44.おやつ代
「お茶でも淹れましょうかねぇ」と言って、俺が訪ねて来たのをみてルドルが立ち上がった。
「わーい。りゅどりゅしぇんしぇい、いちゅもありがちょ!」
そう、俺は密かに日参している。ルドルはすっかり黒角の2歳児の俺にも、滑舌が悪くて困った時、赤ちゃんドラゴンに変身するのにも慣れてくれた。
セルゲイは、ルドル一人に押し付けるには心が痛むのか、俺がいると分かっていても、お茶の時間のルーティーンをボイコットすることなくやってくる。
最近はシピリーの町でプープルさんとお茶請けを選んでくれているんだとか。なんだか可愛らしい見た目のお菓子が並んでいる。
「いやなに、プープルが黒龍王様には美味しい北の領のお菓子を召し上がっていただきたいって張り切って探しているんで、付き合っているだけですよ」と少し照れながら出してくれる。微笑ましいカップルだ。
のほほんとしてばかりではいけない。俺はドラゴンに戻って話す。お金の話はちゃんと滑舌良く喋らないとね。
「お金の話をするのは気が引けるんだけどさ。二人にはお世話になりっぱなしで、さらに出してくれるお茶だってお菓子だって負担になってると思うんだよね。だからさぁ。お金を受け取って欲しくって!」
二人は微妙な顔で固まってしまった。人族は最弱の名を冠しているだけあって、世界を股にかけて冒険者として名をあげるとか、商人として一旗揚げるなんてことがない。どちらかと言うと保護動物に近い。そんな環境でお金に余裕がある訳はない。
ルドルも、医者っていうとお金持っているイメージがあるが、それは前世のお話。ここでは、医者が必要なのは人族だけで、他種族は驚異的な治癒能力で長くても数日で治ってしまうんだ。重症でも治癒の魔法を使える者がいればそれで一瞬で治すことも可能だ。よって、治癒能力も雀の涙、魔法は使えないという不憫な人族の村以外には医者はいない。
医者の勉強をするのだって、東の領の人族専門の研究所に通って、長い歴史の中から医療を取りまとめた書物を読んで勉強するんだって。
閑話休題。俺は固まった二人に、
「お願いだから、受け取って欲しいんだ。俺には『おやつ代』っていう予算が組まれているらしいから、それを来た日数で割ればいいと思うんだ」と説明した。
なんだかこっぱずかしい『おやつ代』なるものを暴露までしたんだ、分かってくれ!
「おやつ代!」といってプッと笑ったセルゲイを軽く睨んですくみ上らせてから、ルドルに向き直る。ね!お願いだよ!
側近達からも猛烈に援護射撃をしてもらって、なんとか頷いてもらった。
「こんな話を聞かせたら、プープルが益々張り切るなぁ」とセルゲイはボヤいているけれど、老後の楽しみが出来たと思ってよ!
そして、ティルマイルが渡す、これまでのおやつ代の金額を見て、腰をぬかすまで後数秒。




