46.お忍びの準備は公に
考え込む側近達だが、ちらちらと視線をルドルにやっている。流石ルドル、70歳だったはずだが、推定700歳のサリアや600歳のティルマイルにも頼りにされている。ルドルのおかげで人族の評価が爆上がりだな。
期待されているという気配を察知したのか、ルドルも一緒に考えてくれて、
「では、こういうのはいかがでしょうか?」と提案をしてくれた。
謁見の間、王座に座る角無しの青年。そしてその青年に傅く側近。どよめくを通り越して、半ばパニックを起こしているのは勿論、緊急招集されたお偉いさん達だ。
「我が君は、下々の者に交じっての生活をしてみたいとおっしゃいまして、妖精族のお姿に変身なさいました。しばらくはこの姿で過ごされますので周知徹底お願いしたくご参集願いました」ティルマイルの声が響く。
直球勝負が一番で、言い切ってしまう話し方をするのがベストだろうというルドルの提案をそのまま採用した形だ。
「よ、よう、ようせいぞ、妖精族!?」
「そんな変身が可能なのか!?でも確かに角が無い!」
「流石我が君、変身もスケールが違いますな」
口々に感想を漏らしているが、誰もこの貧相な青年が黒龍王本人なのかとか、なぜその姿に?とかいう疑問は差し挟まなかった。
ルドルが言ったのだが、『自分達の誰よりも優秀だと、自分達でお墨付きを与えた側近達が肯定している』という事でそれ以上は考えることはないだろう、と。読みはバッチリだ。
事前に相談していたロイドも続けて声を上げる。
「これに伴い、初等園は席だけ残して休学とし、お忍びの旅に出られる。我々のやることに、何の変更もないが、いつお戻りになってもよいように、城内はこれまで通りに整えておくように。各領地では接待などのもてなしは必要ないとのことだが、別荘が完成した時のお披露目には参加なさる。準備が整い次第報告するように。以上だ」
せっかく集まってもらったのに、以上か。俺が言う事じゃないかもしれないけど、もうちょっとなんかないもんかね。
俺は、ニッコリ笑って、
「我がまま言ってゴメンね。でも、色々やってみたくって。この姿ならどこにでも居そうで、人込みにまぎれ込めるでしょ。社会見学してくるね!」と宣言して謁見の間を去った。
うん。詫びも言ったし、説明もしたし、今後の予定も言ったし、完璧だな!
*** ビリーヤ視点 ***
我が君は恐ろしい力があるが、最も恐ろしいのは、この世界の基準がさっぱり分かっていないことだと思う。
先程も、我がままいってゴメンと謝られたが、臣下は驚きを隠さなかった。それも当然だ。何をやっても許される存在なんだから。詫びの言葉を知っていることにすら驚くだろう。
人込みにまぎれ込むというが、まぎれ込んだ挙句、トラブルに巻き込まれたらと思うと各領主は肝が冷える思いだろう。
社会見学と言うけれど、僕でも分かる、このちょっと浮世離れした我が君が、妖精族という設定を秒で忘れるだろうと言う事が。
*** カマラテ視点 ***
我が君は大変お可愛らしい赤ちゃん竜でいらっしゃいます。種族もタイプも変えられる異能も持っておいでです。しかし、変身して人型の幼児の姿になったかと思ったら、今度は角無しの青年のお姿になられました。
これには本当に戸惑います。角が無くとも、ブラックドラゴンとしてのお力はそのままなのだとか。力の源は角ではないかと言われているほど他の種族にはない特別なものであるはずの角が……。
もはや、常識と照らし合わせても無駄だと分かってはいるのです。ですが、やはり、庇護すべき角無しの姿の我が君というのは奇妙なのです。
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