63.東都派遣屋
側近達と俺の5人、久しぶりにこのメンツでお出掛けだ。
俺は書いてもらった地図を片手に、朝のちょっとした失敗を取り戻すべく先頭に立って派遣屋を探している。
「あった!」東都の派遣屋はプープルさんの住むシピリー町のものとは全く違って、装飾が施された立派な建物だった。
黒龍城の主となって一年以上経つけど未だにゴテゴテに慣れない俺は、この派遣屋の建物でさえ気後れするくらい。
だが、今日の俺は引率だ。覚悟を決めて入ってみる。
「……」なんか、中も全く別物だ。沢山窓口があって、整然としている。シピリー町の時みたいに、ガハハハ笑う親方は間違っても出てこなさそうだ。
「ゴメンみんな。俺が経験した派遣屋はここと違い過ぎたから案内出来そうにないよ」と素直に謝った。ここまで違えば知ったかぶりもできやしない。
「お気になさらず。皆で初体験を楽しみましょう!」とサリアが優しく言ってくれた。
一塊になってゴソゴソとやっている俺達に、優しそうな若い女性が声をかけてくれた。
「お困りですか?初めてでしたらこちらへどうぞ」と隅のテーブルに案内してくれる。
「えっと、妖精族の方ですかね?お仕事は初めてですか?」
「あの、俺は人族で、後は妖精族なんだけど。なんで妖精族だと思ったんですか?」
「あ~、失礼だったらごめんなさい。でも、あなたを除けば少年少女という訳じゃ無い方が、初めての派遣屋ということは、妖精族の生活圏から出てきたばかりという方が多くて」
なるほど、年かさがいっている初心者は、引きこもりの妖精族に違いないという訳か。
この世界あるあるなのかもしれないな。勉強になった。
「まあ、あたらずとも遠からずです。手続きに注意事項はありますか?」と聞くと、
「妖精族の方は、書類に記入を頂いてから一番窓口に提出してください。その後、演習場で特技を見せていただくことになります。あの、えっと、人族の方は室内での書類仕事などがお勧めですが、君、いくつかな?出来るかな~?」とかなり子どもに言うように言われる。
「16歳です!でも、俺、今日はこの人たちの引率です!」と胸をはって言ってやった。
「あなたの方が、引率なのね……?」
不思議そうな顔をされたけど、実際にそうなんだから諦めてね。
お姉さんは四人分の書類を用意してくれて、次の人の案内の為に去って行った。
「う~ん」うなるビリーヤ。どうやら書類を埋めるのに苦労している。適当に書いておけばいいのに、そこら辺、無駄に真面目だ。
サリアなんかは適当に面白がって書いているし、ティルマイルは知識があるので、本当の火の妖精の住居エリアを住所欄に書いている。
カマラテもビリーヤのように苦戦しているが、彼女の場合、得意技を何にするかで悩んでいるようだ。どの樹木が生やせる事にしようかとブツブツ言っている。
「ビリー、ラッテ、頑張って。サリーとティルはもう書き終わっているよ!」とお忍び用の名前を使って応援する。
「あっ!」って言いながら、こっそり魔法で名前欄の『ビリーヤ』と書いたところを消しているのを目撃した俺は、ため息しか出ない。もう少し時間がかかりそうだ。俺にポンコツをうつしたのはこいつだな。




