79.社会問題
「ルドル先生、これは、本当なの?」メリノさんの第一声は、研究が成果を上げた喜びというよりは、切羽詰まったものだった。
「そうですが、なにか問題が?」ルドルも戸惑っている。
「問題しかないでしょう!どうしましょう、せっかくの大発見が!着地点が見出せるか、不安しかありません!」
研究がうまくいったこと自体は喜んでくれているようだ。
少し落ち着いて話ができるように、お茶をいれて、座ってもらう。メリノさんは、取り乱してしまいました。と恥ずかしそうにしながらも問題点を話してくれた。
「人族が魔力飴をなめることで、一時的に魔法が使えるようになるのは非常に喜ばしいことです。ですが、魔力に質があるというのは大変な問題です。質の良い魔力が奪い合いにでもなったら、その種族の拉致監禁などの犯罪が発生するのが目に見えています。そうなれば、社会問題になるのは勿論ですが、人族のために魔力飴に魔力を注ごうなんて者は現れなくなるでしょう」
う~ん。まあ、それはそうかもな、犯罪は防ぐ方法を考えなきゃいけない。人族のためにやってくれるかどうかは、世知辛い世の中だ、大丈夫とは言い難い。やってくれるとしても足元を見られて、値段を吹っ掛けられるだろうなぁ。
「人族に優先的に配給するって形はどう?治癒魔法のための飴だってことにしたら、人道的にみて反対する人はいないだろうし」
「そうですね。でも、有益なものを人族が持っていると分かったら、それこそ、村ごと襲われてしまうかもしれません。人族には対抗手段がありませんから、それは困ります」ルドルもマイナス面に気づいて悲観的な意見を出した。
「人族にしか効果が出ないものに改造すればいいんじゃない?他の種族が食べると、魔力が失われるとかさ」
「ふぅむ。魔力のないものが食べると供給され、あるものが食べると吸引されるですか、なかなか面白い研究になりそうですね。さすがソウ君」
「それにしましょう。それができるまで、この件は部外秘にします。いいですね?」と言って、ちょっと安心したように息をはきだして、お茶を飲み干すと、メリノさんは部屋を出て行った。
「魔力、人族以外はみんな持っているんでしょう?それでも、本当にこの魔力飴が世に出たら奪い合いになるのかな?」
「そうですね。私も研究に夢中で世間のことに無頓着でしたが、言われると心配は大きいですね。そもそも現状は、自分の魔力の範囲内でしか活動をすることがない訳です。それが、それ以上の力が手に入るとなれば、それを求めるものでしょう。しかも、質の良いものが手に入れば、とても大きな魔法が使えるかもしれないとなると……」
モックのように、俺の魔力を手に入れて、無邪気に水を出したり、火をつけたり、風で洗濯物を乾かしたりする者ばかりじゃないということか。一週間楽しそうに魔法を使っていたから、悪用する者がいるなんて思いもしなかったなぁ。
二人して、肩を落として帰宅。事情を説明すると、モックは、
「それは、大変だな。研究もう終わりかと思ったけど、まだまだかかるなら、俺はいったん村へ帰ろうかと思う。子供が生まれる前に連絡をくれっていっておいたのに、全然連絡がなくって、さすがに心配だ」という。ルドルも驚いている。
おいおい、早く言えよ!そっちのほうが大事件だよ!




