73.リアリティーショー
そして、夜がきた。お手洗いはなんとかなっているようだが、給湯室は水をだすにせよ、火を起こすにせよ、いちいち膨大な魔力がいるらしく信者たちはヘトヘトだ。
「エコじゃないね~」と言いながら鏡に映った監視映像を見ている。そんな俺は、南棟の俺専用部屋のソファでくつろぎながら、ポテチをかじっている。
「我が君、我々は隣室にて控えておりますので、何かあればお呼びください」といって下がっていった側近たちに、
「はいよ~」と返事をした。目は映像にくぎ付けのままだ。
前世ではリアリティーショーとか興味なかったんだけどな。なんか見始めると止まらない。
そうして翌日、朝から楽しみにして鏡に向かったのに、鏡に映ったのは大会議場の控室や給湯室のそばの待機場所などに寝転がっている信者たちだった。
「これは、しばらく起きてこないかもしれませんね。昨日魔力を最大限まで出し尽くしたのでしょう」
「ああぁ。我が君の専用の椅子で寝るなど、許せません!」
「まあまあ、控室のただの椅子だから、さすがに玉座に座ったら、その時は考えよう」
ぐぬぬぬと、歯ぎしりしそうな勢いのサリアだ。落ち着いて。
「まあ、でも、いまだに4階から出られてないから、7階の謁見の間までは遠いねぇ」
「大会議場の大扉が開けられない程度の魔力でしたら、5階の軍府に向かう階段扉も微妙かもしれません」
「妖精族なんかは飛べるんでしょ?いったん外に出て窓から入ればいけるんじゃないの?」と聞いた俺は、ギョッとした目で見られてしまった。
「黒龍王様は代々お力が半端ではございませんでしょう?となると、被害を防ぐために窓や壁は最も強固にできていますのよ。扉は内側ですもの、少々被害にあっても黒角だらけの城内ですからどうとでもなりますわ」
凄いな黒龍王仕様は、外への被害対策に重きをおくのか。核兵器扱いだな。
昼頃にやっと起きだした信者たちは、よたよたと、トイレに向かっている。
「そろそろ漏らしちゃいそうですか?」なんて言ってビリーヤは、ちょっと楽しみにさえしている。
俺は月曜には研究所の仕事だし、ケリがつかないなら一週間放置になっちゃうけど、いいのかな?
そんな時、書類がぎっしり詰まった大きな箱を大量に浮かせて、ロイドが、入室してきた。
「あやつらに世界中の陳情書を引き渡してまいりますね。『我ら竜族は一月以内に黒の森に引っ越しするので、竜族の分の陳情は省きました』とも伝えるつもりです。あと、窓を開けて外には出られるようにしておきます。よろしいですか?」
「ああ、もう好きにしていいよ。俺は結構楽しんだからね。でも、本当に困っている陳情場所には助けに行ってあげてね」
「それは、もちろんでございますよ。城壁外の領土は普通に運営してございますよ」と言って笑いながら出て行った。
なんだ、よかった。もはやこれは一日署長的なイベントなのかもしれない。
そして、一週間後、信者たちはすっかり竜族の娯楽と化してしまっていた。
みな、これを機会にと、監視カメラの魔法を練習していて、音声が途切れるとか、画像が乱れるなどの修正をして、腕をメキメキ上げていた。
信者たちは、出口がひらけたにもかかわらず、山積みの陳情書をめくることもせず、城の最上階の部分の窓を外からこじ開ける事に精をだしている。もはや、何がやりたいんだろう。
てっぺんとったど~!ってやりたいのかな?あそこ、ドラゴン姿の俺用の只の寝室なんだけどな。




