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あしたは来る、だろう、きっと、たぶん・・・

 連れて行かれた先は、例によって例のごとく、会議室にもなる来賓室。何度来たことか。これで最後にしたい。・・・なるかな?


「よくお戻りくださいました」


「だからさ。王妃様が簡単に頭を下げるなんてありえない」


 本当に、深々とお辞儀している。アンゼリカさん並みの完璧な礼。ありえない。


「ここには、我々しか居りませんし」


「宰相さん。理由にならないし」


 王族らしからぬ行為を諌めるのも宰相の仕事でしょうに。


「これで、肩の荷が、一つ、降りましたわ」


 方や、力の抜けた笑顔のペルラさんは、そのまま机に突っ伏した。おーい。


「王様の前でそこまでだらけてていいの?」


「まあまあまあ。ロナさん。とにかく、すわってすわって」


 威厳ありそうな服を着た中年男性が、満面の笑みで子供に席を勧める図。絶対に、何かがおかしい。

 わたしにもう少し背丈があれば、違和感が減るのだろうか。いや、見てくれが変わっても、わたしが風来坊であることに代わりはない。


 やっぱり、この国はおかしい。


 部屋の中には、国王夫妻と宰相とペルラさんとミゼル団長とアンゼリカさん。


 執務で忙しいだろうに、ツートップがこんなところにいては、いろいろと滞りそうだ。


 ん?


「ヴァンさんはどうしたの? 腰を悪くしたとか」


 こんな時、呼ばなくても首を突っ込んでくる人が、ここにいない。


「別の用があって来られないのよ。詳しくは後で説明するわ。それで、それでね? ・・・」


 口ごもるアンゼリカさん。でも、聞きたいことは判っている。


「片がつくまでに時間がかかった。以上」


 ずずーっ。香茶が美味しい。


「ええと」


 そこから先が続かないスーさん。


「もう少し詳しく、教えて、頂けませんか?」


 ステラさんが助っ人に入った。


「そうなると、色々と見せることになるけど?」


 躊躇する一同。の中で。


「知らないよりは、知っている方がマシですわ!」


 ペルラさんは、悟りでも開いたのだろうか。大きく深呼吸をした後、居住まいを正してオゴゾかに宣う。


「そ、うですな。後々のフォローの為にも」


「出来れば、よそには出さないでいただけると助かりますけど」


「いろいろって、いろいろって、なんでしょう」


「私が触らずに済むのなら何でもいいです」


 最後のミゼルさんの台詞が、ぶっちゃけすぎる。





 [南天]の森は、聞いた以上に酷い有様だった。


 空を飛べないもの、木伝いに逃げられないもの達が、次々と餌食になっている。


「南天王さんのブレスでもだめだったの?」


「ええ、そうよ! 囮の子に集まったところを灼いたの! で、黒焦げになったと思ったのに、まだ残ってたのよ!」


 きっと、中まで火が通らなかったのだろう。燃え難いだけでなく、熱も伝え難い、のかもしれない。


「やっぱり毒で」


「やーめーてーっ!」


 そう思うなら、前脚から下ろして欲しい。振り回されて、気持ちが悪い。酔いそう。


 とりあえず、南天王さんのやり方で手伝うことにした。端の方から、切って燃やして、切って燃やして。


 ・・・・・・・


 南天王さんが、ぶち切れた訳に納得した。心底納得した。


 こいつに比べたら、Gの方が千倍もマシだ。


 例えるなら、巨大な粘菌。個にして群、群にして個。程よくエサを食べ終えれば、子実体を形成し胞子をバラ撒く。そして、また、増える。


 とにかく、一筋縄ではいかなかった。


 予想通り、非常に燃え難い体をしていた。小さな欠片を焼き尽くすだけで、周囲は焼け野原。炎を吐いていたグリフォン達は息絶え絶え。

 焼き殺したつもりでも、たった一欠片でも生きた組織が残っていれば、そこから復活する。


 しかも、「椿」と雷の魔道剣は、相性最悪だった。


 ぬちゃぬちゃをそれらの武器で切断したら、増殖速度が早くなった。切り落とした端は見る間に体積を増やし、元の個体と合体する。


 まるで、叩いて増えるポケットの中のビスケット、みたい。数ではなくて体積が倍加するんだけど。

 そんな不思議ポケットは、欲しくない。


 ではなくて!


