35.自己紹介
ヤノス先生は、俺に少々ビビりながらも目を逸らさず声をかけた。
「それでは、黒龍王陛下、出席番号一番ですので、自己紹介をお願いいたします」
黒龍王陛下か。仰々しいなぁ。でも黒龍王には、不便にも名前が無いので城内のスタッフは、我が君か黒龍王様。それ以外の者は大抵この呼び方だ。そもそも前世で名前があったからこそ、不便だなんて思うわけだが。
側近たちは、変装している時にヨーイチ呼びをしてくれたけど、普段は本名を知っていても呼んでくれるわけじゃない。
う~ん。ヨウイチって呼んでくださいって言っていいのかな?ルドル先生が付けてくれたソウでもいいかな?
ここ数日ガリ勉してたんで、そういった細かい設定の確認を怠ってしまった。
口パクで、「名前どうする?」と聞くと、ティルマイルが「陛下で!」と口パクで返事をくれた。
「あ~、俺は、見ての通り、ブラックドラゴンです。生まれて9カ月になるのかな?ちょっとばかり話したり魔法を使ったりが早く出来るようになったから学校ってところに行ってみたくて、ここに来ました。陛下って気軽に呼んでください!」と当たり障りのない自己紹介に徹した。
ティルマイルは、「威厳が……」と、悲壮感たっぷりに呟いたが、そもそも生まれてこの方威厳があった瞬間があっただろうか?いやない。諦めておくれよ。
少々教室内はざわめいたけれど、ヤノス先生の手腕で順調に自己紹介が進んでいく。
後で聞いたんだけど、ヤノス先生はベテランで、しかも教頭先生なんだって。俺の担任を引き受ける教師が見つからず、現役担任として復帰となったそうだ。ごめんよぉ。ちなみに年齢は1500歳、見た目は60歳くらいのオレンジのカールヘアーの上品なおじさまだ。1500歳、凄いよね~。ロイドよりも年上なんだって。
そうして、12人全員の自己紹介が終わった。どうやら、今年はサンダーとファイアの領主の息子たちが入園する年だったようだ。
それに合わせて各々の領地で子作りに励んだのか、サンダーが4人ファイアが5人と数が多い。アイスとアースは1人ずつだ。
休み時間になると西の領主子息、黄色のストレートタイプのドラゴンが話しかけてくれた。名前は確かマック。
ガチガチに緊張はしているけれど、なんとかやって来た。たぶん両親に言い含められているんだろう。
「あ、あ、あ、あの、へ、へ、陛下。僕は、い、いえ、私は、マックです。同じ学年です。あ、あ、あ、あの、仲良く、してくださると、こ、こ、光栄です」
こっちが冷や冷やするような挨拶だったが、なんとか言い切った。ホッとした。遠くでマックの世話係が安心して泣きそうだ。
俺はニッコリ笑って、
「挨拶ありがとう。俺の方こそよろしくね。俺ってほら、まだ、赤ちゃんサイズでしょ。でも仲間に入れてくれるとうれしいな!」
「赤ちゃんサイズ……」マックは茫然としながらそう繰り返した。俺の偉大なオーラ?あるかどうか分かんないけど、それのせいで俺の小ささに今やっと気づいたのかな?
「クラスでストレートタイプのドラゴンって君だけだね。格好いいよね」と言ったら、泣き出した。
慌てた世話係が飛んできて、失礼いたしました!といって回収して行った。
「褒めたんだから嬉し泣きってことでいいんだよね?」
「「左様でございましょう」」と以前ストレートタイプの悲哀を語っていたサリアとティルマイルが声を揃えたので、そうなんだろう。
なんだか、前途多難な気がしてきた。




