72.自問タイムカモン
「あ~、もういいかね。君たちを信じることは出来ないようだ」ロイドは冷たく言い放つ。
「いいえ、神は我らの前に現れて、確かにこの世界を我らに託すとおっしゃったのです。竜族の支配から解き放つと!」
「ほお。竜族の支配からと。確かに一言一句その通りに神がおっしゃったのなら、我らはこの世界の管理者たる立場から引かねばならぬであろう。では、この城は管理者の為の城ゆえ、明け渡しましょう」と言って控室に戻ってきた。
ロイドは扉が閉まったことを確認して、
「はははは、愉快愉快ですなぁ~」と大笑いしていた。
大会議場では竜族がゾロゾロと退出している。
「おっどろいた~。何これ、いいの?城出?家出じゃなく、城出するの?」
「ああ、まあどうでしょう?ご覧になっていてくだされば分かりますよ」といって覗き窓を指さした。
しばらく呆然とした後、頂点を極めたと、涙にむせぶ人や、血管が切れそうなほど喜ぶ人が目に入る。
そうして、見ているだけなのも、そろそろ飽きた頃、
「よし、では、まず城内を探索しましょうか。我らの城ですぞ!」なんて張り切りだした。
そして、メインの出入口の大扉が開けられずに、
「閉じ込められた~!」と大騒ぎしている。
「閉じ込めたの?」
「いいえ、まさか。城内は黒龍王様の対策として、兎に角、重く、頑丈に出来ております。魔法を使って開け閉めしておりますが、かなりの魔力が必要になります。ですから、城内は黒角のみが従事しております。そういった魔力がないと城一つ満足に扱えないのに、この世界を管理して行けるのかと自問して貰うつもりでございます」
「なんと!?俺は簡単に開けてたけど、普通の人はあんなに苦労して開ける扉なんだ!」
「左様でございますわ。ここは我ら竜族のその中でも黒角という上位の者が選抜されておりますのよ。あの者たちが、獣族であれ妖怪族であれ、最上位の者が寄り集まってやっと開くくらいの扉がゴロゴロしておりますわ!」
「大会議場の大扉は格別に重いですしね。謁見の間の次くらいじゃないでしょうか?」
のんびりと、この城の鬼畜仕様を聞いている間も、信者達は大騒ぎだ。その中で、控えの間に続く小さな扉に気づいた者が、こちらに向かってくる。
「この扉は?普通の人でも開けられる?」
「そうですね。魔法に熟達したものが五人程いれば、開けられるかもしれません」
「そっか。退散しよう。自問してもらうにしても、もう少し時間がかかりそうだ」
という訳で、俺達は全員撤退して、黒龍城を明け渡した。ひとまずロイドの案内で南棟に落ち着く。壁での盗聴に加えて、鏡、窓で映像も転送させている。
壁に耳あり障子に目ありとは、昔のひとはよく言ったものだな。
魔法があると、無理な体勢で聞き耳を立てたり、顔を近づけたりしなくてもいい。超快適なライブ配信状態で様子を見ている。
みんなには、ちょっとポカーンとされたけど、そろそろ慣れて、俺に。
「そろそろあの人達、魔力切れを起こしそうですね」
「嫌だわ、魔力が無くなったらお手洗いとか、あの場所でなさるのかしら?」
「トイレのドアも魔力がないと開かないの?」
「そんなことはないです。俺、一度魔力ゼロの時にお手洗いに行って、扉が開かなくて、焦って力任せに開けて、ちょっと壊しちゃって、怒られたことがありますから」ビリーヤ……。漏らさなくてよかったな。
それにしても、もう、自問タイム始まらないかなぁ。お腹空かないのかなぁ?
これって救済措置は用意されているんだろうか?




