69.壁に耳あり
そして、俺達が一般人に被害が出ないように事を収めようと知恵を絞っているその頃、信者達は、
「これは、団体の名を大きく広めなければなりませんな!」
「そうです。我々は神と対面したのです。『託宣教会』などに、名を改めるというのはどうですか?我々が特別であると知らしめなければ!」
「託宣などより、代弁者であると明示したほうが!」
「神は我らに、この世界を任されたのですぞ。『神の代理・討竜部会』でもよいくらいじゃ!」
などなど、好き勝手に言っていた。なんで分かったかって?それは広間に盗聴器を仕掛けて帰ったから。
「これ凄い便利ですね。こんな力の使い方が出来るなんて驚きです」とビリーヤはとても感心してくれた。
「いやいや、力はビリーヤも持っているんだから、簡単に作れるよ」俺はそこいら広間の壁に風の魔法をかけて、それに当たった音声は俺の所へ流れてくるようにしただけ。盗聴器というのもおこがましい、原始的なシステムだ。
竜族はどんな魔法でもこなすが、4つに分かれていて特化したものにはアイス、ファイア、サンダー、アースとドラゴンに名前を冠している。その中でも風に特化した種族はいない。がゆえにか、風はどの種族も自由自在に使えている。
アイスストームとか、ファイアトルネードとか魔法名にもあるしね。
という訳で皆、色々なものに風魔法をかけて試している。
「これは画期的ですね。魔法研究者に伝授せねばなりません」なんて本気でいっている。
「あのさ、妖精族に風の妖精がいるわけでしょ。その子が偵察のお仕事を派遣屋から請け負うのと大差ないものだよ」とあまり盛り上がらないように釘をさしておいた。
盗聴されまくる世界、怖い。やだよ。
「しかし、我が君は魔法が付与された物や空間など、すぐに看破なさるでしょうから、この世界で唯一被害にあわない存在ではないかと」カマラテは真面目に言っている。
「俺さえよければいい、ってもんじゃなくて、そういう世界になるのが怖いかな~って思ったんだよ」
生まれついての上位者には中々ピンとこないのか、不思議そうに見られてしまった。まあ、偉そうには言っても、広間を盗聴するのには、罪悪感のかけらもない。俺もなかなかのご都合主義だ。
大いに盛り上がっている広間の様子を居間で聞きながら、ルドルが閃いた。
「これ程、自分達の価値が高まったぞ!と喜んでいる方々なのですから、黒龍城に一同を呼んで話し合いをしようと持ち掛けるのはどうですか?信者達は神の代弁者として王様と対等に話し合いが出来ると喜び勇んでやってくるのではないでしょうか?」
「全員城に集めてしまえば、お歴々が怒り狂っても被害が最小限ですみますね」とビリーヤ。
「そうですね。しかし、我が君は人族姿です。そこはどうしましょうか?戻られますか?」
「それは嫌だな。認識阻害でドラゴンに見せるよ。こんな感じでどう?」
俺は1メートルくらいのブラックドラゴンに見えるようにした。
悲しいかな、実際のドラゴン姿はあんまり大きくなってないんだけど、見栄をはって、認識阻害の目くらましは、ちょっと大きめに作ってみた。
側近達が顔を見合わせて、一瞬固まった。恐らく、俺の見栄っ張りに気づいたんだろう。
突っ込まずにいてくれた。が、その優しさはちょっともにょる。
突っ込んでくれた方が楽な時もあるんだよ。




