84.ノノミ村長の最悪の一日
「はあ?わかんないわよ!5、6人候補がいるから、一番似ている人の子でしょうよ!あ、モックは絶対に違うわね。結婚するときには妊娠してたもの」
やたら上からの物言いに加え、モックを蔑む言いように、イラっと来る。外を見ると雪が舞っていた。いや、訂正、吹雪いていた。
この時、どうやら世界中で吹雪が発生したようで、ルドルは研究室の窓から空を見上げていた。急転直下の天候の変化の様子に異変を感じて、音信不通のモックの妻の無事を祈ったらしい。
後になって、その妻こそが元凶だと知って驚いていたそうだが。
閑話休題。息子を侮辱されて怒り心頭のティーセは、アマンダの言葉を聞いて、すかさず用意していた離婚届にサインを迫った。
アマンダも、順調な生活に波紋を投げかけたティーセを憎く思ったのか睨みつけながら乱暴なサインをした。
「それでは、失礼」と言って、ティーセは居間から出ていこうとした。
「あ、待ってください。この赤子はうちの息子の子かどうか分からないんですよね。私らはどうすれば!?」とパニックになっているノノミ村長。
「さあ、少なくとも私の孫でないことは確実らしいので、離婚も成立した今、私たちには何の権利もないでしょう。もしかしたら、あなたにはまだ孫の可能性があるようですよ」とチクリと嫌味をいって去った。
俺たちもお暇する。ここにいても仕方ないからなぁ。子供の行く末は心配だが、保護するべき責任のある大人は大勢いる。しばらくは虐待なんかが心配だから、監視映像を確認してあげようと、家全体に魔法をかけておいた。
昨日今日のあまりにもあまりな出来事の連続に、魂の抜けたモックを連れて、テイル村に帰ってきた。今日はゆっくり休んで明日研究所に帰ることにしよう。
翌日、ノノミ村長宅を監視してもらっていたビリーヤからの報告では、赤子は、外見がそっくりだというノノミ村長の弟の子供である可能性が一番高いだろうとのこと。息子と弟、どちらも他の村との交友関係を築く仕事をしているので十分あり得ると村長は考えたらしいが、弟は既婚者で他にも子供がいる。問題は山積みのようだ。
どちらにせよ、村長からすれば孫か姪だ。親戚には違いない。腹をくくった村長に対し、アマンダは、村長の一族の子を産んだ母には違いないから、それなりの待遇をよこせと言い出して一触即発の雰囲気だそう。村長からすれば、悪夢のような一夜になったことだろう。
ティーセの所へモックを迎えに行くと、
「祖母の首飾りや、先代の首長からいただいたメダルが盗まれています」と報告された。
「モック、そんな女だ。逃げきれてよかったと思うよ」と言って肩をたたくと、力なく微笑まれた。
その件は、竜族に、「黒龍王様の別荘の隣村で竜族のメダル他、貴重品が盗まれたという報告があがっていて、怪しい動きをしたものが、この村の村長宅に匿われていると報告がありましたが?」と言って突撃させたら、アマンダは震えながら金品を差し出してきたそうだ。さすがのアマンダも竜族にはビビったようだ。
「物だけでなく、金も知らない間に随分抜かれていたようだな」とティーセはそれに気づかなかった自分たちにもいらだっていた。
仕方ないよ。嫁いできてすぐに妊娠したように見えた、初々しい若奥様が、手癖がわるいなんて考えないもんだよ。




