67.信者
「大変です!この間の嵐で、地下道の入り口が一度封鎖された影響で、防音の魔法が切れていたようです。入り口と緊急脱出口付近に住む住民たちが、異音がすると、首長に上申する書類作成に入っているようです」信者が走り込んできて早口で告げる。
一心不乱に太鼓をたたいていた人々は、蜂の巣をつついたような大騒動だ。
「いつ書類を提出するんだ!?」「いや、まず、防音の魔法を構築しなおそう!」「もう調査が入っていたら?竜族が来るのでは?」「逃げましょう!」
「こんなにワタワタするなんて。黒龍王を排除するなんて夢のまた夢ですわね」と酷評するサリア。ビリーヤも
「情報戦もダメダメっぽいですよ。今頃そんな情報が入ってくるなんて」と突っ込んでいる。
確かに。緊急の調査依頼って訳じゃない、この依頼。多くの人の耳目に触れた後なのは確かだ。それが今頃伝わってアタフタするなんて、隠れてやっている割に危機感は無さそうだ。
「どうするのが正解だろう?ここを治める首長にチクって終わらせてもらう?俺が出張っていって震え上がらせる?でもなぁ~。人族から変身したら戻れなくなるしな~。無害なら放置でもいいのかな~?」ブツブツ独り言を言っていると、
「放置はありえませんわ!我が君を愚弄するような団体を放置など!」とサリアはオコでした。
「そうですね。いくらなんでも、地下道を勝手に増築して組織的に活動するのはやり過ぎでしょう。神を崇拝するだけなら推奨しますが、隠れてやっているのは、自分達でも正道でない自覚があるのでしょうしね」
「なるほど。神様に丸投げできないかな?神様の信者なんだよね?」
「我が君と一緒にいると感覚がおかしくなりそうですが、ほいほい姿を現したり、お手紙くださったりするような存在ではないのですよ。神様というものは」ティルマイルは苦笑している。
「え~、まあ、そんなもったい付けてる訳ちゃうんやけどな~。おもろい事も、そない無いやろ~。せやし、出でこおへんだけやねんで。いつもは。でも君っておもろい存在やし。ついつい追いかけてまうねんな~。でもストーカーちゃうで!」
ひとりツッコミをしながら現れたのは神様その人だった。
うん。ちょうどいい。ストーカー案件はこの際置いておいて、この案件を押し付けよう。
「あ~、神様、いい所に来た。あの人たち、どうにかして!俺を排除したい神様信者だって!」
この地域の首長じゃなくて、この世界の神様にチクることになったのは、あの信者達にとって、幸か不幸か。
【我が創りし世界に異を唱える者達よ。この世界が気に入らねば、即刻去れ!】と、広間の祭壇に、光を背負って、光の塊のような姿で登場して、一喝した神様。
キャラ違うくね???
はは~、とひれ伏す信者達。リーダー格の男は、震える声を絞り出した。
「おおぉ。我が神よ。我々は黒龍王の介在など無しに、神と共にありたいのです。ただそれだけなのです」
【それが、我の望んだ世界とは違っても、そうしろと願うか?我の望みより、お前たちの願いが優先であるべきか?】畳みかける神様、なかなかえげつない。
そして、姿を幻のように消した。一同、静まり返っている。神に会えた喜びよりも、去れと言われたこと、神の望みに反していたという事に、とてつもないショックを受けているんだろうな。
と、思ったら、違っていた。




