48.ウダウダのループ
「みんなは優しいよねぇ。誰も、お前がやった嵐だろ、何とかしろとかって怒らないんだもんなぁ」と御者席の横で、パカラッパカラッと言う蹄の音を聞きながら、俺はぼやく。
「そりゃ、そうだろ。この世界の全ては『歴代の黒龍王様』が暴れ回って出来ているって言われているからなぁ」とモック。
「あ、ほら、あっちに、もうすぐ湖がみえてくるんだけどな」と右前方を指さす。
「その湖も、何代か前の黒龍王様が、なんかの癇癪を起こして巨大な岩を空から落として出来たって言われているんだ。付近は飛び散った岩と衝撃で大惨事だったってさ。でもさぁ、今、俺らが食っている魚とかさ、そこからの恵な訳。だから今回の嵐も、今は大変でもきっと後々何かの良い事に繋がっているって思うんだなぁ」
大変な勘違いだぞ。俺はそんな後々の恵のことなんて一切考えていないから。何なら嵐を起こしたつもりすらない。ただ感情が爆発したら嵐になっただけ。なんだかんだと黒龍王のことは美談に結び付けて被害を有耶無耶にしている気がする。
「俺、全然、そんなこと……」と一層落ち込む俺に、
「ソウ君、世界は破滅と再生を繰り返すものですよ。昨日話してくれたソウ君の前世でもそうだったように感じましたよ?この世界は、どうしようもない自然災害に対応するのではなくて、『黒龍王様』に対応しているだけです」と幌から顔を出したルドルが慰めてくれる。
「なんで俺、そんな災害の源みたいなものになっちゃったんだろう」
この世界に来てからずっとモヤモヤしている思いが、兄貴分として話をしてくれるモックといることによって、一気に噴出した気がする。
稲光が走り、雨が降り出す。モックは馬車を急がせて、小さな町に滑り込んだ。ルドルは俺の肩をそっと叩いて宿に入るように誘導してくれる。
なんか、俺、16歳にもなって、情けない。ウダウダ同じ所で躓いてループしている思考も、自分自身でイライラする。
「まあまあ、ソウ君は可愛い赤ちゃんドラゴンですもの、今の姿が前世の16歳だからって、心がそれについて来ているとは限らないわ。赤ちゃんみたいに泣き叫んだっていいのよ」と笑ってくれるのは、肝っ玉母さんに格上げされそうなプープル姉さんだ。
この集団のなかでは140歳と若手だ。
そんなことを考えていると、笑ってしまう。
宿の外では急な雨に降られた旅人が先を争って馬車を停めて中に入ってきている。
「うわ~。急にすごいや!こりゃまた陛下がお怒りかぁ?」
「雨風で済んでるうちは、屁でもないね!」
「ひい祖父さんの頃の一日世界が凍ったってのは、本当かねぇ?」
「そりゃ、一日じゃなくて半日だって」
なんて、凄い会話が聞こえてくる。
うん。この世界は逞しい。
黒の森で余剰な力を放出したとて、俺の『自然災害発生』は心と連動しているので無駄な事だと立証されつつある。
俺は、昔ながらの、「陛下には心穏やかに過ごしていただく」という習わしを受け入れるしかない。
隠居生活のような新生活だけど、ここに生まれて、一年が過ぎた。
このまま、後二千年、この生活。な、な、長いな。それでも俺は、
「なんちゃって神様生活!やってやろうじゃね~か!」と、こぶしをつきあげ気合を入れた。
そして、【ビカッー!】と。そう、またしてもビカッとした。
もう嫌、次は何さ!




