41.出戻りたい
俺は戦意喪失の相手に、9割の力加減だとしても向かっていくモチベーションを持ち合わせていなくって、ちょっとした風雨を起こすくらいにして、とっととクラスメイトと合流した。
その後は一切の口出し手出しは遠慮してひたすら保護者の目線で合宿に参加した。最初からこうしていれば良かったのか。でも折角学校に入ったのになぁ。
思っていた学校生活にならないのは当たり前のことなんだろうが、モヤモヤする。こんな時は、テイル村だ。
俺は、学校が夏休みになるのをジリジリと待って、テイル村に駆け込んだ。
「だかりゃね~」と、幼児人型の舌ったらずで訴えてもイマイチ伝わらない。俺のジレンマ。
前村長セルゲイとルドル先生しかいないのを確認して、ブラックドラゴンに戻った。
「だからね、なんか、思ったのと違うんだよ。初等園に行けば何か変わると思ったんだけどなぁ~!!」
うん、滑舌よくしゃべって訴えられただけでも少しスッキリするよ。
初めて見るブラックドラゴンに一瞬固まったルドルだけど、幸いなことにすぐ復活した。どうやら、話し方が『ソウ君』そのままだから、返って違和感が無いそうだ。それは何より。
セルゲイは二度目なのに少し目が泳いでいる。しっぽを握らせてあげよう。こういう時はスキンシップだ!
前世の友人は、「もふもふ界隈では、しっぽは最強だ!」と言っていたしな。俺はもふもふではないけど、負けないくらい可愛いはずだ。何てったって赤ちゃんドラゴンだぞ!
「ですが、そもそも無双のお方が、その側近を育てる学校に通っているのでしょう?何を学ぶもございませんでしょうに」とルドルに苦笑いをされてしまった。
「あ~でも、学力はクラスメイトのほうが凄いんだよ。俺はまだ何にも勉強していなかったから、追いつくの大変だったよ」
「でも、数日で追いついたのでしょう?皆さまは数年かけて入学準備をなさったのでしょうに」
「う~ん、ルドル先生にそう言われると、そうかなぁ。俺って凄いみたい」
「ハハハ!左様ですね」
あ~いい。呼び方こそ、ソウ君から黒龍王様に変わったけど、ルドルはいつもと同じルドルだ。話しやすいし大人だし。やっぱり俺はここで暮らしたいなあ。
膝の上を俺に占拠され、しっぽを強制的に握らされたセルゲイは固まってしまっている。が、気にしない。そのうち慣れるだろう。
「やっぱり初等園は諦めて、ここに住みたいなぁ。俺、人族に変身できないか、もうちょっと頑張ってみて、出来たらここにまた住んでもいい?」
「そうですねぇ」とルドルは言いながら、チラリと側近達を見る。
「我が君、どうぞ、お好きになさってください。しかし、我々は一緒におります」とティルマイル。
黒角4人を引き連れた人族かあ。無理かなぁ。無理だなぁ。
同じ悩みでぐるぐる回っているような俺に、ちょっと復活したセルゲイが、
「側近様方も角を隠して、人族に扮すればよろしいのでは?」と提案した。その後、ハッとした顔をして、
「も、も、勿論、人族がお嫌なら、獣族や虫族でも良いのですが、見た目は同じですし…」と言いなおした。
「いや、俺達、人族に偏見とかないから」とフォローしたけど、「人族は元始の姿で進化しなかった種だ!」と声高に言う者もいるので、卑屈になっても責められない。
俺は前世のおかげでシンパシー感じまくりなので、優しくするよ!