 放たれる電撃が、何かまずいスイッチを刺激してしまったらしい。結果、敵をパワーアップさせてしまった。


 とにかく取り込む。なんにでも取り付く。消化速度や移動能力は、それほどでもない。だが、体の大きさも武器の一つ。そのまま強さに繋がる。


 どこぞの腐海とやらに発生する変異体ではあるまいし。捕食者がいない訳ではなかろうに。


 縄張りに住む生き物に詳しいであろうグリフォンさんに、聞いてみた。


 ・・・・・・・・・


「・・・てへっ♪」


「素直に吐け。さっさと吐け。さもないと叩っ切る」


「だ、だってだって。美味しいんですもの!」


 ・・・・・・・・・


 つまりは、だ。


 この暴食粘菌の天敵であるマイマイ(すこぶるでっかい虹色のカタツムリ)に嵌まって、ついつい多めに(当社比)食してしまった。

 そういうことらしい・・・。


「自己責任だっ。自分でなんとかしろーーーーーっ」


「ご、ごめんなさぁ〜〜〜〜いっ!」


 巻き添えになった魔獣達が、哀れすぎて涙を誘う。


 お仕置きは後に回すとして。


 今は、粘菌退治が先だ。


 あまりにも巨大化した粘菌は、さしものマイマイにも手に余るらしい。今は、逆に食べられているし。


 まさしく、弱肉強食。


 違うか。


 とにかく。


 大増殖したものだけでも、なんとかしなくてはならない。


 手を替え品を替え、散々苦労して。ようやく、巨大粘菌の捕獲と無力化の目処が立った。


 まず、遠大な砂浜の一画に、巨大なプールを作った。岩石魔術で、どどーんと。


 一葉さん、お風呂じゃないってば。


 その場所まで、エサ、即ちてん杉の実で作った蜂蜜酒で粘菌を誘導する。

 これは、わたしがやけ酒を飲もうとした時に、あり得ないスピードで忍び寄ってきたことから判明した。


 よかったね、双葉さん。同士がいたよ。


 それはさておき。


 プールの中央に置いた樽に群がる粘菌は、わたしの恨みがたっぷり込った極寒ブレスの前に、脆くも崩れ去った。


 ふっ。火が駄目ならば、絶対零度に曝してくれよう。


 とは言え。森の中で所構わずブレスを吐きまくれば、極悪粘菌とは別の意味で生態系が崩壊してしまう。亜熱帯の森が一夜でツンドラと化するのだ。それこそ悪食粘菌ぐらいしか生き残れないだろう。


