52.寿命
寿命の問題はどうしようもないか。恋人どうしだと辛いものだろうな。だが恋愛できるだけマシな気がする。俺ってブラックドラゴンに追加で神様エッセンスなんて付いちゃってさぁ。もう恋人なんて出来る気がしないよ。
前世の俺に、どっかのお姫様と結婚しろっていったら尻込みするように、この世界の俺って敬遠される対象マックスだよ。
そもそも俺が死んだら自動的に新しい卵が黒の森に生まれるってことは子作りも期待されることがない。
お一人様濃厚な気配。これが寿命までおおよそ二千年。嘘って言って。
プープルさんとセルゲイが、なんのかんのとラブラブやっている姿を羨ましそうに見ていた俺が不憫だったのか、ビリーヤが、
「ソウ様にも、可愛らしい恋人がきっとできますよ」と根拠もなく慰めてくれる。
「まあ、なんてことを!ソウ様は見た目は青年でもまだ一歳の赤ちゃんドラゴンですのよ。まだまだ、まだまだ早うございますわ!」とサリアが鼻息を荒くする。
折角、姿を認識阻害して、対外的には角無しにみえるようにして、名前も前回の街歩きのように偽名を使っているのに、ドラゴンって大声で言っちゃダメだよ、サリア。俺の事になると、簡単にストッパーを外して振り切ってしまう側近達に頭を抱える。
今回はルドル達もいるのでヨーイチじゃなく、ソウの名前だ。こっちの方が人族のみんなはスムーズに呼んでくれるからね。
翌日、馬車に揺られながら、モックと話をする。
「モックは彼女いるの?」
「俺?妻が妊娠中だぞ」
リア充、爆ぜろ!
マジか、そうだよなぁ。25歳。この世界の人族では遅い方だってさぁ。つわりが激しくって実家で安静にしているらしい。言ってくれたらお見舞いくらい行ったのに。あ、病気じゃないか。
「人族のサイクルはとても忙しないですね。我々では25歳なんてまだまだひよっこ扱いです」と馬車の中から率直すぎる発言を飛ばしてきたのはカマラテ。
側近の中では若者組で300歳だ。
ここまで違う生命体が共に共同体を作って社会生活をしていること自体が奇跡的だ。
最年長の700歳、サリアからすれば、一歳の俺は当然赤ちゃんだろうが、16歳の俺も赤ちゃんとそう大差なくみえるのかもしれないな。遠い目。
因みに、竜族二千歳、妖精族、妖怪族は五百歳、獣族四百歳、虫族三百歳、人族百歳、というのがおおよその寿命だって言われている。
どの種族だろうが16歳はひよっこか。
「虫族なんかは、面白いぞ。寿命は三百歳って言われているが、途中で数十年単位で眠ったりするからな」とセルゲイ。
「確かに、そうですね。しかも、虫族は眠っている間の年数は年齢に加算しないんですよ。不思議ですよねぇ」とルドルも虫族の不思議を披露してくれる。蛹的な感じかな?面白い。
この世界は、まだまだ俺の知らない不思議だらけだ。会っていない種族の方が多いんだ。二千年があっという間に過ぎますように!
なんてのほほんと考えながら馬車に揺られていると、前方から、
「おいおい、デカい馬車に、ひょろっこいのが乗ってるじゃね~か」と声を掛けられる。そして、ガラの悪い人達が道を塞ぐ。
あ~。盗賊っぽい。見事にアウトローな人たちだ。そして悲惨な程運が悪い。こんな事やっているってことは腕力、能力に自信があるんだろうけど……。
黒龍王の乗った馬車を襲うとは、これいかに。いや、知っていたら襲わないか……。




