86.お忍び終了
俺の前世の偏見からか、ファイアドラゴンは脳筋のイメージで、生真面目な本質を目の前にしてギャップに驚くってのを繰り返している。成長のない俺。
知的で、物静かなタイプが多いって言われてもなぁ。炎で物理押ししているイメージはなかなか消えてくれない。
「そもそもティルマイルがファイアドラゴンってのが、未だに脳内でマッチしていないからなぁ」とつぶやく俺に、東の領主は、
「綺麗な紫色のストレートショートボブの男前。カクカクしている黒角に憧れない東領の子供はいないとまで言われる、ファイアドラゴンの中のファイアドラゴン。人格者で実力もある超有名人でございますよ」と言って苦笑いされた。
「火を噴けば町一つはあっという間に灰燼と化すだろうなんて言われて、年配者には恐れられてもいますけどね」とサリアが茶化して言う。
側近だから強いのは当たり前だろうけど、見た目からすると、重力とか操りそうなイメージなんだよなぁ。あとは、魔王っぽい。ていうか、俺よりよほど黒龍王っぽい。
さて、それより、東領の別荘だ。予想通り、シンポジウム会場かって感じ。薄い紫で落ち着いた内装の、大会議場に講演会場、研究ラボも併設されている。あれ?別荘だよね、俺の。
俺が来た時にすぐに研究成果がお知らせできるように考えました!っていい顔で言われてしまうとどうしようもない。
外観は、さすがファイアドラゴンの領地。赤というか、朱色っていうのかな。目が痛いほどインパクトがある建物だ。でも、お寺とかの五重塔の色だと思えば、なんだか懐かしさを感じるかも。
一応、お付き合いで、こけら落としのシンポジウムに出席することにした。何度も言おう、別荘なんだよね?俺の。
不思議過ぎる現象を引き起こす秀才の集団だ。東領恐るべし。
人族研究所も招待されていて、所長のメリノさんとルドルが代表で来るらしい。勿論俺は認識阻害で赤ちゃんドラゴンの姿を作っている。人型でも良かったんだけど、カマラテの熱い要望でこれになった。
推し活が激しくなっている気がする……。
俺の座る椅子をビリーヤが手で運んできて驚かれたり、ティルマイルが夕食の残りでサンドイッチを作って持ってきていたりと、皆の度肝を抜きっぱなしの側近たちだったが、なんとか無事に別荘巡りは終了した。
そして、ルドルの研究も成果を上げて、テイル村に帰ることになった。魔力飴は竜族の管理のもと、主に人族が、緊急で治癒魔法を使うために、村に配布されることになった。魔力のあるものが食べてもただ甘いだけという仕様になっていて、魔力争奪戦にはならない。さすがルドル、安心安全な飴になったね。
テイル村へは、またしても馬車に揺られてのんびりな旅だ。
行きは、馬車移動なんて信じられないと言っていた側近たちも、もう慣れたものだ。こんなにも変わるなんて、そっちが信じられないよ。
テイル村から、黒龍城に帰って、俺は久しぶりにブラックドラゴンに戻った。体の隅々まで、う~んと伸ばして、しっぽの先、翼の先端までピーンと伸ばす。
「きもちい~~!」
なんだかんだ言っても、もう俺はドラゴンなんだなぁと、思う一瞬だった。
ロイドに、このお忍び旅の話を面白可笑しく伝えると、
「左様ですか、人族やら妖精族やらになりすまして、さぞや鈍っていることでしょう。明日は、側近たち用に軍府の訓練場を予約しておきましょう。大将や中将たちも呼んでおきますゆえ、ご存分に」と言われてしまった。
「きっと、一人だけ、仕事漬けだったから、嫌がらせだ!」とビリーヤはブーブー言っていたが、カマラテは
「久しぶりにドラゴンで体を動かせます」と、とっても嬉しそうだった。
俺に長い間付き合ってくれてありがとう!




