50.降臨
「あのさ、この手紙には、俺がこの世界に生と死をもたらすものとして遣わされたって書いてある。気楽にやれって。でも、それは偉い神様のその上の上司の神様の推薦なんだって。俺ってさ、そんな知り合いいないし人違いみたいなんだ」
「人違い!?神様が実在するかどうかは置いておいて、そんな偉い神が人違いをするのでしょうか?」とティルマイルは混乱している。
「うん。でも本当に心当たりがないから、俺じゃないと思う。そうなると、俺はこの世界に間違って来てしまったことになるよね。それに気づいた神様が、今すぐにも俺を殺しちゃうかもしれない。だから、お別れを言っておかなくっちゃって……」言いながら、涙が出て来た。
前世だって、両親とまともなお別れが出来なかった。今回は、短い間だったけど良くしてもらったし、ちゃんとお別れを言わなきゃ。
「いままで、ひっく、あ、ありがとぉ」と何とか泣きながらでも言葉を絞り出した。サリアがそっと肩をさすってくれる。
沈黙が続く中、ルドルが、
「人違いと分かっても、そのままで、黒龍王様で存在していいと言われる可能性は無いのですか?」と冷静だ。
「て、手紙には、上司の推薦だから、お、俺に決めたって。ひっひっく」もう涙がずっと止まらない。前世では、体力が低下して泣くことすらできなかったんだと今更思い出す。
「それなら、その『上司の神様』に直談判すればいいのでは?」とカマラテ。
カマラテらしい素直な考え方だけど、会ったこともない神様の、その上司か。途方もないな。
俺はもう、前世から続く『突然』の不幸体質に、諦めの極致だ。
そして、【ビカッ!!!】となる。神様に聞こえていたかな。最後の審判か。こぶしを握り締めてその時を待つ。
目を開けると、日本人らしき青年が立っていた。神様?顔は超平凡。竜族の美形に囲まれて暮らしていたから、力のある人は美形なんだって刷り込まれたか、この平凡な顔が神様とは思えなかった。
「失礼な。神様やで!」と俺の思考を読んで突っ込んで来た!間違いなく神様だ。10枚分の上司の愚痴を書き連ねた、あの神様で間違いなさそうだ。
「我が君、こちらは?」とビリーヤが聞いてくる。どうやら、言葉が通じていないらしい。
「ああ、悪い、言葉な、通じたやろ?」
「はい、通じております」
どうやら、俺にはどの言語も日本語に聞こえるので違いが分からないらしい。
「自己紹介するわな。俺はこの世界の神様やってる。名前は気にせんといて。ほんで、そこの君を黒龍王に任命したんやけど、間違いちゃうで、安心してな。君は確かに俺の上司の推薦や。だって君、自分じゃ気づいてないかもしれへんけど、超サラブレットの神様やで、色んな世界で実績積んで神格上げて、あっという間に俺の未来の上司間違いなしや!神様歴16年ですでに世界の理を司る存在を任せるなんて、普通じゃせえへんのんよ。いくら俺の作ったゆるい世界でもやで。という訳で、涙のお別れせんでええし、気楽にやってやぁ~。これからの君の神様生活のなかでも一番簡単なお仕事になるやろうし、楽しんでや~」
神様は、早口の関西弁で言うだけ言って、消えて行った。
涙をゴシゴシと乱暴に拭いて、
「なんか、空回って恥ずかしいけど、俺、どうやら神様修行中で黒龍王を任せられているみたい」と言った。
ルドルは、
「私達は、あの神様が造った、『ゆるい世界』に住んでいるんですか。衝撃的ですね」と呆然とつぶやいた。
自分がいる世界の創造神が、あれだとは、これいかに。




