。シルバーアントに換算したりゃ、何匹に値しそうですかにゃ?」


 ふむ。


「個体差もあるんだけど、大体で」


「「「大体で?」」」


「二十から三十、かな?」


「「「・・・」」」


 なんだろう。三者三様の反応が面白い。


 ご隠居さんは、ロックアントの頑丈さを身を以て知っている。それよりも頑丈なシルバーアント討伐の難しさを想像して絶句しているのだろう。


 マイトさんは、数字、かな? ロックアント一匹を仕留めるのに必要な人数や動員延べ数、必要経費などを指を折りながら必死に計算している。だって、ブツブツつぶやいてるんだもん。間違いない。


 レンは、何も考えてないな。いや、サイクロプスと比較しているのかも。間近で見たことのある魔獣は、ハナ達を除けばあれ位の筈だ。


「あ、そうだ。今いる沼地なんだけど、ここの泥もイケそうなんだ♪ ふ、ふふふ。洗いざらい、一欠片も残さずに採取するつもり。ふふっ、楽しみぃ♪」


 サンプルには、貴金属だけでなく重金属類も含まれていた。


 それはともかく。


 ここのパピルスは元素の吸収能力に優れていた。隠れ小島のパピルスは化け物じみた高さと太さをしているのに、沼の端では高さが三メルテにまで落ち着いていた。ある程度、悪臭も治まっている。

 でも、金属元素については限界があるようで、茎や根と泥の金属含有率に差がなかった。このまま放置すれば、金属汚染が沼地の外の動植物にも広がる可能性がある。

 金属の過剰摂取がもたらす病気は、非常にキツいものが多い。日本では、あちらこちらで訴訟が起きた。


 彼らが病気によって死に絶えてしまい、付近一帯で狩が出来なくなったら、ダグの人達は大挙して[魔天]に押し掛けてくるだろう。現状でも薬草の採取が過剰なようだし、更に手を出されるのは嬉しくない。


 ならば、小島だけでなく、パピルス諸共沼の底を浚渫すればいい。健康被害を防ぐ意味もあるし、より多くの素材が手に入るし。一石二鳥!


 さぁて、何を作ろうかな♪




 説明している間に日がくれたので、やむなく一晩泊めることになった。客用のベッドなんかあるはずもなく、すったもんだした結果、わたしとレンがベッドを使い、ご隠居さんとマイトさんは床で寝た。


 そして。


 押し掛け訪問者達は、例によって例のごとく、食べ物を持っていなかった。


「アンゼリカ殿、「森の子馬亭」の女将殿に入れ物を借りて、往復分の料理を持参してきたと、先ほど言っておりませんでしたかな?」


「なんだかんだで、レオーネの腹ん中だよ。俺だって、もう少し食べたかったのに」


 レンの大喰らいが感染してしまったようだ。ご愁傷様、と言っていいのだろうか。


「はっはっはっ。若い者はいいですなぁ」


「笑ってる場合じゃないでしょ。ご飯の予定が狂ったんだけど」


 わたしは泥集めに掛かり切りなので、狩りは最低限しか行かない。五樹達だけでは小島から出られない。小島の周辺の環境がアレなので、島の中での食料調達は無理。そもそも、ネズミ一匹生存していない。

 ということで、ご隠居さんには、週末ごとに、わたしの一週間分とご隠居さん二泊分の食材を持ち帰ってもらっていた。今回も、例外ではない。


 そこに大食らいが二人追加された。


 当然、足りない。全く、足りない。


「「それは駄目だ!」」


「誰の所為?」


「「・・・」」


 だから。明後日を向くんじゃありません。


「仕方ありませんな。明日、ダグに連れて行きましょう」


 ご隠居さんが妥協案を提案した。あまり大量の食料を買い込むと怪しまれる可能性があるからだ。街で食べさせるのは理に適っている。


 だけど。


「王女様を同行させて大丈夫かな」


 何と言っても、逆恨みされている王家の一員だし。


「そうか。顔を知ってる奴がいるかもしれない。お前、結構な数の商人と会ってただろう?」


 うんうん。マイトさん、判ってるね。


「こ、子供の頃の話だ!」


「なになに。孫が遊びにきたと言えばよろしい」


「街に入る時にバレないか?」


「身分を示さなければいいのです」


「どうやって?」


 レンは知らなかった。今まで、街門を通過する時はどうしてたんだろう。王族の身分証は一般のものとは形が違うから、それだけでも箔が付いているのかもしれないけど。顔パス、だけはしていないと信じたい。


 門兵に身分証カードを示すときは、本人の名前と発行元がわかればいい。例えば、「ローデンギルドで身分証を発行してもらったナーナシロナ」と表示されれば、おーけー。

 もっとも、大抵は街から街を移動する理由を隠す必要はなく、審査も短く済むというオマケ効果もあるので、ほとんどがより詳しい情報を開示しているそうだ。どこそこの隊商の所属だとか、傭兵チームの名前だとか。伴侶の名前を表示する人もいるらしい。

 あーそーですか。


 身分証や仮身分証がなければ、街門脇の待機所に連行され、根掘り葉掘り質問される。一応、保証人も拘束される。ちょっとでも怪しければ、同行者一同揃って追求される。保証人がいなければ、即捕縛され、そのまま牢屋行きだ。そして、質問ではなく尋問に切り替わる。

