83.全員集合
偽造サインを指摘され、ノノミ村の村長は顔を青くして弁明している。
「私どもは全く関係ないことです。あの女の言うことを信じて、息子の子を妊娠しているのに引き裂かれたから逃げて来たと、本当にそう言ったのです」
「先ほどは、彼女はモックさんが清い体をレイプしたと彼女は言っています。矛盾してはいませんか?」
「その場しのぎの嘘を言う人なのかもしれません」
皆がみな、不信をあらわにしている。アマンダをここへ呼んだとしても、自分の都合のいい作り話をするだけだろう、ということに意見は一致したので、とりあえずモックを呼ぼう。
ノノミ村の村長は、
「往復で5日ほどかかるでしょう。全員で迎えに行かれないなら、残る方はこちらで宿を手配しましょう」と言ってくれたが、俺は、
「大丈夫、テイル村の隣に黒龍王様の別荘があって、管理をまかされているから、緊急時には竜族と連絡が取れるんだ。俺、その人と仲良しだから頼めるよ。連れてきて貰おう」と言った。
「竜族に頼む……?」
ノノミ村の村長はとっても驚いていたけど、俺は笑顔で押し切った。若干ティーセも顔を引きつらせているけど、気にしない。
そして、一時間も経たずにモックが連れてこられた。村の外れまで迎えに行った俺に、
「何事だ?俺は全く何も聞かされずにここに拉致されてきたぞ!?」と盛大にクレームが入った。
どうどうとなだめながら事情を話し始めたが、偽造サインの話に入る、かなり前の段階で、キャパオーバーしてしまった。
「清い体?レイプ??えっ?清い?レ……」と数回繰り返して、フリーズした。
全員を居間に揃えて、さあ話し合いだと思ったが、アマンダは逃げ出していた。ノノミ村長の息子は、赤ちゃんと共に置いて行かれたようだ。泣いている子をゆさゆさ揺らしながら途方にくれている。
小さい声で、ティルマイルに、
「アマンダを捕まえた方がいいのかな?連れてきても嘘しか言わない気がするけど?」と、聞く。
「そうですね。全員集めて初めて分かる矛盾点もあるでしょうから、ビリーヤに行かせましょう」
という訳で、数分後、全員集合。姿を見られると面倒なので、気絶させて担いで飛んできたというビリーヤはいい笑顔だ。目を覚ましたら、冷たい目の一同に囲まれているという状況のアマンダ。ノノミ村長の息子にすがるような視線を向けたが、彼も置いて行かれた身だ。当然冷ややかな表情で席についている。
あらゆる矛盾点をそれぞれから指摘されても
「なによ!私は悪くないわ!」と叫ぶだけだった。
「人をレイプ犯呼ばわりしておいて、悪くないわけないだろう」モックは静かに怒りを燃やしていた。
ノノミ村長の息子は、彼女との関係は数年前からだったと証言してくれた。モックの無実は証明されたのだが、それでも怒りは収まらないようだ。
そりゃそうだろう。火のないところに煙はたたないと信じる人がいたらどうしてくれるんだ?
「それで、結局、この子はどっちの子供なんだ?」とノノミ村長が聞く。もうすでに彼はこの一時間で十歳ほど老けた気がする。息子の数年間の清くないお付き合いに加え、既婚となった女性を連れ帰るために偽造サインに加担した事実。もう悪いことは何も聞きたくないだろうに、意を決して聞いた。




