85.日常
アマンダの両親を呼び出して事実を伝えたら、村長宅から駆け落ちして逃げたという評判だけでも肩身が狭いのに、さらにまだ窃盗に文書偽造の罪まであるのかと呆然としていたらしい。追い打ちをかけるようだが、赤子が誰の子か分からないけど、モックの子でないことは確かだそうだというのもハッキリさせておいたと、ティーセはやり切った感を出していた。
後日、罪状が確定したアマンダは、一年の労働刑となった。
「赤ん坊から母親を取り上げるつもりか!」と罪人の癖に、子を盾にとるような態度を取ったアマンダは全方位から総スカンを食ったが本人はまるで分っていないようだった。ちなみにノノミ村長息子は情けない事だが、言われるがままであった事などを考慮して厳重注意で済まされた。
子どもは結局、アマンダの両親に育てさせることになった。
これは、まあ、絶対に確実に、血のつながった関係だからなぁ。仕方ない。
でもモックからしたら、同じ村に住むというのは気まずいだろうな。一年後にはアマンダも帰ってくるとなったらなおさら。
とりあえずの落着を見た今回のモック離婚事件は、なんとも後味の悪い出来事であった。
だが、ティーセが、外が吹雪になった時のことを振り返り、
「あの時、外が吹雪に変わった時に、息子の為に黒龍王様が憤ってくださっていると、場違いにも感動しました」と言ってくれた。
大概迷惑な俺の感情の揺れだが、たまには感動を呼ぶらしい。照れる。
いや、感情を駄々洩れさせているということか!恥ずかしいな。
さて、俺の日常はルドルと研究所に通って、ティルマイルが張り切って作る創作料理を食べるというルーティンが定着しつつある。
カマラテが派遣屋で不思議な依頼を受けて帰ってきて、みんなで突っ込むとか、サリアが怪しいデザートを作ってみんなで押し付けあったりだとか、本当に楽しい日々だ。
モックはセルゲイとプープルさんと共に数日かけて人族の村を中心に、近隣の顔役との顔つなぎに出かけたりもしている。ビリーヤが護衛を引き受けてくれるので安心だと、いつもよりもハードなスケジュールで回っているようだ。出かけたらしばらくは帰ってこない。帰ってくるとビリーヤが少し逞しくなっているように感じる。竜族の魔法がほとんど使えないから、荷物とかも自力だもんなぁ。
「なんか、ブラックドラゴンにしばらく戻ってないから、自分の姿とか、忘れそうだな~」とのんびりつぶやくと、サリアが、目を吊り上げて、
「そんな!そんなことはあり得ません。が、もう元に戻られてはいかがですか?万一のこともありますし!」と心配性を爆裂させた。
「う~ん。もうちょっと、もうちょっと楽しもうよ」と言う俺に、ティルマイルが、
「とりあえず、西領の別荘が完成したようです。ここ東領の別荘も数日内には招待状が届く算段のようです。どちらかに行ってのんびりしながら今後の事を考えてはいかがですか?」と言ってきた。
「とうとう出来たんだ!遅かったね!」竜族にしては遅い。大規模魔法であっという間に建物立てちゃう種族だからなぁ。
「それは、建物のコンセプトはずいぶん前から決まっておりましたが、なにぶん、どこへ建てるかで、もめにもめまして。西領も南領も同じでしょうが……」
「そうねぇ。その点、テイル村の真横と指定された北領は本当に楽でしたわねぇ」
俺の思い付きは各領で大きな波紋を投げかけたようだ。まあでも、完成したのはめでたい。招待に応じよう。
そして、すっかり庶民っぽくなってしまった側近たちが、そこここで、各領竜族からドン引きされるまで、あと数日!