 極寒ブレスも駄目元だったんだけど、とは教えない。


 終わりよければ、全てよし。


 いくつかの個体を、同様におびき寄せて処理した。内部まで完璧に凍結したかどうか確認する為に、氷塊をさいの目に切り刻み、だめ押しのブレスをお見舞いする。

 目視し難いサイズのものは、酒入りトラップに引っ掛ける事が出来た。粘菌がそこから逃げ出す前に、南天王さんとその配下が処理場、もといわたしの居る対策本部に運ぶ。


 氷の魔術を使う魔獣も居るには居たが、わたしのブレスほどの威力、もとい低温にはならなかった。解凍したとたんに、うごうごうごうご・・・。


 結局、わたしが全ての粘菌に止めを刺した。やるしかなかった。


 かなりの個体を間引いた。と、思う。


 その間にも、犠牲は増えた。魔獣だけではなく、わたし自身も損害を受けた。


 粘菌との切った張ったの最中、手持ちの上着を全てぼろぼろにされてしまったのだ。本体から分泌された粘液が、いつのまにか繊維を劣化させていた。


 驚いたことに、てん杉布や虫布、魔獣の革、更に、ロックアントの殻にも作用した。そのくせ、魔力を持たない動植物には、まるで効果がない。


 訳が判らない。


 無傷のワイバーンジャケットの下の虫布シャツが穴だらけになった事、数知れず。わたしの脱皮殻で作った下着まで、残り少なくなってしまった。髪の毛まで・・・。

 一葉さんは、わたしから離れようとはしなかった。それはいいけど、滲み込んで来た粘液を避けようとする一葉さんは、どうにもこうにもくすぐったかった。


 本当に、質が悪いったらありゃしない。


 観察していると、グリフォンの毛皮は、ほかの魔獣に比べて少しは耐性があることがわかった。


 となれば、やることは一つ。


 報酬の前払いとして、南天王さんの尻の毛をむしり取った。マイマイのご相伴にあずかっていた配下からも、遠慮なく頂いた。

 手っ取り早く糸に捩り、簡易縦織り器で厚めの生地を作り、それをフード付きのコートに仕立てる。

 これで、衣服の損耗が少しでも減らせる。一葉さんも、安心できる。うん。


「さ、さぶいわ」


「それくらいがなに? なんだったら、しっぽの先に氷の塊もプレゼントしてあげるけど」


 少なくとも、上半身の羽は無事だ。そうか。そっちも一枚残らず毟って欲しいか。


 自然に生える毛と違って、わたしの服は手間暇掛かってるんだぞ。


 おまけに、粘菌に食われた魔獣達は、もう、帰ってこない。


「あーーーーん! ごめんなさーい!」


 普通の動物を狩って鞣革を作る手もあった。でも、ここはグリフォン一押しで。ふんだ。


 マイマイの個体数が増え、粘菌の異常増殖も止まり、「事態は収束した」と判断したのは、攫われてから二年近く経っていた。


 へこへこと頭を下げる南天王さんには、食べ過ぎ厳禁を言い渡した。もし次に同じ用件で呼び出した時は、前身素っ裸にひんむいてやる、とも言った。


 ・・・大丈夫かな。トリ頭だし。




 それから、まーてんに向かった。


 予想通り、三葉さんと双葉さんには、がっつり締め上げられた。


 痺れ蛾採取に行ったっきり、全く音沙汰がない。どこに居るかも判らない。だもんねぇ。露天風呂の時とは、事情も時間も全く違うし。

 粘菌退治の途中で、まーてんの様子を見に帰ろうとしたら、よってたかって阻止された。なんてことも、双葉さん達は知らないし。


 三葉さんは、グリフォンの毛玉を差し出すことで、なんとか許してもらえた。コートの二、三着ぐらいは作れそうな量を確保してきたが、全て召し上げられた、もとい取り上げられた。いいんだけどね。

 縦織り器も譲ってみた。嬉々として取り掛かる三葉さんは、とっても楽しそう。


 それにしても。


 だから、わたしが作った生地よりも出来がいいって・・・。泣いていいかな。


 双葉さんとは、ロックビーの巣巡りツアー、お掃除たっぷり体験コースを堪能。最初から最後まで強制参加。


 出かける前に、つなぎだけは作った。作っておいて、よかった。


 なぜならば。


 二年分は、すごかった。とにかく、すごかった。


 それはそうと、巨大な群れのいくつかでは、見慣れない体型の蜂を見た。シャープなフォルムで、ほかの働き蜂よりも一回り大きい。でもって、全身が金色。ぴかぴか。派手だ。それが、巣の出入り口に沢山群がっている。

 怖かった。

 でも、巣の底に落ちていた死骸をいくつか拾って来た。蜂達は何も言わなかったし、光沢が失われていなくてもったいない気がしたし。


 まーてんに戻り、三葉さんに見せたら、意外な答えが返ってきた。


 なんと、金蜂は攻撃専門の働き蜂らしい。


 わたしの不在中、例年通りロックアント祭りがあったが、金蜂達は果敢に群れに挑みかかり、まーてんへの侵入を防いでくれたそうだ。


 双葉さん効果、なのだろうか。


 とにもかくにも、これで掃除屋廃業の道は断たれた。


 だって、ねぇ。念願のロックアントバスターの誕生だもの。


 ロックビーよ、後は任せた!


