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害虫退治

 わたしに下された診断、「英雄症候群」は、力加減を間違えた時の口実に使おう。自分で口にする時を想像したら、思いっきり背中をかきむしりたくなるけど。


 そんなことより。


 変身状態を維持できない方が、困る。非常に困る。


 原因は、精神的ストレスに違いない。そうに決まっている。


 一葉さんは喜んでるが、気分転換にもなっているが。いつまでも湯船に浸かりっぱなしでいたら、そのうちに鱗だけでなく脳みそもふやけてしまう。

 双葉さんに勧められるままにお酒を飲み続けるのも、アルコール中毒になりそうで怖い。そんなことになったら、さっちゃん達に盛大に叱られる。


 今回は、発作直後、事前策もとい人体実験の成果もあって、すぐに人型に変身出来た。これ幸いと、力一杯、暇つぶし、もとい趣味三昧に耽ることにした。好きな事、面白そうな事に没頭するのも、立派なリフレッシュの手段だ。

 普段していることと変わらない、とは言わせない。趣向を変えた魔道具なら、同じではない。ないったらない。


 イライラモヤモヤ、吹っ飛ばせ!


 ・・・自分が吹っ飛びました。新作魔道具の試作の時にね。どかーん! と、崖の上から、気持ちよく。


 鳥になった、わ、た、し。


 墜落死は嫌だから、すぐさま変身したけど。


 何度も何度も飛ばされて、イライラも吹き飛んだ。


 気がする。


 ついつい夢中になっていたら、洞窟内は、面白魔道具が溢れかえっていた。


 最初に思いついたのは、「椿」そっくりの電撃を放つ剣だ。


 しかし、両手剣など作った事はない。当然だ。日本でそんなものを作ったら、あっという間にお縄になる。

 ウォーゼンさんの剣を参考にしてみた。グリップや重心、形を整えていく。バランスは、こんな物かな?

 漸く、それらしい剣が作れるようになった。


 次は、剣に魔法陣を組み込む。とは言え、ヘンメル殿下に献上したナイフの鞘に付与した事もあるし。


 割と簡単に完成した高周波振動を発する機能を付けてみたら、「椿」と遜色ない切れ味となった。魔獣の骨どころか、岩さえも手応えを感じる事なくサクサク細切れになる。物騒極まりない。高周波ブレード「は」、封印することにした。


 魔法陣の簡単さよりも、シンプル機能優先に切り替えよう。うん、各魔術系統の基本に立ち返って。




 火の剣。切り口を焼いてしまうので、傷口から出血しない。ただし、加減を間違えると、剣を握っている本人も大火傷する。所有者を熱から守る術式を加えたら、剣身が溶けた。少しばかり、火力が強すぎたらしい。

 その後の微調整は苦労した。本当に苦労した。制作途中で爆発させた回数は、一番多かった。


 水の剣。どれだけ切っても刃に血糊がつかない自動洗浄機能付き。持ち主への返り血は、その範囲外。剣技の上手な人なら、問題ないだろう。


 風の剣は、斬りつけると同時に空気の塊を叩き付ける。相手の反撃を防ぐことが出来る、かもしれない。

 ただし、あらかじめ踏ん張っていないと、剣諸共本人が飛ばされる。


 土の剣。的を切っても切れなくても、握りこぶし大の石つぶてが散弾の様に撒き散らされた。間違いなく、フレンドリーファイアで怪我人が続出する。しかも、弾は足元の地面から供給される。結果、足場が悪くなり、しばしば素っ転ぶ羽目になった。


 氷の剣。生きた獲物が、あっという間に冷凍ブロック肉に大変身。お持ち帰りにとっても便利。自分自身をフリージングしてしまう前に、素早く解体する必要はあるが。

 ユードリさんの出番は、もう、ない。


 空間の剣は、切れ味が良い。良すぎる。洞窟脇の岩壁の手前に試し切りの的〈ロックアント製〉を並べていたのだが、よく見れば岸壁に深い傷が。試しに岩そのものにも斬りつけてみたら、すっぱり叩き切ってくれた。刀身が触れたときだけ展開するように改良し、「椿」に続く岩切くん二号として使うことにした。高周波ブレードと違って、静かなんだもん。


