42.次なる作戦
「我が君のお力を持ってしても人族たちのように角のない姿にはなれませんのよ。わたくしどもに出来ようはずがございませんわ」とサリアが言う。
「そうだよなぁ。前回のは、人族になったというよりは、前世の俺に戻ったって感じだった。かなりのイレギュラーだったはずだよなぁ」と独り言っぽくつぶやいた。サリアと目が合う。
フルフルと首を振られる。うん?
「我が君、極秘事項をサラリと漏らしてございます。口封じに始末しますか?」とカマラテ。
「しない!!口封じ!?あっ!前世のこと言っちゃった!?」
「ごめんなさい!ルドル先生、セルゲイもごめんね!」
「ワシらは殺されるのか!?」物騒な雲行きになり、突然いつものセルゲイに戻った。
しっぽは馬鹿力で握られている。普通の生物なら痛がるよ。気を付けて。まあ、それは置いておいて、
「殺さないけど、秘密なんだ。内緒にしててね。俺、前世持ちの転生者なんだ。元人間、この世界で言うところの人族だよ。『ソウ』の姿がそれって訳」
「……。なんと、黒龍王様とお話すれば、我々一般庶民は驚くことばかりだろうと思っておりましたが。神話の世界の話すらも、黒龍王様には日常なのですねぇ」とルドルはほのぼのと言っている。
ちょっと思っていた反応と違うけど、まあいいや。受け入れてくれているなら。
この受け入れっぷりに側近達の方が若干引いている。
セルゲイは殺されないならいいやとばかりに安心している。
同じ話を聞いても受け止め方は十人十色だな。セルゲイがいつものセルゲイに戻ってくれたから、結果オーライどころか、俺にとってはプラスだぞ。ラッキー。本当に俺って隠し事に向いていない。
中学でちょっぴりガリ勉やって、やっと入った高校生活を楽しもうとしていたピカピカの高校一年生に、腹芸とか高度な極秘に関わる事とかは不向きなんです!
こんな赤ちゃんドラゴンな体(人型だと2歳児相当)に、思春期の脳みそ、無尽蔵の魔力と恐ろしい力。アンバランスの極み。
色々と、なんとかしなきゃという焦りがあるけど、初等園のように『これじゃない感』が出てきて、より焦ったりする。
全部ぶっ壊して、新たに始めてもいいんだよ。とささやく声が脳内から聞こえる気さえする。
テイル村は、そんな俺に必要だ。問題は、問題が山積みなこと!
まず、俺がここに頻繁に通うのは目立ちすぎる。でも人族に変身できない。
このまま通うと、なぜ北の領ばかりに?となってギスギスするのは目に見えている。四領平等、これはこの世界の常識だからだ。
ブラックドラゴンなんだから、ゴリ押ししてもよくないか?チキンな俺には、それも無理。
「よし!各領に俺の別荘を作ろう。どこでもいいし、建物も内装も各領にお任せするよ。サリア、北の領には悪いけど、北だけは、場所の指定をさせて!ここ、テイル村の隣だよ!『お隣さんになって挨拶に行ったら気が合ったのでお茶飲み友達になりました作戦』だ!」
「おやまあ、長い作戦名ですねぇ」とルドルはのほほんと笑っている。
「場所も、建物もお任せでいいんですね!」とビリーヤは鼻息が荒い。今すぐにも飛んで帰って領主に報告したそうな顔だ。
「うん、そうだよ」と返事をする。
初等園の時と同じで、やってみないと分からない。想像力に乏しい俺には三歩進んで二歩下がるどころか、三歩進んで四歩下がっているのかもしれない。嫌な予感。
「言質とったぞ~!」とノリノリのビリーヤを見て益々不安になる。
言質とったとは、これいかに。




