80.残酷な事実
俺はモックを浮かせて、超特急で村へ帰った。一週間以上かけて来た道のりも俺のマックススピードで飛べば20分ほどだ。
「到着~!」と元気いっぱいに宣言しながら地上に降り立って、後ろを振り返ると、モックは気絶していた。
あれ?生きてるよね?早すぎたか?
「お~い!モック、目を開けて?治癒魔法する?それとも気絶してるだけだと意味ないのかな?」話しかけるも当然モックは返事をしない。側近たちのスピードでは、一番早いビリーヤでも、あと一時間は追いかけてこられないだろう。どうしたものか?
う~ん、と唸っていたら、モックの父で、村長のティーセが家から出てきた。
「え?黒龍王様?お帰りの連絡に行き違いがありましたか?ええ?モックどうしたんだ!?」と驚いている。
「モックが、奥さんから、赤ちゃんが生まれたっていう連絡がこないっていうものだから、大慌てで帰ってきたんだよ。ちょっとスピード出し過ぎて、こんな状態になっちゃったけど、治癒?じゃないか、回復魔法かけてみるね」
ということで、ベッドに寝かせて魔法をかけて、無事にモック復活。
俺の顔を見た瞬間に、唾を飛ばしながら、スピードの出し過ぎを注意されたが、それよりもまず、赤ちゃんの話をしようよ。
ティーセは第一声、
「いや、息子よ。落ち込むな!」だった。え?死産だったの?落ち込むなは無理じゃなかろうか。
「ダメだったのか?あんなにひどい悪阻も耐えて頑張っていたのに、なんてことだ!」モックは家から飛び出そうとしたが、ティーセに押さえこまれた。
血管をブチ切れさせそうにしながら、抵抗するモックに、ティーセは、
「落ち着け。お前の嫁は他の男と西領に逃げた。おなかの中の子もお前の子供じゃなかったようだ。書置きがあってな。それに全部書いてある。さすがに、その書置きを封書に入れて旅先のお前に送るってのもなぁ。ちょっと躊躇しちまってな。帰ったら言おうと思ってたんだ」
モックはもたらされた情報を処理しきれなかったのか、理解を拒否したのか、完全に固まっている。
「あちらの両親もお前が帰ってきたら改めて詫びにくるっていってたがよ、驚いていたぜ。どうやら悪阻が酷いって言って実家に帰ったものの、お前をだましているのが辛くて顔をみる勇気がどんどん無くなっちまったんじゃねえかって、後になって振り返るとそんな気がするってよ。ふざけちゃいるけどよぉ、生まれる前に分かってよかったと思おうぜ」
ティーセは、息子に向かって落ち着いた声で、深刻になりすぎないように、追加説明を試みている。
「村長、今のモックには聞こえてないと思うな」と冷静に指摘した。
「あぁ。確かに、黒龍王様の言う通りです。お茶でも淹れてきます。あ、でも、ちょっと今、こいつから目を離すのは危険ですかね。しばらくお時間いただいてもよろしいですか?」
「あ~、モックのそばに居てあげて。俺がお茶淹れてくるよ」と言ったら、そんな訳にはいかない。いや、大丈夫、ルドルには太鼓判をもらっている。と押し問答になった。
予想通り一番先に追い付いてきたビリーヤが、間に入って、ティーセがお茶を淹れている間は、俺と一緒にモックの見張りをしてくれることになった。
結局、ポツポツと時間差で到着する側近に何度もお茶を淹れてもらう羽目になって申し訳なかったが、全員が到着する頃には、モックもお茶を飲む程度には落ち着いてきた。