 重力の剣。軽い。指先で摘める。絶対に、子供には渡せない。なんとかな人も以下同文。これは、お蔵入り。決定。


 光の剣。切る瞬間、光る。派手ではある。どこの勇者さま装備だと、自分に突っ込みを入れてしまった。攻撃する瞬間の目くらましには使えるかもしれない。でもなぁ。持ち手は、目をつぶっていなければ同じ目に遭う。それくらい眩しい。自己演出型武器、と呼んであげよう。


 一番物騒なのは、雷の剣、だと思う。刀身が触れるだけで、相手が麻痺してしまうのだから。後はやりたい放題。好きなだけ切り刻める。卑怯にも程がある。


「「椿」よりも、使えるかな」


 一瞬、寒気がした。気のせい? そう、気のせいだ。


 属性剣を試用してみた感想は、悪くはなかった。しかし、一長一短、もとい癖が有り過ぎて、使う場面は選ばざるを得ない。封印したものもあるし。術式を魔法陣にコンバートする時、どこか間違えた?


 いやいやいや。ベースが剣だったから、評価が微妙なのであって、他の武器防具なら、魔法陣を組み込んでも問題ない。よね?


 トンファーでは、手加減が楽になった。ついうっかりしても、規定値以上の運動エネルギーを完璧に相殺するようにしたからだ。

 これなら、腹には風穴が空き、足はちぎれ飛ぶような乱戦時でも、せいぜい悶絶とか捻挫ぐらいで済むだろう。

 とは言え、当たりどころが悪ければ、深刻なダメージを与えてしまう。やっぱり、修練は続けないと。


 弓には、的中効果と速度制限効果を。竹矢で腕とか足とかを捥ぎ取るなんて、もう二度と見たくない。刺さるだけでいい。貫通しなくてもいいんだってば。「朝顔」の出番は、狩の時だけ。


 フェンさんの工房で作った鞭を参考に、首長竜の鱗を棘状に加工した鞭も作ったことがある。こちらの外見の方が、威嚇効果が大きいかもしれない。電撃効果も標準装備。しかし、素材を追求された時のいい訳が面倒くさい。「椿」で懲りた。


 ということで、鞭も新作した。電撃(弱)効果付きを数本。対人拘束用だ。むふふ。抜け出せません、解かれるまでは。


 電撃鞭の、見た目は派手だ。編み込み鞭の所々に、銀色の糸、もとい電撃発生用の虫糸リボンが光を弾く。電撃を発する時は、本当に光る。鞭を振り回せば、夜目にも鮮やか。ネオンサインじゃないんだけどなぁ。


 どうせなら、似たようなデザインの上下服とか眼帯とかブーツとか、お揃いにしてみようか。これらを着て、このむちを振るう姿は、・・・想像してみたら、怪しい事この上なかった。特殊な性癖の方々には受けるかもしれないけど。げふん!


 ということで、盗賊捕縛の手段も増えた。痺れ矢で痛い目に遇ってもらうだけでは芸がない。もとい、死人を出す可能性は下がった。魔道具が壊れたら、それまでだけど・・・。


 慌てて、予備品を増産した。



 

