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黄金の×× 〜彼らと彼らの事情〜

 お食事中の方、失礼します。短編です。

 南天ではよく食べた。食べ過ぎるほど食べた。だが、空腹という生理的欲求の前に、わたしは潔く白旗を揚げた。


 その結果、当然、もよおすわけで。


 黒銀竜の時の方が、おかしかった。どれだけ食べても、平気の平左。口にした物は、体内で魔力にまで分解して吸収していたのだろう、と予想していた。

 なので、無人島で定時にしていた時は、少しはまともな生物の範疇に戻れた、と喜んでいた。


 それはともかく。


 まーてん帰還直後、山頂で一眠りし、腹を満たした後、あるエルダートレントの陰を当面のトイレに決めた。

 だから、縄張り宣言するわけにはいかないし、後でちゃんとした浄化槽も付けようと思ってたんですよ。


 それが。


 最初のロックアント狩りを終えてまーてんに戻ってきたら、一変していた。



 ずどぉん!



 昨日までのエルダートレントは、どこ?


 トイレ跡にそそり立つ、新・エルダートレント。幹周りはおよそ四倍、樹高は二倍ぐらいになっているだろうか。

 周囲のエルダートレントは一掃されており、生き残り達が遠巻きに悔しそうに眺めている。一方の新・エルダートレントの得意そうな事!

 なんとなく、そんなイメージに見えるんだけど。


 手首に巻き付いていた一葉さん達を見れば、なにやら蔦の先をピコピコと揺らしている。・・・うらやましいんかいっ!


 二度と出さないというのは、論外。というより、無理。


 それなら、


「すぐさま、分解しちゃえばいいよね」


 『昇華』あるいは『焼滅』なら、綺麗さっぱりお片付けできる。


 口に出ていたらしい。


 四人、というか、四本が両手にまとわりつく。


「え? だめ?」


 蔦先を大きく一回振って、肯定の意を示す。


 だけど、この調子では、あっという間に、融合捕食が進んでしまう。エルダートレントが減るのは、景観的にも心情的にもうれしくない。とはいえ、「わたしを取り合って争うのはやめて!」と言ったところで、聞き分けるとも思えない。


 四本の身振り手振り、もとい蔦振りと、わたしの数打ちゃ当たる的提案を突き合わせ、妥協点に到達した。


 どうやら、今生のわたしのものは、彼らに取って素晴らしく「美味しい」ものらしい。加えて、効果も抜群。無人島で死にかけていたところ、わたしの××のおかげですっかり元気になれた、と、本人達が言っていた。

 まーてんのエルダートレントは、元から元気なんだから、要らないでしょ、と思ったけど、「もったいない!」のだそうだ。・・・複雑。


 でも、毎日毎日、アレを巡って生死を賭けた争奪戦が繰り広げられるのは、勘弁して欲しい。

 ということで、ある程度量を溜めてから、不公平にならないように撒くことにした。これなら、不平不満は出ない、だろう。


 ちなみに、新・エルダートレントは「独り占めは許さん!」となり、一葉さん達の制裁対象となった。

 一葉さん達が、嬉々としてでっかいエルダートレントに飛びかかり、締め上げて、引き倒すのを見た時は、怖かった。普段、わたしの手首に大人しく収まっている方々と同じとは思えなくて。


 お亡くなりになった新・エルダートレントは、その後、エト布その他の材料になってもらった。


 ついで、「さん」付けで呼ばずに、さらに命令口調で指示するように、と四本に「お願い」された。

 なんでだーっ! と、散々ごねたが、


「一葉さん」、ビシッ

「お願いします」、ビシビシッ


 蔦先で、文句を言ってくる。ぶたれて喜ぶ趣味は無いので、しぶしぶ言われた通りにする事にした。・・・彼らの趣味も判らない。




 簡易トイレとはいえ、何もせずに放置すれば、香しき芳香に悩まされる事になる。三葉さんには、抜け駆けするエルダートレントも出るかもしれない、と指摘された。

 いっそ、[深淵部]で、と言ったら、たこ殴りにされた。未熟なトレントなんかには渡せない! そして、新・エルダートレントのような斜め上の新種が現れるとも限らない、だそうだ。

 確かに、それは怖い。


 なので、思い切って、最先端エコトイレを作る事にした。


 見た目は、真っ黒なポータブルトイレ。蓋付き洋式便座と処理部、貯蔵部に別れる。

 使用後は、自動ウォシュレット&ジェット水洗、そして、即乾燥機能付き。処理部に落ちると、高速回転する刃が粉砕し、尚かつ高温乾燥させる事で、粉末状態になる。完全乾燥したら、貯蔵部に保管される。

 いやもう、苦労した。術式を順次実行させるのはまだいいんだけど、各過程をどのタイミングで停止させるかの条件付けがね〜。


 何てったってポータブル。腕輪にしまって持ち運びする。・・・うん。ポータブルだもん。



 一回目は、風魔術を使って、まーてん一帯に均一散布した。撒いてから、これって縄張りのマーキング行為じゃん、と慌てた。でも、時既に遅し。直後にスコールが降り、回収不可能に。十分薄まっている事を祈る。


 翌朝、草地はジャングルになっていた。ただでさえ、二メルテ近い草丈だったのが、三メルテを越えた。

 草刈りに精を出すこととなった。草焼きにしてもよかったが、野火のコントロールは難しい。山火事は勘弁。

 ついでに、丈夫そうな茎の部分を選り分け、ゴザを作った。イグサの畳っぽい香りがして、なかなかよろしい。残りは、エルダートレントの根元に敷いたり、縄を編んだりした。


 エルダートレントからは、ブーイングの嵐。枯れ枝や未熟な実を、雨霰と投げつけられた。実は、拾って炒っておやつにする。


 二回目。子供一人半年分なんだから、それほどたくさんあるわけがない。先に草を刈って乾燥させ、粉末にしておく。溜め込んでいた物と混ぜ合わせて増量する。それを、エルダートレント達の間に撒いた。

 一葉さん達もエルダートレント達も、物足りなさそうだった。だいたい、一葉さん達は、もう根っこが無いんだから、吸収出来ないでしょうに。


 三回目。ほぼ、一年分だ。どうだ。・・・まだ足りないらしい。もっと喰え、と実を押し付けられる。ちゃんと食べてるのに。


 四回目。四葉さんが、そろそろいいだろう、と許可を出したので、撒く事にした。翌朝、いつにも増して神々しい一群が。よかったですね。




 翼が増量したら、なぜか出る物が減った。そこのところを説明し、今後の散布間隔が開く事を了解してもらう。自然現象なんだから、どうしようもないんだって。


 トイレも、術具から魔道具に変更しようとした。ところが、術式のコンバートが難しい。加えて、貯蔵部が小さく出来ない。空間拡張の重ね掛けは出来ないので、このままだと、大きすぎてウェストポーチにしまえない。

 結局、専用の結界術杖を用意して、トイレは今まで通り腕輪にしまっておく事にした。取り出すところを見られなければいいんだ。匂いも漏れないようにして、と。


 ついでに、術具式トイレの貯蔵部を改良し、一旦粉末にした後、団子に成型するようにした。これで、どの地点にも同じ量を施せる。取り扱いもしやすいし。




 あれから、エルダートレント達は至って素直になった。大きさを指定すれば、その実を落としてくれるようになった。


 餌付け? なんか違う。



 ちがう。マーキングなんかじゃない。


 違うんだーっ

 どうしても書きたかったのです。

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