45.一緒に行きたい
今日も、やってきました。テイル村。
俺は毎日、黒の森で人族に変身する練習に励んでいるが、お茶の時間になるとテイル村にやってきている。
黒龍城からテイル村までは俺なら10分ほどの距離だが、側近の中で最速を誇るビリーヤですら1時間ほどかかるので、追いつかれる前にくつろげるだけくつろぐ俺だった。
初等園は夏休みが終わっても行く気になりそうにないし、人族になりたいという努力は空回りしているしで、少々落ち込んでいる。ちょっとばかし、人目を気にせずルドルに癒されてもいいはずだ。そうなると、飛行スピードは速まる一方だった。もはやちょっとしたワープの勢いで飛べる。
そんな時、ルドルは、
「黒龍王様、私は東の領の人族研究所からお呼びがかかりまして、少々家を空けることになりました。つきましては、恐れながらおやつタイムは中断していただかなければなりません」と爆弾発言をした。
「そ、そ、そんにゃ~!!」
絶望感マックスの俺は、世界中に嵐を起こし、そして、気を失った。
そして、目を開けると、そう!人族!俺はまたしても人族になれた!
それも『ソウ』の状態だ。ピチピチの16歳だぞ!前回と同じ条件なら、魔法を使っても、変身しない限りはこのままの体でいられるはずだ。
「やった~!人族になってる!ルドル先生。この体なら俺も一緒に連れて行ってくれるよね!」と期待に満ちたウルウル顔を披露した。
そして気づく、あ、今俺赤ちゃんじゃなかった。思春期男子としては、あってはならない失態だった。でも、この祭いいや。それよりも願い事を聞いてもらえるかが大切だ。
「私は構いませんが……」チラリと側近達と目配せするルドル。あ、もう到着していたんだな。
「ねえ、みんなも一緒に行っていいからさ。いいでしょ?どうせ王様って言ったって、仕事は、出来るだけ平穏な気持ちで過ごすっていう仕事だけなんだしさぁ」と俺は身も蓋もない事をぶちまけた。
言っていて悲しいお勤めだ。前世の俺は将来仕事中毒になるタイプだとは思えなかったけれど、それでも、のんびり暮らせって言われると困惑するくらいには、パーティーピープルとは違う庶民だった訳で。
「仕方ありません。今回はご一緒できるだけ良しとしましょう」とサリアは前回の行方不明事件のトラウマからか、優しいものだ。
ビリーヤもカマラテも賛成してくれた。ちょっと考え込んでいたのはティルマイルだ。
いつもは比較的即決でサクサク決定していくキャラクターなだけに違和感がある。
「ティルマイル?ダメなの?」と聞く。
「いえ、ダメと言いますか、我が君の別荘を建てるべく張り切っている者達から、完成した暁には、お披露目をするべく招待があるだろうと思いまして。『ソウ君』の姿で参加する訳にもまいりませんから」
「そうでした。西の領は建設地と外観は決まったと言っていました。そう考えると招待はもうじきと言う事ですよね」とビリーヤ。
「そうだよなぁ。俺が造ってって頼んでおいて、行かずに放置って訳にもいかないか。この際、人族に変身できるようになりましたって、カミングアウトするのはどう?人族というか、魔法も使えるし治癒も使えるし、妖精族とかに近いのかな?」
「とにかく、角のない形態に変身できるということですよね。竜族の常識からすれば恐ろしい事ですが」カマラテは身震いしている。
怖がらないで。『角無し』、竜族には人気薄過ぎるな。