 付加効果によっては、素材の耐久性も随分と変化した。一回使ってみただけで壊れたり。魔法陣を起動させていれば無敵だったけど、待機状態ではすぐに錆びたり。

 試作して壊れ、試用して壊れ、効率のいい調合を完成させるまでに、それはもうとんでもない量を消費した。そして、ゴミの山が出来た。


 失敗作は、また四葉さんが秘匿する前に、元の素材に戻す。戻せないものは、『昇華』で完璧に処分した。


 いやだからね、物騒だし、すぐ壊れるし・・・。判った。四葉さん達の防具も何か考えるから。あああ、鼻歌シリーズは止めてっ。




 てん杉実の蜂蜜漬けに替わる薬も探してみた。[魔天]中を彷徨うろついたけど、今の所、発見ならず。


 でも。そのうち。きっと。


 そういえば、蜂蜜漬けの効果は、嗅覚で判断できなかった。ロックビーの蜂蜜は、大量に使うと薬効が判りにくくなるのかもしれない。


 思い出した。素材を漬け込んだ蜂蜜酒も、試し飲みするまでは判らなかったっけ。


 それは置いといて。


 二次加工品で効果が足りないのなら、更に加工してみよう。


 手始めに、蜂蜜漬けを煮詰めてみた。出来上がったのは、てん杉の実も霞むほどに強烈な魔力を発するキャンデー。


 でも美味しい。


 どうせ、わたしは人外だもん。何を食べてもいいじゃない。


 だがしかし、重大な欠点が判明した。


 ある日、採取に出かけた[深淵部]で、おやつ代わりに食べようとポーチから特濃キャンデーを取り出した。とたんに、ティーラーン(しっぽの毛が鋭い針になっているリスの魔獣)やファコタ、その他魔獣達がわらわらと集まって来たのだ。キャンデーが口の中から無くなっても、まだ追ってくる。

 一番しつこかったアンフィから逃げ切るまで、半日も掛かってしまった。熊さんは、地球でもヘリオゾエアでも蜂蜜が大好き。


 ではなくて!


 異常魔力は魔獣を呼び集めることを、すっかり忘れていた。


 そんな事件もあって、更に試行錯誤を繰り返した。結果、ある素材でキャンデーを包むことで、魔力の発散を押さえる事に成功した。これで、魔獣達に狙われることなく、どこででも食べられる。


 その素材は、滅多な人には教えられない。てん杉同様、気軽に採取できない代物だからだ。

 寧ろ、偶然手に入れた、としか言えない。




 ヴァンさん達と別れた後、まーてんに帰ってきた時、大急ぎで森に出かけようとする双葉さんを止めた。だって、蜂蜜の在庫は「山茶花」の中に、山ほどあるし。


「取り過ぎは駄目だって!」


 ところが。今回に限って、わたしに向かって、「付いてこいと」手招きならぬ蔦招きをする。


「?」


 手伝えということかな。根気強い勧誘に、根負けした。まあ、蜂蜜漬けが効いている今なら、大丈夫だろう。採り過ぎも制止できるだろうし。


 付いて行った先にあったのは、万単位の蜂がたむろしている巨大なロックビーの巣、だった。羽音の音量は、半端ない。トレントの根で燻すとしたら、どれだけの量が必要だろう。こんなところから、一体どうやって取って来てたんだ? 今更ながら、疑問符が大量に浮かんでくる。


 躊躇するわたしを残して、双葉さんは、巣の入り口から、堂々と入っていった。


「ちょ、ちょっと? 危ない、よ?」


 大声を出すと、ロックビーを刺激してしまう。ああほら、背後から押されてしまった。押さ、れて・・・?


 振り向けば、わたしの背後に、一匹の働き蜂がいた。群の羽音が大きすぎて、接近されるまで聞き分けられなかったようだ。なんたる不覚。


 ロックビーは、体長一メルテの昆虫型魔獣で、単体の戦闘力ならロックアントが上だが、空中での機敏さに猛毒の針を使いこなす空飛ぶ猛獣だ。凶暴昆虫の数の暴力には逆らっちゃいけない。

 ロックアントの群れだって、辺り構わず食い散らかす習性さえなければ、ロックビー同様に手出しはしなかった。


 それはさておき。


 この体勢なら、大顎でわたしの首を噛み切ることが出来るだろう。あるいは、毒針を背中に突き刺すとか。まあ、術式使えば弾き飛ばせるけど。でも、そうしたら他の蜂を呼び集めるかもしれないし。どうしたらいいんだろう。