 不所持者は、門兵の審査をパスしたら、有効期限付きの仮身分証が渡される。

 成人前の子供が本身分証発行の為に街に入る時も以下同文。しかも、裏書きした集落の責任者には、後日確認の兵士が訪問するという徹底振り。万が一、不正が明らかになれば、仮身分証を持ってきた者の登録は取り消される。責任者は、文字通り責任を取らされる。


 誰かの後ろ盾になるということは、その人を信頼している証にもなる。旧大陸時代から続く慣習だそうで、そういうものだとしか言うしかない。


 わたしがローデン入りした時は、いずれも素晴らしく身分が保障された人が何人も保証人についていたことと、街に入る前にしでかしたあれやこれやが評価されて、割とあっさりと通過できた。の、だろう。たぶん。


 ちなみに、わたしから直接「不殺のナイフ」を渡された人達は、聖者様の信頼を受けた偉い人として、ものすごく尊敬されているそうだ。


 最初はただのお礼、最後は不用品の大盤振る舞い。だったのに、どうしてそうなる。


 それはともかく。


「ロナには会えたし、何をやっているかも教えてもらった。だから、帰ろう。な?」


 マイトさんは、レンを懐柔しようとしている。それはそうだろう。今いる小島はともかく、周囲はとんでもない悪臭まみれなのだ。王女様が長期滞在するのにふさわしい環境ではない。


 というのに。


「いやだ!」


「この小屋に居ても、何もすることがないのですぞ?」


「いやだ。ここにいる!」


 そう言うレンは、双葉さんに縛られてぐるぐる巻きになっている。昼食後、またわたしに抱きつこうとして阻止されて、そのまま放置している。偉いぞ、双葉さん。六実達は影の中で大人しくしてて。出てくるんじゃない。


「ご飯なしで、七日も持たないでしょ」


「ロナが居るじゃないか」


「あのねぇ。ボクは、今、とーっても忙しいの。自分のご飯だけで精一杯だってば」


 実際は、ご隠居さんが持ってくる食料だけでは足りなくて、てん杉実の蜂蜜漬けその他諸々でドーピングしまくっている。ご隠居さんには内緒だ。レンにも、いや、他の人にも到底見せられない。


「あ〜。ロナさんや。その女将さんからの伝言なんだけどな。「戻ってこないなら、次はわたしが探しに行くわ」だとさ」


 ものすごく言い難そうではあったが、マイトさんは、鼻を掻きながらわたしにも爆弾を落とした。


「げっ?!」


「ふむ。確かに、二月ほど経ちましたし、気分転換を兼ねて顔を見せに行かれるのも悪くはありませんな」


 アンゼリカさんの恐怖を嫌というほど知っているからだろう。

 ご隠居さんが日和った。裏切り者ぉ〜っ


「何勝手なことを言ってるのさ。ボクは、充実してるの。楽しいの。早く、お偉いさんの嘆き悲しむ顔が見たいの!」


「その、泥集めに必要な装備を人数分作ればいいだろ?」


「それじゃあ、ボクが集めたことにならないもん」


 拾った物は、わたしの物。ダグの泥は、誰にも譲らない。気が向いたら、分けてあげる。かもしれない。


「ロナが雇って、契約書に「集めた物はロナの所有物だ」と書いておけばいいんだ」


 ふんすーっ


「なるほど。それはよい考えですな。装備さえあれば、わしも地下道に入れますしの」


 ご隠居さんが、ものすごい勢いで食らいついてきた。


「ちょっと?」


「レオーネにしちゃ、冴えてるな」


 マイトさんは、手放しで褒めている。ように聞こえる。


「マイト。いくらなんでもそれはない!」


「ふむ。そうと決まれば。今週分の食料は、ローデンへの道中に使えばいいですな。他に足りない物はありますかな?」


 ご隠居さんが、ノリノリだ。ノリにノっている。


「あ。え。もしもし?」


「食べ物が足りなくなったら、途中で狩をすればいいんだよな♪」


 床の上の蓑虫が、よだれを垂らしている。王女様なのに。


 と、現実逃避している場合じゃなかった。


「トリーロ殿の最新情報も知りたいですな。なにかこう、他にももっと面白いことが出来そうで、ワクワクしますぞ」


「あのー。皆さん?」


「それでは、今から、ダグに行ってきますでな。宿の解約をしてこねば。ついでに、もう少し食料を手に入れてきましょう」


「荷物持ちに、俺も行きますか?」


「ふむ。そうですな。知人が訪れてきたので、久しぶりに帰郷してみる気になった。という流れでいきますか」


「元団長の孫の知り合い、ですよね」


「義理の孫ですな!」


「あ。そういえばそうだ」


「レオーネ。今頃気が付くか?」


「そういうマイトこそ」


 もしもーし。


 わたしを無視しないでよ。ねえ!

 タイトルに偽りはありません。ヘリオゾエア世界のインフラ事情により、こうなりました。


 それにしても。作者には、主人公が判りません。


 なぜ、どぶさらい?

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