51.旅の再開
なんだか、この数分で、俺の心の世界は崩れたり建て直されたり大変だ。勿論、俺の顔も、泣いたり笑ったり超大変だ。ぐったり疲れたが、それよりもこの世界の神様に会ってしまった、住民の皆様の疲労困憊感が凄い。
人って、驚き過ぎるとフリーズするっていうけど、それを超えると灰になる感じなんだね。存在が希薄になって、空にハラハラと舞い散って行きそうだ。
「お~い。みんな、ちょっと現実に帰ってきて!衝撃だったけど、神様あんなんだったし、驚いただろうけど、俺は黒龍王のままでいいんだし、現状維持!何にも変わらないみたいだよ!さあ、旅を再開しよう!」と元気に言ってみた。
「我が君、我が君は可愛らしいブラックドラゴンというだけでなく、神様でもいらっしゃったのですね」とサリア。
いやいや、神様かどうかは自覚もないしね。ドラゴンで手一杯だから忘れよう。と言おうとしたが、
「流石我が君です。しっぽをフリフリしてアピールしている頃から大物に違いないと思っていました!」と唾を飛ばしながらビリーヤがカットインしてくる。
「しっぽフリフリ。なんて素敵な響き」とプープルさん。可愛いもの好きが集まっているので、この路線に進むと収拾がつかなくなりそうだ。
【パンパンっ】と手を叩いて、
「神様案件はおしまい。他の人には秘密ね!」
「それは、勿論でございます!」側近達は猛烈に頭を振って頷いた。
隠し事が苦手な俺でも、この秘密は大丈夫そうだ。「俺って神様見習みたいなんだよねぇ」って言いたくなる日は来そうにないからね。
再び御者席の横に陣取る俺。モックは、
「なんか、お前ってぶっとんでるよなぁ。『黒龍王様』の秘密って只の人族が共有しちゃいかんやつだと思うが、お前ならありな気がするんだよなぁ。不思議なもんだ」と、今回の出来事の感想を言っている。
モックは大物になりそうだ。やっぱり動じない心の強さってリーダーの素質だよ。格好いいよ、俺の兄貴分は。
この辺りの動じなさとかが、竜族は若干不足しているというか、ワタワタしがちだ。やっぱり自分達より強い種族がいないので、打たれ弱いか。
今日の宿に到着した。のんびりと、宿の食堂で夕食をとっていると、プープルさんの知り合いが声をかけてきた。
「お~、プープル、久しいなぁ。『花の』はみんな元気か?大人数でどうした?引越か?」
「あらまあ、ディックお久しぶりね。お友達と東の領まで行くのよ。ルドル先生の付き添いなの」
チラリとこちらを見たディックさんとやらは、ルドルとセルゲイに、目をとめて、
「お前ももの好きだなぁ。まだ人族とつるんでいるのか?ほどほどにな」と言って去って行った。
微妙な空気になったが、ルドルが、
「まあ、お気になさらず、ディックさんという方は森の妖精族で、人族をパートナーにするために族長を辞めたという有名人なんですよ。パートナーの方を亡くされてから気落ちして、少々気難しくなったと言われていましたから、今の言葉にも悪気はないんでしょう」と言う。
「寿命の問題はどうしようもありませんから、気にして距離をおくなんて私はまっぴらですよ」とプープルさんはセルゲイを見て言い切った。
どこもかしこも格好いい大人達だ。竜族にもっと頑張れといいたくなる俺を許して。