 しかし、その働き蜂は、閉じた大顎の先でわたしの尻を突くだけだった。


「わたし、も?」


 こつっ


 巣の中に入るよう、促している、らしい。


 働き蜂を張り付かせたまま、恐る恐る巣に入り、通路の奥で見たものは。


 彼らに混ざって、巣の清掃や補修を手伝っている双葉さん、だった。


 いつの間にか、掃除夫に鞍替えしていたらしい。もう、言葉も出ない。


 巣のあちこちを突つきまくり、埃とか古い巣材を落としている。わたしの目の前で成長しているゴミの山は、一日二日で溜まったとは思えない高さだ。よく見れば、死んだ幼虫等が混ざっている。幼虫の糞とかもあるだろう。

 衛生的によろしくない環境、と断言する。出来る。


 つまり。Gが繁殖していてもおかしくない。かもしれない。


 ・・・ひいぃぃぃっ! 片付けだ、清掃だ!


 慌てて、手ぬぐいを取り出した。頭巾を被り口元を覆う。これで準備よし。そして、「山梔子」にゴミを放り込んでいく。まーてんに戻ったら、ばい菌諸共、一発焼却してくれる。


 どうやら、わたし達の作業を蜂達は喜んでいるらしい。綺麗な生活環境は、みんな大好き、なのだろう。この際とばかりに、かなりの数の蜂達が掃除に加わってきた。古く脆くなった巣材が、雨あられと落ちてくる。わたしの上にも容赦なく。これで腹を括った。ええい、すっきりさっぱり断捨離だ! 違うか。


 一通り、作業が終わって、双葉さんが降りてくる。すると、蜂達が、自分たちの巣の一部、それも蜜がたっぷり詰まった部分を壊し始めた。おい!


「なんで壊しちゃうの?」


 双葉さんが指輪を突く。


「手伝いの、お礼、だったりするのかな?」


 ぴこっ


 おお、落ちる! もったいない!


 地面に落ち切る前に、ドラム缶で掬い取る。・・・うう、本当に大丈夫?


 攻撃されない。


 肩から力が抜けた。


 ほっとするやら。呆れるやら。頻繁に貰ってきても、平気の平左で帰って来られたのは、こういう理由だったんだ。共生関係、あるいはギブアンドテイク。魔獣でも通用するとは。


 蜂達は、太っ腹だった。またも巣を切り離したので、あわててドラム缶を引っ張り出して真下に置く。ああもう十分ですってば。双葉さんが採取してくる量より多いぞ。


 二人分の報酬、ということだろうか。まあ、文句を言われるよりはましだが。それに、わたしも、蜂蜜、好きだし。


 うん? 一匹の働き蜂から、双葉さんが口移しに蜜を貰っている。黙って見守る、もとい機嫌良さげに羽を鳴らす蜂達。特別手当、っぽく見える。そうか、いいのか。いろいろと驚き過ぎて、もはや驚けない。


 双葉さんが巣から出て行く。どう見ても、ツチノコ。やっぱり、ツチノコ。あるいは、緑色のぶっといソーセージ。まーてんへの帰り道に、他の魔獣に襲われたりしなかったのだろうか。その辺りも謎だが、まあ双葉さんのやることだし。

 それはともかく、今回はわたしが同行している。巣の外で樽を取り出し、蜂蜜を移し替えさせた。うん。すっきりスリム。


 では、帰ろう。もう帰ろう。すぐ帰ろう。


 ・・・・・・


 双葉さんが掃除屋稼業を請け負っていた群れは、一カ所だけではなかった。


 他の素材を採取するのかと思いきや、連れ回された先で、別の巣に潜り込み、ゴミを拾って、報酬代わりの蜂蜜の詰まった巣の塊を貰って、口移しの蜂蜜も受け取って。

 双葉さーん! なにも、馴染の巣を一度に廻りきらなくてもいいじゃん! 挨拶回りだ? わたしを連れ回す必要はないよね? ね? ね?!