 なんて、怖くて言えない。何らかの形で労わないと、後が怖い。今の所、巣の掃除の手伝いぐらいしか思い浮かばないけど。回数を増やすしかないかなぁ。


 いつにも増して大量の蜂蜜を貰ってきたのを、早速倉庫で仕込む双葉さん。金蜂の参加は君のおかげでもあるんだよね。ありがとう。もう少し手加減してくれると、わたしがうれしい。


 この二年、ちっとも新酒が仕込めなかった?


 ということで、倉庫を増設させられた。


 手加減してって、言ったよね。聞いてた? ねえ!





「ロナさん? あの、ロナさん?」


 一葉が、ぺちぺちと手の甲を叩いている。


「ん? どうしたの」


 いつの間にか、全員がテーブルの向こう側に回っている。わたしの隣に座っていたはずのアンゼリカさんまで。


「いえ。ロナさんこそ。随分と物思いに耽っていらっしゃるので、どうしたのかなーっと」


 強張った笑みで、話し掛けるスーさん。


「ああ。お馬鹿でお馬鹿でお馬鹿なトリ頭の事を思い出してた」


 更に、顔が強張るミゼルさん。


「それは、グリフォンの、ことでしょうか」


「まんま鳥頭じゃん。あのトリ頭には、当分こっちには来ないように言い聞かせて来た。で、そうそう、お土産だったね」


「「「「違います!」」」」


「この上着は、戦利品。というか手間賃兼慰謝料としてふんだくって来たグリフォンの毛で織った。それから」


 更に、トリ頭達の食べ滓であるマイマイの殻と粘菌が残した結晶を、テーブルに載せた。うん。[南天]の奴らに、グリフォンなんて立派な名前は似合わない。


「ヴァン殿が居れば、はっきり判るのに」


 ミゼルさんが、直径一メルテ近い抜殻を見て、手に取らないまま残念そうに言う。触ればいいのに。


「ぐりふぉんの、け」


 宰相さんは絶句している。


「うん。尻の毛を徹底的に毟り取って来た」


 実際は、下半身の毛を、生え際ぎりぎりで刈った。地肌が見えるくらいに、短く、みじかーく。


「うわぁ」


 両手で尻を隠すスーさん。うん。よかったら、毟ってあげるよ。


「あ、この結晶は判りますわ。魔透石、ですわね」


 話を逸らすつもりなのか、それとも見知ったものがあったから飛びついたのか。


「ペルラ殿! それは誠でありますか?!」


 宰相さんも食いついた。よかった、お土産の価値はありそうだ。


「学園の研究室で拝見させていただいた事がありますの。もっと小さなものでしたけど」


「透明でないのに魔透石とは。変な名前だねぇ」


 細長い五角錐の底を張り合わせた形で、宝石のオパールみたいな複雑な外見をしている。だから、覗き込んでも向こう側は見えない。


 切り刻んだ粘菌の残骸を放置していたら、いつのまにか変化していたものだ。

 南天王さんは要らないと言うし、形状からして放置すれば誰かが怪我しそうだし。穴掘って捨ててもよかったけど、見た目が綺麗だし。記念になるかと思って、全て貰って来た。


「これは、魔力を蓄えたり放出したりする事が出来る、貴重な石なのですわ」


「魔包石とは違うの?」


「あれは、魔力を使い切ってしまえば、ただの宝石と同じですわ。魔透石なら、何度でも使えますの」


 魔石、魔包石、魔透石を例えると、マンガン電池、アルカリ電池、充電可能なリチウム電池、になるのかな?


