49.手紙
目を開くとそこは、白い空間だった。と言われても驚かないけど、実際はさっきと同じ、御者席の隣に座っている。
ただ、なにやら分厚い手紙を握っている。
「なんちゃって神様生活をやるなんて言ったから、神様からお叱りのお手紙かな?開けるの嫌だな」と手元を見つめながら言う。
「我が君、馬車を停めて、読んでみましょう。お側に居りとうございますゆえ、こちらへ」とティルマイルに馬車内に移動をすすめられる。
そりゃ、ありがたい。
皆に見つめられながら緊張して、手紙を開封する。分厚いはずだ10枚くらいある。
「じゃ、読むね、って、あれ?日本語だ」この世界の楔形のような文字じゃなく、日本語で書いてある。久ぶりに見た。
【神様より、至急至急】
ふざけた書き出しだが、本当にそう書いてある。
【本来、黒龍王の使命や意義なんかを教えるのは人型になれる10歳くらいのはずなもんで、放置しといたら、なんやエライ深刻に考えとるし、急遽早めに連絡させてもろたよ。
俺は神様。ちょっと偉い神様やで。この世界のバランスを保つ役目を任せとうて黒龍王というシステムを作ってる訳やけど、今回は君がその任務に抜擢されたんや。おめでとうな。この世界は実験的世界で、超楽ちんな任務やで、生まれたら必ず死ぬ、増えすぎたら減らす、勿論この逆パターンもある。でもそれをこの世界にもたらすだけ。簡単やろ。
基本あんまり考えない脳筋タイプを黒龍王に選抜しとったんやけど、今回の君は前世持ちやし、ちょっと勝手が違ったようやなぁ。
君ってさぁ、俺の上司の推薦なんよねぇ。なんか知り合いやったんやろ?超偉い神様やけど、覚えとる?君の神格上げるための最初のステップとして、ここは簡単な仕事やし丁度ええって押し付けられたんやで。ま、俺は誰でもええんやけどさぁ。言い方ってあると思わへん?~~~~】
これ以降は上司の神様の愚痴が延々と続いていた。嘘だろ。教えるならもっとちゃんと教えてよ!
それに俺には神様の、しかも偉い神様!?の知り合いはいない。誰かと勘違いしたのかもしれない。それを指摘したら俺は用無しで排除されたりするんだろうか?いや怖い!
ついさっきまでの最強無双の黒龍王のなんちゃって神様生活、やってやる~!っていう万能感なんだったんだ?
この手紙の送り主の神様が、人違いだったみたい、ごめんねってなったら、プチュンってジ・エンドなのか?
俺はまたしても二択を迫られている。人違いがバレるのが怖くてびくびくして生きる。もう一つは、誤解をといて、プチュンされる。その時には、何か気の利いた捨て台詞くらいは吐かせてもらおう。
さて、どっち?ま、俺の性格だと決まっている。誤解を解こう。問題はこの手紙の返事をどうやって神様に届けるのかだが、大声で空に向かって話しかければいいだけか?
考え込んでいる俺に、側近達は心配して声をかけてくれる。
「どこからのお手紙でしたか?」
「我が君、何か深刻な事が書いてございましたか?」
みんなの優しさがしみる。あぁ。先にお別れを言っておくか。