 無事にまーてんに生還した時は、心底安堵した。脱力した。しばらく動けなかった。


 わたしも、掃除夫にジョブチェンジしたのかもしれない。

 

 いいけどさ。


 全身、頭のてっぺんから足先まで、ゴミまみれ。入浴は、かき集めてきたゴミを処分してからだ。

 それにしても、双葉さん、出かける前に説明してくれてもいいじゃない。作業用のつなぎとか、蜂の巣清掃用の掃除道具を作っておいたのに。次はないと思いたいが、念のため用意しておこう。これの片付けが終わったら。


 ゴミの処分をしながら、事の顛末を双葉さんに聞く。通訳は、三葉さんにお願いした。しかし、答えはこれだけ。


『アルジ、トクベツ』


「何が?」


『ゼンブ、トクベツ』


 わたしを気分転換させる為に、特別に同行させた、ということかな? それとも、蜂蜜が、なのだろうか。よくわからない。


 双葉さんは、巣の底のゴミの山までは手を付けられなかったらしいので、特別なことをした、と言えなくもない。

 双葉さんにもゴミを回収できれば、蜂達はもっと喜ぶだろう。でも、持ち出したゴミが巣の外に掃き出すだけなら意味はない。いい方法はないものか。


 双葉さんが受け取った特別な蜂蜜は、樽四個分になった。普段見慣れているものよりも、色が濃くて粘度が高い。味も濃い、気がする。

 双葉さんは、その蜂蜜全部をわたしにくれるという。労働報酬なのか、それとも、次の掃除も手伝えという無言の要求だろうか。


 蔦だから、いつも無言だけど。


 せっかくの好意なので、ありがたく頂くことにした。一部は、蜂蜜酒や蜂蜜漬けにした。


 そして、ふと思いついて特製キャンデーのコーティングに使ってみた。

 驚いた事に、魔力の発散を限りなく押さえる効果があった。水晶の食品版、みたいなものだ。

 その他の用途として、魔獣の肉でも、てん杉の薫製でも、これをひと塗りしておけば、アーラ不思議、その辺の猪肉や果物に見せかけられるという優れもの。

 これはとても助かる。素晴らしい。


 この報酬が貰えるなら、年に一回位は、双葉さんのお手伝いに付いていってもいい。かもしれない。

 本格的に、ジョブチェンジしようかな。


 双葉さんは、巣の塊入りのドラム缶から、蜂蜜を吸い出している。早速、蜂蜜酒や蜂蜜漬けを作るらしい。残った蜜蝋は要らないというので、わたしが貰った。


 そして、双葉さんが作った加工品は、次の蜂蜜を採取して来た時に、わたしに押し付けられた。


 なんだ。結局、全部、わたしが貰ってるじゃん。




 さて。


 G。あるいは、ゴキブリ。英語ではコックローチ、だったっけ。


 地球上でもしぶとい部類に入る、古い種族だ。近代技術の結晶である各種薬品に対して、あっという間に耐性を身に付けてしまうという、脅威の生態の持ち主でもある。


 まして、ここはヘリオゾエア。魔力たっぷりな世界。たかが酒の発酵ですら斜め上に変異させてくれる、困った、もとい恐ろしい環境。

 こんな所で殺虫剤を新規開発したとしても、耐性を身につけるついでに予想外な新種が生まれたりしたら・・・。


 わたし、責任持てませーん!


 やはり、物理一発でサーチアンドデストロイ。これだろう。


 とは言え、たかが四センテほどの昆虫相手に、毎回石を投げつけていたのでは、周囲は堪ったものではないだろうし。


 スマート且つ必中の武器。は、何がいいか。


 思いつくままに、作っては試し撃ちを繰り返した。


 まずは、定番のロックアント。


 黒いビー玉を作り、的に投げつける。Gに見立てた木片は、木っ端微塵になった。そして、的の下に置いてあった石も砕けた。しまった。指弾の威力は抑制できなかった。


 手投げナイフの形にしてみた。今度は、木片に刺さる。Gの中身、もといはらわたがぶち撒かれるようでは、精神衛生上ものすごく困る。これならいける。


 ところで。

 [魔天]にはGが居ない。Gの変異した魔獣、クォロトならば生息している。体長一メルテの真っ黒巨大ゴッキー。見る角度によっては、七色に光る。優雅な曲線を描く触覚が、プリチー。