「特に、魔術師にとりましてはいざというときの魔力切れを起こさずに済みますので、羨望の品なのですわ」


 よだれを垂らさんばかりに結晶、もとい魔透石を凝視するペルラさん。


「ドリアードの根といっしょじゃん」


「あれは液体ですから持ち歩きに不便ですし、飲み過ぎれば体を壊す事もありますわ。その点、魔透石は、使い手に違和感なく魔力を供給するんですの」


 なんと。インバーター内臓の高性能バッテリーだったか。


「ペルラ殿、落ち着いて! そんな様子を見せたらナーナシロナ様が」


 宰相さんが、必死の形相でペルラさんを揺さぶる。


「宰相。魔透石は、どんな問題が?」


 スーさんが、宰相さんに恐る恐る質問する。


「魔包石以上に稀少な品です。その、この大きさですと国宝級かと」


「なっ!」


 テーブルに載せたのは、長径は二十センテくらい。この大きさの結晶は、それほど多くない。念には念を入れて、かなり小さく切断したからだ。

 ほとんどの結晶は、二センテ前後だ。それも見せてみた。


「この大きさなら?」


「この大きさでも、言い値で売れます」


 つまり、定価無しで、値段がつけられない、と。ならば、無料ただでもよい訳だ。言い値でいいって言ったもんね。


「え?」


 ペルラさん、フリーズ。ブレスを吐いた訳ではないから、問題ない。ないったらない。


「魔術師でない貴族も、こぞって手に入れたがるでしょう」


「沢山あれば、みんなで使えるよね♪」


 ペルラさんは気に入ったようだし、これなら不在時に掛けた迷惑料をチャラに出来る。


「出さないでくださいくださいってば!」


 ミゼルさんが、わたしの背後に回って腕を取る。ばんざーい。って、何をさせたいんだか。


「それもそうだね。この部屋には入り切らないし」


「「「「「え?」」」」」


 マジックバッグに入れられなかったのは、魔力を吸収する性質があるからだったとは。入れられなくはないのだけど、すぐに陣布の効果が切れて結晶が溢れてくるから、変だとは思っていた。

 亜空間収納が可能だったのは、陣布を使っていないからだろう。


「多分、練兵場が埋まるくらいは拾って来た」


 それだけあれば、工房の借金も一発返済可能だろう。よっしゃ。


「どこで?!」


 スーさんの声は、もはや悲鳴だ。


「ねちょねちょが残した結晶なんだ。ボクは使う予定がないし、心配かけたお詫びにペルラさんにあげる」


 魔道具に利用できないのなら、持ち腐れになる。ん? 術具の場合はどうなんだろう。少しは残しておくか。


「はう〜〜〜〜〜」


「あらあらあら」


 ペルラさんは、腰が抜けたらしい。そのまま気絶してしまった。そこまで感激してもらえるなんて。拾っておいてよかった。


 あ。【遮音】は解除されちゃった。


「[南天]にて、稀に採取される、とは、聞いておりましたが。そう、ですか。埋まるくらい、ですか。ふぅ」


 ため息ではない。宰相さんも気絶した模様。実用品なんだから、沢山あればもっと喜ぶかと思ったのに。まあ、宰相さんは、魔術師じゃないしね。


「出さないでください。お願いですから」


「ここでは出さないってば。石に埋まって窒息なんて、やだもん」


「そうではなくてですね?!」


「ボクがいきなり居なくなって、工房は大変だったでしょ。ここは、せめて心を込めたお土産で誠意を尽くさないと」


「いえいえいいえ! 全く問題ありませんでした。関係者一同一丸となって解決に取り組み、現在、工房の運営は軌道に乗ったと断言します。ですのでお土産などというものも必要ありません」


 ミゼルさんが、背後から、早口で捲し立てる。そーかそーか。


「だったら。ボクを攫ってくる前に、さっさとやっておけばよかったんだ」


 スーさんとステラさんを睨みつけたたら、視線が泳ぎまくっている。


「・・・まことに、その通りで、ありまする」


 わたしの腕が解放された。


 振り向けば。


 おーあーるぜっと。


 ミゼルさんも沈没していた。

 事後説明が、終わらない。あれ?

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