6.ダンディーな養育係
養育係は茶色の髪の落ち着いたダンディーな男性だった。名前はロイド。俺のあらゆるお世話をしてくれる。なんてったって赤ちゃんだから、なにも出来ないと思ってお世話してくれる。
『耐えろ、耐えるんだ。一週間の我慢だ』と自分に言い聞かせてはいるが、辛い。とくにおトイレ関係が。
やっぱりこの人にもカミングアウトしたほうがいいのでは?と、側近たちに相談するも、とっても苦い顔をして渋られた。
何故だ? ロイド、滅茶苦茶いい人そうだけど?
そして、渋る理由を聞くと、言い難そうにティルマイルが、
「あの方は、この世界の宰相なのです。先代の側近候補として、非常に優秀だったようですが、優秀だったがゆえに側近よりもと、世界政府に推薦されたようです」
「それが大変悔しかったようで、宰相に上り詰めた今でも、今更側近は無理だろうから、せめて短期間の養育係にと、熾烈な競争に自ら応募なさったのですわ」とサリア。あきらめ顔でため息をついている。
「なるほど、アクの強さから、ちょっと距離を置いている状況なんだね」と俺が言うと、
「そうです!まさにそう!いきなり宰相が出張ってきて養育係ですっていわれても、僕達も困っちゃうんですよ!側近の立場って何!?ってなるでしょう?」とビリーヤが訴えてくるも、
「口調に気を付けなさい!」とサリアが一括する。
「あ~口調は気にしないよ。正式な場所で体裁が~みたいな時があるならその時はちゃんとしてね」と、俺は本心からそう言った。
「ありがとうございます!」と嬉しそうなビリーヤ。うん、ワンコ体質だな。俺の次くらいに可愛いぞ。
それにしても、ロイド、まさかの宰相か。本業はどうしているんだ??
少し難しい顔で考え込んでいたカマラテは、
「本当の事を話してしまった方がいいのでは?我が君の中身が16歳で、養育係が要らないとなれば、宰相府にお戻りいただけるのでは?」
「そうかも!」とビリーヤは乗り気になっている。
年長組のサリアとティルマイルは、どうしたものかと顔をみあわせている。
「多数決で決めよう!」と俺はちょっとズルいが、優勢と踏んで提案した。
予想通り、3対2でロイドにカミングアウトすることになった。
早速、ロイドを呼んで、かくかくしかじか、説明した。
「なので、養育係は要らないんです。すみません」って。
すると、ニヤリと笑ったロイドは、
「そんな大切な事を報告しなかったなんて、側近は総取り換えですな。その空いた席に私が立候補しましょうかね?」と言った。
全員でビクッとなってビシッと姿勢を正した。海千山千の政治家は迫力がある。
「まあ、若い者の気持ちも分かるつもりです。ここは穏便に、側近諸君と私、仲良く5人での合議制で進めてまいりましょう。それを私が我が君に奏上するという体制でいかがでしょう」とロイド。
「それは、いくらなんでも、側近の役割を何だとお考えか!」とカマラテが苛立ちを表す。
「そうです。我が君の身近にあるのが側近の使命。なぜ、ロイド様を介してやり取りをしなくちゃいけないんですか?」とビリーヤも食いつく。
優しいロイドさんは、なかなかの曲者だったようだ。困ったな。
あ、頭の後ろがかゆいぞ。でも、手が短くて届かない。
しっぽだ!今の俺にはしっぽがあるのだ!あ、しっぽも届かない位置だ。と、くるくるよたよたと回りながら痒い場所をなんとかかこうと苦戦していると、
「「「可愛い~」」」と声を揃えて言われてしまった。そこは皆さん息ピッタリなのね。
「かゆい所があるんですね側近の私が!」とカマラテが俺を抱っこすると、ロイドも、
「それはまさに養育係の私の仕事ですな」と俺を取り上げる。
仲良くできそうにないかも。本当に困る。
もう、この際、側近5人態勢じゃダメなの?