 何故に、クォロトなら平気なのだろう。


 それはさておき。

 実験台に選んだクォロトは死ななかった。投げつけたナイフは、一ミリたりとも刺さらなかった。迫るクォロト。已む無く、水の魔剣で滅殺した。


 まさかと思い、他の魔獣にも投げてみた。刺さらなかった。怒らせただけだった。


 まさかは確信に変わってしまった。即ち「不殺のナイフ」、再び。くすん。


 ロックアント製の試作品は、丸めて固めて、板素材に戻した。使えないのだから、仕方ない。


 首長竜の鱗はどうだろう。


 長さ二十センテの竹串状に加工する。どこかの必殺仕○人のようだ。まあいい。さくっと刺さる。クォロトにも刺さる。しかし、誰にも拾えない。通りすがりの双葉さんがうっかり接触し、あ、痙攣した。レスキューっ!

 これを無差別投擲なんかした日には、辺り一面が地雷原になってしまう。これも却下。


 使い捨てできて、Gの息の根を確実に仕留められて、人には無害。・・・難しい。


 てん杉の種を加工して指弾にするか? でも、それは「聖者様」の得意技だったし。ロックアント弾でも、威力調整に失敗してるし。


 鞭、も、いやだ。アレの体液に塗れた武器を持ち歩きたくはない。


 手のひら大の使い捨て。これに限る。


 串型は、いいと思う。ハエタタキよりはスマート。

 [魔天]の竹、は、どうだろう。採っても採っても、まだ生える。クォロトに刺さる程度の強度もある。節に付いている棘も使える。これでいこう。


 では、命中率を上げる工夫に取りかかろう。


 ゴキブリ退治の流れ弾が脳天に突き刺さりました。なんて、誰だって嫌だろうし。


 ふ、ふふふ。待っていろ。


 いきなり体調不良を引き起こさせた挙げ句、アンゼリカさん達に正体がバレてしまったのは、あんた達の所為なんだからね。今度こそ、確実に、間違いなく、問答無用で止めを刺してやる。


 偶然にも、矢筒ならぬ串筒を魔道具にしてみたら、収めてある串に命中率を付与するが出来た。串の先端を魔包石の粉末でコーティングする必要はあるが、これは必要経費だ。もったいない、なんて言っていられない。


 武器作成の最中、串投げの練習を続けた。いくら魔道具で補助しても、元々の腕がノーカンでは意味がない。例えば、投げた背後の幹に突き刺さるとか。レンの弓の腕前を笑えなくなってしまう。


 目指せ、必中必殺。


 なに。恨みつらみはたっぷりある。余りあるほど有る。有り過ぎて、度々、串を凍らせてしまった。

 これはこれで使えるかと思ったら、的に当たったとたんに串の方が砕け散った。うーむ、串ではなくて、頭を冷やすべきだったか。


 とすっ。とすっ。ととっ。


 すとととっ。


 よし。この調子だ。


 とすとすとすとすっ。


 ふ、ふははははっ!

 見たか! 思い知ったか! わははははーーーーっ!


 蛇足ながら、研究に熱中しているわたしの独り言を、三葉さんが録音していた。

 最初は、何の音か判らなかった。だけど、その不気味なつぶやきは自分の声だと気が付いた。気が付いて、すぐさま「楽石」を取り上げ、そして握りつぶした。


「何でもかんでも録音するのは禁止!」


 エッカさんと商工会館での攻防もだけど、あまり好き勝手して欲しくはない。黒歴史は、抹消すべし。


 わたしのやってるあれこれは、いいの。判ってやってるんだから。


 三葉さんは、コレクションが壊されて大暴れしている。


「今度やったら、空の「楽石」も渡さないよ?」


 ぴたっ


 素直でよろしい。


 私の独り言は録音しないように念を押して、石を壊したお詫びに未録音の「楽石」を渡した。・・・判ってるのかな。


 ああ、はいはい。四葉さんにもね。

 お食事中の皆様、失礼しました。

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